つれづれ司書ばなし

つづれ しういち

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75 「生きのびるために」

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 こんにちは。
 今回ご紹介する本はこちら。

 こちらは今のバージョンではなく、ひとつ前のバージョンのときの国語の教科書で紹介されていたかと思います。たしか三省堂の教科書だったかと。

 ●「生きのびるために」
 デボラ・エリス・著 / もりうち すみこ・訳 / さ・え・ら書房(2002)

 舞台はタリバン政権下のアフガニスタン。
 そこに暮らす十一歳の少女、パヴァーナ。
 タリバンがやってきて以降、パヴァーナとその家族はみんな不自由な生活を強いられています。
 女性は家族の男性が同伴していなければ外に出ることもできない。出るときには、目元だけがかろうじて見える、足元まである真っ黒なブルカを着なくてはならない。
 若い女性は、いきなり家に踏み込んできたタリバン兵に連れ去られることが多く、その後は決して戻ってこないし、男性たちもいきなり逮捕されて刑務所に入れられると、戻ってこないことが多い……という。本当に精神的に追い詰められる状況。

 ある日、パヴァーナの父がイギリスに留学していた経験があるというのでいきなり踏み込んできたタリバン兵につかまり、刑務所へ連れ去られます。残されたのはパヴァーナと母親、そして十七歳の姉と小さな妹に弟。
 家族に大人の男がいないため、パヴァーナはなんと髪を切り、男装をして町に出、家族の食い扶持を稼ぐために働くことになるのですが……。
 もちろんこれは禁じられた行動。いつタリバンに見破られて厳しい処罰を受けないとも限りません。最悪、殺されてもおかしくはないのです。パヴァーナはびくびくしつつも、父がやっていた仕事を引き継ぎ、なんとかお金を稼いでいきます。

 作者のデボラ・エリス氏はパキスタンのアフガン難民キャンプで綿密な取材をされた人で、そこで特にタリバン政権のために、女性たちの権利がいかに脅かされていたかを聞き取ることができたそうです。
 この物語はそこで聞き取ったことをもとに作られたものであり、ゆえにリアリティが迫ってくるのです。
 パヴァーナは架空の人物ではありますが、彼女の身の上に起こったことは、タリバン政権下にあった女性たちの多くが体験したことそのものだといいます。

 女性たちが着るブルカについては、しばしばSNS上で「女性が肌を最大限見せないようにする装い」の代表格のようにして、女性の権利を主張する女性たちに対して「もうブルカでもかぶっとけや」みたいに揶揄として言われることが多かったりしますが、本当にとんでもないことだなと思いました。
 この本によれば、あれを着ていると足元まですっぽり覆われますし、視界が遮られるので歩くのは非常に危ないそうです。しばしば転ぶそうですし、階段などもまともに上り下りできません。なるべく介添えをする人が必要になるようです。
 少なくともこの本の中では、あれを喜んで着ている女性は登場しませんでした。

 こちらの本ではタリバン政権下における人々の暮らしが詳細に描かれており、私にとっても知らないことがたくさんありました。
 それにも関わらず、書かれ方はとても平易であり、小学生でも読みこなせる子は多いのではないかと思われる作りです。チャドルやブルカ、シャルワール・カミーズなど衣服については巻末にイラスト入りで説明されている親切設計。

 こちらの本には同作者による続編があるそうで、それぞれ「さすらいの旅」「泥かべの町」というタイトルだそうです。
 この本による印税は、すべてアフガン難民女性の教育のために寄付されているとのことで、続刊もぜひ読んでみたいなと思いました。
 ではでは、今回はこのあたりで!
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