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第180話 姉妹の帰郷
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揃えるべき物を揃えていざ南国へ。
『待てい!だそうだが?』
ソラリマの台詞…ならばレイルさん。
マッサラのレイル宅に寄り道して説得。
「サンタギーナから入国して馬車移動だぞ。海の幸は美味しい物沢山有るけど。大体宿は質素。ベッドは固め。途中途中転移挟んで最短でも往復2週間コース。余程の事では途中で帰らない。それでもいいの?」
「むぅ…」
「ロイドは自宅に残すからどっちでもいいけど。フリーメイよりも最低な奴に会いに行くのに。レイルが我慢出来るとは到底思えない」
「お土産ちゃんと買って来るから、ね?」
「レイル様ぁ。また私を一人にするのですか。今は王都にもお友達が沢山出来ましたから良いですけど…」
「むむぅ…」
「メリリーもってなると馬車も2台必要だ。目立つ上に転移が全く使えない」
「解った。今回は留守番してやろう」
良かった。
「暇でやる事が無いのが嫌なんだよな…。だったらメリリーの生徒になって勉強するとか。渡したジェイカーで新しいメニューを3人で考案してみるとか」
「うーむ」
ちょっとやる気出た。
「本を読み耽る。惰眠を貪る。風景画を描いてみる」
「うーむ…」
余り興味無し。
「有ったらいいなのお風呂グッズを近場の木材で作る」
「お…」
興味が湧いた。
「例えば…。この赤木で…。笛っぽい楽器を作ってみる!」
「お!」
かなりの食い付き。
「そんなに顔に出ておるのかえ」
「「「解り易く」」」
「クワァ」
「ニャン」
「そうか…。だったら古代樹の木片を幾らか寄越せ。織り交ぜて何かの楽器を作ってやろう」
「お安い御用さ」
後2回は素材も出せるしな。15層から。
赤木は1本物だがキルワの湖畔の奥地に自生してる。大量にでは怒られるが数本程度なら。
「それでも暇になったら連絡して。入国後で数日レベルなら2人を内緒で案内する」
「キノコ狩りと海の幸以外は大自然ばっかだけどね」
「うむ」
「お二人が少数で出掛けられている間。ずっと機嫌が悪いんです。偶にで良いので気に掛けてあげて下さい」
「言わんで良い」
メリリーが傍に居れば暴れたりはしないか。
自宅に戻って5人とペッツで出直し。
「説得成功!んじゃ姉妹のお里帰りと参りましょう」
「「はい」」
ロイドとシュルツとヤン。侍女2人に見送られながら南へと飛んだ。
サンタギーナの城下港町シャインジーネにて。馬車の手配を頼んでおいたモメットと合流。
「ホントに私。ご同行しなくて良いのですかぁ」
「厚化粧の大男なんて連れ歩けるか。こっそり動いてこそ時間が稼げるんだ。時間は金よりも大切なんだよ」
「はーい。お帰りの際に私をパージェントまで連れて行って下さいね。パパとお墓参りしたいんです」
「了解。どの道馬車返しに来るさ。何か西側の情報は?」
「特に。今は南部のスリーサウジアとも和解が成立。至って平常。強いて言えば首都では首相の子息たちの婚活がお盛ん、てお話しか聞こえて来ないです」
「やっぱりか」
「そちらが例のフラーメさん?」
「そうなるかな。あんたみたいなオカマは初めて見たよ」
「まぁそんなハッキリと…。仲良くしましょうね♡」
「ほ、程々で」
大男モメットと高身長フラーメが軽く握手を交した。趣向とタイミングが違えばお似合いと言えなくもない。
「馬車の中身はここの最上級。見た目は一般車に塗り替えお馬さんは健常で足の速い子をお城から拝借しました。
荷台は捨ててもお馬さんは出来る限りご返却を」
「馬に罪は無いからな。気を付けて走らせるよ」
2頭の首を撫で撫ですると元気良く嘶いた。
「お買い物は帰り際ね」
「だな」
余力が有ったらエリュダンテで一泊してみたい。
シャインジーネを西に出て最初の宿場に立ち寄り全員のお着替えタイム。
加算型のスカーフを巻いたフラーメが鏡の前で。
「これが…私?」
「見た目だけなら貴族の御令嬢様ですね。見た目だけは」
「そんな強調しなくても」
「素が出てますよ、姉さん。中の気品が伴わなくては見た目も剥がれ落ちます」
「はい…」
「あげてもいいけどヤンの前では使うなよ。男って馬鹿だからパニックになって」
「喧嘩の元だな。最悪離婚」
ソプランのご意見。同意します。
「夢が無い。これは儚く今回限りですか…」
「中身を磨きましょ。私が言うのもなんだけど」
「今回はフラーメだけを目立たせる。他は全員付き人。
俺とフィーネは減衰型スカーフ。ソプランとアローマはレイルが造り変えた偽装用コート。クワンとグーニャは常時透明化。何かご不満は?」
特に無し。
「今日は入国して1つ目のトゥールーで一泊。以降シェイルビーク、トットランド、ケイルビークルまでは1日1泊移動込み。ケイルビークルから首都のキッタントゥーレ間は2日間で進む。ゴールはエリュライトホテル。最上部屋は無理でも何処かしら空いてるでしょう。
もしも空きが無ければ一番最高級の宿を手配。
首都で足止めを喰らうと南のサンコマイズに立ち寄れなくなるから気合い入れて叩き潰す!お金で」
「暴力じゃなくて!」
「「はい」」
「国と喧嘩すんのは勘弁だ」
ペッツたちは無言を貫いた。
「クワンたちはその調子で。緊急時以外鳴くのは我慢」
「クワ…」
「ニャ…」超小声でお返事。
「いっちょ捻りに行きますか。首相の三男坊」
「「「おー」」」
「おー。て…三男坊だけで済むのか?」
「う…。言い寄る男共を全員捻じ伏せる!」
「お金なら有る!」
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お馬のご機嫌を伺いながら西へと駆け抜け短距離転移を織り交ぜ国境関をつう…。
「待て。中の人員を検める」
まずは俺が降りて衛兵とお話。
「何事でしょうか。正規の招待状と通行証はお見せした筈ですが」
「いや他意は無い。確かにこれはマキシタン様がご発行された物に違い無い。だが最近ご子息様たちとのご婚姻を狙って密入国を図る不届き者が多数居る。
このフラーメ様のお顔を確認したい」
知ってるの?な訳無いよな。
「仕方有りませんな」
側面扉を開いてフラーメを地上までエスコート。
「漏れ聞こえましたが。私の顔を検めるとは如何に」
「こ、これは…」
3人の衛兵がその場で跪いた。
「ご機嫌麗しゅう。フラーメ様」
「面識は無い筈です。何処かでお会いしましたか?」
「い、いえ!大変失礼ながら。ご子息の中でもマキシタン様は特に!面喰いで御座いまして。…そうでない方にはご退場願えと。突拍子もない布令が回されて居りまして」
何じゃそりゃ。
「困りましたね。私はマキシタン様から直に商談を為さりたいとの旨を伝えられ。遙々中央から足を運んだと言うのに入国を拒絶されるとは。…例の件は入国が適わなかったので白紙ですとお伝え願えますでしょうか」
ナイスだフラーメ。
「いいえ困ります!大変お美しい!ではなくご商談で有るならば容姿は無関係で御座いました。どうぞ!
どうぞお通り下さい!」必死だ。
「フラーメ様は静かな旅路を好まれる。報告は構わないが兵士たちで付き纏うのは。暮れ暮れも控えて頂きたい」
「「「心得ました!」」」
関所を越えて徐々にスピードUP。
「もうちょいだったのに…」
「惜しいな。スカーフ巻くのが早過ぎた」
「元が美人さんだからどの道無理よ」
「私は何も言えません」
御者台から。
「どうする!北側の副街道か南の森か」
「全部内陸側!南の森を迂回する振りして転移でショートカット!」
「へーい」
町を1つ越える毎に増えて行った兵士たちの遠方からの監視。かなり悩まされたが何とかスケジュール通りに首都まで到着。
予約がタイラントからでは取れなかったエリュライトも。運良くスウィートが空いていた。
予備を含めた3泊。フラーメ名義にて。
「着いたー」俺。
「ケツと腰が痛えー」御者を頑張ったソプラン。
「無理矢理捻じ込んだ感じ…」目が虚ろなフィーネ。
「こんな弾丸強行は初めてだよ」文句を垂れるフラーメ。
「姉さんが文句を言える立場では有りません」叱る妹。
「解ってるよ…。もっと優しくして!」
「帰国してからたっぷりと!扱き上げて差し上げます。
まずはお料理から!」
「帰りたいけど帰りたくない!」
みんなまだまだ元気だ。
「寝室は2つ有るから男女で分けられる。フラーメが嫌だって言うなら下の部屋取るけどどうする?メッチャ風呂入って飯食って寝たい!」
「私は冒険者だよ。今更男と同室なんて屁でもない」
「言葉遣い!」
「ごめんよ…」
「ソプランさん御者頑張ってくれたから。男子からお風呂入って~」
「おぉ…マジで助かる」
「寝落ちするかもしんないからグーニャ風呂場の中で見張ってて」
「ハイニャ!」
移動の途中から略全て。クワンは上空散歩。それは今も。
「クワンティー上に居るのかな…」
フィーネがフラフラとテラス窓を開けて指笛を鳴らした。
直ぐに部屋に飛び込んで姿を現わしたクワンを確認してから風呂に向かった。
全員無事にホテル到着。
この夜は久々に霊亀の生血割を全員で煽って爆睡。
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ドーピングした翌朝は完全回復。
朝食を沢山食べてやっと落ち着いた。
「やれば出来るもんだ地上移動も。休憩したら着替えて官邸に行く。既に俺たちが到着してるのは通じてる筈だからそのまま交渉か昼食会に招かれると思う。
心の準備出来てるか、フラーメ」
「ここまで来て逃げませんわ。同伴お願いします」
「良し。クワンとグーニャは官邸から離れた場所の屋根上で待機か。町の外でも。先行してサンコマイズの内部調査でも自由に」
「クワッ!」
「南の町中見て来るニャ!オヤツは鰹節にゃいですか?」
「有るよー」
フィーネが素手で軽く握り潰した物を小袋に詰めてそれぞれに渡した。
「そんな硬そうな物を素手で…」
フラーメだけが驚いていた。他は見慣れた光景。
ドレスを着るのは勿論主役のみ。アローマはグレーの侍女服姿。他3人は黒服スーツ。スカーフ類はコンパクトに白シャツの中に折り込んだ。
ソプランとアローマのスカーフは普通のシルク物。
4人は同系統のグレーで統一。
赤ドレスに赤スカーフでフラーメも違和感が無い。
スカーフがトレードマークな5人組。悪役だよな。
官邸の門番に招待状を提示するとすんなり中に入れた。
案内された広い応接室。
本革長ソファー下手に俺、右上手にフラーメ。
アローマがフラーメの真後ろに立ち、ガチガチの肩を優しく撫でた。
片手を添えて「有り難う」美しい姉妹愛だ。
アローマを挟んでソプランとフィーネ。
今度…5色レンジャー組めそう。な事はどうでもいい。
お茶が運び込まれ、続け様にニーナが罵ったイメージ通りの醜男が秘書と思われる男を傍らに連れて入って来た。
こちらも立って一礼。
「これはこれはフラーメ嬢。想像以上にお美しく成られて。私がマキシタンです。覚えておいでですかな」
「残念ながら幼少の頃故記憶が曖昧で」
「まあ無理も無い。立ち話では足が痛みます。どうぞお掛け下さい」
礼儀正しくは有る。顔は別にして。
両者が座る間際にマキシタンがフラーメの指輪をチラ見して腰を深く下げた。
「隣は秘書のモデロン。そちらの方々は」
「左は同じく秘書のスチュワート。後ろに並ぶのは専属の従者たちです」
モデロンと俺が視線を交しながら座して会釈。
今日は鑑定グラサンをしているので虚偽は無く。紹介された通りで淹れられた紅茶やカップに毒物は無かった。
場所的に毒物混入は有り得ない。
指輪を見て機嫌が悪くなったのか。強めの口調で。
「ご結婚されていると」
「はい。お手紙を頂く前には婚約を」
「そうか…。では金銭での解決をお望みと」
「先ずは公開されていない金額の確認をと参りました」
次にマキシタンが口を開く前に俺が挙手。
「本筋に入る前に。これよりの交渉一切は私、スチュワートがお受け致します。主は記憶に無い旧家の借金を聞いて心痛の極み。正しい判断が出来ぬやも知れません。どうぞご了承を」
「よ、良いだろう」
あっさり了承。
モデロンが目を細め流した。完璧なジト目。
マキシタンは内務次官の筈だが…。程度が知れたな。
交渉能力は低い。ここの内政大丈夫だろうか。
「ご提示される借金総額に先立ち。過去の関連書類。
借用書、誓約書、手形、その他類する証明書の回付をお願いしたいのですが」
「モデロン。お持ちしろ」
「…畏まりました」撃ギレの返事。
一旦退出したモデロンが3枚の額縁を抱えて戻った。
この世界にファイリング技術はまだ無い。大抵の重要書類は昔から額縁に嵌められて長期保管される。
共通金貨の通貨価値もここ50年間は変動していない。旧王国金貨換算で出されたら面倒だったが表記は全て共通金貨枚数で示されていた。
第一段階はクリア。
最終手形の日付は今から丁度20年前。借用書と誓約書の締結開始日が23年前。3年で完済。
手形の総額は208万枚。借用書の開始元金が160万。
年率で元金の1割。
テーブルの上に置いたまま。触らずにバインカレ婆ちゃんに貰った(借りパク)片眼鏡で確認しても改竄された形跡は無く。内包する紙自体も年代の通りだった。
旧王家の国印。タタラ家の証印。商業ギルドの証印。
誓約書の内容も手紙内容と同じ。
全てが完璧。完璧過ぎて気持ちが悪い。そして幾つかの疑問も湧く。
「確かにこれは大金です。ちょっとやそっとではお返し出来ません。こちらの鑑定具で拝見しましても一切の虚偽は無く不履行には至りません。しかし…幾つか質問をしたいのですが。何方様がお答えを」
「モデロン」
「では私が」
「1つ。元金が160万にも関わらず。3年間返済されなかったのは何故でしょうか」
「契約成立時に事業が動き。タタラ家が一切支払わずに逃亡。故に国が肩代わりをして業者に配金。国庫が一時底突きしてしまい。返済資金が取り戻せたのが三年後。となっています。その間は国債の発行で遣り繰りを」
「成程。これ程の金額を投資する事業は滅多に無い。ですが誓約書にはその事業内容に付いては一切記載が見当たりません。金だけが動いてしまった形です。その事業内容とは何でしょうか」
モデロンがマキシタンを一瞥。それにマキシタンが頷き返した。
「深海へ潜る為の潜水艇の開発事業です」
「ほぉ…」
潜水艇と来ましたか。
「当時の国家機密に抵触する為。詳細のお話は困難。発足当初から複数に分散化していたとだけ」
「根幹の部分は履歴を残さず。口頭で複数の工房を動かしたとの認識で間違い無いでしょうか」
「その通りにて」
「その事業の取り纏め役が旧タタラ家だったと」
「相違無しかと」
「旧タタラ家の爵位は」
「…当時の、公爵位に違い有りません」
ちょい答えに詰まった。
「では。当主が逃亡して公爵家一族が取り潰されたのだとは思いますが。その時接収された金品は何処へ流れたのでしょうか」
「全て国庫に戻され借金の返済へと」
「成程。ではその差し引き元金はお幾らでしょうか」
「…凡そ半分の八十万だったと」
「再び伺います。元金を半分に。利息も半分に減らせるのに3年間放置された理由とは」
「回収作業に手間取った時間だと」
苦しいねぇ。
「それは可笑しな話です。王国主導であるなら。概算見積もりで帳消しに出来た筈です。どんなに時間を掛けようとも精々3ヶ月。3年は有り得ない。理由をお尋ねしても?」
「全て…」
「モデロン!」
モデロンが掴み掛かったマキシタンの手を払い除け。
「旧王族家の懐に!」
そう言い放った。
「これは面白い。本来半分だった筈の負債を元金のまま我が主1人に背負わせるとは。
旧王族に連なるマキシタン殿。返済額の訂正を求めます。呑めない場合は商業ギルドに掛け合い。全額帳消しとさせて頂きますが」
「余計な真似を!」
モデロンを横から弱々しいグーパン。
「部下に任せたのは貴方です。落ち着いて。どうされるのかのお答えを」
「…訂正する。元金と利息を半分に」
「ご冗談を。利率をお決めになったのは王家。利息が返還されたのも王家。本来消えていた24万。これを元金から差し引いて56万」
「何だと!」
「旧タタラ家一族が粛正された時の死者の総数をお答え願えますか。モデロン殿」
「言うな!」
マキシタンを投げ捨てモデロンが席を立ち。こちら側のソファーの裏手に回り込んだ。
「三百は下らないと聞いています!」
「驚きで言葉も無い。犠牲となった方々にお悔やみを。
出来もしない事業を立ち上げ。金を持っていた旧タタラ家を巻き込み。全責務を当主家に背負わせ。仮初の負債を捏ち上げ。行く末関係者を殺戮。挙句根刮ぎ金品を奪い尽くした」
「や、止め!」
「貴方が加担していた訳では無い。しかし誓約書には名前が刻まれている。責任の一端は貴方にも有ると見ます。
もう一度だけお伺いします。我が主の負債額はお幾らなのでしょうか」
「全額…無効だ」
「無効であるとの証文。ギルドへの無効手続きの申請書。旧タタラ家一族への正当な遺族年金の算出書。算出書の為の念書。各正副2枚で計8枚。今直ぐこの場でお書き下さい」
「遺族年金…だと」
「ご遺族に配布された筈の。23年間分の年金です」
「どうしてそんな物を!」
「可笑しな御人だ。この国は王政を解体した。大統領政を敷く民主国家です。この事が公にされればキタン様だけでなくザムド家全員が巨額の負債を背負って失脚します。
そうしない為には年金と言う形で。過去の行いは行き過ぎだったと謝罪し。地位と名誉の回復を保証するのが筋。
失脚がお望みならば後の4枚は不要です。私はギルドへ虚偽と不正が有ったと報告するのみ」
「書く!書くが一日だけ待っては貰えないか」
「その1日で我々を殺すと」
「そんな事はしない!」
バッグから時計を取り出し平場に置いた。
「この時計で3時間だけお待ちしましょう」
「と、時計…。いったい何処から。いやそのバッグか!」
「急げって言ってんだろ!この糞豚野郎!一家総出で潰れたいのか!!」
「はぁぁ…」
慌てて部屋を飛び出したマキシタンと。1人後ろで涙するモデロン。
「少しは慰めになりましたか?モデロン殿」
「充二分に…」
「泣き止んだら何か軽食を。多分お昼回るんで」
「畏まりました。少し…。少しの間だけ、退席を」
「慌てなくていいですよ。朝は沢山食べて来たんで」
ソファーに座り直して。
「皆座って。楽勝だったろ、フラーメ」
「いったい…何が起きたのやら」
「糞に糞って言っただけ」
「何時もこんな感じよ、スタンは。時々格好いいから目が離せないのよ」
「あーあ。突っ立てただけで終わりかぁ。何処で見抜いたんだ不正が有るって」
「モデロンの怒りに満ちた目をマキシタンに向けた時かな。後は…自分優位の舞台からマキシタンが余裕咬まして降りた時。最初から最後まで自分でやればいいのにさ。こいつアホだなって」
「姉さん。本当に、一人でこれをするお積もりだったのですか?」
「いや無理だよ。無理無理。交渉事なんて二度と関わりたくない」
小さなトラウマを植え付けてしまったようだ。
モデロンが数人の給仕が持って来てくれたサンドイッチを食べ終わった頃に。マキシタンは大統領を連れて来た。
「私がキタンだ。お前がスチュワートか」
「如何にも。お噂では情に厚い熱血漢だと伺いましたが20年も不正を放置されるとは。失望の念を禁じ得ません」
「真実は…。兄王が画策した事。マキシタンは名を使われただけ。しかし、家族として目を閉じて幾らか金を受け取ってしまったのは事実。痛く。闇に葬った積もりが。
四方やこの様な所から暴かれようとは」
潔いのは好感が持てる。
「こちらの要求はどうされるお積りで」
「全面的に、吞もう」
キタンが直筆で書き起こした満額回答の8枚。
年金算出には時間が掛かると。念書に年内迄には正式文を送ると一文が添えられた。
「正式文の送付先はフラーメ嬢宛かスチュワート殿宛か何方なのか」
「そうですね」
立ち上がって首のスカーフを抜き取った。
素の顔を晒し。
「初めまして。タイラント外交官のスターレンです。送付先はヘルメン陛下宛でお願いします」
「スタ…」
「クワンジアからの帰国と同時にフラーメもタイラントに移動した。そんな単純な事にも気付かない。愚かなマキシタンに大切な部下は遣れません。
今回そこの愚か者を成敗しに来ただけだったのですが。全く別の物を掘り起こしてしまいましたね」
「…」
「全ての署名は私が。私と戦争がしたいのなら。開戦する前に是非ともお呼び立てを」
「貴殿と戦争?したいとも思わんな」
「不正の上塗りをお止め頂くのと。二度とフラーメと旧タタラの人間には接触しないと誓って頂ければ結構です」
「誓うとも。誓えるな、マキシタン」
「ち、誓います!」
「友好と誓約の証として。あのフリメニー工房の時計を貴国に寄贈します。外観だけで中身は粗悪品。取り敢えず50年は動きます。丸で、今の政府を表わしている様だと思いませんか」
「これは痛い!この戒めの象徴があの時計か」
「どう捉えるかは今後の対応次第でしょうね」
「心して取り掛かろう」
「少し寄り道をしてから転移道具で帰国します。合わせてその許可を」
「出そう。各地への通達は私が処理する。次会う時は正式な外交の場で」
「その時を楽しみにして置きます」
正書4枚を引き取り。出入り口扉の脇で佇むモデロンに「またな」と声を掛けて退出しようとした所で。
「お待ち下さいスターレン様。寄り道とは南方でしょうか」
「そこも有るね」
「では私もご一緒にお連れ下さい。フラーメお嬢様に。是非ご覧頂きたい場所が有るのです」
「私に?」
「はい。詳細は現地にて。旧タタラ家の跡地に。誰にも開けられない地下扉が有ります。もしかしたらお嬢様にならと」
「それは興味深いな。だったら明日の昼前にエリュライトのロビーに来て」
「必ず伺います」
その日。ホテルの空き室に男子部屋を設け最上階で夜遅くまで打上げ会を催した。
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昼にモデロンお勧めのレストランで魚介のフルコースを頂き昔話を少々。
「ここの特産ってやっぱり魚介なの?」
「はい。海と山に挟まれた国ですので。海側の主流で言えば烏賊漁が盛ん。大昔に居た海の魔物クラーケンが討伐されてから獲れるようになった紋甲烏賊がお勧めです。
帰りのお土産に是非」
クラーケンの原形って紋甲烏賊だったのか。
「それは買わないとな」
全員素顔とペッツを晒した上でフィーネさんが。
「揚げて良し煮て良し焼いて良し。何でも使えて美味しいのよねぇ」
「粛正の対象となった私の祖父母の家系も漁師をやっていたらしいのです」
「へぇ。じゃあモデロンの家はフラーメの」
「親戚?」
「近くはないですが遠い血筋では有りますね。お嬢様を拝見した時の違和感の正体がスカーフだったとは」
「素顔を見てガッカリした?」
「いいえ。素顔の方が人間らしくて素敵だと。あの異常な美しさは造形美だなと感じていました」
「良い眼力してるな。モデロンは美術品とかの鑑定士に向いてるかも」
「光栄です。早くに亡くなった両親は一時期船の装飾屋を営んでいたとか。そう言う血筋なのかも知れません」
装飾職人か。車のデザインとかで欲しい人材だ。
「駄目よスタン。行く先々で勧誘ばっかしてちゃ」
「読まれた…」
「勧誘?私ならお止めになった方が。見るのは得意でも作る方はセンスの欠片も有りません」
「そかぁ。ま、国内で発掘するか育てるか。モデロンが失職して暇を持て余す事になったら一報頂戴」
「心に留めて置きます。日々マキシタンの内から滲み出る醜い顔を拝むのにも飽きましたし。近く辞職しようとは考ています」
人生色々やね。
昼食を終えて首都を南に出て転移。実は昨晩に一度サンコマイズ手前まで往復しておいた。
「これが転移移動…。移動の苦労が一瞬で」
「これに慣れちゃうと馬車が苦痛でさぁ」
「そうでしょうとも」
町へ北側から入り東方面へ。
クワンたちからも東に空き地が点在していたと聞いた。
その途中で国の駐屯所に立ち寄った。
「これからご案内するのは国有の閉鎖区です。理由はお察しの通りに。キタンからの立入許可は得ています。手続きをして参りますので待合室で少しお待ちを」
「了解」
玄関前に居た衛兵と中に居た数人に軽く手を振り。
「私の客だ。お茶をお入れしろ」
「ハッ!」
モデロンって結構重役?マキシタンの秘書官なら顔が広いのは当然か。
待合室で寛いでいると何故か俺たちも執務室にお呼ばれ。
誰やねんと思っていたら。
「あぁマホロバさんとニーメンさん。こんな所に居たんだ」
「官邸の駐屯所に居なかったから、あれ?とは思ってたけど。お久し振りです」
「久し振り~。後ろの一方を除いて」
「先回お二人を勝手に帰したのが上にバレまして。見事二人揃って飛ばされました」
「あらま」
「何だか申し訳ないです」
「いいのいいの。役所勤めなんて性に合わなかったから清々したよ。昨日偶々空眺めてたら見覚えの有る鳩さんが一瞬見えたからさ。
まさかなぁて思ってたらやっぱり!てね」
「何時も窓の外ばかり見てサボってますからね」
「まあまあお小言で時間取っちゃいけないよ。モデロンと一緒に来てるって事で何となく事情は察するけど。首都で何が起きたのか話して頂けますか、スターレン殿」
相変わらず掴めない人だな、この人。風属性でも持ってるんだろうか。
昨日の出来事を振り返り説明。
途端にマホロバがお腹抱えて大笑い。
「あぁお腹痛い…。キタンとマキシタンを同時に捻じ伏せるなんてどんな曲芸だよ。いやぁ笑った」
「成り行きで。マキシタンが低脳で良かった」
「再来年に次期大統領選が控えてるから。続投狙いのキタンは丸飲みするしか無かった訳だ」
「成程、通りで潔いなと思った」
「あの人はあの人で頭回るからね。まあこれで身に染みたっしょ、スターレン殿を敵に回しちゃ拙いって。そしてそちらの御婦人がフラーメお嬢様か」
「昨日からむず痒い。お嬢様って柄でも無いさ。それにここに居た記憶もぼんやりで」
「無理もないよ。皆子供だったんだから。先に言うと家の親父は粛正を執行した側の馬鹿」
「当家もオキナ家の従家でしたのでそちら側。私は衛生兵見習いで訳も解らず従軍していました」
とニーメンが付け加えた。
複雑な表情のモデロンが。
「不思議な物です。両側の人間が時を経てここに介するのは何とも」
「思い出に耽るのはこれ程に。あの場所に入るなら我らも同行しても宜しいかな。フラーメ嬢の許しが得られるなら」
「私は別に。墓が有るなら墓参りにと思って来てるだけさ」
フラーメの視線を受けたアローマも頷いた。
「残念ながらお墓は存在しない。歴史から掻き消された家だからね。では参ろう。扉がもし開くなら。何か供養になる物が眠っているかも知れないし」
残りの俺たちは部外者だしな。
文句無く全員で移動。
町の東に点在する更地。雑草が茂る場所も見えたが荒れ野ではなくある程度は手入れが施されていた。
売却前提のザムド家の土地で。今回の件でそれも白紙に戻されるとモデロンは語った。
空き地の中でも一際広い場所。そこが旧タタラ家の敷地。
その片隅に建つ不自然な小屋。一見すると資材を置く為の納屋だ。
「あの小屋の下に扉が有ります。ここから少し北に管理者たちの住居。私の生家が在るのでご休憩やトイレはそちらにご案内致します」
丁寧なモデロンの案内を聞き若干行きたい気もする。時間が掛かるならそちらを借りよう。
「この土地の所有権は必ずフラーメ様へ戻されます。当然中に有る物、有った物も全て。その処理は私が監視しますのでお任せを。仮に私が消されたら。マホロバ氏を通じて鉄鎚を喰らわせてやって下さい」
「引き受けた」
「大丈夫だよ。大統領選が終わるまでは何も出来ない。動いた瞬間にザムドは滅ぶ。自業自得だね」
なら安心だ。
納屋の中の造りはやはり簡易的な納屋そのもの。がらんどうで荷物の類は一切無い。多少の埃と蜘蛛の巣が張っているだけだった。
中央の床に大きな革布が敷かれ。それをモデロンが埃を立てないように巻いて隅に寄せた。
長年開かれなかったであろう床扉が持ち上げられ、塵が舞い、ギシギシとした乾いた音が響いた。
駐屯所から持って来たランタンに火が入れられ浅い地下へと歩み入る。
真っ直ぐに組まれた石階段。その先に広がる空間の奥壁に重厚な鉄板が填め込まれていた。
把手も無ければ鍵穴も無い、2✕1程の2枚板。
その両脇には手が入りそうな小さな凹み。
「「あぁ」」
と呟いたのは俺と嫁さんの2人。
「俺たち以外の3人はちょっと後ろ向いてて」
「ランタンはそのままで。自前の照明道具を使います」
フィーネが腕輪をセットするのを見て。俺がフラーメとアローマを端に呼んだ。
「フラーメが左手を左の穴に。アローマが右手を右に入れてみて。違ったら逆やってみる」
「解った」
「はい」
結果は一発解錠。ガコンと大きな金属音が響き。鉄板の内対面に手が掛けられる凹みが出現した。
フラーメたちが穴から離れてから。
「開きました。もう前向いていいですよ」
「よいしょ」とフィーネが観音扉を手前にご開帳。
初めて開かれたのか少し地面が抉れた。
ズリズリ音の後で扉の中の淡い照明が点灯し、持参した道具は不要となった。
「おぉ…」皆一様に等しく漏らした。
その空間に有ったのは金銀財宝などではない。骨董品や美術土器でもない。
真ん中には何の変哲もない作業台と椅子。
壁中に貼られていたのは。夢を描いた船の図面たち。
古びて朽ちて文字は朧気だったが挿絵の数々はそれが船である事を雄弁に物語っていた。
「潜水艇の図面か」
これにモデロンが答えた。
「記録には有りませんが恐らくは。詳細図は全てここに集約されていた。だからザムド家は失敗した…」
「全部が嘘って訳でもなかったんだな。事業が出発する時までは」
「どうでしょうかね。先代王は既に土の中ですので」
「スタン。作業台の図面に埋もれて手紙が有るわ」
「手紙?」
作業台の上に乱雑に置かれた図面に折り重なって数枚の便箋が取り出せた。
紙はボロボロで頼りなく。インクも掠れて殆ど読めない。
取り出せた順番でそっと並べて婆ちゃんの片眼鏡を取り出した。
「フラーメが読む?」
「私はいい。多分泣いちゃうから。代わりにお願い」
アローマも小さく頷いた。
「では代わりに」
「~本文~
我らは騙された。当家だけではない。一族全てが。
ケダム唯一人に。
夢を追おう。共に船を造ろう。遙か深海に眠るあの場所へ行こうと。
そんな甘い囁きに乗ったのが全ての間違いだった。
ここを奴に見せる前で本当に良かった。
奴と夢を語り合った日々が眉唾だったと気付く頃には手遅れだった。
奴を信じた愚かな私を許して欲しい。
この部屋を締め切る事に決め。娘たちを鍵とした。
家族だけで逃げ出す準備を整えた。私たちが何処かで生きてさえいれば、救われる人々も多い筈だと。
家族は共に居られない。生まれたばかりでここの記憶が無いミルフィンを何処かで手放さなければならない。
身を切られる想いを胸に。嫌だと泣き叫ぶ妻を説得するのには苦労した。
もう時間が無い。
この世に神が実在するなら懇願する。
娘たちが無事に生き。やがてこの場所に辿り着けるようにと願い。
私はこの工房を閉じる。
~ラハン・ボル・タタラ~」
「前言撤回!屑は端から屑でしたと」
「その様です」
「それと。ヤンに依頼する将来の案件が増えた。喧嘩別れしても2人共手放さないから宜しく!」
「わ、解ったよ。絶対に別れません!」
「良し!そうと決まればここの図面を全部一文一句残らず新品の紙に書き写す。明日までここに籠って。
フィーネはパージェントで大判の上質紙大量購入。その他の人で何か食事差し入れて。
3人はここに誰も近付かないように手配して」
「はい!」
他人の夢を引き継ぐのは簡単な事じゃない。全ての作業を終えるのに翌日の昼過ぎまで掛かった。
外の敷地にコテージを出して。トイレや仮眠をした以外は全て転写に没頭した。
造船図の他にも沢山の技術が詰め込まれていた。最たる物は生体認証システム。王都の宝物殿だったり、ラフドッグの造船所だったり、ここの鍵だったりと似た様な物は幾つも有る。
それらの起源ではないかと思われる物が書き込まれていたのだ。
ひょっとしたらベルさんの最終巻に詳細が書かれている気もする。
これは自走車にはどうしても必要な防犯システムだ。免許を持つ者以外は動かせない。そんな物を取り入れたい。
最悪、陛下に土下座して見せて貰うのもいいな。
『待てい!だそうだが?』
ソラリマの台詞…ならばレイルさん。
マッサラのレイル宅に寄り道して説得。
「サンタギーナから入国して馬車移動だぞ。海の幸は美味しい物沢山有るけど。大体宿は質素。ベッドは固め。途中途中転移挟んで最短でも往復2週間コース。余程の事では途中で帰らない。それでもいいの?」
「むぅ…」
「ロイドは自宅に残すからどっちでもいいけど。フリーメイよりも最低な奴に会いに行くのに。レイルが我慢出来るとは到底思えない」
「お土産ちゃんと買って来るから、ね?」
「レイル様ぁ。また私を一人にするのですか。今は王都にもお友達が沢山出来ましたから良いですけど…」
「むむぅ…」
「メリリーもってなると馬車も2台必要だ。目立つ上に転移が全く使えない」
「解った。今回は留守番してやろう」
良かった。
「暇でやる事が無いのが嫌なんだよな…。だったらメリリーの生徒になって勉強するとか。渡したジェイカーで新しいメニューを3人で考案してみるとか」
「うーむ」
ちょっとやる気出た。
「本を読み耽る。惰眠を貪る。風景画を描いてみる」
「うーむ…」
余り興味無し。
「有ったらいいなのお風呂グッズを近場の木材で作る」
「お…」
興味が湧いた。
「例えば…。この赤木で…。笛っぽい楽器を作ってみる!」
「お!」
かなりの食い付き。
「そんなに顔に出ておるのかえ」
「「「解り易く」」」
「クワァ」
「ニャン」
「そうか…。だったら古代樹の木片を幾らか寄越せ。織り交ぜて何かの楽器を作ってやろう」
「お安い御用さ」
後2回は素材も出せるしな。15層から。
赤木は1本物だがキルワの湖畔の奥地に自生してる。大量にでは怒られるが数本程度なら。
「それでも暇になったら連絡して。入国後で数日レベルなら2人を内緒で案内する」
「キノコ狩りと海の幸以外は大自然ばっかだけどね」
「うむ」
「お二人が少数で出掛けられている間。ずっと機嫌が悪いんです。偶にで良いので気に掛けてあげて下さい」
「言わんで良い」
メリリーが傍に居れば暴れたりはしないか。
自宅に戻って5人とペッツで出直し。
「説得成功!んじゃ姉妹のお里帰りと参りましょう」
「「はい」」
ロイドとシュルツとヤン。侍女2人に見送られながら南へと飛んだ。
サンタギーナの城下港町シャインジーネにて。馬車の手配を頼んでおいたモメットと合流。
「ホントに私。ご同行しなくて良いのですかぁ」
「厚化粧の大男なんて連れ歩けるか。こっそり動いてこそ時間が稼げるんだ。時間は金よりも大切なんだよ」
「はーい。お帰りの際に私をパージェントまで連れて行って下さいね。パパとお墓参りしたいんです」
「了解。どの道馬車返しに来るさ。何か西側の情報は?」
「特に。今は南部のスリーサウジアとも和解が成立。至って平常。強いて言えば首都では首相の子息たちの婚活がお盛ん、てお話しか聞こえて来ないです」
「やっぱりか」
「そちらが例のフラーメさん?」
「そうなるかな。あんたみたいなオカマは初めて見たよ」
「まぁそんなハッキリと…。仲良くしましょうね♡」
「ほ、程々で」
大男モメットと高身長フラーメが軽く握手を交した。趣向とタイミングが違えばお似合いと言えなくもない。
「馬車の中身はここの最上級。見た目は一般車に塗り替えお馬さんは健常で足の速い子をお城から拝借しました。
荷台は捨ててもお馬さんは出来る限りご返却を」
「馬に罪は無いからな。気を付けて走らせるよ」
2頭の首を撫で撫ですると元気良く嘶いた。
「お買い物は帰り際ね」
「だな」
余力が有ったらエリュダンテで一泊してみたい。
シャインジーネを西に出て最初の宿場に立ち寄り全員のお着替えタイム。
加算型のスカーフを巻いたフラーメが鏡の前で。
「これが…私?」
「見た目だけなら貴族の御令嬢様ですね。見た目だけは」
「そんな強調しなくても」
「素が出てますよ、姉さん。中の気品が伴わなくては見た目も剥がれ落ちます」
「はい…」
「あげてもいいけどヤンの前では使うなよ。男って馬鹿だからパニックになって」
「喧嘩の元だな。最悪離婚」
ソプランのご意見。同意します。
「夢が無い。これは儚く今回限りですか…」
「中身を磨きましょ。私が言うのもなんだけど」
「今回はフラーメだけを目立たせる。他は全員付き人。
俺とフィーネは減衰型スカーフ。ソプランとアローマはレイルが造り変えた偽装用コート。クワンとグーニャは常時透明化。何かご不満は?」
特に無し。
「今日は入国して1つ目のトゥールーで一泊。以降シェイルビーク、トットランド、ケイルビークルまでは1日1泊移動込み。ケイルビークルから首都のキッタントゥーレ間は2日間で進む。ゴールはエリュライトホテル。最上部屋は無理でも何処かしら空いてるでしょう。
もしも空きが無ければ一番最高級の宿を手配。
首都で足止めを喰らうと南のサンコマイズに立ち寄れなくなるから気合い入れて叩き潰す!お金で」
「暴力じゃなくて!」
「「はい」」
「国と喧嘩すんのは勘弁だ」
ペッツたちは無言を貫いた。
「クワンたちはその調子で。緊急時以外鳴くのは我慢」
「クワ…」
「ニャ…」超小声でお返事。
「いっちょ捻りに行きますか。首相の三男坊」
「「「おー」」」
「おー。て…三男坊だけで済むのか?」
「う…。言い寄る男共を全員捻じ伏せる!」
「お金なら有る!」
---------------
お馬のご機嫌を伺いながら西へと駆け抜け短距離転移を織り交ぜ国境関をつう…。
「待て。中の人員を検める」
まずは俺が降りて衛兵とお話。
「何事でしょうか。正規の招待状と通行証はお見せした筈ですが」
「いや他意は無い。確かにこれはマキシタン様がご発行された物に違い無い。だが最近ご子息様たちとのご婚姻を狙って密入国を図る不届き者が多数居る。
このフラーメ様のお顔を確認したい」
知ってるの?な訳無いよな。
「仕方有りませんな」
側面扉を開いてフラーメを地上までエスコート。
「漏れ聞こえましたが。私の顔を検めるとは如何に」
「こ、これは…」
3人の衛兵がその場で跪いた。
「ご機嫌麗しゅう。フラーメ様」
「面識は無い筈です。何処かでお会いしましたか?」
「い、いえ!大変失礼ながら。ご子息の中でもマキシタン様は特に!面喰いで御座いまして。…そうでない方にはご退場願えと。突拍子もない布令が回されて居りまして」
何じゃそりゃ。
「困りましたね。私はマキシタン様から直に商談を為さりたいとの旨を伝えられ。遙々中央から足を運んだと言うのに入国を拒絶されるとは。…例の件は入国が適わなかったので白紙ですとお伝え願えますでしょうか」
ナイスだフラーメ。
「いいえ困ります!大変お美しい!ではなくご商談で有るならば容姿は無関係で御座いました。どうぞ!
どうぞお通り下さい!」必死だ。
「フラーメ様は静かな旅路を好まれる。報告は構わないが兵士たちで付き纏うのは。暮れ暮れも控えて頂きたい」
「「「心得ました!」」」
関所を越えて徐々にスピードUP。
「もうちょいだったのに…」
「惜しいな。スカーフ巻くのが早過ぎた」
「元が美人さんだからどの道無理よ」
「私は何も言えません」
御者台から。
「どうする!北側の副街道か南の森か」
「全部内陸側!南の森を迂回する振りして転移でショートカット!」
「へーい」
町を1つ越える毎に増えて行った兵士たちの遠方からの監視。かなり悩まされたが何とかスケジュール通りに首都まで到着。
予約がタイラントからでは取れなかったエリュライトも。運良くスウィートが空いていた。
予備を含めた3泊。フラーメ名義にて。
「着いたー」俺。
「ケツと腰が痛えー」御者を頑張ったソプラン。
「無理矢理捻じ込んだ感じ…」目が虚ろなフィーネ。
「こんな弾丸強行は初めてだよ」文句を垂れるフラーメ。
「姉さんが文句を言える立場では有りません」叱る妹。
「解ってるよ…。もっと優しくして!」
「帰国してからたっぷりと!扱き上げて差し上げます。
まずはお料理から!」
「帰りたいけど帰りたくない!」
みんなまだまだ元気だ。
「寝室は2つ有るから男女で分けられる。フラーメが嫌だって言うなら下の部屋取るけどどうする?メッチャ風呂入って飯食って寝たい!」
「私は冒険者だよ。今更男と同室なんて屁でもない」
「言葉遣い!」
「ごめんよ…」
「ソプランさん御者頑張ってくれたから。男子からお風呂入って~」
「おぉ…マジで助かる」
「寝落ちするかもしんないからグーニャ風呂場の中で見張ってて」
「ハイニャ!」
移動の途中から略全て。クワンは上空散歩。それは今も。
「クワンティー上に居るのかな…」
フィーネがフラフラとテラス窓を開けて指笛を鳴らした。
直ぐに部屋に飛び込んで姿を現わしたクワンを確認してから風呂に向かった。
全員無事にホテル到着。
この夜は久々に霊亀の生血割を全員で煽って爆睡。
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ドーピングした翌朝は完全回復。
朝食を沢山食べてやっと落ち着いた。
「やれば出来るもんだ地上移動も。休憩したら着替えて官邸に行く。既に俺たちが到着してるのは通じてる筈だからそのまま交渉か昼食会に招かれると思う。
心の準備出来てるか、フラーメ」
「ここまで来て逃げませんわ。同伴お願いします」
「良し。クワンとグーニャは官邸から離れた場所の屋根上で待機か。町の外でも。先行してサンコマイズの内部調査でも自由に」
「クワッ!」
「南の町中見て来るニャ!オヤツは鰹節にゃいですか?」
「有るよー」
フィーネが素手で軽く握り潰した物を小袋に詰めてそれぞれに渡した。
「そんな硬そうな物を素手で…」
フラーメだけが驚いていた。他は見慣れた光景。
ドレスを着るのは勿論主役のみ。アローマはグレーの侍女服姿。他3人は黒服スーツ。スカーフ類はコンパクトに白シャツの中に折り込んだ。
ソプランとアローマのスカーフは普通のシルク物。
4人は同系統のグレーで統一。
赤ドレスに赤スカーフでフラーメも違和感が無い。
スカーフがトレードマークな5人組。悪役だよな。
官邸の門番に招待状を提示するとすんなり中に入れた。
案内された広い応接室。
本革長ソファー下手に俺、右上手にフラーメ。
アローマがフラーメの真後ろに立ち、ガチガチの肩を優しく撫でた。
片手を添えて「有り難う」美しい姉妹愛だ。
アローマを挟んでソプランとフィーネ。
今度…5色レンジャー組めそう。な事はどうでもいい。
お茶が運び込まれ、続け様にニーナが罵ったイメージ通りの醜男が秘書と思われる男を傍らに連れて入って来た。
こちらも立って一礼。
「これはこれはフラーメ嬢。想像以上にお美しく成られて。私がマキシタンです。覚えておいでですかな」
「残念ながら幼少の頃故記憶が曖昧で」
「まあ無理も無い。立ち話では足が痛みます。どうぞお掛け下さい」
礼儀正しくは有る。顔は別にして。
両者が座る間際にマキシタンがフラーメの指輪をチラ見して腰を深く下げた。
「隣は秘書のモデロン。そちらの方々は」
「左は同じく秘書のスチュワート。後ろに並ぶのは専属の従者たちです」
モデロンと俺が視線を交しながら座して会釈。
今日は鑑定グラサンをしているので虚偽は無く。紹介された通りで淹れられた紅茶やカップに毒物は無かった。
場所的に毒物混入は有り得ない。
指輪を見て機嫌が悪くなったのか。強めの口調で。
「ご結婚されていると」
「はい。お手紙を頂く前には婚約を」
「そうか…。では金銭での解決をお望みと」
「先ずは公開されていない金額の確認をと参りました」
次にマキシタンが口を開く前に俺が挙手。
「本筋に入る前に。これよりの交渉一切は私、スチュワートがお受け致します。主は記憶に無い旧家の借金を聞いて心痛の極み。正しい判断が出来ぬやも知れません。どうぞご了承を」
「よ、良いだろう」
あっさり了承。
モデロンが目を細め流した。完璧なジト目。
マキシタンは内務次官の筈だが…。程度が知れたな。
交渉能力は低い。ここの内政大丈夫だろうか。
「ご提示される借金総額に先立ち。過去の関連書類。
借用書、誓約書、手形、その他類する証明書の回付をお願いしたいのですが」
「モデロン。お持ちしろ」
「…畏まりました」撃ギレの返事。
一旦退出したモデロンが3枚の額縁を抱えて戻った。
この世界にファイリング技術はまだ無い。大抵の重要書類は昔から額縁に嵌められて長期保管される。
共通金貨の通貨価値もここ50年間は変動していない。旧王国金貨換算で出されたら面倒だったが表記は全て共通金貨枚数で示されていた。
第一段階はクリア。
最終手形の日付は今から丁度20年前。借用書と誓約書の締結開始日が23年前。3年で完済。
手形の総額は208万枚。借用書の開始元金が160万。
年率で元金の1割。
テーブルの上に置いたまま。触らずにバインカレ婆ちゃんに貰った(借りパク)片眼鏡で確認しても改竄された形跡は無く。内包する紙自体も年代の通りだった。
旧王家の国印。タタラ家の証印。商業ギルドの証印。
誓約書の内容も手紙内容と同じ。
全てが完璧。完璧過ぎて気持ちが悪い。そして幾つかの疑問も湧く。
「確かにこれは大金です。ちょっとやそっとではお返し出来ません。こちらの鑑定具で拝見しましても一切の虚偽は無く不履行には至りません。しかし…幾つか質問をしたいのですが。何方様がお答えを」
「モデロン」
「では私が」
「1つ。元金が160万にも関わらず。3年間返済されなかったのは何故でしょうか」
「契約成立時に事業が動き。タタラ家が一切支払わずに逃亡。故に国が肩代わりをして業者に配金。国庫が一時底突きしてしまい。返済資金が取り戻せたのが三年後。となっています。その間は国債の発行で遣り繰りを」
「成程。これ程の金額を投資する事業は滅多に無い。ですが誓約書にはその事業内容に付いては一切記載が見当たりません。金だけが動いてしまった形です。その事業内容とは何でしょうか」
モデロンがマキシタンを一瞥。それにマキシタンが頷き返した。
「深海へ潜る為の潜水艇の開発事業です」
「ほぉ…」
潜水艇と来ましたか。
「当時の国家機密に抵触する為。詳細のお話は困難。発足当初から複数に分散化していたとだけ」
「根幹の部分は履歴を残さず。口頭で複数の工房を動かしたとの認識で間違い無いでしょうか」
「その通りにて」
「その事業の取り纏め役が旧タタラ家だったと」
「相違無しかと」
「旧タタラ家の爵位は」
「…当時の、公爵位に違い有りません」
ちょい答えに詰まった。
「では。当主が逃亡して公爵家一族が取り潰されたのだとは思いますが。その時接収された金品は何処へ流れたのでしょうか」
「全て国庫に戻され借金の返済へと」
「成程。ではその差し引き元金はお幾らでしょうか」
「…凡そ半分の八十万だったと」
「再び伺います。元金を半分に。利息も半分に減らせるのに3年間放置された理由とは」
「回収作業に手間取った時間だと」
苦しいねぇ。
「それは可笑しな話です。王国主導であるなら。概算見積もりで帳消しに出来た筈です。どんなに時間を掛けようとも精々3ヶ月。3年は有り得ない。理由をお尋ねしても?」
「全て…」
「モデロン!」
モデロンが掴み掛かったマキシタンの手を払い除け。
「旧王族家の懐に!」
そう言い放った。
「これは面白い。本来半分だった筈の負債を元金のまま我が主1人に背負わせるとは。
旧王族に連なるマキシタン殿。返済額の訂正を求めます。呑めない場合は商業ギルドに掛け合い。全額帳消しとさせて頂きますが」
「余計な真似を!」
モデロンを横から弱々しいグーパン。
「部下に任せたのは貴方です。落ち着いて。どうされるのかのお答えを」
「…訂正する。元金と利息を半分に」
「ご冗談を。利率をお決めになったのは王家。利息が返還されたのも王家。本来消えていた24万。これを元金から差し引いて56万」
「何だと!」
「旧タタラ家一族が粛正された時の死者の総数をお答え願えますか。モデロン殿」
「言うな!」
マキシタンを投げ捨てモデロンが席を立ち。こちら側のソファーの裏手に回り込んだ。
「三百は下らないと聞いています!」
「驚きで言葉も無い。犠牲となった方々にお悔やみを。
出来もしない事業を立ち上げ。金を持っていた旧タタラ家を巻き込み。全責務を当主家に背負わせ。仮初の負債を捏ち上げ。行く末関係者を殺戮。挙句根刮ぎ金品を奪い尽くした」
「や、止め!」
「貴方が加担していた訳では無い。しかし誓約書には名前が刻まれている。責任の一端は貴方にも有ると見ます。
もう一度だけお伺いします。我が主の負債額はお幾らなのでしょうか」
「全額…無効だ」
「無効であるとの証文。ギルドへの無効手続きの申請書。旧タタラ家一族への正当な遺族年金の算出書。算出書の為の念書。各正副2枚で計8枚。今直ぐこの場でお書き下さい」
「遺族年金…だと」
「ご遺族に配布された筈の。23年間分の年金です」
「どうしてそんな物を!」
「可笑しな御人だ。この国は王政を解体した。大統領政を敷く民主国家です。この事が公にされればキタン様だけでなくザムド家全員が巨額の負債を背負って失脚します。
そうしない為には年金と言う形で。過去の行いは行き過ぎだったと謝罪し。地位と名誉の回復を保証するのが筋。
失脚がお望みならば後の4枚は不要です。私はギルドへ虚偽と不正が有ったと報告するのみ」
「書く!書くが一日だけ待っては貰えないか」
「その1日で我々を殺すと」
「そんな事はしない!」
バッグから時計を取り出し平場に置いた。
「この時計で3時間だけお待ちしましょう」
「と、時計…。いったい何処から。いやそのバッグか!」
「急げって言ってんだろ!この糞豚野郎!一家総出で潰れたいのか!!」
「はぁぁ…」
慌てて部屋を飛び出したマキシタンと。1人後ろで涙するモデロン。
「少しは慰めになりましたか?モデロン殿」
「充二分に…」
「泣き止んだら何か軽食を。多分お昼回るんで」
「畏まりました。少し…。少しの間だけ、退席を」
「慌てなくていいですよ。朝は沢山食べて来たんで」
ソファーに座り直して。
「皆座って。楽勝だったろ、フラーメ」
「いったい…何が起きたのやら」
「糞に糞って言っただけ」
「何時もこんな感じよ、スタンは。時々格好いいから目が離せないのよ」
「あーあ。突っ立てただけで終わりかぁ。何処で見抜いたんだ不正が有るって」
「モデロンの怒りに満ちた目をマキシタンに向けた時かな。後は…自分優位の舞台からマキシタンが余裕咬まして降りた時。最初から最後まで自分でやればいいのにさ。こいつアホだなって」
「姉さん。本当に、一人でこれをするお積もりだったのですか?」
「いや無理だよ。無理無理。交渉事なんて二度と関わりたくない」
小さなトラウマを植え付けてしまったようだ。
モデロンが数人の給仕が持って来てくれたサンドイッチを食べ終わった頃に。マキシタンは大統領を連れて来た。
「私がキタンだ。お前がスチュワートか」
「如何にも。お噂では情に厚い熱血漢だと伺いましたが20年も不正を放置されるとは。失望の念を禁じ得ません」
「真実は…。兄王が画策した事。マキシタンは名を使われただけ。しかし、家族として目を閉じて幾らか金を受け取ってしまったのは事実。痛く。闇に葬った積もりが。
四方やこの様な所から暴かれようとは」
潔いのは好感が持てる。
「こちらの要求はどうされるお積りで」
「全面的に、吞もう」
キタンが直筆で書き起こした満額回答の8枚。
年金算出には時間が掛かると。念書に年内迄には正式文を送ると一文が添えられた。
「正式文の送付先はフラーメ嬢宛かスチュワート殿宛か何方なのか」
「そうですね」
立ち上がって首のスカーフを抜き取った。
素の顔を晒し。
「初めまして。タイラント外交官のスターレンです。送付先はヘルメン陛下宛でお願いします」
「スタ…」
「クワンジアからの帰国と同時にフラーメもタイラントに移動した。そんな単純な事にも気付かない。愚かなマキシタンに大切な部下は遣れません。
今回そこの愚か者を成敗しに来ただけだったのですが。全く別の物を掘り起こしてしまいましたね」
「…」
「全ての署名は私が。私と戦争がしたいのなら。開戦する前に是非ともお呼び立てを」
「貴殿と戦争?したいとも思わんな」
「不正の上塗りをお止め頂くのと。二度とフラーメと旧タタラの人間には接触しないと誓って頂ければ結構です」
「誓うとも。誓えるな、マキシタン」
「ち、誓います!」
「友好と誓約の証として。あのフリメニー工房の時計を貴国に寄贈します。外観だけで中身は粗悪品。取り敢えず50年は動きます。丸で、今の政府を表わしている様だと思いませんか」
「これは痛い!この戒めの象徴があの時計か」
「どう捉えるかは今後の対応次第でしょうね」
「心して取り掛かろう」
「少し寄り道をしてから転移道具で帰国します。合わせてその許可を」
「出そう。各地への通達は私が処理する。次会う時は正式な外交の場で」
「その時を楽しみにして置きます」
正書4枚を引き取り。出入り口扉の脇で佇むモデロンに「またな」と声を掛けて退出しようとした所で。
「お待ち下さいスターレン様。寄り道とは南方でしょうか」
「そこも有るね」
「では私もご一緒にお連れ下さい。フラーメお嬢様に。是非ご覧頂きたい場所が有るのです」
「私に?」
「はい。詳細は現地にて。旧タタラ家の跡地に。誰にも開けられない地下扉が有ります。もしかしたらお嬢様にならと」
「それは興味深いな。だったら明日の昼前にエリュライトのロビーに来て」
「必ず伺います」
その日。ホテルの空き室に男子部屋を設け最上階で夜遅くまで打上げ会を催した。
---------------
昼にモデロンお勧めのレストランで魚介のフルコースを頂き昔話を少々。
「ここの特産ってやっぱり魚介なの?」
「はい。海と山に挟まれた国ですので。海側の主流で言えば烏賊漁が盛ん。大昔に居た海の魔物クラーケンが討伐されてから獲れるようになった紋甲烏賊がお勧めです。
帰りのお土産に是非」
クラーケンの原形って紋甲烏賊だったのか。
「それは買わないとな」
全員素顔とペッツを晒した上でフィーネさんが。
「揚げて良し煮て良し焼いて良し。何でも使えて美味しいのよねぇ」
「粛正の対象となった私の祖父母の家系も漁師をやっていたらしいのです」
「へぇ。じゃあモデロンの家はフラーメの」
「親戚?」
「近くはないですが遠い血筋では有りますね。お嬢様を拝見した時の違和感の正体がスカーフだったとは」
「素顔を見てガッカリした?」
「いいえ。素顔の方が人間らしくて素敵だと。あの異常な美しさは造形美だなと感じていました」
「良い眼力してるな。モデロンは美術品とかの鑑定士に向いてるかも」
「光栄です。早くに亡くなった両親は一時期船の装飾屋を営んでいたとか。そう言う血筋なのかも知れません」
装飾職人か。車のデザインとかで欲しい人材だ。
「駄目よスタン。行く先々で勧誘ばっかしてちゃ」
「読まれた…」
「勧誘?私ならお止めになった方が。見るのは得意でも作る方はセンスの欠片も有りません」
「そかぁ。ま、国内で発掘するか育てるか。モデロンが失職して暇を持て余す事になったら一報頂戴」
「心に留めて置きます。日々マキシタンの内から滲み出る醜い顔を拝むのにも飽きましたし。近く辞職しようとは考ています」
人生色々やね。
昼食を終えて首都を南に出て転移。実は昨晩に一度サンコマイズ手前まで往復しておいた。
「これが転移移動…。移動の苦労が一瞬で」
「これに慣れちゃうと馬車が苦痛でさぁ」
「そうでしょうとも」
町へ北側から入り東方面へ。
クワンたちからも東に空き地が点在していたと聞いた。
その途中で国の駐屯所に立ち寄った。
「これからご案内するのは国有の閉鎖区です。理由はお察しの通りに。キタンからの立入許可は得ています。手続きをして参りますので待合室で少しお待ちを」
「了解」
玄関前に居た衛兵と中に居た数人に軽く手を振り。
「私の客だ。お茶をお入れしろ」
「ハッ!」
モデロンって結構重役?マキシタンの秘書官なら顔が広いのは当然か。
待合室で寛いでいると何故か俺たちも執務室にお呼ばれ。
誰やねんと思っていたら。
「あぁマホロバさんとニーメンさん。こんな所に居たんだ」
「官邸の駐屯所に居なかったから、あれ?とは思ってたけど。お久し振りです」
「久し振り~。後ろの一方を除いて」
「先回お二人を勝手に帰したのが上にバレまして。見事二人揃って飛ばされました」
「あらま」
「何だか申し訳ないです」
「いいのいいの。役所勤めなんて性に合わなかったから清々したよ。昨日偶々空眺めてたら見覚えの有る鳩さんが一瞬見えたからさ。
まさかなぁて思ってたらやっぱり!てね」
「何時も窓の外ばかり見てサボってますからね」
「まあまあお小言で時間取っちゃいけないよ。モデロンと一緒に来てるって事で何となく事情は察するけど。首都で何が起きたのか話して頂けますか、スターレン殿」
相変わらず掴めない人だな、この人。風属性でも持ってるんだろうか。
昨日の出来事を振り返り説明。
途端にマホロバがお腹抱えて大笑い。
「あぁお腹痛い…。キタンとマキシタンを同時に捻じ伏せるなんてどんな曲芸だよ。いやぁ笑った」
「成り行きで。マキシタンが低脳で良かった」
「再来年に次期大統領選が控えてるから。続投狙いのキタンは丸飲みするしか無かった訳だ」
「成程、通りで潔いなと思った」
「あの人はあの人で頭回るからね。まあこれで身に染みたっしょ、スターレン殿を敵に回しちゃ拙いって。そしてそちらの御婦人がフラーメお嬢様か」
「昨日からむず痒い。お嬢様って柄でも無いさ。それにここに居た記憶もぼんやりで」
「無理もないよ。皆子供だったんだから。先に言うと家の親父は粛正を執行した側の馬鹿」
「当家もオキナ家の従家でしたのでそちら側。私は衛生兵見習いで訳も解らず従軍していました」
とニーメンが付け加えた。
複雑な表情のモデロンが。
「不思議な物です。両側の人間が時を経てここに介するのは何とも」
「思い出に耽るのはこれ程に。あの場所に入るなら我らも同行しても宜しいかな。フラーメ嬢の許しが得られるなら」
「私は別に。墓が有るなら墓参りにと思って来てるだけさ」
フラーメの視線を受けたアローマも頷いた。
「残念ながらお墓は存在しない。歴史から掻き消された家だからね。では参ろう。扉がもし開くなら。何か供養になる物が眠っているかも知れないし」
残りの俺たちは部外者だしな。
文句無く全員で移動。
町の東に点在する更地。雑草が茂る場所も見えたが荒れ野ではなくある程度は手入れが施されていた。
売却前提のザムド家の土地で。今回の件でそれも白紙に戻されるとモデロンは語った。
空き地の中でも一際広い場所。そこが旧タタラ家の敷地。
その片隅に建つ不自然な小屋。一見すると資材を置く為の納屋だ。
「あの小屋の下に扉が有ります。ここから少し北に管理者たちの住居。私の生家が在るのでご休憩やトイレはそちらにご案内致します」
丁寧なモデロンの案内を聞き若干行きたい気もする。時間が掛かるならそちらを借りよう。
「この土地の所有権は必ずフラーメ様へ戻されます。当然中に有る物、有った物も全て。その処理は私が監視しますのでお任せを。仮に私が消されたら。マホロバ氏を通じて鉄鎚を喰らわせてやって下さい」
「引き受けた」
「大丈夫だよ。大統領選が終わるまでは何も出来ない。動いた瞬間にザムドは滅ぶ。自業自得だね」
なら安心だ。
納屋の中の造りはやはり簡易的な納屋そのもの。がらんどうで荷物の類は一切無い。多少の埃と蜘蛛の巣が張っているだけだった。
中央の床に大きな革布が敷かれ。それをモデロンが埃を立てないように巻いて隅に寄せた。
長年開かれなかったであろう床扉が持ち上げられ、塵が舞い、ギシギシとした乾いた音が響いた。
駐屯所から持って来たランタンに火が入れられ浅い地下へと歩み入る。
真っ直ぐに組まれた石階段。その先に広がる空間の奥壁に重厚な鉄板が填め込まれていた。
把手も無ければ鍵穴も無い、2✕1程の2枚板。
その両脇には手が入りそうな小さな凹み。
「「あぁ」」
と呟いたのは俺と嫁さんの2人。
「俺たち以外の3人はちょっと後ろ向いてて」
「ランタンはそのままで。自前の照明道具を使います」
フィーネが腕輪をセットするのを見て。俺がフラーメとアローマを端に呼んだ。
「フラーメが左手を左の穴に。アローマが右手を右に入れてみて。違ったら逆やってみる」
「解った」
「はい」
結果は一発解錠。ガコンと大きな金属音が響き。鉄板の内対面に手が掛けられる凹みが出現した。
フラーメたちが穴から離れてから。
「開きました。もう前向いていいですよ」
「よいしょ」とフィーネが観音扉を手前にご開帳。
初めて開かれたのか少し地面が抉れた。
ズリズリ音の後で扉の中の淡い照明が点灯し、持参した道具は不要となった。
「おぉ…」皆一様に等しく漏らした。
その空間に有ったのは金銀財宝などではない。骨董品や美術土器でもない。
真ん中には何の変哲もない作業台と椅子。
壁中に貼られていたのは。夢を描いた船の図面たち。
古びて朽ちて文字は朧気だったが挿絵の数々はそれが船である事を雄弁に物語っていた。
「潜水艇の図面か」
これにモデロンが答えた。
「記録には有りませんが恐らくは。詳細図は全てここに集約されていた。だからザムド家は失敗した…」
「全部が嘘って訳でもなかったんだな。事業が出発する時までは」
「どうでしょうかね。先代王は既に土の中ですので」
「スタン。作業台の図面に埋もれて手紙が有るわ」
「手紙?」
作業台の上に乱雑に置かれた図面に折り重なって数枚の便箋が取り出せた。
紙はボロボロで頼りなく。インクも掠れて殆ど読めない。
取り出せた順番でそっと並べて婆ちゃんの片眼鏡を取り出した。
「フラーメが読む?」
「私はいい。多分泣いちゃうから。代わりにお願い」
アローマも小さく頷いた。
「では代わりに」
「~本文~
我らは騙された。当家だけではない。一族全てが。
ケダム唯一人に。
夢を追おう。共に船を造ろう。遙か深海に眠るあの場所へ行こうと。
そんな甘い囁きに乗ったのが全ての間違いだった。
ここを奴に見せる前で本当に良かった。
奴と夢を語り合った日々が眉唾だったと気付く頃には手遅れだった。
奴を信じた愚かな私を許して欲しい。
この部屋を締め切る事に決め。娘たちを鍵とした。
家族だけで逃げ出す準備を整えた。私たちが何処かで生きてさえいれば、救われる人々も多い筈だと。
家族は共に居られない。生まれたばかりでここの記憶が無いミルフィンを何処かで手放さなければならない。
身を切られる想いを胸に。嫌だと泣き叫ぶ妻を説得するのには苦労した。
もう時間が無い。
この世に神が実在するなら懇願する。
娘たちが無事に生き。やがてこの場所に辿り着けるようにと願い。
私はこの工房を閉じる。
~ラハン・ボル・タタラ~」
「前言撤回!屑は端から屑でしたと」
「その様です」
「それと。ヤンに依頼する将来の案件が増えた。喧嘩別れしても2人共手放さないから宜しく!」
「わ、解ったよ。絶対に別れません!」
「良し!そうと決まればここの図面を全部一文一句残らず新品の紙に書き写す。明日までここに籠って。
フィーネはパージェントで大判の上質紙大量購入。その他の人で何か食事差し入れて。
3人はここに誰も近付かないように手配して」
「はい!」
他人の夢を引き継ぐのは簡単な事じゃない。全ての作業を終えるのに翌日の昼過ぎまで掛かった。
外の敷地にコテージを出して。トイレや仮眠をした以外は全て転写に没頭した。
造船図の他にも沢山の技術が詰め込まれていた。最たる物は生体認証システム。王都の宝物殿だったり、ラフドッグの造船所だったり、ここの鍵だったりと似た様な物は幾つも有る。
それらの起源ではないかと思われる物が書き込まれていたのだ。
ひょっとしたらベルさんの最終巻に詳細が書かれている気もする。
これは自走車にはどうしても必要な防犯システムだ。免許を持つ者以外は動かせない。そんな物を取り入れたい。
最悪、陛下に土下座して見せて貰うのもいいな。
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