奴隷少年の華麗なる逆転人生〜運しかスキルが無いので家を追い出されました〜

あるちゃいる

文字の大きさ
3 / 10

生まれは良かったのに③

しおりを挟む


 「ではもう一度言いますよ?」
 「はい、お願いします」
 そう言うと畑にくわをザックザックと打ち付け、畑を耕す少年を食い入る様に見る。
 全てが初体験で見る物すべてが真新しく感じ、正直楽しくなっていたナラクは名を主人から新たに貰った

 「ほらやってみて?マル」
 「はい!」
 くわを受け取ると元気よく畑を耕していくが、直ぐに燃料切れになる。それを笑いながら休み休みやれば良いからと、少年に言われている。

 かつて従者だったセダスは、そんな姿を遠目に見ながら主のお茶を入れ直す。

 「如何かな、新しく来た奴隷はちゃんと仕事してる?」
 「はい、憶えは悪くないようです」
 「そう、それは良かったよ。覚えが悪かったら鉱山に戻そうと思ってたからね。まぁ、君の我儘を聞いてやったんだからコレから宜しくね」

 そう言うと男はセダスの淹れてくれた紅茶を呑むと満足そうに頷いた。

 「相変わらず君の紅茶は美味しいね」そういって微笑み

 「少し読書するから跡は頼むよ」
 と伝えると、テラスから部屋へとティーカップを持ったまま戻って行った。
 部屋に戻る間際にセダスへ手を払う仕草を送り、そのまま暗がりへと消える主にペコリとキレイにお辞儀をした。

 「何かあれば呼ぶ様に」と言付けると、足早に歩きエントランスを抜けていくセダスを本を片手に廊下の窓から眺めていた青年は呟く。

 「あんなに嬉しそうな執事は珍しいな……何時だったかな……僕の弟が産まれたとか言ったとき以来かな……」
 そんな昔の事をまだ憶えていたのが面白かったのかクスリと笑い、奥の部屋へと消えていった。

 青年が言うようにセダスは浮かれていた。顔に出ない様にするのが難しくなるくらいには浮かれていた。

 正門から裏の畑へと続く道を飛び跳ねる様に通り過ぎ、あっと言う間に防風林を抜けていく。
 まるで旋毛つむじの様に風を起こしながら通り過ぎるので、付いて行く部下達も大変だった。








 「マル、セダス様だ。失礼のないように……」
 畑にやって来た執事長をいち早く見付けた少年はナラクにそう告げると、くわを地面に置き一礼する。ナラクも耕すのを止めて、少年の真似をして一礼するが、今までの仕打ちを思い返すと恨み言しか出てこなかった。なので憎しみの篭った眼差しは地面に向けて悟られないようにした。

 「精が出ますね……」
 にならない様にセダスは二人の奴隷に声をかける。
 「セダス様!お疲れ様です」
 少年は顔を上げてセダスをねぎらう。少年は隣に立ち未だに下を向いたままでいるナラクの肘を突くと、挨拶をしろと目で訴える。

 仕方ないと諦め睨みつけながらナラクもまた顔を上げてから再び頭を下げた。口にする言葉は思い付かなかったので、無言だ。

 「お前も……仕事はなれたか?」
 口調に様にセダスはナラクに声をかける。
 が、言葉少なげに相槌あいずちを打つだけだった。

 そんなナラクにショックを受けたが、仕方ないと小さく溜息を吐くと
 「では引き続き頑張るように」と、言葉を残して畑を跡にした。

 セダスが去るのを待って頭を上げた少年はナラクの態度が気に入らなかったのか、言葉を荒げて叱る。

 「マル!なぜ君はセダス様にあんな態度を取るんだ‼ 失礼の無い様にと言ったじゃないか!」
 「あんな奴に何故、様を付けるんだ? アイツは……アイツは……(僕の元執事だ!)」とは言えず、下を向いて溢れて出て来そうな涙をこらえる。

 「君ね……セダス様が居なかったら今頃鉱山で野垂れ死んでるんだよ? 僕の聞いた話じゃ……」

 と、言うと少年が話し始める。
 ナラクは元々この家の主が鉱山奴隷を召し抱えるためだけに雇われる筈だった事、現にナラクの前に値がついた少女は主の持つ鉱山の飯場はんばで働いてるという。現場じゃないだけマシだったようで、死ぬ事は無いそうだ。
 それを聞いたナラクはホッと安堵した。まだ幼さが声に出ていた少女があれから如何したか気になっていたからだ。
 「その後ね? セダス様は君を見て主に言ったそうだよ?あの男はきっと役に立つので鉱山奴隷ではなく、畑からやらせてくださいと頭を下げてお願いしたそうだよ?」

 そのお陰で君は命が助かったんだから、そんな憎々しくセダス様を見るのはやめろという。

 「それにね?」と続く少年の話を聞くと、畑仕事をナラクに教える様にと言われる前は、この少年は鉱山で働いていたそうだ、そして病気がちになりもう少しで死ぬところだったそうな。

 「だから僕はある意味君に救われた様なもんなんだよ、だからありがとう!」と言うと笑顔でナラクにお礼を言った。

 君と関わったお陰でが上がった様だと笑った。

 ナラクは、それを聞いて愕然がくぜんとした。
 「が……上がった……?」
 「え?うん、そうだよ? だって君が居なかったら僕は間違いなくし、飯場に配属された少女ももっと酷い仕打ちになってたかも知れないんだよ? これが運が上がったと言わずして何になるんたい?」

 そう言うと少年は畑仕事に戻った。
 ナラクもくわを持ち畑を耕すが頭の中ではずっと気になっていた事を復唱していた。

 『僕が居たからが上がったってどういう事だろう……もしかして僕のスキルは……僕の運を上げるのか?』

 ナラクは畑を耕しながら夕暮れになるまでずっとクビをひねる事になった。そして、もう一度だけ自分のスキルを調べてほしいと強く願うようになっていた。

 その晩のこと、晩御飯を食べた跡部屋になってる馬小屋へと戻る道すがらセダスに出会ったナラクは、彼の元へと人目を避けて近づいていう。

 「セダス!……様……お願いが御座います!」
 それを少し驚きセダスは狼狽える。
 今までナラクに命令はされた事は何度もあるが、お願いなどされた事は一度も無かった。
 そして、主に頼られるという高揚感からつい素が出てしまった。

 「何なりとお申し付けくださいぼっちゃま!」
 「え?」
 その言葉を聞いて驚いたのはナラクだった。奴隷市場で出会ってから初めて昔の様な優しさが篭った口調で言われたからだ。

 そして、うっかりを込めて言ってしまった言葉に恥ずかしくなったのか顔を逸らすセダス。
 そして、今更だったがもの様な冷たい口調で言い直した。
 「……何だ? マル」
 「え? あれ?……(まぁいいか幻聴かもしれないし)実はスキルをもう一度調べて貰いたいのです! もっとちゃんと詳しく!」

 聞き違いかと思い直して自分の願いを叶えてほしいと訴えた。

 実の所、スキルを【運】だけと伝えた神父は詳しくナラク言わなかったのには理由があった。余りにも酷いスキルだったのと、その後に続く言葉が余りにもだと思ったから伝える事が出来なかった。

 勿論セダスは知っていた。
 だが、それを全て今のナラクに伝える事は憚られた。さて、如何したものかと考えるよりも先に体が動いてしまった。

 「すぐに調べに参りましょう!」
 そう言うと重いナラクをお姫様抱っこすると、颯爽さっそうと垣根を飛び越えて馬車置き場へとける。
 ナラクは驚きセダスに無言のまま掴まる事しか出来なかった。

 馬車置き場へと来ると、骨組みしか無かったナラク専用の馬車が綺麗に直してあり、素早くナラクをシートに優しく座らせると馬を繋ぎ、自ら御者台へと滑り込む様に座ると、馬に鞭を打って走らせた。

 その行動に驚きながら、何処か懐かしい気持ちに浸ってしまって涙ぐむナラクだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...