【完結】蒼き騎士と男装姫〜国を救いたい悪役令嬢は、騎士姿で真実の愛を見つけることができますか??

来海ありさ

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18 獣は、獲物を見定める

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一歩後ろに後ずさ•••

•••ろうとした私の背中に、また彼の腕が回り込んだ••••


逃さぬようにがっしりと私の身体を抱き寄せたのか、エドゥアルト王子が呼吸をするたび彼の胸の熱が直にこちらに伝わってくる•••そんなに近づいたらバレてしまう!!マントもリリアに貸してしまった私の上半身は、薄い布だけでなんとも心もとない••••切長の瞳が鋭い眼差しを、私に向け続ける。やけに艶めかしい•••ふいに王子が自らの長いまつ毛を臥せて私の首元に視線を落とし、耳元にその端正な顔を近づけ囁く。

「お前、こんな華奢な身体で、よくあれだけの動きをする。」

深い夜の響きのような声だ。そして彼の指先がスッと私の首筋を撫でた。

!?

この人、女が嫌いなんじゃなくて、じつは男が好きだった!?


いやいやいや••••そんな設定はなかったはず••••そもそも何で王子は女性が嫌いだったのかしら?•••ゲームではそこまで詳しくは出ていなかった•••ただ、王子がリリアを好きになるのは、リリアが活発でハキハキしていて、いわゆる”一般的な”令嬢と違うところや人のために親身になるところに惹かれていたはず!!

先ほど、酒場でリリアと王子は最初の「出会い」をした•••私が乗り込んで行った時も、リリアは自分から人のために何かをするようなゲーム通りの素敵な女性だった!!きっと王子もリリアに好ましい印象を抱いたはず••••王子は一度心を許すと、途端にその冷酷さの仮面を脱ぎ捨てる•••

そんなことを、月明かりに反射しキラキラと耀いた彼の銀の髪が、私の目の前でサラサラと落ちて行くのを見ながら考えていた•••••彼の視線がずっと私を捉えているのを感じる•••まるでライオンに狙われた獲物のような心境だ•••心臓がギュッと鷲掴みにされた気分•••

•••その銀の髪から雫が私の首元まで落ちるほど、接近した彼に、覚悟を決め呼びかける。

「エドゥアルト王子」

すると王子は目を見開き、獣のような身のこなしで後ろに退いたかと思うと、腰に差した剣の刃を私の鼻先に向けた。王子の瞳がブラウンと深い水色に変わる。間近で見た透き通った水色の瞳は、蒼の石の色と似ている•••光を蓄えた海のような不思議な色•••これがオッドアイ•••間近にみる彼の瞳は宝石のようだ•••

「なぜその名を?」

今にも私を突き刺さんとするような鼻先スレスレで鋭く光る刃の先を見返すように、彼の視線を受け止める。私だって怖くないわけじゃない•••でも•••カイルがこんな私でも側でずっと支えてくれたように•••父上がこんな私でも見放さず見守ってくれていたように••••私だって、引けない時がある!!!

王子の質問には答えず、自分の言うべきことをまず伝える。

「僕は、あなたの敵ではない。あなたと話しがしたくて来た•••なぜあなたはこの国に来た?あなたの目的は何だ?」


王子の目的は、もちろん私の父上、ウンディーネ国ルイス王との会談だろう。だが、それを彼の口から直接聞かなければ、私は勝手に動くことはできない•••


「それをお前に言ってどうする?」

「僕はきっとあなたの助けになれる•••互いの国の戦を望まないのであれば•••この点で僕らは一致するはずだ•••たとえ、それ以外の全てが、敵対するとしても•••」


「戦」と言う言葉に、エドゥアルト王子の目が大きく見開いた。そして刃を私に向けたまま、私の瞳の奥を覗き込もうとでもするかのようにじっと見る。

私は私の意思を持って、この国の王女としての威厳を持ち、視線を逸らさずに見返した。彼のオッドアイに、私の薄桃色の瞳が映る。

ふいに彼の瞳の色がブラウンに戻ったかと思うと、王子は剣を下ろした。

「いいだろう。教えてやる。戦を回避する。そのためにオレは、この国の王と同盟を結ぶ。」

彼の口から出た言葉に、私は内心安堵する。

「僕なら王との会談の場にあなたを連れて行くことができる。」

来る前にカイルと練った計画を思い浮かべ、頭の中で算段をつける。

「それをおめおめと信じるとでも?そこで捕まる可能性をオレが考えないとでも?」

王子は口の端を上げ、皮肉めいた言葉を投げかける。

「あなたの言うことはもっともだ•••だが、おめおめとわが国に無鉄砲に飛び込んできたのはどこのどいつだ?それにこのままでは、どうせあなたの目的は達成されないだろう?」

彼は私の提案を受ける以外に策はない。無言で彼の答えを待つ。

夜の静寂が辺りを包む。

「•••」

ふいに、エドゥアルト王子は踵を返すと、干してあった自らの上着を羽織りながら、面白がるような笑みを浮かべた。

「どうせ敵地に乗り込んできたのはオレたちだ。•••アル、と言ったな?そこまで言うなら、オレをそこまで連れて行け。」

もしこの言葉を違えた時にはどうなるか分かってるな?とでもいうような強い意志を含んだ有無を言わさぬ王者としての言葉、だ•••「命令」•••王城に彼を連れて行く。望むところだ!!カイルにはリリアもついているし、今頃はわが国の騎士団に保護されているだろう。私は、私のできることをする。

◇◇◇


•••とはいえ••••この王子•••連れて行け、なんて簡単に言わないでほしい•••私は王子の自分に対する態度に、ため息をつきたくなる気持ちを必死に抑える•••王城までここからは大分距離がある•••崖から落ちた時に茶の馬はどこかへ逃げていってしまっていた•••あの高さだったから、馬が死んではいなかったことにはホッとしたけれど•••

身だしなみを整えたいが、そんな余裕もない。私の次の言葉を待つ王子に、言葉をかけた。

「崖の上に残して来た僕の馬は、多分まだその辺りにいると思う•••とりあえず崖の上まで行けば何とかなる。」


◇◇◇

私は先ほど自分で言った言葉を深く後悔した!!確かにそう言ったのは私だ!!馬は一頭しかいなかったからこうなるのは予想できてはいた•••けれど!!

「何が不満だ?女のようにオレの腕の中に座らされるのがそんなに不満か?」

!?

どうしてこの人はこういう言い方をするの!本当に嫌味なやつ•••

「ああ、大いに不満だ。座る場所じゃなくて、手綱を握っているのがあなたなことが不満なんだ。」

どのように二人乗りしても、結局手綱はエドゥアルト王子が握るような気がする•••自分でも無茶を言っているのは、分かってる•••別に本当に手綱を握りたいわけじゃない!!! けれど、、男装がバレないように、少しでも相手の気を逸らしたい!!だって、まだ濡れている私の服越しに、エドゥアルト王子の胸板が、先ほどからぴったりとくっついているから•••しかも、揺れが大きくなるたびに、彼の腕が私の腰からお腹の辺りを支えるように伸びてくる•••この人•••ゲームでは、冷酷?王子?と呼ばれていたはず•••冷酷??•••嘘でしょう?? 



??? 過保護の間違いでは???
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