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13 女性の仕事を奪うってなあに その2
しおりを挟む「さてと。ええと、タケシは前に話した『需要と供給』っていうのをおぼえてるかな?」
ソファのところで落ち着いてから、パパはこうきり出しました。
「うん、もちろん」と答えたタケシ君を、パパはにこっと笑って見返しました。
「そうか、よかった。なら話がしやすいよ。多くの人に求められるものが商品になって社会に流通する。基本的に、求められるから広く提供される。それが需要と供給の関係だったよね」
「うん」
「ちょうどいいから先日の『裸でリボンの少女のイラスト』を例にとるけど、あれはたまたま女性のイラストレーターさんの作品だったね」
「うんうん」
「でも、小さな子どものいる親の立場の人たちと、いわゆる『フェミニスト』と呼ばれる人たちから『それはおおっぴらに誰にでも見えるように展示はしないでほしい』という要望が出て、主催していた店側はゾーニングをしっかり行うという形で一応落ち着いた」
「そうだったね」
「さて、それに対して大いに反対していたのは、どんな人たちだったかな?」
「ええっと……」
タケシ君、ちょっと考えました。
「そういう絵を『見たい』『欲しい』と思っている人たち……つまり、需要の側の人たち、ってことじゃない?」
「そうだよね。イラストを描くだけなら基本的にだれでもやっていいけれど、それをどんな風に展示・販売するのかっていうことになると、もう少し厳しめのレイティングが求められるようになる……って話だった」
「うん」
「こんな感じで、男性向け……とも限らないけれど、まあ特に、可愛い女の子がモチーフとなっている作品が商品として売られる場合、それが『性的だ』といって攻撃されることが最近増えてきている」
「ふーん」
「『それが性的か、そうでないか』の判断は意外と難しい。先日のリボンの絵みたいに、『局部は一応隠れています』という状態だとR18にはできないし、それを『性的だ』と言えるのかどうかは……まだ難しいところがある。意見がいろいろに分かれていて、『ここからは性的。これはセーフ』みたいな線引きはほぼできていない状態といってもいい」
「へえ、そうなの?」
「そうなんだよ……。だからこそ、いろんな言い争いが生じるわけだ」
「ふうん」
パパはそこで、コーヒーに一度口をつけました。
「で、話を戻そう。映画やアニメをつくったり、展示会をしたり販売をしたりするのは、そこに需要があるからだよね。それに対して作者や出版社や映画会社などが商品を供給する側になる」
「そうだね」
「アニメ作品でも、それは需要があるからこそ作られている。アニメには特に多くの人が製作に関係することになるけど、こういう問題が取りざたされるときによく話題に上がるのが、女性のアニメーターさんや声優さんのことなんだよね」
「声優さん? そうなの?」
声優というのは、アニメや映画などの吹き替えやナレーションなど、声の仕事をする人たちの総称であることは、タケシ君も知っています。
「もちろん、映画やドラマなら俳優さんだし、モデルだとかアイドルの人だとか……とにかくいろんな人が作品に関わっているよね。女性もたくさん関わっている。その人たちはそれが仕事なんだから、当然といえば当然だよね」
「うんうん」
「で、なにかのアニメ作品が『性的だ、レイティングを厳しくしろ』みたいに批判されると、擁護したい人たちが言うわけだ。『作品を規制したら、その作品に関わっている女性の仕事を奪うことになる。フェミニストは女性の権利を大事にするといいながら矛盾してる』って」
「あ、そうか。同じなんだね、リボンの時と」
「まあ、あれはイラストレーターさんであって、自発的に自分の好きな絵を描いてらっしゃる人だから。いわゆるアニメーターさんや声優さんたちの件とはちょっと違うけどね……」
パパはコーヒーの入ったマグをテーブルにもどして、また少し考える様子でした。
「こうした問題が起こると、これは本当によく見られる論調なんだよね。でもなあ……なんかなあ……」
また、ぽりぽりと後頭部を掻いています。
「あれは、なんとなく……なんとなーく、パパには詭弁に見えてしょうがないんだ」
「き、きべん……??」
なんだかまた難しい言葉が出てきました。
「詭弁……って言っちゃうとちょっとひどいかな。じゃあなんだろう、屁理屈……? ううん、ちがうな。うまく言えない……」
パパはぐしゃぐしゃと髪を掻きまわしています。
「ああ、もういいよ。言葉はなんでもいいからさ。つまりどういうこと?」
「……だからね」
鳥の巣みたいな頭になったパパは、今度は顔の前で手を組んで、考え考え言い始めました。
「つまり……その女性たちは仕事をしているだけだ。オファーを受けて、求められる仕事をしただけ。それは、そこにその仕事があるからであって……つまり、その仕事を『作った人』または『作品を求めている人』からの要請に従って、求められる演技や絵を提供し、それでお金をもらっただけ。その人たちはそれでご飯を食べている。仕事なんだから、当然だよね」
「ん? ……うん……?」
話は半分ほど呑み込めなかったのですが、タケシ君はとりあえずうなずきました。
「タケシも知っていると思うけど、俳優や声優、モデルやアイドルって、だれでもなれる職業じゃないだろう?」
「あ、うん。そうだよね」
「でも、仕事の数には必ず限りがあるわけだよね?」
「ん? うん……?」
タケシ君はちょっと考えました。
声優さんなら見た目はそんなに気にしなくてもいいのかもしれませんが、最近では声優さんでもアイドル並みの扱いをされることも増えてきています。実際、アイドルのようにユニットを組んでライブをする人たちもたくさんいます。
つまり基本的に、容姿がとても優れていて、歌を歌ったり踊ったりでき、もちろん声優としても高い技術も持っていなくてはなりません。
アイドルや声優は、いまや憧れの仕事です。アイドルや声優になりたいという人はたくさんいますが、それで実際に仕事ができているのはそのうちのほんのひと握りでしょう。
「つまり、ただでさえ少ない仕事を、多くの人が奪い合っている状況……働く側が、あまり自分で好みの仕事を選べない状況が大いにあるはずなんだよ。普通に考えればね」
「え……? そうなの?」
タケシ君はきょとんとしました。
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