宗狂の教え

真水

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1章 牢獄編

彼が求めるもの

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「俺は“仲良くしろ”と言ったはずだが……デリック」

尋問官がソフトモヒカンに詰め寄りながら、その名を呼ぶ。
僕にここまで恐怖を与えた男の名前――『デリック』。
脳裏に深く刻むと同時に、いつか必ず痛い目を見せてやると固く誓った。

「まあまあ、俺の顔に免じて許してくださいよ。ほら、これ。ほんの気持ちです」

デリックはヘラヘラ笑いながら尋問官に近づき、何かを手に握らせる。
尋問官は中身を確認もせず、「次はないぞ」とだけ言い残し、鉄格子の外へと消えていった。

「さて、セドリック君。俺と少し話さないか?」

「セドリック様が、貴様のような下等生物と話すわけがないだろう。口を慎め」

ガロスが即座に割って入る。
正直、僕も最初はデリックと話す気は毛頭なかった。
だが、冷静になって考えると、聞くべきことがあまりにも多い。

――なぜ僕の名前を知っているのか。
――この鉄格子の中で、彼はどういう立ち位置なのか。
――そして、これから僕たちはどうやって生きていけばいいのか。

この機会を逃すのは得策ではない。

「ガロス、少し黙っていてくれ。僕も彼と話す必要があると思う」

「セドリック様がそう仰るのならば……」

そう言いながらも、ガロスは警戒を解かない。
デリックが飛びかかれば即座に割り込める位置をキープしている。

「おや、話してくれるのかい? 嬉しいなぁ。てっきり嫌われちゃったと思ってたからさ」

デリックもガロスから目を離さない。
互いに牽制し合う視線の間に、僕が立つ形だ。

「では早速本題に入りましょう。デリックさんは僕たちに何を望むんですか?」

少し見ただけで、彼が話術に長けていることは分かった。
下手に探り合うより、本題を切り出す方が安全だ。

「ああ、いきなり本題に入る感じ? 俺はもう少し君のことを知りたいんだけどなぁ」

やはり探り合う気満々だ。だが、僕はその土俵には上がらない。

「いえ、僕はデリックさんに自分のことを教えるつもりはありません。本題だけお願いします」

「へぇ……さっきまで涙目でプルプルしてた“出来損ないの次男坊”が、今じゃすっかり自信満々の貴族様じゃないか」

「出来損ないの……次男坊?」

僕はチラリとガロスを見る。
彼は憤怒の表情を浮かべるが、否定はしない。
間違いなら、今ごろデリックと殴り合っているはずだ。

――つまり、これは事実?
僕は、使用人や家族からそう見られていたのか……。

「おやおや、もしかして自分が出来損ないだって知らなかったのか?」

顔に出たのだろう、デリックが追い打ちをかけてくる。

「すごく有名だぜ。勉強もせず、友人も作らず、ネブラを狂信してるイカれた次男坊のセドリック……ってな」

「なっ……! 確かに僕はネブラ様を信仰しているが、それの何が悪い!? 信心深いのは良いことだろう! それに、まさか……ネブラ様を冒涜しているのか!?」

「待て待て待て。なんでそうなるんだよ。思考が短絡的すぎるぞセドリック君。それに俺だって、曲がりなりにもネブラ教徒だ。そんな罰当たりなことするわけないだろ」

「なんだ、なら先にそう言ってくださいよ……。悪魔に憑かれた牢に入れられたかと思って、肝が冷えたじゃないですか」

どうやらデリックもネブラ様の信徒らしい。
ならば、彼に対する評価を改めねば――。

「そういえば、本題を忘れていました。結局デリックさんは僕たちに何を望むんですか?」

「おっ、俺もそろそろそれを話そうと思ってたところだ。俺が話したい話題を振ってくれるなんて……もしかして君、エスパーか?」

「茶化さないでください。まあ内容によりますが、ネブラ様の信徒であればできるだけ願いには応えるつもりです」

「そっか。じゃあ、セドリック君は協力してくれるかもな」

「いいから早く本題を。デリックさんは何を求めているんです?」

「俺が求めてるのは――布教活動をしてくれる宣教師さ」
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