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それぞれのコンプレックス その1
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いろいろと迷惑をかけたお詫びとその後毎日見舞いに来て気遣ってもらったお礼にお昼ご飯をご馳走したいから、皆に家へ来てもらえないかとの母の伝言を伝えると、皆快く承諾してくれた。
私の家へとみんなで歩く。
明日から雨らしいよ、と木下君が言った。
「そのまま梅雨に突入だってさ」
「そういえば、今までほとんど雨の日ってなかったよね。あたし、最後に傘さしたのっていつだったか覚えてない」
私も星志と滑り台の上で雨宿りした日しか記憶がなかった。毎夜歩道橋の上で星志に会う日々を雨に邪魔されなかったのは、何か奇跡のように思える。
奇跡――普通ありえないことで思い出し、私はずっと問い損ねていたことを聞いてみた。
「私へのイジメを止めてくれたのって……もしかしてここにいるみんななんじゃないの」
みんなが顔を見合せて笑ったのは肯定したのも同じで、私はみんなにお礼を言った。
「柚木がさ、最初に落書き見てから、もうブチギレ、マジギレだったのよ。『誰がやったんだ』ってすぐにも怒鳴りこみに行きそうだったから、それだけは何とか止めたけど」
女子のイジメに男子が口出ししたら余計ひどくなるって全然分かってないんだから、と杉野さんは柚木君を睨んだ。
「そしたら『あれ、何とかしろよ』って、毎日あたしに八つ当たりしまくるんだよ」
その横で木下君が苦笑する。
「久保田さんも分かるだろ。こいつ、怒ったらものすごーく怖いんだよ。部活やっててもピリピリしちゃっててさ、後輩みんなビビッて、キャプテンの僕に『柚木さんの不機嫌、何とかしてください』なんて泣きついてきて、大変だったんだから」
「俺はああいう陰険なのが大嫌いなんだよ!」
柚木君はプイっとそっぽを向いた。
「……でも、どうやって止めてくれたの」
私の問いに、小林さんが木下君を見て笑った。
「私、キノシーがあんなに悪知恵が働く人とは思わなかった」
木下君は小林さんに笑い返す。
「それ、もちろん褒めてるんだよね? ……ま、発案は裏工作が大好きな僕だけど、実際に頑張ってくれたのは杉野さんたちだよ」
二人に、まことしやかな噂を流してもらったという。
どんな……と私が聞く前に、杉野さんがひとつわざとらしく咳をした。
「ちょっと、聞いてよ。あたし、何で久保田さんが急に誰ともしゃべんなくなったか、久保田さんが行ってた塾の子に聞いちゃった」
「えー、何、何。どうしてなの」
杉野さんと小林さんが棒読みの芝居を始めた。
「久保田さんね、誰にも内緒で春休みの前頃から、一つ上の旺学の男の子と付き合ってたんだって」
旺学というのは緑旺学園のことで、この近辺では知られた超エリート高校だ。
「それが何でか親にばれちゃって、無理やり別れさせられちゃったんだって」
「えー、何それ。ひどーい」
芝居自体も下手でひどいが、内容もひどかった。
「久保田さんのお父さんて弁護士で、ものすごく厳しい人なんだって。相手の男の子、家に呼びつけて『うちの娘は受験生で恋愛なんてしている場合ではない。君は娘の勉強の邪魔をするのか』って叱りつけたらしいよ。で、会うことも電話も禁止されて、それでも久保田さんどうしても諦めきれなくて、彼に会いに行ったらさ、もう他の女の子と付き合ってるから来るなって言われたんだって」
「いやだー、そいつ、最低な奴だよね」
小林さんが隣には誰もいないのに、さも誰かいるように同意を求めた。
「もっと最低なのが、その新しい彼女って女。彼の元カノが久保田さんって分かったら変に嫉妬してさ、自分の弟が久保田さんの従兄弟と同じ学校の同級生なのを利用して、久保田さんへの嫌がらせに従兄弟へのイジメやらせたんだって。久保田さんその従兄弟のこと本当の弟みたいに可愛がってたらしくて、相当ショック受けたみたい」
「あー、それならもしかして久保田さんが近頃誰ともしゃべらないで一人でいるのって、自分と仲良くしてたら次はその子がその最低な女に嫌がらせされるかもしれないって心配だからなんじゃないの?」
「もしかしてさ、久保田さんに嫌がらせしてる子たちって、その最低女とグルだったりして」
「それ、あり得る。久保田さんもそう思ったから、前に持ち物を床にばらまかれたとき、『私の家に火を付ければいいのに』なんて言ったんじゃないのかな。自分のとばっちりで従兄弟が虐められたのが辛かったから、嫌がらせするなら自分だけにしてって言いたかったのかも」
「絶対そうだよ。久保田さんって優しいから」
聞いているのがあらゆる意味で恥ずかしい内容だった。
「……あの……この身に覚えのない話を噂にしてどういう効果が」
「え? 分からない? 噂を聞いた女の子みんな、久保田さんに同情したんだよ。親の無理解で引き裂かれた恋。それでも相手を思う久保田さんの一途さ。変わり身の早い薄情男に加えて陰湿な新しい彼女――どこを取っても『久保田さんかわいそう』じゃない」
私なら、かわいそうというより馬鹿だと思う……。
「その上、久保田さんの態度が急に変わった理由が陰湿な彼女からの嫌がらせに誰も巻き込みたくなかったから、とくれば、イジメをやってる奴はその陰湿女よりももっと最低だろう? さらにその最低な彼女とグルなんじゃないかって噂が流れてイジメやってる奴がその噂を聞いたら、噂を知ってる他の女子が自分たちをどんな目で見るか――普通の想像力を持ってる人間なら大抵止めるよ」
イジメが確かに止んだのは、木下君の策略が成功したということだけど。
「……私、みんなから見たら、そんな恋愛するようなタイプに見えるんだ」
「この物語はフィクションです。実在の団体、事件、人物とその性格には一切関係がありません。……まあ、みんなの同情を集めるのが目的だったんだから、話が暗いのは勘弁してよ」
「好きな奴に一途ってのは当たってるだろ」
柚木君がものすごく不機嫌そうに言った訳も分からないけれど、杉野さんと小林さんがそれを意味ありげに笑ったのも何故なのか分からなかった。
私の家へとみんなで歩く。
明日から雨らしいよ、と木下君が言った。
「そのまま梅雨に突入だってさ」
「そういえば、今までほとんど雨の日ってなかったよね。あたし、最後に傘さしたのっていつだったか覚えてない」
私も星志と滑り台の上で雨宿りした日しか記憶がなかった。毎夜歩道橋の上で星志に会う日々を雨に邪魔されなかったのは、何か奇跡のように思える。
奇跡――普通ありえないことで思い出し、私はずっと問い損ねていたことを聞いてみた。
「私へのイジメを止めてくれたのって……もしかしてここにいるみんななんじゃないの」
みんなが顔を見合せて笑ったのは肯定したのも同じで、私はみんなにお礼を言った。
「柚木がさ、最初に落書き見てから、もうブチギレ、マジギレだったのよ。『誰がやったんだ』ってすぐにも怒鳴りこみに行きそうだったから、それだけは何とか止めたけど」
女子のイジメに男子が口出ししたら余計ひどくなるって全然分かってないんだから、と杉野さんは柚木君を睨んだ。
「そしたら『あれ、何とかしろよ』って、毎日あたしに八つ当たりしまくるんだよ」
その横で木下君が苦笑する。
「久保田さんも分かるだろ。こいつ、怒ったらものすごーく怖いんだよ。部活やっててもピリピリしちゃっててさ、後輩みんなビビッて、キャプテンの僕に『柚木さんの不機嫌、何とかしてください』なんて泣きついてきて、大変だったんだから」
「俺はああいう陰険なのが大嫌いなんだよ!」
柚木君はプイっとそっぽを向いた。
「……でも、どうやって止めてくれたの」
私の問いに、小林さんが木下君を見て笑った。
「私、キノシーがあんなに悪知恵が働く人とは思わなかった」
木下君は小林さんに笑い返す。
「それ、もちろん褒めてるんだよね? ……ま、発案は裏工作が大好きな僕だけど、実際に頑張ってくれたのは杉野さんたちだよ」
二人に、まことしやかな噂を流してもらったという。
どんな……と私が聞く前に、杉野さんがひとつわざとらしく咳をした。
「ちょっと、聞いてよ。あたし、何で久保田さんが急に誰ともしゃべんなくなったか、久保田さんが行ってた塾の子に聞いちゃった」
「えー、何、何。どうしてなの」
杉野さんと小林さんが棒読みの芝居を始めた。
「久保田さんね、誰にも内緒で春休みの前頃から、一つ上の旺学の男の子と付き合ってたんだって」
旺学というのは緑旺学園のことで、この近辺では知られた超エリート高校だ。
「それが何でか親にばれちゃって、無理やり別れさせられちゃったんだって」
「えー、何それ。ひどーい」
芝居自体も下手でひどいが、内容もひどかった。
「久保田さんのお父さんて弁護士で、ものすごく厳しい人なんだって。相手の男の子、家に呼びつけて『うちの娘は受験生で恋愛なんてしている場合ではない。君は娘の勉強の邪魔をするのか』って叱りつけたらしいよ。で、会うことも電話も禁止されて、それでも久保田さんどうしても諦めきれなくて、彼に会いに行ったらさ、もう他の女の子と付き合ってるから来るなって言われたんだって」
「いやだー、そいつ、最低な奴だよね」
小林さんが隣には誰もいないのに、さも誰かいるように同意を求めた。
「もっと最低なのが、その新しい彼女って女。彼の元カノが久保田さんって分かったら変に嫉妬してさ、自分の弟が久保田さんの従兄弟と同じ学校の同級生なのを利用して、久保田さんへの嫌がらせに従兄弟へのイジメやらせたんだって。久保田さんその従兄弟のこと本当の弟みたいに可愛がってたらしくて、相当ショック受けたみたい」
「あー、それならもしかして久保田さんが近頃誰ともしゃべらないで一人でいるのって、自分と仲良くしてたら次はその子がその最低な女に嫌がらせされるかもしれないって心配だからなんじゃないの?」
「もしかしてさ、久保田さんに嫌がらせしてる子たちって、その最低女とグルだったりして」
「それ、あり得る。久保田さんもそう思ったから、前に持ち物を床にばらまかれたとき、『私の家に火を付ければいいのに』なんて言ったんじゃないのかな。自分のとばっちりで従兄弟が虐められたのが辛かったから、嫌がらせするなら自分だけにしてって言いたかったのかも」
「絶対そうだよ。久保田さんって優しいから」
聞いているのがあらゆる意味で恥ずかしい内容だった。
「……あの……この身に覚えのない話を噂にしてどういう効果が」
「え? 分からない? 噂を聞いた女の子みんな、久保田さんに同情したんだよ。親の無理解で引き裂かれた恋。それでも相手を思う久保田さんの一途さ。変わり身の早い薄情男に加えて陰湿な新しい彼女――どこを取っても『久保田さんかわいそう』じゃない」
私なら、かわいそうというより馬鹿だと思う……。
「その上、久保田さんの態度が急に変わった理由が陰湿な彼女からの嫌がらせに誰も巻き込みたくなかったから、とくれば、イジメをやってる奴はその陰湿女よりももっと最低だろう? さらにその最低な彼女とグルなんじゃないかって噂が流れてイジメやってる奴がその噂を聞いたら、噂を知ってる他の女子が自分たちをどんな目で見るか――普通の想像力を持ってる人間なら大抵止めるよ」
イジメが確かに止んだのは、木下君の策略が成功したということだけど。
「……私、みんなから見たら、そんな恋愛するようなタイプに見えるんだ」
「この物語はフィクションです。実在の団体、事件、人物とその性格には一切関係がありません。……まあ、みんなの同情を集めるのが目的だったんだから、話が暗いのは勘弁してよ」
「好きな奴に一途ってのは当たってるだろ」
柚木君がものすごく不機嫌そうに言った訳も分からないけれど、杉野さんと小林さんがそれを意味ありげに笑ったのも何故なのか分からなかった。
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