つれづれ司書ばなし

つづれ しういち

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77 「サクラ咲く」

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 こんにちは。
 今回ご紹介する本はこちら。

 こちらはまたもや、なのですが中学校の国語の教科書で紹介されているものです。

 ●「サクラ咲く」
 辻村深月・著 / 光文社(2014)(ハードカバー版は2012年初版)

 映画化された「かがみの孤城」や「ツナグ」などをはじめ、非常に人気作の多い作家である辻村先生。
 このほかにも「ハケンアニメ!」など興味深い作品をつぎつぎと生み出しておられますね。

 こちら「サクラ咲く」は、表題作のほかに二作を含む短編集になっています。
 当初、文庫版のカバーイラストが窓辺に立つ中学生の女の子のものであり、なんとなく興味が向かなくてなかなか手にとらなかった作品だったのですが、このほど読んでみる機会があって非常に後悔しました(なんというか、私は個人的にいつもそうなんですが)。
 さすがは教科書に紹介されて中学生にオススメされている本だけのことはあります。
 こちらはどのお話も「若美谷わかみや中学校」という架空の学校が関係したものであり、登場人物もほんの少しずつ係わっている……という「ツナグ」を思い起こさせるつくりです。

 冒頭一作目である「約束の場所、約束の時間」という短編からして、実は「かがみの孤城」を彷彿とさせられるようなSFの要素が多く含まれたストーリー。カバーデザインからはちょっと想像もつかない方向へ話が展開するものでした。
 中学二年生の武宮朋彦は、若美谷中学の陸上部員。ある日転校してきた菊池悠というおとなしい少年と、ひょんなことから仲良くなります。
 というのも、いま発売されているゲームの最新版は「ドラゴン・クラウン2」のはずなのに、悠が「ドラゴン・クラウン9」を持っていたことが気になったから。
 彼はどうしてそんなゲームを持っているのか?
 その謎が明らかになると同時に、悠の境遇を知って、朋彦はある行動にでることを決め……。
 と、あまり言うとネタバレになってしまいますので、短いお話ですし、ぜひともお手にとってお読みいただきたいところです。

 ふたつめのお話が、表題作ともなっている「サクラ咲く」。
 こちらの主人公は、引っ込み思案で、自分の思っていることをなかなかはっきりと友達に表明することができず、そのことにコンプレックスを持っている少女、塚原マチ。本が大好きでしょっちゅう学校図書館に出入りしているのですが、ある日、とある本の中に気になる便せんを見つけてしまいます。
「サクラチル」とだけ書かれたその紙のことが気になっていたところ、他の本の中にもまたちがうことが書かれた紙を見つけ……。
 やがてマチはそれに返事を書いてみることを思いつき、誰とも知れない相手との秘密の文通がはじまります。
 クラスの中での問題のこと、うっすらと好意を覚える男子のこと……青春時代のもやもやとした無力感であるとか、もどかしさであるとか、そういったものを思い出さされる作品。ラストはやっぱり感動です。

 最後のお話が、「世界で一番美しい宝石」。こちらだけは高校が舞台となっています。
 たった三名しかおらず、部活として認定してもらえずにいる「映画同好会」の一平は、ある日学校の図書室で、「ぜったいにこの人を撮りたい!」と思える先輩の女の子をみつけてしまいます。彼女を勝手に「図書館の君」と命名して、そこからは仲間の少年ふたりと一緒に猛アタックをかける一平。
 ところが彼女、三年生の立花亜麻里あまり先輩はあっさりと「でないわ」と断ってくる。
 立花先輩はその少し前、演劇部に所属していて素晴らしい主演の演技を見せて人気者になったはずだったのに、なぜかそれからすぐに演劇部をやめてしまい、図書室にいることが多くなったという。
 それでもしつこく「オレたちの映画の主演になってほしい」と食い下がる一平に、立花先輩は「それなら、この本を探して」と、とある物語を語って聞かせてくれました。
 それが「世界で一番美しい宝石」。
 先輩はそれを途中までしか読んだことがなく、ラストがどうなったのかが気になっている、とのこと。
 ところが、どこをどう探しても彼女が言うような本が見つからない。もしかして架空の話であって、映画出演を断る口実に使ったんじゃないか……なんて、つい疑心暗鬼になる映画同好会の面々でしたが……。
 そうするうち、彼女がなぜ演劇部をやめざるを得なかったのかが明らかになり、このあたりは胸が痛むような描写となりました。
 キレイゴトだけでは済まない学生時代の痛みや悲しみにも、辻村先生の筆はそっと寄り添ってくれるように思います。それはほかのどの御作品にも共通して言えることですね。

 いま、学生の身分としてこの作品に出合うことができる人たちを羨ましく思う、そんな作品だなと思いました。
 ぜひ学校図書館に置かれて、生徒さんたちにオススメしてあげてほしい一冊です。

 ではでは、今回はこのあたりで。
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