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醸、頼る。
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白い黒猫さま『透明人間の憂鬱~希望が丘駅前商店街~』
たかはし葵さま『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
今回は、お二人と同時公開させて頂きました≧▽≦
三人で同時公開! 十三夜前日、この三人がどう過ごしていたのか、覗いてみませんかー♪
便乗させてもらって、ありがとうございます!
----------------------------------
十月に入れば、すっかり秋だ。
たまに季節が戻ったかのような暑い日もあるが、それもだんだん減っていき、朝晩は冷えるようになってきた。
既に閉店した店内で管理台帳をつけていた醸は、ふと顔を上げた先の壁掛けカレンダーが九月のままだったことに気付いて腰をあげる。醸はページを一枚、ビリビリと音をたてて破り捨て、出てきた十月のカレンダーを指で辿った。
「もう、十月か」
悩みまくってもうひと月半。まさかよもや、自分がこんなにもヘタレるとは思わなかった。過去の恋愛を思い出してみても、ここまで悩んだのってあっただろうか。同じような事、九月にも考えてたよな。
自嘲気味に口端をあげると、もう一度椅子に座りなおす。けれど仕事をする気にはなれなくて、頬杖をついてボールペンを転がした。
さすがにこれだけ日が経てば、悩んでいるとはいえ冷静になることはできていた。
考えてみれば天衣が自分の事をどう思っているか位、気付く事が出来る。
”醸兄”
天衣は、そう醸の事を呼ぶ。
兄、だ。
今まで、自分も天衣の事を妹のように見てきたじゃないか。自分の気持ちに気付いた以上それを受け入れがたいと思っても、ちゃんとバイトくんには一言言わなければ。
天衣には、ずっと笑っていてほしいのだから。
「でも……」
俺が。俺自身が、笑って、ちゃんと、言えるだろうか……。
醸は深く息を吐き出すと管理台帳を閉じて、雪に一言告げて店を出た。
時間が時間だけにしまっている店が多い中、裏道から目指したそのお店の明かりは醸の心をほっとさせた。
カララン
響く鐘の音に、思わずくすりと笑いが漏れる。
恭一が開けると、なぜか凄い元気な音になるんだよな……。
そんなことを考えながら店内に入れば、そこにはいつもの大人の雰囲気の中に可愛らしさの混じる空間が広がっていた。顔がくりぬかれたカボチャが雰囲気を壊すことなくディスプレイされていて、そういえばハロウィンって月末だっけ……と、そんな事にも気づかないでいる自分に苦笑した。
「いらっしゃ……あ、醸さん。こんばんは」
カウンターに向かって歩けば、すぐに気が付いた透がふわりと笑う。
「こんばんは、ユキくん」
透の声に応えながらスツールに腰かけると、手早く差し出されるおしぼり。
それを受け取りながらいつも飲んでいるもの頼めば、心得ているとばかりに流れるような手さばきでカクテルを作り上げていく。
いつみても、そつのない彼の動きは称賛に値するものだ。それに加えて、穏やかな雰囲気がこちらをも落ち着かせてくれる。
「お待たせしました」
そう言って差し出されたのは、クラレットティ。
ワインベースでありながら紅茶で割ってある、すっきりとしたアルコール度数の比較的低いカクテル。杏やオレンジの香りが温められたワインから香ってきて、夜に飲むとほっと落ち着くカクテルだ。
酒を飲むのは好きだがアルコールに弱い俺の為に、ユキくんが作ってくれたもの。
そういえば大学の頃連れて行かれたbarで甘いカクテル飲んでたら、酒屋の息子のくせにって馬鹿にされたこともあったな……。
酒屋に生まれたからって、ザルとは限らないっての。
どこかネガティブになっている気持ちが暴走し始めた醸の前に、もう一つ、お皿が置かれた。
お皿の上に、視線が引き寄せられる。
「……ねこ、だ」
「可愛いでしょう? ハロウィン限定なんです」
にこにこと笑う透くんを一度見てから、またお皿に視線を戻す。
そこには、ネコの形をしたカボチャサラダが鎮座ましていた。
その可愛らしさに、ふっと肩の力が抜ける。ほんと、敵わないなぁ黒猫さんには……と内心独りごちながら。
「醸さん、何かありました?」
店に来た時より幾分楽な気分でカクテルグラスに口をつけようとした醸は、そのまま一口も飲み込まず口を濡らすままにグラスをテーブルに戻した。
「えー、と。あー。分かる、かな」
しどろもどろな言葉に何かを察してくれたのか、透は急かすわけでもなく心配そうな表情で醸を見ている。醸は話し出そうとして……すぐに辺りを見渡した。
「今日、小野くんは?」
「お休みですよ。彼に用ですか?」
「あ、いや……」
どちらかといえば、いなくてよかったというかなんというか。
さすがに聞かれれば、バイトくんの話だとばれてしまうかもしれないし……。
醸は不思議そうにこちらを見ている透に、気まずそうに視線を彷徨わせた。
「あ……あのさ、その、透くんの意見を……いや、違うな。その……話、聞いてもらえるかな」
「醸さん?」
「多分……俺、まともに話せないと思うから、その……断片でも、聞いてくれると嬉しいんだけど」
俺、何言ってんだろ……。リアルでorzを体現したくなってきた。
そこではたと気づく。
うちはもう閉店後だけど、ユキくんは進行形で営業中だ!
「あ、でも仕事の邪魔だろうし、今度、今度時間を作ってもらえれば……!」
「大丈夫ですよ、もう落ち着いていますから」
呼ばれたら席を外すかもしれませんが、それでもいいですか?
そう続けた透は、ふわりとその目元を和らげる。
あわあわと口を動かしていた醸は、ごめん、と項垂れた。
凄いな、ユキくんは。
そしてこのお店が……黒猫が、彼にとって天職なのだと思う。どんなにいい品揃えでいい内装を作り出しても、店はそれだけでは生き残っていけない。
人は人に、集うから。
……俺は、そんな”人”に、なれるだろうか。
姉がここに戻らないことを、あの夏祭りの時にもう悟った。
跡取りと言われ続けても、”もしかしたら姉が……”という考えが払しょくされたことはなかったけれど、あの日、姉から店を託されたような気がした。
だから、頑張らなければと……そう思っているのだけれど――
「醸さん?」
思わず店のことを考え始めてしまった醸は、慌てたように居住まいを正した。
そうして、情けない自分を透に明かし始めた。
「その、恥ずかしい話……なんだけど……」
さすがに天衣とバイトくんの話だとは、言えなかった。
彼らが口外していない上に、小野くんのこともある。透が板挟みになってしまうのだけは避けたかった。
文章にならないような会話で、感情を言葉にしていく。自分でもどうしていいか分かりかねている感情を、言葉にして、伝えることによって自分自身現実のものとして受け入れて。たどたどしく言葉を連ねる醸の話を、透は黙って聞いてくれた。
それが、……唯、それだけが嬉しかった。
やっとのことで話し終えて。
ずっと黙って話を聞いていた透が、ゆっくりと口を開いた。
「そう、ですか。好きな相手に、もうお付き合いされている方がいるかもしれないんですね」
「確定に近いんだけどね。その……実は、彼女への気持ちに気付いたのがつい最近過ぎて、気付いてすぐ失恋確定だったわけで……。その、気持ちの持っていきようがないというか」
うう、女々しい。
自分で言ってて自分の言葉に、情けなくなってくる。本当は、分かってるんだ。
「……彼女の幸せを願い、俺はこの想いを捨てるべきなんだろうね」
本音ではない考えを口にした途端、透が茶化すこともなく否定することもなく真剣な眼差しで醸を見た。
「別に、気持ちを消すことはないと思います」
「ユキくん?」
意外な言葉に、ぽかんと口をあけてしまった。
「人の気持ちは、変えようと思って変えられるものではないですから」
「で、も……。情けないだろ?」
「いいえ」
少し強い口調で否定した透は、ふわりと笑みを浮かべた。
「醸さんがその方の事をとても大切に思っているんだなって、凄く伝わってきましたよ。そんな醸さんだから、感情のままにその方を傷つけるなんてことはありえないと思いますし……」
だから、無理に忘れようとしなくてもいいと思います。
そう続けた透の言葉に、醸は、ストンと何かが心に落ちてきた気がした。
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今回は、お二人と同時公開させて頂きました≧▽≦
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十月に入れば、すっかり秋だ。
たまに季節が戻ったかのような暑い日もあるが、それもだんだん減っていき、朝晩は冷えるようになってきた。
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自嘲気味に口端をあげると、もう一度椅子に座りなおす。けれど仕事をする気にはなれなくて、頬杖をついてボールペンを転がした。
さすがにこれだけ日が経てば、悩んでいるとはいえ冷静になることはできていた。
考えてみれば天衣が自分の事をどう思っているか位、気付く事が出来る。
”醸兄”
天衣は、そう醸の事を呼ぶ。
兄、だ。
今まで、自分も天衣の事を妹のように見てきたじゃないか。自分の気持ちに気付いた以上それを受け入れがたいと思っても、ちゃんとバイトくんには一言言わなければ。
天衣には、ずっと笑っていてほしいのだから。
「でも……」
俺が。俺自身が、笑って、ちゃんと、言えるだろうか……。
醸は深く息を吐き出すと管理台帳を閉じて、雪に一言告げて店を出た。
時間が時間だけにしまっている店が多い中、裏道から目指したそのお店の明かりは醸の心をほっとさせた。
カララン
響く鐘の音に、思わずくすりと笑いが漏れる。
恭一が開けると、なぜか凄い元気な音になるんだよな……。
そんなことを考えながら店内に入れば、そこにはいつもの大人の雰囲気の中に可愛らしさの混じる空間が広がっていた。顔がくりぬかれたカボチャが雰囲気を壊すことなくディスプレイされていて、そういえばハロウィンって月末だっけ……と、そんな事にも気づかないでいる自分に苦笑した。
「いらっしゃ……あ、醸さん。こんばんは」
カウンターに向かって歩けば、すぐに気が付いた透がふわりと笑う。
「こんばんは、ユキくん」
透の声に応えながらスツールに腰かけると、手早く差し出されるおしぼり。
それを受け取りながらいつも飲んでいるもの頼めば、心得ているとばかりに流れるような手さばきでカクテルを作り上げていく。
いつみても、そつのない彼の動きは称賛に値するものだ。それに加えて、穏やかな雰囲気がこちらをも落ち着かせてくれる。
「お待たせしました」
そう言って差し出されたのは、クラレットティ。
ワインベースでありながら紅茶で割ってある、すっきりとしたアルコール度数の比較的低いカクテル。杏やオレンジの香りが温められたワインから香ってきて、夜に飲むとほっと落ち着くカクテルだ。
酒を飲むのは好きだがアルコールに弱い俺の為に、ユキくんが作ってくれたもの。
そういえば大学の頃連れて行かれたbarで甘いカクテル飲んでたら、酒屋の息子のくせにって馬鹿にされたこともあったな……。
酒屋に生まれたからって、ザルとは限らないっての。
どこかネガティブになっている気持ちが暴走し始めた醸の前に、もう一つ、お皿が置かれた。
お皿の上に、視線が引き寄せられる。
「……ねこ、だ」
「可愛いでしょう? ハロウィン限定なんです」
にこにこと笑う透くんを一度見てから、またお皿に視線を戻す。
そこには、ネコの形をしたカボチャサラダが鎮座ましていた。
その可愛らしさに、ふっと肩の力が抜ける。ほんと、敵わないなぁ黒猫さんには……と内心独りごちながら。
「醸さん、何かありました?」
店に来た時より幾分楽な気分でカクテルグラスに口をつけようとした醸は、そのまま一口も飲み込まず口を濡らすままにグラスをテーブルに戻した。
「えー、と。あー。分かる、かな」
しどろもどろな言葉に何かを察してくれたのか、透は急かすわけでもなく心配そうな表情で醸を見ている。醸は話し出そうとして……すぐに辺りを見渡した。
「今日、小野くんは?」
「お休みですよ。彼に用ですか?」
「あ、いや……」
どちらかといえば、いなくてよかったというかなんというか。
さすがに聞かれれば、バイトくんの話だとばれてしまうかもしれないし……。
醸は不思議そうにこちらを見ている透に、気まずそうに視線を彷徨わせた。
「あ……あのさ、その、透くんの意見を……いや、違うな。その……話、聞いてもらえるかな」
「醸さん?」
「多分……俺、まともに話せないと思うから、その……断片でも、聞いてくれると嬉しいんだけど」
俺、何言ってんだろ……。リアルでorzを体現したくなってきた。
そこではたと気づく。
うちはもう閉店後だけど、ユキくんは進行形で営業中だ!
「あ、でも仕事の邪魔だろうし、今度、今度時間を作ってもらえれば……!」
「大丈夫ですよ、もう落ち着いていますから」
呼ばれたら席を外すかもしれませんが、それでもいいですか?
そう続けた透は、ふわりとその目元を和らげる。
あわあわと口を動かしていた醸は、ごめん、と項垂れた。
凄いな、ユキくんは。
そしてこのお店が……黒猫が、彼にとって天職なのだと思う。どんなにいい品揃えでいい内装を作り出しても、店はそれだけでは生き残っていけない。
人は人に、集うから。
……俺は、そんな”人”に、なれるだろうか。
姉がここに戻らないことを、あの夏祭りの時にもう悟った。
跡取りと言われ続けても、”もしかしたら姉が……”という考えが払しょくされたことはなかったけれど、あの日、姉から店を託されたような気がした。
だから、頑張らなければと……そう思っているのだけれど――
「醸さん?」
思わず店のことを考え始めてしまった醸は、慌てたように居住まいを正した。
そうして、情けない自分を透に明かし始めた。
「その、恥ずかしい話……なんだけど……」
さすがに天衣とバイトくんの話だとは、言えなかった。
彼らが口外していない上に、小野くんのこともある。透が板挟みになってしまうのだけは避けたかった。
文章にならないような会話で、感情を言葉にしていく。自分でもどうしていいか分かりかねている感情を、言葉にして、伝えることによって自分自身現実のものとして受け入れて。たどたどしく言葉を連ねる醸の話を、透は黙って聞いてくれた。
それが、……唯、それだけが嬉しかった。
やっとのことで話し終えて。
ずっと黙って話を聞いていた透が、ゆっくりと口を開いた。
「そう、ですか。好きな相手に、もうお付き合いされている方がいるかもしれないんですね」
「確定に近いんだけどね。その……実は、彼女への気持ちに気付いたのがつい最近過ぎて、気付いてすぐ失恋確定だったわけで……。その、気持ちの持っていきようがないというか」
うう、女々しい。
自分で言ってて自分の言葉に、情けなくなってくる。本当は、分かってるんだ。
「……彼女の幸せを願い、俺はこの想いを捨てるべきなんだろうね」
本音ではない考えを口にした途端、透が茶化すこともなく否定することもなく真剣な眼差しで醸を見た。
「別に、気持ちを消すことはないと思います」
「ユキくん?」
意外な言葉に、ぽかんと口をあけてしまった。
「人の気持ちは、変えようと思って変えられるものではないですから」
「で、も……。情けないだろ?」
「いいえ」
少し強い口調で否定した透は、ふわりと笑みを浮かべた。
「醸さんがその方の事をとても大切に思っているんだなって、凄く伝わってきましたよ。そんな醸さんだから、感情のままにその方を傷つけるなんてことはありえないと思いますし……」
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