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醸、動く。
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神山さまの「日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ・誘導式合コンのススメ/あんた、バカですか!」の、醸視点になります♪
神山さま、ありがとうございます!
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いつもよりはのんびりな営業時間を過ごして、醸は伸びをしながら店外に出た。
最後のお客さんは学祭帰りの学生さん達で、これから打ち上げをするんですとどこかテンション高く醸にしゃべり続けて帰って行った。
きっかけは、今日陳列したばかりの酒燗器やちろりの使い方を聞かれたことだったのだが、今回が大学最後の学祭だったらしくサークルの四年全員でこれから打ち上げをするのだとにこにこ笑っていた。
「若いっていいよなぁ」
思わず呟くが醸も二十五歳。まだ若い年齢に入るのだがやはり学生と社会人という越えられない壁がある気がする。
やっぱ天衣もバイトくんと並んでる方が、お似合いっちゃお似合い……なのかもなぁ。
神神飯店で働いている二人を思い浮かべようとして、醸は失敗した。
「あ……」
その二人が、現実的に通りを歩いてきたからだ。
あー。
見守ろうとか殊勝なこと考えたけど、さすがに二人で歩いてる時に面前きって会うのはきついものが。
タイミングの悪さに苦笑したながら無視するわけにもいかないからと天衣を見た醸は、ふと気にかかって足早に二人に近づいた。
「天衣、どうした? かなり飲んでるみたいだけど、気分でも悪くなったか?」
挨拶を言うことも忘れて、天衣の顔を覗き込もうと状態をかがめる。なぜかそっぽを向かれてしまったためよく見えないのだが、顔色がいつもと違う。天衣は酒に強い。強いけれど、普段はそこまで飲まないはず。顔色に表れるということは、かなり飲んだんだろう。
心配で問いただすように聞いてしまった醸の言葉に、天衣は小さく呟いた。
「別に、気分なんて悪くない……」
頬を膨らませて小声で呟く天衣を見て、そして隣にいるバイトくんを見て。
醸は自分がお邪魔虫だということを悟った。
慌てて状態を戻して天衣から一歩離れると、居心地悪そうに右手で頭をかく。
「そうか、俺の勘違いか。ゴメンゴメン、デートの邪魔しちゃったかな。じゃぁな、近いけど気をつけて帰れよ。バイト君、天衣を頼むね」
俺が心配することじゃないか。
なんとなく娘の彼氏を威嚇する父親のような気持ちで胸が少し痛かったけど、さっさと踵を返して店内へと歩き去った。
店頭のシャッターを下ろしてスポットを消す。
閉店作業をさっさと終えて、醸は裏庭に出てきた。
もう神神飯店に二人はついただろう。
それに開さん達がバイトくんを気にいっているから、みんなで食事とかそんなのになだれ込んだりするかもしれないし。
力が抜けたように椅子に座ると、ぼんやりと空を見上げる。
これ、動揺せずに二人を見ることができるまで、どのくらいかかるんだろ。
デート帰りなんて、駅から神神飯店に行く途中にあるうちからだとこれからだって何度も見ることになるだろう。
その度にこの状態は、嫌すぎる。
でも天衣にも嫌な顔されちゃったし、やっぱ兄的存在の俺に彼氏と一緒にいるとこを見られるの嫌だよなぁ。
その考えに余計がくりときて肩を落とした醸の耳に、近づいてくる足音が聞こえてきた。
「?」
こんな時分に裏庭に来るなんて誰だろうと顔を上げれば、バイトくんがむすっとした表情で裏庭に入ってきたのに気付いた。
「篠宮さん……」
醸の名前を呼ぶ声は、押し殺したような苦しそうなもので。
やっぱりさっき声かけたのまずかったかなぁとそんなことを考えながら、それでも口から出たのは天衣のことだった。
「おお、バイトくんか……天衣は大丈夫か?」
酒に強い天衣とはいえ、普段よりも飲んで商店街を歩いて行ったのだから、もしかしたら酔いが回ったかもしれない。
だからバイトくんがここに来たのかもと思いながら聞いてみたけど、それに関しては大丈夫の様だった。ならなんで来たんだろうと思いつつ、丁度いいやとバイトくんを座ったまま見上げた。
「バイトくん……その……天衣を頼むな。あいつ、気が強いようでいて、脆いとこあるから」
このくらい、言ってもいいよな? 兄の範疇、越えてないよな……?
自分の言葉に自分で凹みそうになりながら頭を下げれば、勢いよく胸倉を掴まれて椅子から立ち上がると同時にバイトくんの拳が飛んできた。
避けることも思いつかない程突然で、痛みが走った頬を思わず片手で押さえる。
「へ?」
「篠宮さん、あんたバカですか!」
何で殴られた? あれ? やっぱり、俺ってば踏み込み過ぎた?
バイトくんに殴られた頬の痛みよりも、なんで殴られたのかがわからなくて呆けたようにバイトくんを見下ろした。
すると醸の態度にイラついたのか、バイトくんは大声を上げた。
「夏祭りの時も今日も、何でテンテンちゃんが隠れたと思ってるんですか。俺と一緒にいるのをあんたにみられたくないからでしょ!」
……は?
え、夏祭り?
いきなり言われた内容に眉を顰めて、首を傾げる。
夏祭りの時も今日もって、だからそれって俺に二人でいるところを見られたくなかったとかそういうのなんじゃ……。
困惑している醸に答えをくれたのは、バイトくんの一言だった。
「俺はテンテンちゃんにとって、双子の弟でしかないんです」
双子の弟?
「じゃぁ、二人は……」
「つきあってなんかいませんし、テンテンちゃんは最初からあんたしか見ていませんよ。……早く行ったらどうですか、篠宮さん。これ以上俺の姉ちゃんを泣かせないでくださいよ」
なんか突然告げられた事実に頭がついていかなくて、頭が真っ白になる。
え、じゃあ何か?
二人で仲良く手をつないで祭りを回ってたのも、仲のいい姉弟って感じだったってこと?
いや、それは天衣の方の気持ちだろう。
……バイトくんは本気だったんだと、それだけは分かる。
でも天衣の為に、ここに、俺の所に……
「バイトくん、ありがとう。行ってくる!」
それだけ言い残すと、醸は裏庭から飛び出していった。
神山さま、ありがとうございます!
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いつもよりはのんびりな営業時間を過ごして、醸は伸びをしながら店外に出た。
最後のお客さんは学祭帰りの学生さん達で、これから打ち上げをするんですとどこかテンション高く醸にしゃべり続けて帰って行った。
きっかけは、今日陳列したばかりの酒燗器やちろりの使い方を聞かれたことだったのだが、今回が大学最後の学祭だったらしくサークルの四年全員でこれから打ち上げをするのだとにこにこ笑っていた。
「若いっていいよなぁ」
思わず呟くが醸も二十五歳。まだ若い年齢に入るのだがやはり学生と社会人という越えられない壁がある気がする。
やっぱ天衣もバイトくんと並んでる方が、お似合いっちゃお似合い……なのかもなぁ。
神神飯店で働いている二人を思い浮かべようとして、醸は失敗した。
「あ……」
その二人が、現実的に通りを歩いてきたからだ。
あー。
見守ろうとか殊勝なこと考えたけど、さすがに二人で歩いてる時に面前きって会うのはきついものが。
タイミングの悪さに苦笑したながら無視するわけにもいかないからと天衣を見た醸は、ふと気にかかって足早に二人に近づいた。
「天衣、どうした? かなり飲んでるみたいだけど、気分でも悪くなったか?」
挨拶を言うことも忘れて、天衣の顔を覗き込もうと状態をかがめる。なぜかそっぽを向かれてしまったためよく見えないのだが、顔色がいつもと違う。天衣は酒に強い。強いけれど、普段はそこまで飲まないはず。顔色に表れるということは、かなり飲んだんだろう。
心配で問いただすように聞いてしまった醸の言葉に、天衣は小さく呟いた。
「別に、気分なんて悪くない……」
頬を膨らませて小声で呟く天衣を見て、そして隣にいるバイトくんを見て。
醸は自分がお邪魔虫だということを悟った。
慌てて状態を戻して天衣から一歩離れると、居心地悪そうに右手で頭をかく。
「そうか、俺の勘違いか。ゴメンゴメン、デートの邪魔しちゃったかな。じゃぁな、近いけど気をつけて帰れよ。バイト君、天衣を頼むね」
俺が心配することじゃないか。
なんとなく娘の彼氏を威嚇する父親のような気持ちで胸が少し痛かったけど、さっさと踵を返して店内へと歩き去った。
店頭のシャッターを下ろしてスポットを消す。
閉店作業をさっさと終えて、醸は裏庭に出てきた。
もう神神飯店に二人はついただろう。
それに開さん達がバイトくんを気にいっているから、みんなで食事とかそんなのになだれ込んだりするかもしれないし。
力が抜けたように椅子に座ると、ぼんやりと空を見上げる。
これ、動揺せずに二人を見ることができるまで、どのくらいかかるんだろ。
デート帰りなんて、駅から神神飯店に行く途中にあるうちからだとこれからだって何度も見ることになるだろう。
その度にこの状態は、嫌すぎる。
でも天衣にも嫌な顔されちゃったし、やっぱ兄的存在の俺に彼氏と一緒にいるとこを見られるの嫌だよなぁ。
その考えに余計がくりときて肩を落とした醸の耳に、近づいてくる足音が聞こえてきた。
「?」
こんな時分に裏庭に来るなんて誰だろうと顔を上げれば、バイトくんがむすっとした表情で裏庭に入ってきたのに気付いた。
「篠宮さん……」
醸の名前を呼ぶ声は、押し殺したような苦しそうなもので。
やっぱりさっき声かけたのまずかったかなぁとそんなことを考えながら、それでも口から出たのは天衣のことだった。
「おお、バイトくんか……天衣は大丈夫か?」
酒に強い天衣とはいえ、普段よりも飲んで商店街を歩いて行ったのだから、もしかしたら酔いが回ったかもしれない。
だからバイトくんがここに来たのかもと思いながら聞いてみたけど、それに関しては大丈夫の様だった。ならなんで来たんだろうと思いつつ、丁度いいやとバイトくんを座ったまま見上げた。
「バイトくん……その……天衣を頼むな。あいつ、気が強いようでいて、脆いとこあるから」
このくらい、言ってもいいよな? 兄の範疇、越えてないよな……?
自分の言葉に自分で凹みそうになりながら頭を下げれば、勢いよく胸倉を掴まれて椅子から立ち上がると同時にバイトくんの拳が飛んできた。
避けることも思いつかない程突然で、痛みが走った頬を思わず片手で押さえる。
「へ?」
「篠宮さん、あんたバカですか!」
何で殴られた? あれ? やっぱり、俺ってば踏み込み過ぎた?
バイトくんに殴られた頬の痛みよりも、なんで殴られたのかがわからなくて呆けたようにバイトくんを見下ろした。
すると醸の態度にイラついたのか、バイトくんは大声を上げた。
「夏祭りの時も今日も、何でテンテンちゃんが隠れたと思ってるんですか。俺と一緒にいるのをあんたにみられたくないからでしょ!」
……は?
え、夏祭り?
いきなり言われた内容に眉を顰めて、首を傾げる。
夏祭りの時も今日もって、だからそれって俺に二人でいるところを見られたくなかったとかそういうのなんじゃ……。
困惑している醸に答えをくれたのは、バイトくんの一言だった。
「俺はテンテンちゃんにとって、双子の弟でしかないんです」
双子の弟?
「じゃぁ、二人は……」
「つきあってなんかいませんし、テンテンちゃんは最初からあんたしか見ていませんよ。……早く行ったらどうですか、篠宮さん。これ以上俺の姉ちゃんを泣かせないでくださいよ」
なんか突然告げられた事実に頭がついていかなくて、頭が真っ白になる。
え、じゃあ何か?
二人で仲良く手をつないで祭りを回ってたのも、仲のいい姉弟って感じだったってこと?
いや、それは天衣の方の気持ちだろう。
……バイトくんは本気だったんだと、それだけは分かる。
でも天衣の為に、ここに、俺の所に……
「バイトくん、ありがとう。行ってくる!」
それだけ言い残すと、醸は裏庭から飛び出していった。
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