5 / 10
生まれは良かったのに⑤
しおりを挟む羽扉の付いた酒場は昼間はめし処、夜はめし処兼酒場、二階では賭場を開いている店にナラクは従者の少年二人でやって来た。
少年の名はルカン。
元々鍛冶屋の息子だったが、親が酒とギャンブルに嵌り借金を作って蒸発。当然働ける年齢になってなかったルカンは借金の方に取られ闇で売られて、鉱山で働く様になった。
その鉱山でもオヤジの見様見真似で覚えた技を使って荒稼ぎしていたが、バレて袋叩きにあい、虫の息で医務室で寝ていた所をセダスに助けられた。
年齢はナラクの二つ上という事で歳も近いからとセダスに教育係として引き抜かれてから、すっかりセダスを慕うようになった。
恩人の言う事に報いたかったルカンは、ナラクの世話を焼きまくった。
それをすればセダスも喜んでくれたから、常識も現在進行形で教えている。主に圧政している王の悪口から吹き込んでるところだ。
その恩人が目に掛けてるナラクが落ち込んでると分かったその日の夜に酒でも呑んで忘れるというやり方を教える為に行き付けの店に来たという訳だ。
最初こそ酒とツマミで呑んでるだけだったが、落ち込む理由を聞き出したルカンは、半信半疑だったのと少しでも勝てば落ち込む理由が軽減するだろうと考えて、賭博に誘った。
最初こそ渋っていたナラクだったが、物は試しと先輩が言うもんだから一回だけと言い二階へとやって来た。
賭博と言っても貴族達がやるようなルーレットなんて物は無い。
簡単で分かりやすさと一回一回の勝負の速さから、丁半博打に似ている物しかない。
六面体ある内の半分を黒く染めただけの簡単なサイコロを使い、どちらの目が出るかを賭けるのだ。
丁半博打の様な木のコップにサイコロを入れ、机の上でコップをふるう。
当然いかさまと難癖をつける奴用に机の下には仕掛けが出来ない様に普通の机でやる。
「いいか?マル。お前が先に賭けろよ?そうしたら俺がその逆に賭けるからな?」
「はい、分かりました」
「それから、お前は五ペルサづつ賭けな、一番安い掛け金だ」
「分かりました」
「よし、席が二つ空いたら混ざるぜ?」
「はい」
「さぁ!さぁ!次が始まるぜ!今夜は種が沢山あるからよ!勝てば大金が手に入るぜ!」
胴元が叫ぶと、負け込んだ人達から順に抜けていき、二人分の席が空いた。
「混ざるぜ!二人だ!」
そう言うとルカンは、席代を二人分払う。
「ほいよ!お?ルカンじゃねーか、久し振りだな!そっちの兄さんは見ねぇ顔だ」
「おう、最近お屋敷の方に入った新入りだよ」
「へぇ!それじゃ給金は良さげって事だな!(カモ来たコレ?)」
そう言うとニヤリと笑う。
白・黒賭博は簡易なだけあってサイコロを振るのも技術次第で思い通りに出せたりする。
当然八百長が出来ない机でやる為に苦肉の策で憶えた技術だった。
まず先に胴元(親とする)がコップにサイコロを入れたらゲームの開始合図で、白か黒のうちのどちらかに掛け金をBETする。その後で机にカップを伏せて置いて、出た目で勝ち負けを決めるやり方だ。
全部の場所に賭けてもトータル的に儲かる方の目を出すのがツボ振り師の腕の見せ所だった。
普通に考えても親が有利な賭博だったが、他に遊べる物も無い世界なので、どこの賭博場でも人気の遊びだ。
「さぁ!始めるぜ!」
親がコップにカラコロを入れる。
「じ、じゃあ僕は黒に五ペルサ」
そう言うと財布から五ペルサ出して置く。
それを見てから、ルカンは八ペルサ出して、白に賭けた。他の皆も賭け始め黒の方が多かった。
「さぁ!勝負‼」
と、コップが机の上に置かれる。
ドキドキしながら待つ二人……
「白!」
「やったぜ!」とルカンは十六ペルサを受け取る。
「さぁ次いくぞ!はったはった!」
さっそくナラクから巻き上げたと気分を上げていくツボ振りはニヤリと笑う。
「じゃあ白に五ペルサ」
「んじゃ俺は黒に二十ペルサ」
周りも賭けていき、勝負っ!て、出た面は黒だった。
そんな調子でナラクの財布から金が無くなるまで続き、ナラクは更に落ち込む。その傍らで大儲けしたルカンは、ナラクと肩を組んで賭博部屋から出ると、階段の上から酒場で呑んでる奴等全員に向かって叫ぶ。
「今夜の酒は俺の奢りだ!たらふく呑みやがれ!」
その声を聞いた店の客たちは大喜びで拍手喝采と歓声をあげた。
「じゃあ、僕はもうお金無いから帰ります……」と、これ以上落ちない筈の肩を落として帰ろうとするが、ルカンは止める。
「何言ってんだ? 金ならここにあるんだ全て俺が奢ってやる!呑んで食え!」
そう言うとルカンは、階段を勢い良く降りていき、カウンターで酒とツマミになる物を頼みに行った。
当然大勝ちされた側の店は今日は赤字になると覚悟をしていたが、ルカンの大盤振る舞いで酒が大量に売れた事でプラスになっていく。
この時代、水より酒のが値段は安かったし、栄養補給も兼ねていたので子供でも酒は呑んでいた。原価も安く沢山飲まれても大した儲けにはならない。だが、酒を呑めば食いたくなるのがツマミってなもんで、肉やら魚が大量に売れ始めた。
これで、賭博の負け分もチャラどころか、プラスになるのだった。
ルカンは他の客に担ぎ出されて店の中央で金貨の雨を降らせていた。
ナラクは慣れない店と全く解決しなかった自分のスキルに嘆き、カウンターの端っこに座ると、奢りと出された酒をチビチビ飲み始めた。
「よぉ兄さんのお連れさんが儲けさせてくれてるから、これお礼な!食ってくれ!」
と、出されたのは高級肉だった。
「あ、有難うございます……」
そう言うと、それを突きながら食べて呑んでとしていたら、いつの間にかほろ酔いになる。
そして、気が付くと自室の馬小屋で寝ていた。
まるで最初は夢かと思ったが、吐き気と頭痛に襲われたので、夢じゃないと気付かされる。
隣の馬房では、鼾を盛大にかきながらルカンも寝ているようだ。
取り敢えず今日が休日で良かったと安堵したナラクは井戸で水を呑んだあと再び眠ることにした。
◇セダス視点◇
羽扉を開けて入って来たセダスは額を抑えると、店の真ん中で酔っ払ってる従者のルカンを確認した。
付いて来た部下にルカンを気絶させて部屋に連れて行けと目で合図すると、カウンターでどんよりとしているナラクに近付くと、首の後ろを叩き気絶させた。
周りは酒で酔っ払っているので、咎める奴は居なかったし、セダスの顔を知ってる店主は青褪めたまま俯いてるので、カウンターに金貨を置くと
「口止め料」と呟いて、ナラクを抱き上げて外に出ると、いつもの馬車が店の前に横付けされていた。
そこに優しく寝かせると、起こさない様にゆっくりと走り出した。
(取り敢えずルカンにバレていると見ていいな……)と、考え頭痛の種がまた一つ増えてしまったと頭を抱えるセダスだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる