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第三章 広がる世界
9話 修練者の山へ②
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昼食後、日々喜とコウミの二人は、ツキモリコウイチの研究室へ訪れていた。
魔導の行使に必要となるアイデアが、まだここにはあると日々喜は考えていたのだ。しかし、かつては開かずの間であった研究室の扉を開いた日々喜は、その部屋の光景を茫然とした様子で眺めていた。
研究室は空っぽになっている。壁に寄り掛かる様にして置かれていた本や機材は勿論。部屋中に散乱していた書類から机や椅子、あまつさえはベッドまで無くなっていた。
エリオットの話によれば、日々喜が以前ヴァーサ領を訪れた時、偶然顔を出していたアルファ・ヘリックスの手によりコウイチの研究室にあったものは全て持ち出されてしまったのだと言う。
「節操の無い真似をするぜ。これじゃ、墓荒らしと変わらん」
コウミは空っぽになった部屋を見渡しながらそう言った。知り合いの部屋が荒らされたと言うのに、特に怒る様子もない。そればかりか、価値も見定めぬままに、全ての物を運び出して行った者達の慌てぶりを嘲笑した。
コウミに続き部屋へと入って来た日々喜は、壁に描かれていた落書きに注目していた。以前は、積み上げられていた山の様な本の頂に、顔を出すように描かれていた魔法言語の式だ。それが今、本で見えなかった部分が顕わになっている。
「これは……」
「どうかしたか?」
そこには真円と、それに内接する五角形が描かれている。五角形には対角線が引かれ内部に五芒星を描いていた。そして、五角形の各頂点からは、対角線の交差によってできる小さな五角形のそれぞれ対応する頂点へ曲線が引かれ、それが中心に向かって巻き込むように逆螺旋を描いている。
何故逆向きなのかを考えるが、コウイチが数学の研究も行っていた事を思い返す。この螺旋は、数学の流儀に従って、内側に巻き込むように描いたものだと日々喜は判断した。
「似た物を見た事があります。きっとこれは魔法陣の事です」
「これが魔法陣? ただの渦巻だろ」
コウミは壁に描かれる魔法陣の図を見つめ、奇怪なものでも見る様に白い目を細めた。
「上の所を見てください。多分これであってると思うんです」
日々喜はそう言うと懐から鉛筆を取り出す。そして、魔法陣の図の上部に描かれる魔法言語の式の下に、注釈を書き込むように落書きを追加して行った。
『Point』の下にはx^0を、『Line』の下にはx^1、『Area』の下にはx^2をそれぞれ描いた。
「ああ、お前……」
特に断りもせず壁に落書きをする日々喜の事を見て、コウミは呆れたように呟いた。日々喜はコウイチと同じ部類の人間。夢中になったこいつの頭の中では、きっと壁が羊皮紙にでも見えるのだろうと考えたのだった。
「ポイントは零次、ラインは一次、エリアは二次の変数に変換します。そうすると、二次方程式になる。そのまま変数について解くと、正の解が黄金比になるんです」
落書きを書き終えた日々喜がそう言った。
「黄金比?」
「図形の中に現れる長さの比です。幾何学的な特徴が多くあって、昔から最も美しい比率と言われてます」
「美しさね、俺には記号の塊にしか見えない」
コウミは溜息交じりにそう言った。日々喜は、そんなコウミの様子もお構いなしに、今度は図形の解説へ移って行く。
「こっちを見てください。どうしてここに、黄金比が書き出されているのか。この螺旋、九十度の周回半径が、丁度黄金比に比例している事を示しているんです」
「ああ?」
「つまり、等角螺旋です。比率が黄金比なので、黄金螺旋になってる。たぶん、ツキモリコウイチさんは、魔法陣が黄金螺旋で出来てる事を主張しているんだと思います」
「ふーん……」
興奮する日々喜に対し、コウミは、だからどうしたと言う態度をあからさまに示しつつ、冷めた相槌を返した。
「こっちのは、魔法言語か……。長いな、なんて書いてあるか読めるか?」
魔法陣の図の下に描かれる一文をコウミが指摘した。日々喜もそちらに視線を移す。
――Because they do not understand me, I am a Daemon ……(※)
そして、暫く考える様に沈黙すると口を開いた。
「彼らは――」
「我はここにてデーモンなり、彼らは我を理解せざれば(※)」
たどたどしく翻訳を試みたところで、先に応える声が扉の方から聞こえた。日々喜達がそちらの方へと振り替えるとそこにはキリアンが立っていた。
「盗み聞きか、小僧?」
「違うっすよ。日々喜に聞きたい事があって」
キリアンはそう言うと部屋の中へと入って来た。
「聞きたい事?」
「あんたの使ってるアトラスの事だよ。どうして、エレメンタルの代わりに賢者の名前が書かれているのか、それを聞きたくて」
キリアンにそう言われ、日々喜は自分の腰に携えていたアトラスを開いてみる。確かに、エレメンタルの代わりに賢者達の名前が魔導の構成に含まれている。これまで聞き知った内容と大きく異なっていた。
今初めてその事に気が付いた様な表情を浮かべる日々喜の事をキリアンは怪訝に見つめていた。
「まともな内容じゃないって気がついてたろ?」
「実は、まだちゃんとは読んでなかったんだ」
「自分の持ってるアトラスなのに?」
「キリアンが先にジオメトリーを理解しろと言ったから。それに、これは借り物なんだ」
その答えにまだ納得していないのか、キリアンは日々喜からアトラスを受け取り、自ら改め始めた。
「ひょっとして、ここに書いてあるツキモリ・コウイチって人の物か?」
日々喜はそうだと答える。そして、トウワ国からこの魔導連合王国へ魔導の勉強をしに来たツキモリ・コウイチの事をキリアンに話した。
この国で魔導士にはなれなかったが、故郷でその研究が評価され、コウイチの研究を引き継ぐように、その妻のツキモリ・アンナが一門を率いていると。
黙って話を聞いていたキリアンは、ツキモリ・アンナの名前を聞くと、何かを思い出そうとするように考え始めた。
「お前、その話誰から聞いたんだ?」
コウミが日々喜に尋ねた。
「色んな人に聞きました。クレレさんや、王都から来た魔導士さん、テシオ一門の人とかから」
「王都の魔導士か……、どいつもこいつも死んでから手のひらを返しやがって」
コウミの言葉には、腹に据えかねる様な苛立ちが見え隠れしていた。
「クレレ……。そうか、アンナ・クレレだ」
キリアンが何か閃いた様に大きな声でそう言った。
「日々喜、そのツキモリ・アンナって人は、エリオットさんの親族か?」
「娘さんだって聞いてるけど」
「やっぱりそうか。あの伝説的な魔導士が……」
キリアンは一人、納得したような呟きをもらす。
「伝説的?」
「偉業を成したんだ。彼女は、あのデーモンの森を踏破し、東側諸国のジオメトリーを初めて編纂し、この国にもたらした魔導士なのさ」
「それが、すごい事なの?」
日々喜がそう尋ねると、キリアンは分かって無いなという風に、溜息を着いた。
「伝説に残る英雄だって、デーモンの森へ入ったけど踏破はしてないんだぜ。彼女はデーモンの森どころか、さらにその先で、魔導が使えるアトラスを作り上げた。本物の魔導士だよ」
「それで、伝説的か……。有名な人だったんだ」
「知る人ぞ知るって感じかな。皆、戦争で勝利を勝ち取ったシェリル・ヴァーサの事ばかりもてはやすから。だけど、この国の魔導士達が東側でちゃんとした魔導を使えたのも、デーモンの森へ遠征できたのも、アンナ・クレレの様な陰の立役者がいてくれたおかげさ」
キリアンの話しに日々喜が感心していると、コウミのふーんと言う声が聞こえた。
「知らなかったんですか?」
「アンナのこの国での評価など知らん。ただ、あいつはトウワ随一の毒婦として有名なのは知ってる」
コウミはそう言いながら、悪戯に笑って見せる様に白い目を歪めて見せた。
「ドクフ?」
「分からないならいい。まあ、東と西で評価が分かれているって事だ。コウイチがここで苦労した様に、アンナもトウワではそれなりに苦労したんだ」
「苦労、ですか……」
日々喜は壁に描かれる文字を眺めた。
夢に見たコウイチの疲れた姿。そして、恐らくはその末に行きついた彼の半生をそこから読み取ろうとする。
「ここが、そのツキモリ・コウイチって人の研究室なのか?」
キリアンは日々喜にアトラスを返しながらそう言うと、珍し気に部屋を見渡し始めた。
しかし、空っぽの研究室に目を引くものは特に無く、自然と日々喜が見ていた壁の落書きへと視線を移して行った。
「これは……、等角螺旋か、でも何で逆向きなんだ」
「内側に巻き込んでいる事を表現する為だと思う」
「内側?」
「魔法陣の螺旋さ。黄金螺旋を描いているんだ」
「ああ、確かに、魔法陣は良く見ると螺旋を描く様にエーテルが流れているって聞くけど……」
キリアンは日々喜の言っている事を確かめる様に落書きに顔を寄せて行く。まるで渦巻く螺旋の奥深くを見通そうとするかのように壁を凝視した。
「でも、これはあり得ないな」
「え!? どうして?」
日々喜の驚きの声に、キリアンは壁から目を逸らしてそちらを向いた。
「魔法陣てのは魔力が循環している物だろ」
キリアンの答えに日々喜はキョトンとした表情を見せた。
「まさか、あんた……。そんな事も知らなかったのか?」
今度はキリアンが驚く。日々喜は魔導の基本となる考えさえ知らなかったからだ。
その考えとは、魔導がいかに安定して運用される魔法技術であるかを説明するものであった。
魔導士が魔導を行使する時、魔法陣の現れる場となるアトラスフィールドへ、肉体を介してエーテルが送り込まれる。送り込まれたエーテルは球体状のアトラスフィールド上を旋回し、やがて球体の中心へと流れ込んで行く。そこで、魔法陣の形成と魔導の行使に当てられたエネルギー相当分のエーテルが消費されると、残ったエーテルは再び球体の表面へと流れ旋回し、肉体へ還るのである。
この時何故、術者のイメージする魔法陣の形を描くのかは説明が付いていない。
しかし、このアトラスフィールド上に働くエーテルの流れが、エーテル自身の持つ相互作用に依って、最も効率的な形にまとめられて行くのだと考えられている。その際、エーテルの密度が高い部分ではまばゆい程の輝きを放ち、密度の低い部分では人の目には映らない程の光しか放たないのである。
現実の世界にあるもので例えれば、銀河系に似た構造を持っており、同じくらい何も分かっていないのであった。
「だから、基本中の基本として、イメージしたアトラスフィールドから手を離しちゃいけない。何故なら、循環した魔力が戻ってこずに、自然にばら撒かれちまう」
キリアンは魔法陣の説明を終えると、付け足すようにそう注意した。
「でも、それがどうしてあり得ない事になるの?」
日々喜が尋ねる。
「これ、無限に巻き込んでんだろ」
キリアンは螺旋を指でなぞりながらそう言った。日々喜はそこでハッとする。壁に描かれた魔法陣の図に、大きな矛盾が存在している事に気がついたのだった。
「何かまずいのか?」
日々喜の表情を見て、コウミが尋ねた。
「はい……。ゼノンパラドクスが起きてしまってる」
「ゼノン? 何だそれ」
「鈍足の亀と俊足のアキレスの追い駆けっこの話しです。本当に知らないんですか?」
「知らん」
日々喜の言うゼノンパラドクスとは、古代ギリシアの哲学者、エレアのゼノン(ツェノン)による第二の逆説『アキレス』の事だった。
先を行く亀に対して、俊足をうたわれるアキレスが同じ方向に走れば、直ぐにでも亀を追い越してしまう様に思われる。しかし、アキレスが亀の居た場所に辿り着いた時、鈍足なりに亀は少し前に進んでいる。アキレスが再びその場所に辿り着いた時、また亀は少し前に進み出ている。アキレスが亀の下に辿り着くまでに、この事柄が無限に繰り返され、結果的に追い越す事が出来ないと言う主張である。
日々喜はコウミに対して、丁寧に説明を施して行った。
「そのアキレスって奴は俊足何だろ? だったら、亀如きに後れは取らない。それは、屁理屈って奴だぜ日々喜」
「いいえ、違います。ちゃんと順序立てた筋道のある理屈です。だけど、可笑しな事に現実では起きえない事でもあるんです」
可笑しな事と言えば、確かにそのように聞こえる。しかし、この類の主張は言葉そのままに受け止めるのではなく、深く読み解いた上で正確にロジックを作り上げなければ意味を理解するのは難しい。というのも、この話はアキレスが亀に追い着く事ができない事を主張するものではなく、可能であるかどうかを判断する事は、未だ人智の及ばぬ範疇である事を言っているに過ぎないからである。
古代ギリシアの時代より、二千年の時を得た現代数学の世界においては、可能であるという主張(実無限数学)と、分からないままであると言う主張(可能無限数学)の二派に別れ、それぞれ、広さの異なる数学の世界観を描いている。
「あんたの言う通りさ。いい例え話だったよ」
日々喜の話しに聞き入っていたキリアンは、再び壁に描かれる魔法陣の図を指して話し始めた。
「こいつは黄金螺旋だ。四半周期で半径の長さが黄金比率の逆数倍になって行く。無限回に近く回転すれば、中心との距離は限りなく零に近づくんだ。だけど、裏を返せば、無限に回転しないとエーテルは中心には到達しないと言う事だろ。そんな事は不可能だ」
「でも……」
日々喜はキリアンの主張を受け入れる事ができなかった。何故だか、そうしてしまう事はツキモリコウイチの苦労した全てを否定してしまうように感じられてならなかったからだ。
「だけど、キリアン。魔法陣は人がイメージして描くものでしょ?」
「イメージ?」
怪訝な表情を浮かべるキリアンに対し、日々喜は頷く。
「だったら、例え無限に巻き込む黄金螺旋でも描かれる事はありえるんじゃないの」
キリアンは首を振って答えた。
「イメージはイメージだ。頭に描いたものを参考に、魔法陣を描いているに過ぎないさ。そして、人間に無限は描けない。もし、本物の黄金螺旋を描く事ができたなら、そいつは、人間の能力を超えた化物だ」
「でも、フェンネルお嬢様は、立体状の魔法陣を展開していた。そんな真似ができるのは、イメージを現実に描く事ができたからだよ」
フェンネルの名前を出された途端、キリアンは機嫌を損ねた様に小さく舌打ちをした。
「あの立体魔法陣を見たのかあんた。それで、自分にもできると思ったのか?」
キリアンは呆れたように溜息を着いた。
「特殊な事例を見たからって、全ての事柄がそれに従ってるわけじゃないだろ。あいつこそ化物だ。人間にはできない事をやってる。俺達には関係の無い事さ」
キリアンはそう言うと、部屋の扉に向かって歩き出した。日々喜は反論できないままキリアンの事を見つめ続けた。
「下に降りて来いよ、日々喜。オレガノ達が、これから向かう領域のチャートを作ってる。真っ当な人間は、現実にできる事から着々と進めて行けば良いんだ」
そう言い残すと、キリアンは部屋を後にして行ってしまった。
部屋に残された日々喜。それでも、自分の意見は間違っていないだろうと言う様子で、コウミの方を伺った。
コウミは自分の知った事では無いとばかりに肩をすくめて見せた。
「……下に行きます」
日々喜は呟く様にそう言うと、トボトボとコウイチの研究室を後にして行った。
階下へ降りる足音が聞こえなくなったところで、それまで黙っていたコウミが大きな溜息を着く。
「たかが渦巻ごときで、何を言い争ってる」
コウミはそう独り言を呟くと、いさかいの元凶ともなった壁の落書きへ視線を移した。
「我は、ここにてデーモンなり、か……」
今は亡き知り合いの言葉。それが遺言にでも聞こえるのか、コウミは噛み締める様にそう呟くと、文末に書かれる『Daemon』の単語に爪を立て、ガリっと削る様な音を鳴らし消し去ってしまった。
「くだらないものに、成り下がりやがって」
最後にそう吐き捨てると、コウミは部屋を後にして行った。
(※)
E.T.ベル:著 『Men of Mathematics』より一文を書き換えて引用。
原文:『because they do not understand me, I am a barbarian』
訳に関しては、同書籍の日本語版(東京図書出版、田中勇・銀林浩:訳 『数学を作った人々(下)』 第二十章 天才と狂気――エヴァリスト・ガロア)より一文を書き換えて引用。
原文:『我はここにて異邦人なり、彼らは我を理解せざれば』
魔導の行使に必要となるアイデアが、まだここにはあると日々喜は考えていたのだ。しかし、かつては開かずの間であった研究室の扉を開いた日々喜は、その部屋の光景を茫然とした様子で眺めていた。
研究室は空っぽになっている。壁に寄り掛かる様にして置かれていた本や機材は勿論。部屋中に散乱していた書類から机や椅子、あまつさえはベッドまで無くなっていた。
エリオットの話によれば、日々喜が以前ヴァーサ領を訪れた時、偶然顔を出していたアルファ・ヘリックスの手によりコウイチの研究室にあったものは全て持ち出されてしまったのだと言う。
「節操の無い真似をするぜ。これじゃ、墓荒らしと変わらん」
コウミは空っぽになった部屋を見渡しながらそう言った。知り合いの部屋が荒らされたと言うのに、特に怒る様子もない。そればかりか、価値も見定めぬままに、全ての物を運び出して行った者達の慌てぶりを嘲笑した。
コウミに続き部屋へと入って来た日々喜は、壁に描かれていた落書きに注目していた。以前は、積み上げられていた山の様な本の頂に、顔を出すように描かれていた魔法言語の式だ。それが今、本で見えなかった部分が顕わになっている。
「これは……」
「どうかしたか?」
そこには真円と、それに内接する五角形が描かれている。五角形には対角線が引かれ内部に五芒星を描いていた。そして、五角形の各頂点からは、対角線の交差によってできる小さな五角形のそれぞれ対応する頂点へ曲線が引かれ、それが中心に向かって巻き込むように逆螺旋を描いている。
何故逆向きなのかを考えるが、コウイチが数学の研究も行っていた事を思い返す。この螺旋は、数学の流儀に従って、内側に巻き込むように描いたものだと日々喜は判断した。
「似た物を見た事があります。きっとこれは魔法陣の事です」
「これが魔法陣? ただの渦巻だろ」
コウミは壁に描かれる魔法陣の図を見つめ、奇怪なものでも見る様に白い目を細めた。
「上の所を見てください。多分これであってると思うんです」
日々喜はそう言うと懐から鉛筆を取り出す。そして、魔法陣の図の上部に描かれる魔法言語の式の下に、注釈を書き込むように落書きを追加して行った。
『Point』の下にはx^0を、『Line』の下にはx^1、『Area』の下にはx^2をそれぞれ描いた。
「ああ、お前……」
特に断りもせず壁に落書きをする日々喜の事を見て、コウミは呆れたように呟いた。日々喜はコウイチと同じ部類の人間。夢中になったこいつの頭の中では、きっと壁が羊皮紙にでも見えるのだろうと考えたのだった。
「ポイントは零次、ラインは一次、エリアは二次の変数に変換します。そうすると、二次方程式になる。そのまま変数について解くと、正の解が黄金比になるんです」
落書きを書き終えた日々喜がそう言った。
「黄金比?」
「図形の中に現れる長さの比です。幾何学的な特徴が多くあって、昔から最も美しい比率と言われてます」
「美しさね、俺には記号の塊にしか見えない」
コウミは溜息交じりにそう言った。日々喜は、そんなコウミの様子もお構いなしに、今度は図形の解説へ移って行く。
「こっちを見てください。どうしてここに、黄金比が書き出されているのか。この螺旋、九十度の周回半径が、丁度黄金比に比例している事を示しているんです」
「ああ?」
「つまり、等角螺旋です。比率が黄金比なので、黄金螺旋になってる。たぶん、ツキモリコウイチさんは、魔法陣が黄金螺旋で出来てる事を主張しているんだと思います」
「ふーん……」
興奮する日々喜に対し、コウミは、だからどうしたと言う態度をあからさまに示しつつ、冷めた相槌を返した。
「こっちのは、魔法言語か……。長いな、なんて書いてあるか読めるか?」
魔法陣の図の下に描かれる一文をコウミが指摘した。日々喜もそちらに視線を移す。
――Because they do not understand me, I am a Daemon ……(※)
そして、暫く考える様に沈黙すると口を開いた。
「彼らは――」
「我はここにてデーモンなり、彼らは我を理解せざれば(※)」
たどたどしく翻訳を試みたところで、先に応える声が扉の方から聞こえた。日々喜達がそちらの方へと振り替えるとそこにはキリアンが立っていた。
「盗み聞きか、小僧?」
「違うっすよ。日々喜に聞きたい事があって」
キリアンはそう言うと部屋の中へと入って来た。
「聞きたい事?」
「あんたの使ってるアトラスの事だよ。どうして、エレメンタルの代わりに賢者の名前が書かれているのか、それを聞きたくて」
キリアンにそう言われ、日々喜は自分の腰に携えていたアトラスを開いてみる。確かに、エレメンタルの代わりに賢者達の名前が魔導の構成に含まれている。これまで聞き知った内容と大きく異なっていた。
今初めてその事に気が付いた様な表情を浮かべる日々喜の事をキリアンは怪訝に見つめていた。
「まともな内容じゃないって気がついてたろ?」
「実は、まだちゃんとは読んでなかったんだ」
「自分の持ってるアトラスなのに?」
「キリアンが先にジオメトリーを理解しろと言ったから。それに、これは借り物なんだ」
その答えにまだ納得していないのか、キリアンは日々喜からアトラスを受け取り、自ら改め始めた。
「ひょっとして、ここに書いてあるツキモリ・コウイチって人の物か?」
日々喜はそうだと答える。そして、トウワ国からこの魔導連合王国へ魔導の勉強をしに来たツキモリ・コウイチの事をキリアンに話した。
この国で魔導士にはなれなかったが、故郷でその研究が評価され、コウイチの研究を引き継ぐように、その妻のツキモリ・アンナが一門を率いていると。
黙って話を聞いていたキリアンは、ツキモリ・アンナの名前を聞くと、何かを思い出そうとするように考え始めた。
「お前、その話誰から聞いたんだ?」
コウミが日々喜に尋ねた。
「色んな人に聞きました。クレレさんや、王都から来た魔導士さん、テシオ一門の人とかから」
「王都の魔導士か……、どいつもこいつも死んでから手のひらを返しやがって」
コウミの言葉には、腹に据えかねる様な苛立ちが見え隠れしていた。
「クレレ……。そうか、アンナ・クレレだ」
キリアンが何か閃いた様に大きな声でそう言った。
「日々喜、そのツキモリ・アンナって人は、エリオットさんの親族か?」
「娘さんだって聞いてるけど」
「やっぱりそうか。あの伝説的な魔導士が……」
キリアンは一人、納得したような呟きをもらす。
「伝説的?」
「偉業を成したんだ。彼女は、あのデーモンの森を踏破し、東側諸国のジオメトリーを初めて編纂し、この国にもたらした魔導士なのさ」
「それが、すごい事なの?」
日々喜がそう尋ねると、キリアンは分かって無いなという風に、溜息を着いた。
「伝説に残る英雄だって、デーモンの森へ入ったけど踏破はしてないんだぜ。彼女はデーモンの森どころか、さらにその先で、魔導が使えるアトラスを作り上げた。本物の魔導士だよ」
「それで、伝説的か……。有名な人だったんだ」
「知る人ぞ知るって感じかな。皆、戦争で勝利を勝ち取ったシェリル・ヴァーサの事ばかりもてはやすから。だけど、この国の魔導士達が東側でちゃんとした魔導を使えたのも、デーモンの森へ遠征できたのも、アンナ・クレレの様な陰の立役者がいてくれたおかげさ」
キリアンの話しに日々喜が感心していると、コウミのふーんと言う声が聞こえた。
「知らなかったんですか?」
「アンナのこの国での評価など知らん。ただ、あいつはトウワ随一の毒婦として有名なのは知ってる」
コウミはそう言いながら、悪戯に笑って見せる様に白い目を歪めて見せた。
「ドクフ?」
「分からないならいい。まあ、東と西で評価が分かれているって事だ。コウイチがここで苦労した様に、アンナもトウワではそれなりに苦労したんだ」
「苦労、ですか……」
日々喜は壁に描かれる文字を眺めた。
夢に見たコウイチの疲れた姿。そして、恐らくはその末に行きついた彼の半生をそこから読み取ろうとする。
「ここが、そのツキモリ・コウイチって人の研究室なのか?」
キリアンは日々喜にアトラスを返しながらそう言うと、珍し気に部屋を見渡し始めた。
しかし、空っぽの研究室に目を引くものは特に無く、自然と日々喜が見ていた壁の落書きへと視線を移して行った。
「これは……、等角螺旋か、でも何で逆向きなんだ」
「内側に巻き込んでいる事を表現する為だと思う」
「内側?」
「魔法陣の螺旋さ。黄金螺旋を描いているんだ」
「ああ、確かに、魔法陣は良く見ると螺旋を描く様にエーテルが流れているって聞くけど……」
キリアンは日々喜の言っている事を確かめる様に落書きに顔を寄せて行く。まるで渦巻く螺旋の奥深くを見通そうとするかのように壁を凝視した。
「でも、これはあり得ないな」
「え!? どうして?」
日々喜の驚きの声に、キリアンは壁から目を逸らしてそちらを向いた。
「魔法陣てのは魔力が循環している物だろ」
キリアンの答えに日々喜はキョトンとした表情を見せた。
「まさか、あんた……。そんな事も知らなかったのか?」
今度はキリアンが驚く。日々喜は魔導の基本となる考えさえ知らなかったからだ。
その考えとは、魔導がいかに安定して運用される魔法技術であるかを説明するものであった。
魔導士が魔導を行使する時、魔法陣の現れる場となるアトラスフィールドへ、肉体を介してエーテルが送り込まれる。送り込まれたエーテルは球体状のアトラスフィールド上を旋回し、やがて球体の中心へと流れ込んで行く。そこで、魔法陣の形成と魔導の行使に当てられたエネルギー相当分のエーテルが消費されると、残ったエーテルは再び球体の表面へと流れ旋回し、肉体へ還るのである。
この時何故、術者のイメージする魔法陣の形を描くのかは説明が付いていない。
しかし、このアトラスフィールド上に働くエーテルの流れが、エーテル自身の持つ相互作用に依って、最も効率的な形にまとめられて行くのだと考えられている。その際、エーテルの密度が高い部分ではまばゆい程の輝きを放ち、密度の低い部分では人の目には映らない程の光しか放たないのである。
現実の世界にあるもので例えれば、銀河系に似た構造を持っており、同じくらい何も分かっていないのであった。
「だから、基本中の基本として、イメージしたアトラスフィールドから手を離しちゃいけない。何故なら、循環した魔力が戻ってこずに、自然にばら撒かれちまう」
キリアンは魔法陣の説明を終えると、付け足すようにそう注意した。
「でも、それがどうしてあり得ない事になるの?」
日々喜が尋ねる。
「これ、無限に巻き込んでんだろ」
キリアンは螺旋を指でなぞりながらそう言った。日々喜はそこでハッとする。壁に描かれた魔法陣の図に、大きな矛盾が存在している事に気がついたのだった。
「何かまずいのか?」
日々喜の表情を見て、コウミが尋ねた。
「はい……。ゼノンパラドクスが起きてしまってる」
「ゼノン? 何だそれ」
「鈍足の亀と俊足のアキレスの追い駆けっこの話しです。本当に知らないんですか?」
「知らん」
日々喜の言うゼノンパラドクスとは、古代ギリシアの哲学者、エレアのゼノン(ツェノン)による第二の逆説『アキレス』の事だった。
先を行く亀に対して、俊足をうたわれるアキレスが同じ方向に走れば、直ぐにでも亀を追い越してしまう様に思われる。しかし、アキレスが亀の居た場所に辿り着いた時、鈍足なりに亀は少し前に進んでいる。アキレスが再びその場所に辿り着いた時、また亀は少し前に進み出ている。アキレスが亀の下に辿り着くまでに、この事柄が無限に繰り返され、結果的に追い越す事が出来ないと言う主張である。
日々喜はコウミに対して、丁寧に説明を施して行った。
「そのアキレスって奴は俊足何だろ? だったら、亀如きに後れは取らない。それは、屁理屈って奴だぜ日々喜」
「いいえ、違います。ちゃんと順序立てた筋道のある理屈です。だけど、可笑しな事に現実では起きえない事でもあるんです」
可笑しな事と言えば、確かにそのように聞こえる。しかし、この類の主張は言葉そのままに受け止めるのではなく、深く読み解いた上で正確にロジックを作り上げなければ意味を理解するのは難しい。というのも、この話はアキレスが亀に追い着く事ができない事を主張するものではなく、可能であるかどうかを判断する事は、未だ人智の及ばぬ範疇である事を言っているに過ぎないからである。
古代ギリシアの時代より、二千年の時を得た現代数学の世界においては、可能であるという主張(実無限数学)と、分からないままであると言う主張(可能無限数学)の二派に別れ、それぞれ、広さの異なる数学の世界観を描いている。
「あんたの言う通りさ。いい例え話だったよ」
日々喜の話しに聞き入っていたキリアンは、再び壁に描かれる魔法陣の図を指して話し始めた。
「こいつは黄金螺旋だ。四半周期で半径の長さが黄金比率の逆数倍になって行く。無限回に近く回転すれば、中心との距離は限りなく零に近づくんだ。だけど、裏を返せば、無限に回転しないとエーテルは中心には到達しないと言う事だろ。そんな事は不可能だ」
「でも……」
日々喜はキリアンの主張を受け入れる事ができなかった。何故だか、そうしてしまう事はツキモリコウイチの苦労した全てを否定してしまうように感じられてならなかったからだ。
「だけど、キリアン。魔法陣は人がイメージして描くものでしょ?」
「イメージ?」
怪訝な表情を浮かべるキリアンに対し、日々喜は頷く。
「だったら、例え無限に巻き込む黄金螺旋でも描かれる事はありえるんじゃないの」
キリアンは首を振って答えた。
「イメージはイメージだ。頭に描いたものを参考に、魔法陣を描いているに過ぎないさ。そして、人間に無限は描けない。もし、本物の黄金螺旋を描く事ができたなら、そいつは、人間の能力を超えた化物だ」
「でも、フェンネルお嬢様は、立体状の魔法陣を展開していた。そんな真似ができるのは、イメージを現実に描く事ができたからだよ」
フェンネルの名前を出された途端、キリアンは機嫌を損ねた様に小さく舌打ちをした。
「あの立体魔法陣を見たのかあんた。それで、自分にもできると思ったのか?」
キリアンは呆れたように溜息を着いた。
「特殊な事例を見たからって、全ての事柄がそれに従ってるわけじゃないだろ。あいつこそ化物だ。人間にはできない事をやってる。俺達には関係の無い事さ」
キリアンはそう言うと、部屋の扉に向かって歩き出した。日々喜は反論できないままキリアンの事を見つめ続けた。
「下に降りて来いよ、日々喜。オレガノ達が、これから向かう領域のチャートを作ってる。真っ当な人間は、現実にできる事から着々と進めて行けば良いんだ」
そう言い残すと、キリアンは部屋を後にして行ってしまった。
部屋に残された日々喜。それでも、自分の意見は間違っていないだろうと言う様子で、コウミの方を伺った。
コウミは自分の知った事では無いとばかりに肩をすくめて見せた。
「……下に行きます」
日々喜は呟く様にそう言うと、トボトボとコウイチの研究室を後にして行った。
階下へ降りる足音が聞こえなくなったところで、それまで黙っていたコウミが大きな溜息を着く。
「たかが渦巻ごときで、何を言い争ってる」
コウミはそう独り言を呟くと、いさかいの元凶ともなった壁の落書きへ視線を移した。
「我は、ここにてデーモンなり、か……」
今は亡き知り合いの言葉。それが遺言にでも聞こえるのか、コウミは噛み締める様にそう呟くと、文末に書かれる『Daemon』の単語に爪を立て、ガリっと削る様な音を鳴らし消し去ってしまった。
「くだらないものに、成り下がりやがって」
最後にそう吐き捨てると、コウミは部屋を後にして行った。
(※)
E.T.ベル:著 『Men of Mathematics』より一文を書き換えて引用。
原文:『because they do not understand me, I am a barbarian』
訳に関しては、同書籍の日本語版(東京図書出版、田中勇・銀林浩:訳 『数学を作った人々(下)』 第二十章 天才と狂気――エヴァリスト・ガロア)より一文を書き換えて引用。
原文:『我はここにて異邦人なり、彼らは我を理解せざれば』
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