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生まれは良かったのに➁
しおりを挟む「いや、売れたなーははははは、王子様々だよ!」
この日最高額で売れた事に大喜びの奴隷商人は俺に井戸から掬った水をかけている。
服は薄汚れていたが汚いからとビリビリに破かれて捨てられた。
一応あれはオーダーメイドだからそれなりの値段はしたんだけどなぁ……と、水を浴びせられながら破かれた服を眺めていた。
「おい!元!王子様よ?聞いてるか? 俺の言葉を聞けよ余所見してねーでよ?」
奴隷商人は柄杓で俺の頭を叩いて目を逸らしてる俺の意識を現実に戻す。
奴隷商人は持ってた柄杓を放り投げると俺の首根っこを抑えて凄む。
「良いか? おめぇを買ってくださった方は、おめぇの知り合いかも知れねーけどな、それは昔の話だ、良いか? 耳の穴かっぽじって脳味噌に刻め! おめぇは奴隷だ、それ以上でもそれ以下でもねー。タダの奴隷なんだよ。分かってるか? おめえに名前は無い」
「復唱しろ」
「俺に……」と、いつもの様に一人称の【俺】と言ったら拳で脇腹を殴られた。
「俺じゃねー、僕か私といえ。もう一度!」
「お……」
「……ぼ、だ!」
”ドスッ”と、重い拳が脇腹に突き刺さる。
「頭の中で思う一人称にも僕か私と名乗るようにしろ!」そう言いながら殴る。まるで言葉を体に刻むかの様に脇腹を抉られる。
腹の出てる僕は正面から殴られても大して痛くないのを知っているのか、間違った言葉を使うと、その都度脇腹を殴られた。
次第に脇腹が充血してくる。
青痣で薄く肌が濁っていく。
すると奴隷商人は僕の首を逆の手に持ち替えると、再び僕の逆側の脇腹に拳を入れた。
何度も何度も叩き付けられた跡、開放された。ボロボロの布で乱暴に髪から下を拭かれ、青痣になった両脇腹も容赦無く力任せに拭かれる。
その都度痛みで顔が歪むが、うめき声は出さなかった。痛みには歯を食いしばって耐えたが、涙は止まらなかった。
体を拭き終わると僕は裸のままで馬車へと乗せられた。
今度の馬車は椅子があった。
それも、ちゃんと座る所にクッションが着いてる良い馬車だ。
昔の僕も良く乗っていた貴族用の馬車だ。
それでも自分の持つ馬車以外の他人の馬車は、普段なら尻圧に耐えられず、中の綿が横に分かれ尻が痛くなるのに、この馬車は大丈夫だった。
それもそのはず、この馬車は僕の愛用してた馬車だった。
乗れば分かるくらい愛用してた。
選定の儀式が終わって、教会から帰ってくる時がこの馬車に乗った最後の記憶だった。
その後は誰かの手に渡ったのだろう。というか、僕を買ったあの男が下げ渡される形で受け取ったのかも知れない。
裸で馬車に乗るのも初めてだったから少し新鮮な気分だった。
人の目に晒されてなければ笑顔で笑っていたかも知れない。
今は何とか顔を俯かせて、誰にも僕が元王子だと分からせない様にしたかった。
僕を買ったあの男は僕に恨みでもあるのか、馬車を骨組みとクッション付きシートだけにしてやがった。
逃げられない様に念入りに足と腕を片方づつ骨組みに縛り、僕を乗せると人が沢山歩いていそうな場所を狙ってゆっくりと馬車を走らせた。
僕は空いた手で顔を隠し、股を閉じて俯きながら耐えるしかなかった。
だが、そんな事は無駄だった事に気が付いた。目的地に着いた馬車を降りた時に気付かされた。
その馬車には僕の紋章が付いていた。国民の誰もが知ってる紋章だ。
僕の領地に住む人なら皆知ってる僕だけの紋章がそこに付いていた。
直ぐ下に【元王子裸で街宣中】と書かれていた。
僕の心はここで多分折れたんだと思う。力無くその場で崩れる様に座る。
奴隷商人が棒で僕を叩くけど不思議と痛みは感じなかった。
「これこれ、それはうちが買った商品ではなかったですかな?」
白髪のカイザル髭に黒いボーラーハットを被り、首には蝶ネクタイを締め黒の燕尾服を着た男は、眉間に皺を寄せながらも止めようとはせず、絶望に顔を青褪めさせ、空虚を見詰めながら座り込んでる元王子を一瞬哀れみの目で見た跡、奴隷商人を咎めた。
「あ、いや、まぁそーなんですがね?座り込んじまって動かなくなったんで叩けば動くかなぁって……」
そう言うと語尾が尻窄みになりながら冷や汗をかき始めた奴隷商人は、確かに渡しやしたぜと言って慌てる様にその場を去った。
「まったく頼みもしない事を……」
そう呟くと変り果てた馬車を見る。
ナラクを晒し者にしたのは、この男の差し金では無く、奴隷商人が楽しんだだけだった。
圧政を強いられてる事への不満をナラクで晴らしただけだった。
ナラク王子が攫われた事も、家から追い出されたと言う事も、実は箝口令が敷かれるくらい極秘な事だった。
たとえ馬車が王子の物だったとしても、裸のデブが俯いて馬車に乗っていたとしても、誰もこの男が王子だとは知らないのだ。
愛用にしていた馬車は常にナラクと共にあり、学校でも教室と自室以外は何かに必ず乗っていた事で、殆ど誰も第三十六階位のナラク王子の顔を知らない。
何せ実の王すら自分の末っ子が学校に通っていた事を知らなかったし、兄の王太子もナラクの顔は幼少期の頃しか知らない。
◇セダスの回想◇
「さぁ!さぁ!最初の値段を決めるぜ!決めるぜ!」
奴隷商人は鎖に繋がれた王子を側に引き寄せると、体についてる肉を揉みしだき始める。
「そ・れ・で・は!」
「五百万ペルサからぁ~スターっト!」
次々と上がる手が示す指で幾らいくらと競り始める。
どんどん上がる値段に一人降り二人降りとジワジワ減っていき、最後は一騎打ちとなった。
そしてそれを見事に競り落としたのがこの男だった。
競ってる間から何となく見た事があると思っていたナラクだったが、自問自答で答えを求め、その答えにずっとそんな筈はないと拒否していた。
だが遂に買い手が決まった瞬間ナラクはその男を見て叫ぶ
「なぜ俺をお前が買うんだセダス⁉俺はお前に何かしたのか⁉」
セダスは険しい目でナラクを見て言う。
「いいえ坊っちゃん。貴方は何もしてませんよ? なんにも……ね……」
そう言いながらナラクの首輪に腕をを近付けると、主従契約の儀式を行った。
その行為を信じられないという目で見ながらブツブツと呟くナラク。
そんな姿を冷たい目で見下ろすとセダスは奴隷商人に家まで届ける様にと託けてその場を立ち去った。
◇回想終わり◇
昨晩の出来事を思い返し、動かない元主にセダスは自分の着ていた燕尾服を被せると後ろに控えていた従者と侍女達に合図を送る。
その合図で一斉に動き出した。
馬車を片付ける者
ナラクを片付ける者
立ち去った奴隷商人の痕跡を片付ける者とで別れていく。
ナラクは元主を担ぎ上げると、彼を部屋のベッドまで自ら運び入れた。
「全く嫌な役割を押し付けられたもんだ……」そう呟くと部屋の灯りを消して部屋を出た。
起きたら呼ぶ様に侍女に伝えると、ナラクが到着した事を主に伝えに執務室へと向かった。
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