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第三十二話 獣魔王からの使者
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「ところでさ、このダンジョンをクリアした人には精神攻撃耐性を与えるって言っただろ? 各フロアのクリア者には何か与えられないのか?」
大人の姿に戻り第三層の終着点を設定中のヴィオラに尋ねた。
第三層の終着点となる転移陣は第二層と同様に、固定ではなく移動する転移陣にするらしい。
展開される悪夢に応じて一番相応しい場所に移動していくのだそうだ。なかなか凝っている。
その転移陣移動やリタイア宣言の受理なんかの判断を統括する役目を請け負ったのは、妖魔城残留組の妖魔ココアとライムだそうだ。
彼女らにこの妖魔のダンジョンの管理全般を任せたとのことで、ああ立派になったんだなあとちょっと感慨深かったりする。
「何か? 例えばどんなの?」
俺の問いにヴィオラが作業の手を止めて小首を傾げる。
「冒険者や旅人が多少の代償を払っても欲しいと思うような物だよ。例えばアイテムだったり、スキルだったり」
「なるほど、成功報酬だね。確かに、何もなくても第二層までは人を呼べるだろうけど、第三層には来てくれなそうだもんね」
ヴィオラが拳を顎に当てて考える。
「そうだな……第一層は《魅了》の耐性とスキルをセットで、プラス黒狼の素材に相当する魔石、二層は《誘惑》セットプラス《魔法防御》付きの男女とも着られるチュニック、三層は《混乱》セットに《破幻視》のスキルを追加でどうだろう?」
「お、いいね! 三層の《破幻視》は悪夢封じのアイテムに置き換えられないか?」
俺の言葉にヴィオラがちょっと微妙な顔つきで唸る。
「悪夢封じかぁ。夢魔たちが寂しがるけど、夢魔たちと遊ぶ体力の無い人を見分けるのには都合がいいかな? じゃ、夢魔の来訪お断りの目印になる魔石を作っておくよ。《破幻視》のスキルと好きな方を選べるようにしておこう」
「《睡眠》の魔法がかかるようになってるとなおいいぞ」
「オーケー、それは可能だ。じゃ、レベル1の《睡眠》を封じておこう。でもこれ、夢魔の悪夢を封じるだけだよ? 自分で勝手に見る悪夢は封じられないからね?」
「自分で勝手に見る悪夢? 例えばどんなのだ?」
「うーん、例えば……お腹の調子が悪いときに魔物と遭遇しちゃって、漏らしながらも討伐したんだけど同じパーティの彼女には嫌われちゃって、気まずくてパーティ解散になった時のことをいまだに夢に見るみたいなの」
例えが生々しすぎて思わず吹き出した。
「すっげーリアルなの来たな。それ誰だよ?」
「例えだよ、例え」
そう言って笑うヴィオラ。
絶対元ネタ提供者がいるぞ、これ。気の毒すぎて泣けてくるわ。
「そのクリア報酬って俺ももらえるのか?」
「いいよ、スキルと耐性は全部あげるよ。魔石は要らないよね? 僕が都度作ってあげるし。悪夢封じも要らないね」
「え、悪夢封じもらえないのか?」
「要らないでしょ。レイチのところに来る夢魔なんていないし、《睡眠》なら僕がかけるし」
「……むぅ」
そう言われると一言もない。
よく眠れるアイテムって、日本にいた頃の感覚がまだ残ってるせいか、なんか持ってるだけで安心できそうな気がしてしまうんだよな。
ヴィオラの魔法じゃ漏れなく淫夢が付いてきそうだし。
悪夢封じよりむしろ俺には淫夢封じのほうが実用的なのかもしれない。絶対にヴィオラの許可は下りないだろうけど。
そんなやり取りをしていると、キオから念話が入った。
『……ここはまだ未完成です。この先への立ち入りはご遠慮いただきたいのですが』
『…………』
『こちらから主に報告しますから、今日のところはお引き取り下さい』
『…………』
「ヴィオラ、聞こえたか?なにやら上で招かれざる客が騒いでるみたいだ」
「うん、聞こえた。行こう、レイチ。どうやら向こうから来てくれたみたいだ」
ヴィオラがニヤリと笑う。
『先ほども申し上げた通り、ボクたちは異国から来た魔獣です。黒い体毛に赤い瞳は血を好む魔物に共通する特徴ですから、闇狗に似ていても何ら不思議はありません』
おぅふ。キオのヤツ、この間まで犬だったとはとても思えない受け答えしてるな?!
移動の間にも伝えられてくる様子に、思わず舌を巻く。
「……やっぱり獣魔族か」
現地に着き、リウスとキオ(というか殆どキオ)と言い合いをしている魔族の男を見て、ヴィオラが呟いた。
「気の早いお客さんだね。まだ建設中なんだけど、我慢できないのかな?」
ヴィオラがつかつかと闖入者の魔族に歩み寄った。
「……お前らが主か?」
男が奥から現れた俺らの姿を見て目を細めた。
黒髪、赤目。一見するとリウスやキオと同族のように見えるが、よく見ると髪の色合いが漆黒より若干灰色がかっていたり、瞳の赤が少しばかり明るかったりしていて、別の種族なんだということがわかる。
『大吸血蝙蝠の魔族ですな』
スラサンが念話でそっと囁いてきた。
大吸血蝙蝠って言うと、この間双頭犬が南に遠征して翼竜を狩ってきた時に、ついでに狩ってたヤツだな。
アイツの魔族とかいたんだ。
魔獣形態で戦ったら一瞬で決着つきそうなんだけど。
それとも、魔族の大吸血蝙蝠は闇狗に対する双頭犬みたいに、桁違いに実力が上がっていたりするものなのか?
けど、あんまり強そうじゃないんだよなぁ。
ヴィオラ相手にやんや言ってる男を見て思う。
って言うか、小っさい。百五十センチあるかないかくらいに見える。
でも別に可愛くもなくて、なんかひねくれた子どもみたいな顔してる。
子どもなのか? いや、魔族で子どもはないか。
『大吸血蝙蝠に魔族なんていたんだな』
スラサンに念話でそっと尋ねた。
『いえ、普通は考えられないのですが……魔獣の進化の殆どは妖魔で言う野良進化、倒した相手の魔石を食らって成されるので、血を吸うだけの大吸血蝙蝠はまず進化できません』
『……進化させたものがいるってことか』
『推測ですが』
スラサンの答えを聞いて、俺は軽く唸る。
その進化させたものって、確実に獣魔王だろうな。けど、わざわざなんでこんなショボい魔物を進化させるんだ?
俺が内心で首を捻る傍らで、ヴィオラと蝙蝠男の話し合いは続いている。
「だからさぁ、妖魔王が会って話すことを望んでるって伝えてほしいんだけど?」
「獣魔王様は他の魔王とは会わないと言っておられる。どうしても会いたいなら、代理人を立てるがよかろう」
男が顎を突き出してフンと鼻を鳴らす。
……小さいのに尊大な男だな。
その態度にちょっとイラッとする。
「じゃ、俺なら獣魔王に会えるのか?」
二人の会話に割って入った。
男が片眉を上げて俺を見る。
「その方が代理人だと言うなら、そのように獣魔王様には伝えよう。会うかどうかは獣魔王様が判断なさるので、私から言うことはできぬ」
「それでいい。……いいよな、ヴィオラ?ここで押し問答していてもしょうがない、俺が会ってくるよ」
「危険だ、一人で行くのは受け入れられない。護衛にリウスとキオを連れて行って。それなら、まあ、仕方ないから……」
不承不承といった様子で言葉を切り、溜め息をつくヴィオラ。
ちょっと前までは俺の方がヴィオラにこんな心配をしていたのに、いつの間にか入れ替わっちまったな。
スラサンを護衛につけようか、とか考えたりしたことをふっと思い出す。
まあ、今やスラサンを除けば、主従のうちで主の俺が一番弱いんだからしょうがない。
「じゃあ、妖魔王の代理人として俺が行く。付き添いはそこの二人だ」
「伝えはするが……その二人は、本当に闇狗ではないのか?」
リウスとキオに不審の目を向ける男。
リウスがあからさまに不快そうに舌打ちをし、キオも苛立った様子で眉間に皺を寄せる。
「……何度も申し上げた通り、ボクたちは異国の魔物です。仮に祖先が闇狗だとして、なぜそのことを責められなければならないのですか?」
「責めてはおらぬ。ただ、祖先ではなく貴様等が闇狗で、妖魔王が進化に手を貸したのではないかと疑っているだけだ。もしそうなら、この奥に闇狗を匿っていることと併せて、妖魔王が獣魔王様の眷属を奪っていることになるからな。獣魔王様に逆意ありと判断せざるを得ないゆえ、確認しているのだ」
ヴィオラがずいっと前に出た。
「あのさ、犬たちから住みかを奪ったのはそっちでしょ? 僕は森の生態系が崩れてるのを見かねて新しいねぐらを提供しただけなんだよ。
要するに、そっちがただねぐらを奪うだけで新しい住みかを提供しなかったのがいけないわけでしょう?
言葉は悪いけど、そっちのケツ拭いてやった僕に対して随分と失礼な言い草だよね?」
……あ。ヴィオラがキレた。
ヴィオラがこんな風に怒るのは本当に珍しい。
優しげな顔をしてるけどヴィオラも魔王だ。このまま怒らせておくと不味いことになる。
「別に犬たちを引き取りたいなら言ってくれればいつでも出すよ。ただ、当の犬たちの意思をちゃんと確認した上で、だけどな?
その事も含めて話をしたいから、会いたいんだよ。わかるだろ?」
ヴィオラをそっと手で制して俺が言葉を継ぐ。
「……取り次ぎはしよう。謁見の日時や場所はこちらで指定させてもらう。それと、この洞窟の中を、近々に獣魔族で改めさせてもらうからな」
男はそう言って大吸血蝙蝠に変化すると、逃げるように飛び去って行った。
「謁見、だとよ。それにしても不愉快なヤツだな」
俺が思わずこぼすと、リウスが悔しそうに唸った。
「食い千切ってやりたかった……!」
ポンポンとその背を叩く。
「よくこらえたな、リウス」
「主の前だから、我慢した……」
「よしよし、偉いぞ、リウス」
頭を撫で……ようとして、すっげえ上にあるので諦めた。
リウスってイケメンだけど、ちょっと犬みが残ってて可愛いんだよな。
「レイチ、ありがとう、助かった」
ヴィオラが軽い溜め息と苦笑を漏らしつつ言う。
「いや、俺が言いたいことあらかた言ってもらったからな。不愉快な客にはさっさとお引き取り願おうと思っただけだよ」
「獣魔族が来るって言ってましたね。大丈夫でしょうか……」
キオが洞窟の奥を見やりつつ呟いた。犬たちが心配なのだろう。
「そのあたりの対策も立てる必要があるね。あと、リウスとキオと中の犬たちにもちょっと確認したいことができたよ。とりあえず、中に移ろうか」
ヴィオラの表情がいつになく真剣で、俺たちの気持ちもつられて引き締まる。
ヴィオラは洞窟の入口に《幻惑》で目くらましの封印を施すと、奥へと足を向けた。
大人の姿に戻り第三層の終着点を設定中のヴィオラに尋ねた。
第三層の終着点となる転移陣は第二層と同様に、固定ではなく移動する転移陣にするらしい。
展開される悪夢に応じて一番相応しい場所に移動していくのだそうだ。なかなか凝っている。
その転移陣移動やリタイア宣言の受理なんかの判断を統括する役目を請け負ったのは、妖魔城残留組の妖魔ココアとライムだそうだ。
彼女らにこの妖魔のダンジョンの管理全般を任せたとのことで、ああ立派になったんだなあとちょっと感慨深かったりする。
「何か? 例えばどんなの?」
俺の問いにヴィオラが作業の手を止めて小首を傾げる。
「冒険者や旅人が多少の代償を払っても欲しいと思うような物だよ。例えばアイテムだったり、スキルだったり」
「なるほど、成功報酬だね。確かに、何もなくても第二層までは人を呼べるだろうけど、第三層には来てくれなそうだもんね」
ヴィオラが拳を顎に当てて考える。
「そうだな……第一層は《魅了》の耐性とスキルをセットで、プラス黒狼の素材に相当する魔石、二層は《誘惑》セットプラス《魔法防御》付きの男女とも着られるチュニック、三層は《混乱》セットに《破幻視》のスキルを追加でどうだろう?」
「お、いいね! 三層の《破幻視》は悪夢封じのアイテムに置き換えられないか?」
俺の言葉にヴィオラがちょっと微妙な顔つきで唸る。
「悪夢封じかぁ。夢魔たちが寂しがるけど、夢魔たちと遊ぶ体力の無い人を見分けるのには都合がいいかな? じゃ、夢魔の来訪お断りの目印になる魔石を作っておくよ。《破幻視》のスキルと好きな方を選べるようにしておこう」
「《睡眠》の魔法がかかるようになってるとなおいいぞ」
「オーケー、それは可能だ。じゃ、レベル1の《睡眠》を封じておこう。でもこれ、夢魔の悪夢を封じるだけだよ? 自分で勝手に見る悪夢は封じられないからね?」
「自分で勝手に見る悪夢? 例えばどんなのだ?」
「うーん、例えば……お腹の調子が悪いときに魔物と遭遇しちゃって、漏らしながらも討伐したんだけど同じパーティの彼女には嫌われちゃって、気まずくてパーティ解散になった時のことをいまだに夢に見るみたいなの」
例えが生々しすぎて思わず吹き出した。
「すっげーリアルなの来たな。それ誰だよ?」
「例えだよ、例え」
そう言って笑うヴィオラ。
絶対元ネタ提供者がいるぞ、これ。気の毒すぎて泣けてくるわ。
「そのクリア報酬って俺ももらえるのか?」
「いいよ、スキルと耐性は全部あげるよ。魔石は要らないよね? 僕が都度作ってあげるし。悪夢封じも要らないね」
「え、悪夢封じもらえないのか?」
「要らないでしょ。レイチのところに来る夢魔なんていないし、《睡眠》なら僕がかけるし」
「……むぅ」
そう言われると一言もない。
よく眠れるアイテムって、日本にいた頃の感覚がまだ残ってるせいか、なんか持ってるだけで安心できそうな気がしてしまうんだよな。
ヴィオラの魔法じゃ漏れなく淫夢が付いてきそうだし。
悪夢封じよりむしろ俺には淫夢封じのほうが実用的なのかもしれない。絶対にヴィオラの許可は下りないだろうけど。
そんなやり取りをしていると、キオから念話が入った。
『……ここはまだ未完成です。この先への立ち入りはご遠慮いただきたいのですが』
『…………』
『こちらから主に報告しますから、今日のところはお引き取り下さい』
『…………』
「ヴィオラ、聞こえたか?なにやら上で招かれざる客が騒いでるみたいだ」
「うん、聞こえた。行こう、レイチ。どうやら向こうから来てくれたみたいだ」
ヴィオラがニヤリと笑う。
『先ほども申し上げた通り、ボクたちは異国から来た魔獣です。黒い体毛に赤い瞳は血を好む魔物に共通する特徴ですから、闇狗に似ていても何ら不思議はありません』
おぅふ。キオのヤツ、この間まで犬だったとはとても思えない受け答えしてるな?!
移動の間にも伝えられてくる様子に、思わず舌を巻く。
「……やっぱり獣魔族か」
現地に着き、リウスとキオ(というか殆どキオ)と言い合いをしている魔族の男を見て、ヴィオラが呟いた。
「気の早いお客さんだね。まだ建設中なんだけど、我慢できないのかな?」
ヴィオラがつかつかと闖入者の魔族に歩み寄った。
「……お前らが主か?」
男が奥から現れた俺らの姿を見て目を細めた。
黒髪、赤目。一見するとリウスやキオと同族のように見えるが、よく見ると髪の色合いが漆黒より若干灰色がかっていたり、瞳の赤が少しばかり明るかったりしていて、別の種族なんだということがわかる。
『大吸血蝙蝠の魔族ですな』
スラサンが念話でそっと囁いてきた。
大吸血蝙蝠って言うと、この間双頭犬が南に遠征して翼竜を狩ってきた時に、ついでに狩ってたヤツだな。
アイツの魔族とかいたんだ。
魔獣形態で戦ったら一瞬で決着つきそうなんだけど。
それとも、魔族の大吸血蝙蝠は闇狗に対する双頭犬みたいに、桁違いに実力が上がっていたりするものなのか?
けど、あんまり強そうじゃないんだよなぁ。
ヴィオラ相手にやんや言ってる男を見て思う。
って言うか、小っさい。百五十センチあるかないかくらいに見える。
でも別に可愛くもなくて、なんかひねくれた子どもみたいな顔してる。
子どもなのか? いや、魔族で子どもはないか。
『大吸血蝙蝠に魔族なんていたんだな』
スラサンに念話でそっと尋ねた。
『いえ、普通は考えられないのですが……魔獣の進化の殆どは妖魔で言う野良進化、倒した相手の魔石を食らって成されるので、血を吸うだけの大吸血蝙蝠はまず進化できません』
『……進化させたものがいるってことか』
『推測ですが』
スラサンの答えを聞いて、俺は軽く唸る。
その進化させたものって、確実に獣魔王だろうな。けど、わざわざなんでこんなショボい魔物を進化させるんだ?
俺が内心で首を捻る傍らで、ヴィオラと蝙蝠男の話し合いは続いている。
「だからさぁ、妖魔王が会って話すことを望んでるって伝えてほしいんだけど?」
「獣魔王様は他の魔王とは会わないと言っておられる。どうしても会いたいなら、代理人を立てるがよかろう」
男が顎を突き出してフンと鼻を鳴らす。
……小さいのに尊大な男だな。
その態度にちょっとイラッとする。
「じゃ、俺なら獣魔王に会えるのか?」
二人の会話に割って入った。
男が片眉を上げて俺を見る。
「その方が代理人だと言うなら、そのように獣魔王様には伝えよう。会うかどうかは獣魔王様が判断なさるので、私から言うことはできぬ」
「それでいい。……いいよな、ヴィオラ?ここで押し問答していてもしょうがない、俺が会ってくるよ」
「危険だ、一人で行くのは受け入れられない。護衛にリウスとキオを連れて行って。それなら、まあ、仕方ないから……」
不承不承といった様子で言葉を切り、溜め息をつくヴィオラ。
ちょっと前までは俺の方がヴィオラにこんな心配をしていたのに、いつの間にか入れ替わっちまったな。
スラサンを護衛につけようか、とか考えたりしたことをふっと思い出す。
まあ、今やスラサンを除けば、主従のうちで主の俺が一番弱いんだからしょうがない。
「じゃあ、妖魔王の代理人として俺が行く。付き添いはそこの二人だ」
「伝えはするが……その二人は、本当に闇狗ではないのか?」
リウスとキオに不審の目を向ける男。
リウスがあからさまに不快そうに舌打ちをし、キオも苛立った様子で眉間に皺を寄せる。
「……何度も申し上げた通り、ボクたちは異国の魔物です。仮に祖先が闇狗だとして、なぜそのことを責められなければならないのですか?」
「責めてはおらぬ。ただ、祖先ではなく貴様等が闇狗で、妖魔王が進化に手を貸したのではないかと疑っているだけだ。もしそうなら、この奥に闇狗を匿っていることと併せて、妖魔王が獣魔王様の眷属を奪っていることになるからな。獣魔王様に逆意ありと判断せざるを得ないゆえ、確認しているのだ」
ヴィオラがずいっと前に出た。
「あのさ、犬たちから住みかを奪ったのはそっちでしょ? 僕は森の生態系が崩れてるのを見かねて新しいねぐらを提供しただけなんだよ。
要するに、そっちがただねぐらを奪うだけで新しい住みかを提供しなかったのがいけないわけでしょう?
言葉は悪いけど、そっちのケツ拭いてやった僕に対して随分と失礼な言い草だよね?」
……あ。ヴィオラがキレた。
ヴィオラがこんな風に怒るのは本当に珍しい。
優しげな顔をしてるけどヴィオラも魔王だ。このまま怒らせておくと不味いことになる。
「別に犬たちを引き取りたいなら言ってくれればいつでも出すよ。ただ、当の犬たちの意思をちゃんと確認した上で、だけどな?
その事も含めて話をしたいから、会いたいんだよ。わかるだろ?」
ヴィオラをそっと手で制して俺が言葉を継ぐ。
「……取り次ぎはしよう。謁見の日時や場所はこちらで指定させてもらう。それと、この洞窟の中を、近々に獣魔族で改めさせてもらうからな」
男はそう言って大吸血蝙蝠に変化すると、逃げるように飛び去って行った。
「謁見、だとよ。それにしても不愉快なヤツだな」
俺が思わずこぼすと、リウスが悔しそうに唸った。
「食い千切ってやりたかった……!」
ポンポンとその背を叩く。
「よくこらえたな、リウス」
「主の前だから、我慢した……」
「よしよし、偉いぞ、リウス」
頭を撫で……ようとして、すっげえ上にあるので諦めた。
リウスってイケメンだけど、ちょっと犬みが残ってて可愛いんだよな。
「レイチ、ありがとう、助かった」
ヴィオラが軽い溜め息と苦笑を漏らしつつ言う。
「いや、俺が言いたいことあらかた言ってもらったからな。不愉快な客にはさっさとお引き取り願おうと思っただけだよ」
「獣魔族が来るって言ってましたね。大丈夫でしょうか……」
キオが洞窟の奥を見やりつつ呟いた。犬たちが心配なのだろう。
「そのあたりの対策も立てる必要があるね。あと、リウスとキオと中の犬たちにもちょっと確認したいことができたよ。とりあえず、中に移ろうか」
ヴィオラの表情がいつになく真剣で、俺たちの気持ちもつられて引き締まる。
ヴィオラは洞窟の入口に《幻惑》で目くらましの封印を施すと、奥へと足を向けた。
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