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醸、悩む
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神山さんの書かれている、「日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ」とのコラボになります。
「モノトーン日和」「誘導式合コンのススメ」「あんた、バカですか!」
の頃の、醸サイドのお話。
4~5話で、完結です。
神山さん、ありがとうございます!
----------------------------------------
それは、唐突に膨れ上がった感情。
「醸くん、そろそろお夕飯にするけど、まだお仕事終わらない?」
閉店後の店内で帳簿付けをしていた醸は、ひょこりと顔を出した雪の言葉に我に返った。
「あ、いや、うん。まだ終わらないから、先食べてて」
「あらそう?」
少し心配そうにしながら居間に引っ込んでいく雪の姿に、醸は小さくため息をついた。
手元の管理台帳は、開いた時と少しも変わっていない。明日は発注する日だから、今日中に売り上げや在庫のデータを処理しないといけないというのに全く進んでいない。
ヤバイな……と独りごちると、醸はボールペンを持ち直した。
夏祭りが終わって、もうひと月は経つだろうか。暑い盛りだった気候も少しずつ涼しい風に変わり、空も秋の雲が薄く広がるようになってきた。
季節は確実に前に進んでいるのに。
醸は、あの日から立ち止まったままだ。
毎日の作業をこなしながら、自分の感情を持て余していた。
夏祭りの日。
姉の結婚宣言やら色々あった中で、突如膨れ上がった自分の気持ち。それを気付かせてくれたのは、良いも悪いも神神飯店のバイトくんがきっかけだ。きっと、バイトくんがいなければいまだにこの感情に気付くことはなかったと思う。
それだけを考えれば、バイトくんに感謝すべきなのかもしれないけれど。
満面の笑みを浮かべて自分を見たあの表情が、まったくもって忘れられない。指を絡めて繋がれた手が、今でもはっきりと目に焼き付いている。
天衣への気持ちに気付いたところで失恋確定なら、気づかされたことを喜べないのが本音の所だ。
「あーー……」
情けない。
自分の中でその感情を消化できないなら、天衣に言うなり行動を起こすなり何かすればいいのだ。
でも……
”醸兄!”
天衣の笑顔が困惑に歪むさまを見たくない自分が本音を占めていて、どうにも動き出せないままずるずると日々を過ごしている。それとなくでも聞いてみればいいとは思うけれど、決定打を撃ち込まれるのもまた……
「あああぁぁぁぁ」
こんなに自分が情けないとは、思わなかった。
翌日、配達を終えて店に戻ってきた醸は、裏庭に停めたカブの横で大きくため息をついた。
「大丈夫、いたって普通。俺は普通だった」
どこか言い聞かせるように呟くと、醸は再び深く息を吐き出す。
欠品中だった紹興酒が入荷して、神神飯店に配達しに行ったわけだけど――
「はぁ……」
裏から入った醸の視界に映った、若い二人の姿。忙しそうにくるくる働く天衣と、すでに何年もいたかのように動くバイトくん。
たまに言葉を交わしながらテーブルの間を動いている姿は、まるで新婚夫婦のようだ。
現に、天衣を見るバイトくんの視線が甘い。
”二人とも頑張ってくれて、助かるアル”
二人を見ていた醸に気付いて、伝票を受け取っていた開さんが目を細めた。
”うちの自慢の娘と息子アル”
”……あ……あぁ……えっと、そうですね”
どう返せばいいかわからなくて、なんとか絞り出した言葉はそれだけだった。曖昧な笑顔でその場を辞し、店に帰ってきたわけだけれど。
「はぁ」
堂々巡りの感情は、いつになったら最終地点を見つけられるのだろう。
好きな相手にはもう付き合ってる人がいて、それを喜んでやらなきゃいけない立場だというのに。
まだ、おめでとうも、好きだも、何も言えてない。
「モノトーン日和」「誘導式合コンのススメ」「あんた、バカですか!」
の頃の、醸サイドのお話。
4~5話で、完結です。
神山さん、ありがとうございます!
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それは、唐突に膨れ上がった感情。
「醸くん、そろそろお夕飯にするけど、まだお仕事終わらない?」
閉店後の店内で帳簿付けをしていた醸は、ひょこりと顔を出した雪の言葉に我に返った。
「あ、いや、うん。まだ終わらないから、先食べてて」
「あらそう?」
少し心配そうにしながら居間に引っ込んでいく雪の姿に、醸は小さくため息をついた。
手元の管理台帳は、開いた時と少しも変わっていない。明日は発注する日だから、今日中に売り上げや在庫のデータを処理しないといけないというのに全く進んでいない。
ヤバイな……と独りごちると、醸はボールペンを持ち直した。
夏祭りが終わって、もうひと月は経つだろうか。暑い盛りだった気候も少しずつ涼しい風に変わり、空も秋の雲が薄く広がるようになってきた。
季節は確実に前に進んでいるのに。
醸は、あの日から立ち止まったままだ。
毎日の作業をこなしながら、自分の感情を持て余していた。
夏祭りの日。
姉の結婚宣言やら色々あった中で、突如膨れ上がった自分の気持ち。それを気付かせてくれたのは、良いも悪いも神神飯店のバイトくんがきっかけだ。きっと、バイトくんがいなければいまだにこの感情に気付くことはなかったと思う。
それだけを考えれば、バイトくんに感謝すべきなのかもしれないけれど。
満面の笑みを浮かべて自分を見たあの表情が、まったくもって忘れられない。指を絡めて繋がれた手が、今でもはっきりと目に焼き付いている。
天衣への気持ちに気付いたところで失恋確定なら、気づかされたことを喜べないのが本音の所だ。
「あーー……」
情けない。
自分の中でその感情を消化できないなら、天衣に言うなり行動を起こすなり何かすればいいのだ。
でも……
”醸兄!”
天衣の笑顔が困惑に歪むさまを見たくない自分が本音を占めていて、どうにも動き出せないままずるずると日々を過ごしている。それとなくでも聞いてみればいいとは思うけれど、決定打を撃ち込まれるのもまた……
「あああぁぁぁぁ」
こんなに自分が情けないとは、思わなかった。
翌日、配達を終えて店に戻ってきた醸は、裏庭に停めたカブの横で大きくため息をついた。
「大丈夫、いたって普通。俺は普通だった」
どこか言い聞かせるように呟くと、醸は再び深く息を吐き出す。
欠品中だった紹興酒が入荷して、神神飯店に配達しに行ったわけだけど――
「はぁ……」
裏から入った醸の視界に映った、若い二人の姿。忙しそうにくるくる働く天衣と、すでに何年もいたかのように動くバイトくん。
たまに言葉を交わしながらテーブルの間を動いている姿は、まるで新婚夫婦のようだ。
現に、天衣を見るバイトくんの視線が甘い。
”二人とも頑張ってくれて、助かるアル”
二人を見ていた醸に気付いて、伝票を受け取っていた開さんが目を細めた。
”うちの自慢の娘と息子アル”
”……あ……あぁ……えっと、そうですね”
どう返せばいいかわからなくて、なんとか絞り出した言葉はそれだけだった。曖昧な笑顔でその場を辞し、店に帰ってきたわけだけれど。
「はぁ」
堂々巡りの感情は、いつになったら最終地点を見つけられるのだろう。
好きな相手にはもう付き合ってる人がいて、それを喜んでやらなきゃいけない立場だというのに。
まだ、おめでとうも、好きだも、何も言えてない。
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