ジ・エンドブレイカー

アックス☆アライ

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第二章 奪い合う世界

40話 夜明け①

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 フォーリアムの屋敷から西に向かって森を突き進んだ辺り。以前、オレガノ達がキュプレサスと出会った場所は、チャコール・ゴーレム達の手によって木々が切り倒され、開けた空き地と化していた。
 切り倒された木々は、空き地の隅に積み上げられ、それを作業に当たるチャコール・ゴーレム達が次から次へと森の中へと運び込んで行っていた。
 空き地の中央に一本の大木が残されている。大木は鬱蒼とする緑の葉の中に、人の表情の様なものを映し出し、この壮観な光景を満足そうに眺め感嘆の溜息を着いた。

 「素晴らしい。大地をこのキュプレサスが独り占めしている。キュプレサスはまさにルーラーの貫禄だ!」

 キュプレサスはそう言うと、腕を伸ばし自らの葉っぱを鷲掴みすると、まるでスカートをたくし上げる様に持ち上げた。大地に根付いた下部が顕わになると、もう一本の腕を伸ばし、スカートの内部を弄り、何かを取り出した。

 「フフ、これだけでは終わらない。キュプレサスの偉大な計画は、百年先を見越したものなのだ」

 キュプレサスはメキメキと音を立て、腰を曲げ、手にしていた物を地面に撒き始めた。それは、どんぐり程の大きさの様々な木の実であった。

 「これからは、この領域の日照権をこのキュプレサスが管理するのだ。この大地に根を下ろす事を望む木々達には、分け隔てなくこの権利の一部を譲渡してやろう。平等だ。誰もが他人を押し退け、背の高さを競い合う必要も無い。まさしく平らに、この森を平和へと導いてやるのだ」

 キュプレサスはブツブツとその様な事を呟きながら、広い空き地の真ん中で種まきに勤しみ始めた。そうして、手に余る木の実が少なくなり始めた時、大地を徘徊する小さなイモ虫に目が止まった。

 「む?」

 カシナガの幼虫だ。これまで木の中に住んでいたものが、切り倒した拍子に落っこちたのだ。
 それをじっと眺めていたキュプレサスは、種まきをしていた時の穏やかな顔つきから、狂気を滲ませるほどの怒りの顔へと変わって行った。

 「出たな、この不浄! 穢れた寄生虫が! キュプレサスの支配地に、お前の様なものは必要ない! 出てけ! 出てけ!」

 そう叫びながら、キュプレサスは両腕で、何度も何度も大地を打ち付けた。
 その一撃一撃はすさまじく、打ち下ろされる度に大地が揺れ、地面が抉られ、せっかく種をまいたというのに、その場所一帯が掘り返されてしまった。
 そうして、虫の姿が視界から消えて、漸くキュプレサスは落ち着きを取り戻し始めた。

 「おぞましい……、あんなものと共生などできる訳がない。これからキュプレサスの為になろうと、新たに芽生える若木達にだけは、この不浄を残す訳にはいかない」

 キュプレサスは曲げていた腰を戻し、空き地の先に広がる森を眺めた。

 「伐採だ! 早々に全て伐採し、虫共を駆逐してやる! 哀れな寄生虫。その全てを飢餓に追い込んでやるわ!」

 キュプレサスはそう言うと、高らかな笑い声を立てた。
 やがて、森の中からゴーレム達の集団がこちらにやって来るのが目に入った。先頭に立つホワイト・チャコール・ゴーレムは、キュプレサスの前に到着すると、黙って指示を待つ様にその場に跪いた。

 「む? 時間か」

 キュプレサスはメキメキと音を立て自らの身体を捻じった。そして、自分の背後に広がる朝焼けの空を見上げた。もうじき日の出だと分かった。

 「人間とゴーレム。悲しい戦いが始まる……。キュプレサスは寛大でありたかった。慈愛に満ちた存在でいたかった。だが、聞く耳を持たぬ哀れな人間達には、力を見せつける以外に無い。止めようのない戦いを前に、キュプレサスは、ただただ、心を痛めるばかりだ」

 キュプレサスは物悲し気にそう言うと、朝焼けに掛かるフォーリアムの館を睨みつけた。

 「許せぬのは後継者。人の信奉を集めるあの輩は、その立場に甘んじ人の暴挙を止めようともしない。何故このキュプレサスに従う様に説き伏せなかった? この戦いはそれだけで止められたはず。キュプレサスの心を痛めつけるのは、まさしくあの後継者なのだ!」

 意気込む様にキュプレサスは両腕を振り上げた。
 中腹で捻じれる様に立っていた糸杉の身体は、その少し上の辺りから枝分かれし、三つの樹冠をそびえさせた様に、異様な影をその背後に落した。

 「行くのだ! チャコール・ゴーレム達よ。人間達が街で戦っている今こそが好奇。憎き後継者をこのキュプレサスの前にまで引きずり出して来い!」

 白炭のゴーレムは、キュプレサスの言葉を承諾した様に頭を下げた。そして、すぐさま立ち上がると、背後に控えていた黒炭のゴーレム達を指揮する様に右手を振り上げる。
 白炭のゴーレムの動きに合わせ、一隊が動き始めるのをキュプレサスは心地良く見守った。
 やはり、自らが支配する者は、このゴーレムの様に従順で無駄口を叩かない者こそ理想的だ。人間もゴブリンも、将来的にはこのような完璧な存在に近づける様に、進化を促す必要があるだろう。
 キュプレサスは感慨にふける様に、自分の口の下の辺りを手で撫で廻し、ワシャワシャと葉音を立てた。
 ところが、白炭のゴーレムは振り上げた右腕を一向に動かす気配を見せない。

 「何をしているのだ? さっさと行けい!」

 キュプレサスが怒鳴り声を上げると、ゴーレムは右腕を下ろし、自分の見つめる先を指差した。

 「んん?」

 怪訝な唸り声を上げながら、キュプレサスはゴーレムの指さす先を見ようとする。しかし、身体を捻ったその体制では丁度視界に入らない角度だった。

 「くっ!? この! こっちか?」

 地面に根付いたその身体を操る事に苦戦しながら、キュプレサスは漸く自分の身体を逆向きに捻りその先を視界に収めた。そこには、ゴーレム達の行く手を塞ぐように、三人の人物が対峙している。

 「あれは……」

 キュプレサスには見覚えがあった。この場所がまだ空き地になる前に、自分の下に訪れた人間。オレガノとキリアン、リグラの三人であると分かった。
 彼らは大勢のゴーレムの一隊を前にしながらも、道を譲る様子も無く毅然とした態度でこちらを見据えている。その様を見て、キュプレサスは察した様に自らの口角を上げ、ニヤリと笑みを作った。

 「フッフッフ。来たのか人間よ。キュプレサスは理解しているぞ」

 キュプレサスはそう言うと、捻った身体を元に戻し、黄昏る様に西の空を眺めた。

 「何も言うな。戦いを前に恐れを抱いたのだろう? キュプレサスはお前達の様な負け犬にも寛大でありたい。故にお前達の行動を咎めるつもりは無い」

 オレガノ達はキュプレサスの言っている事が分からない様子で、互いに顔を見合わせた。

 「ここに来るがいい。これからはキュプレサスの支配下で生きる事になる。手始めに、この空き地の種まきを手伝うのだ」

 キュプレサスは懐から木の種を取り出すと、それを手であやして見せた。

 「そんな事はしないわ」

 オレガノが答える。

 「私達は貴方の事を止めに来たのよ」
 「何? 止めるだと……」

 キュプレサスは種をあやす手を止めた。

 「人の居ない間に、後継者達の住処を襲おうとしてたんだろ? でかい図体の癖に、随分と姑息な真似をしようとしたな」
 「私達がそうはさせません! イバラのルーラーには後継者達がなる。私達が守って見せます」

 キュプレサスの種を握る手に力が込められて行く様子で、バキバキと種子殻を握りつぶす様な音が聞こえた。

 「貴様ら、良くもそんな事が、このキュプレサスの前で言えたな。これだけ寛大に振る舞い。これだけ慈愛に満ちた存在を貴様らは貶したのだ!」

 キュプレサスはそう言うと、手にした種子を地面に叩きつける。

 「ゴーレム達よ! そのチビ共を捕えろ! 生きたまま天日に吊るし、乾燥させて炉にくべてやる。貴様らはチャコール・ゴーレムになるんだ!」

 キュプレサスの言葉に従い、黒炭のゴーレム達が動く。三人の方へと迫り始めた。
 ゴーレム達の動きを見て、リグラが一早く飛び出す。
 懐からキノコの胞子の入った試験管を取り出すと、コルク栓を開き中身を風に流した。

 「スライミーグラウンド!」

 同時に魔導を行使。滑りのあるキノコが黒炭のゴーレムの行く手一面に生える。その事に気が付いていないのか、先を行く二体の黒炭のゴーレムがキノコに滑って転んだ。
 「やった!」

 功を奏した事にリグラは喜ぶ。だが、すぐさま後に続くゴーレム達が、倒れているゴーレムを踏み台にして前に進み始めた。

 「ええ、酷い。お友達を踏むなんて……」

 リグラはゴーレム達の所業に、嫌悪感を抱いた。

 「集中しろリグラ! こいつらは営みを持たないモンスターだ!」

 キリアンが叫ぶ。そして、魔導を行使した。

 「クラスタークリスタル!」

 直径二メートル程の魔法陣が二枚、大地に描かれると、そこから大小様々な水晶が幾つも生え始めた。大地を押し上げる様にして伸びる水晶は、丁度下敷きにされていたゴーレムの事を押し上げた。
 踏みつけていたゴーレム達は、バランスを崩し後ろに倒れる。そして、下敷きにされていたゴーレムの一体が、水晶の山から転がる様に前へ落ちて来た。
 転がり落ちたゴーレムは滑る身体を落ち着かせ、何とかその場に立とうとした。それを待ち構えていた様に、オレガノが自らの展開する魔法陣を引き絞る。

 「ファイヤーボルト!」

 勢い良く飛び出した火球は、ゴーレムの身体を貫き、背後にあった水晶に突き刺さった。
 身体を貫かれたゴーレムは、身体に灯った僅かな炎を消す素振りも見せず、ゆっくりとその場に倒れ動かなくなった。
 ガラスの様に透き通った水晶の山。それによって両断された他のゴーレム達は、水晶の山を何とか越えようとよじ登り始める。しかし、先程のキノコのぬめりが残り、上手く登る事が出来ない。

 「この角度だオレガノ! 俺に合わせろ!」
 「引き絞らなくて大丈夫です! 一斉に行きましょう!」

 キリアンとリグラがそう言う。オレガノは二人に合わせ、上空目掛け魔法陣を展開した。

 「ファイヤーボール!」

 同時に三枚の魔法陣から、人の頭より少し大きめな火球が飛び出し、それは放物線を描いて水晶を飛び越え、ゴーレム達の頭上へと降り注いだ。
 水晶の直ぐそばで群がる数体のゴーレム達は、ファイヤーボールの着弾と共に爆発に呑まれ炎上した。しかし、自分自身が燃えている事さえ気にする様子も見せず、ひたすら水晶に登ろうとしていた。やがて、その炎が全身へと回ると、ゴーレムは水晶にしがみ付く様な姿勢のまま、その動きを止め動かなくなって行った。

 「あー、もう! 何をしてるのだ。登れないなら、回り込んでしまえばいいだろ! 少しは頭を働かせるのだ!」

 キュプレサスはもどかしそうに身体を大きく揺らした。その揺れは凄まじく、根付いていた大地も一緒に揺れ、地面が割れ、土に隠れていた根っこの一部が顕わになり始める。

 「止むを得ん、ホワイト・チャコール・ゴーレムよ、貴様の力を見せつけて来い。奴らを捕えるのだ!」

 キュプレサスに共振する様に、一緒に揺れていた白炭のゴーレムは、小さく一礼すると水晶の方へと歩き出した。
 透明な水晶越しに、ゴーレム達の動きを確認するキリアン。他のものとは異なる白炭のゴーレムの見た目に、いち早く警戒する。

 「リグラ、オレガノ。アイツを近づけるな。もう一度ファイヤーボールを打つぞ!」

 オレガノとリグラは、キリアンの言葉に従う様に、高角度の射角を持って、再びファイヤーボールを放った。
 山なりに飛来して行く三つの火の玉。それを見つめる白炭のゴーレムは、視線の先に両手をかざした。
 するとどう言う訳か、三人の放った火の玉は水晶を飛び越えようとする辺りで浮かんだまま静止した。
 三人の見習い達が驚くのも気にせず、白炭のゴーレムはそのまま火球を操り始める。
 ゆっくりと擡げる両手に従い、火球も上へと浮かび上がる。そして、十分な高さへ到達するや否や、白炭のゴーレムの振り下ろした手に従い、一気に水晶の頭上へと落下した。
 その勢いは凄まじく、しがみ付いたまま動かなくなっていたゴーレム達を砕き、そのまま、水晶の内部へと穿ち爆発した。
 燃え上がるゴーレムの残骸と、キラキラと飛散する水晶の欠片から、身を守る様にして、見習い達は身体を寄せ合った。そして、今、目の前にした事柄から、白炭のゴーレムの力を思い知った。

 「キ、キリアン。今のは……」

 リグラは信じられないものを見た面持ちでキリアンに尋ねた。

 「ああ……、エレメンタラーだ。あいつ、火のエレメンタルを操ってる」

 キリアンは学院で習った知識を思い起こしながら答えた。
 生まれついた環境によって、火、水、土、風のそれぞれのエレメンタルに対して強い親和性を持ち、身体に備えるエーテルを簡単にエレメンタルへと変換してしまう生物。それが、エレメンタラー。
 他ならぬ人間がそうであり、そして、通常はその変化に肉体は耐える事ができない。
 炎を直接操れば、火傷を負った様に身体がただれ始め。水を操れば、溺れた様に水を吐きだす。
 例えモンスターであろうとも、この地上を支配する法則からは逃れる事は出来ないはず。
 しかし、炎を操った白炭のゴーレムは他の黒炭のゴーレムを率い、平然とした様子で砕けた水晶の上を歩きこちらに近づいて来ている。とても身を焼く程の苦痛を受けている様には見えなかった。
 想像以上の化物を前に、キリアンは血の気が引く思いがした。

 「キリアン、リグラ。下がって!」

 オレガノは白炭のゴーレムに対峙すると、直径一メートル程の魔法陣を垂直に展開し、かざした右手に左手を添えてゆっくりと引き絞り始めた。

 「待て、オレガノ!」
 「ファイヤーボルト!」

 キリアンが止めるのも聞かず、オレガノはファイヤーボルトを放った。引き絞られた魔法陣から野球の玉ほどの火球が飛び出し、その勢いを表す様に鋭くとがった先端を白炭のゴーレムへと向けた。
 白炭のゴーレムは、その火の矢を受け止める様に右手をかざす。すると、火の矢は勢いを失ったかのように速度を緩め始める。そして、かざしていた右手に収まる様に静止した。
 火の矢は再び丸い火球へと形を変え、白炭のゴーレムの手のひらの上で、炎を揺らめかせている。
 熱さを感じていない。
 燃え上がる炎を手に持つ白炭のゴーレムの様を見て、オレガノはたじろいだ。

 「汝も、我の怒る事を知らぬ」

 白炭のゴーレムがそう言うと同時に手に持つ火球が浮かび上がった。すると、それに引き付けられる様に、周囲に飛び散っていたゴーレムの残骸が集まり始めた。
 残骸は火球を中心にして、一メートル程の塊となって行く。

 「我は残滓なり。灰燼の如き生命に残った怒りの破片。故に、我はサラマンダーなり。怒りをぶつける者なり」

 白炭のゴーレムがしゃべり続けていると、目の前に浮かんでいた炭の塊は徐々に熱を生み出した様に赤い光を灯し始めた。
 まずい。その様を見て、本能的にキリアンは危険を察した。

 「来い、オレガノ!」

 キリアンはオレガノの手を引いた。

 「キリアン!?」

 驚くオレガノの事など気にも留めない。

 「逃げるんだよ! リグラ!」

 そう言うと、オレガノ手を引き走り出す。リグラも慌ててその後に続いた。
 白炭のゴーレムは逃げ出す三人の事を見据えながら、まるで狙いを定めるかのように右手を上空へかざした。すると、赤熱する炭の塊も上昇し、青い炎を吹き出し始めた。

 「パイロ、クライシス!」

 空中に浮かぶ炭火の塊が砕け、見習い達の頭上に火砕物が降り注ぐ。

 「リグラ、オレガノ、伏せろ!」

 キリアンが覆い被さる様にオレガノに飛び付き、二人はそのまま地面に倒れる。リグラもそれに合わせる様に地面に伏せた。

 「ギンコ!」

 身を守る様にして頭を抱えるキリアンの耳に、クレスの叫ぶ声が届いた。次の瞬間、頭の上に大粒の水滴が降って来たの感じた。

 「……雨?」

 キリアンは顔を上げて、何が起きているのかを確認した。
 自分達の蹲って居た地面に、何時の間に大きな魔法陣が描かれ、その中心に大きな樹木が生えている。
 それは、肉厚な扇状の葉っぱを一面に茂らせ、空から降る火砕物を優しく受け止めると、染み出る様にその葉っぱから水を滴らせていった。

 「これは……?」

 見た事の無い木だ。キリアンは目の前に生える大樹を茫然と眺めた。

 「火伏の大樹。神話の時代にあったとされる古代種の一つ」

 地面に座り込む三人は、声の掛けられた方を見た。
 そこには、後から駆けつけて来たクレスとラヴァーニャ、ピーターの三人が居た。

 「既に絶滅しているけど、魔導で再現する事ができる」

 クレスがそう言った。

 「クレス!」

 オレガノが立ち上がり、クレスに飛び付いた。

 「怪我は無いのね、オレガノ。遅れてごめんなさい」

 クレスはオレガノを抱きしめ返した。

 「まったく、あんた達。自分らだけで挑むなんて無茶が過ぎるわよ」

 オレガノの後に続き立ち上がるキリアンとリグラ。二人共大した怪我を負っていない事を確認すると、ラヴァーニャは胸を撫で下ろしてそう言った。

 「本当だぜ。せめて、俺達の準備が済むまで待ってろってんだ」

 ピーターが呆れた調子でそう言った。

 「あんた達、どうして?」

 キリアンが尋ねる。

 「お嬢様が、あんた達だけに全てを託す訳無いじゃない。お屋敷を守れと言ったのは、私達の力も当然頼りにされたからよ」
 「その通りだ!」
 「それだってのに、勝手に駆け出してっちゃって。恰好付けるのも大概にしなよ!」
 「そうだぞ! 焦ったぞ!」

 ラヴァーニャの言葉に相槌を打つと、ピーターはキリアンの頭を乱暴に撫でつけた。

 「分かったよ。悪かったから、止めろって!」

 キリアンがピーターの手を振り払った。

 「まあ、流石は俺達の弟弟子だ。怪我も無く、良く頑張ったもんだぜ」
 「ここからは、私達に任せて、あんた達は少し休んでなさいな」

 キリアンは顔を上げ、バツの悪そうな表情を見せた。

 「あいつは火のエレメンタルを直接操ってる。火の魔導を使えば、そのままはね返されちまう」

 キリアンの言葉に、ピーターもラヴァーニャもニヤリとした笑みを見せる。

 「心配するな。秘策があるんだ」
 「クレス。守りをお願いね」

 ピーターとラヴァーニャは先立つ様に、こちらに向かって来るゴーレム達に対峙した。二人の背中を見据えるクレスは、抱きしめていたオレガノから手を離すと、浮かび上がっていたアトラスに手をかざした。

 「アトラス」

 すると、先に描かれていた魔法陣と同じ大きさの二枚目の魔法陣が地面に描かれて行った。そして、魔法陣の中心から一つの芽が顔を出す。それは見る見ると背を伸ばし始め、あっという間に先に生えていた火伏の大樹と同じ高さの木へと成長した。

 「すごい……、種子も無く、木を生やした。一から生命を生み出しているよう」

 リグラは自分達を挟み込む様にして生える二本の大樹を代わる代わる見ながらそう言った。

 「現実にある生命とは違うものよ。神話の伝承に基づいて、似た物を作り出しているだけ。キリアンの作るクリスタルと同じなの」

 クレスはそう言うと、集中する様に目を瞑り両手を組んだ。空中に浮遊していたアトラスは、行使する魔導を自ら選択する様に独りでにページを捲り始めた。
 すると、二本の木の根元に展開されていた魔法陣が、その内部に描かれる模様を変え始めた。

 「ファイヤープロテクション」

 クレスがそう呟くと、その言葉に従う様に、並び立つ二本の樹木は互いに寄り添う様に枝を伸ばし、固く結びつき、癒合して行った。
 そして、自然の流れに従う様に、その周りに細い枝を伸ばし、扇状の鮮やかな緑色の葉っぱを茂らせて行った。
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