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第二章
解放⑤
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「入人さん‥?えっと」
困った顔で首を傾げ、状況の整理を試みるが叶わず困惑している。
記憶操作も出来ると言うことが分かった。
顔が終始ニヤけている俺に「どうかしました?」と聞いてくる。
「いや、さっきからずっと話かけていたのに山辺さん返事もせずに上の空だったからさ」
「え、嘘!ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝って来る彼女。こちらの方こそ‥いや、申し訳なさは微塵もない。彼女を裏で操れているという充実感のみ俺の中で残っている。
「どんな会話をしていたのか覚えてる?」
「え?えーっと‥」
「ショックだなぁ。相談に乗ってくれるって言ってくれたのに」
相談、と呟いた後「あ!相談!」と嬉々とした表情で両手を叩いた。
「思い出しました!そうだった。入人さん、何か相談があるんですよね?」
いつも通りの彼女だ。
先程まで、自分が性事情を打ち明けていたという事も覚えていないのだろう。
「うん。でも、今日は疲れているようだしまた今度にするよ」
「え、いいんですか?‥ごめんなさい。でも、私もちょっとやらないといけない事があって」
その言葉を聞き、また自分の口角が上がるのが分かる。
「へぇ。食事作り?確か、彼氏と同棲してるんだよね」
「いや、今日も彼氏は、ってあれ?彼氏と同棲してること言いましたっけ?」
おっと、まずい。その情報はアプリから知った事だ。
俺は「言ってたよ」と言うと、そうだったっけ、と困ったような顔になった。
「私、中々言わないんですけど、あ、でも彼氏のことは言いましたね。その時かなぁ」
「そうそう。ほら、やっぱり疲れてるんだよ」
そうかもしれません、えへへ、と少女のように笑う。
「やる事もあるのに呼び止めてごめんね。また時間がある時に聞いてほしいな」
「こちらこそ、ごめんなさい。どうしても彼がいない時にしなくちゃいけなくて」
「‥へぇ。そんなに大事な事なんだ」
「大事な事‥。そうですね、きっと、大事‥彼の」
アプリを起動していないのに、彼女の表情が一瞬虚ろになるのが分かった。
完全に催眠下にあると見ていいだろう。
パチン、と俺が軽く指を鳴らすとハッと覚醒する。
「それじゃあ、またね」
「あ、はい、また」
信号の点滅に気づいた彼女は、やばっ、と慌てた様子で走り出した。
お勉強頑張ってね。次会う時が楽しみだ。
「おっと」
興奮しすぎた俺は、暫くその場から動けなかった。
———
——
—
すっかり日は落ちてしまったが、最後にやる事がある。
時刻は22.00。
まだこの時間なら起きているだろう。
俺は催眠アプリを開き、名簿のタ行をタップした。
—————————————————————
高良美兎 16歳。
ランク☆1
一言‥従兄妹の入人の事を異性として好き。
—————————————————————
従兄妹の美兎。
彼女はそれこそ赤子の時から知っており、関係性から考えるとランク1なのは分かっていた。
異性として好き。これも別段驚く内容ではない。彼女の反応からおおよそ予想はついていた。
可愛くて優しい思いやりのある子。
そんな彼女に催眠をかける。
何故だろう。
今の俺には何の躊躇もなかった。
ズキンと頭が痛む。
自転車で約10分の距離。
インターホンを鳴らすと、はい、と美兎の声が聞こえた。
「夜遅くにごめん。入人です」
『入人くん?どうしたの。ちょ、ちょっと待ってて』
プツン、と音が消えた後、美兎が出て来るまで数分かかった。
玄関の扉が開くと、顔を隠しながら彼女が出て来る。
「どうしたの、こんな時間に」
「ごめん、ちょっと忘れ物をしてさ」
「別に連絡してくれたら‥あ、消したんだっけ」
隠している手を少しずらし、美兎の大きい目が覗いた。
困った顔で首を傾げ、状況の整理を試みるが叶わず困惑している。
記憶操作も出来ると言うことが分かった。
顔が終始ニヤけている俺に「どうかしました?」と聞いてくる。
「いや、さっきからずっと話かけていたのに山辺さん返事もせずに上の空だったからさ」
「え、嘘!ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝って来る彼女。こちらの方こそ‥いや、申し訳なさは微塵もない。彼女を裏で操れているという充実感のみ俺の中で残っている。
「どんな会話をしていたのか覚えてる?」
「え?えーっと‥」
「ショックだなぁ。相談に乗ってくれるって言ってくれたのに」
相談、と呟いた後「あ!相談!」と嬉々とした表情で両手を叩いた。
「思い出しました!そうだった。入人さん、何か相談があるんですよね?」
いつも通りの彼女だ。
先程まで、自分が性事情を打ち明けていたという事も覚えていないのだろう。
「うん。でも、今日は疲れているようだしまた今度にするよ」
「え、いいんですか?‥ごめんなさい。でも、私もちょっとやらないといけない事があって」
その言葉を聞き、また自分の口角が上がるのが分かる。
「へぇ。食事作り?確か、彼氏と同棲してるんだよね」
「いや、今日も彼氏は、ってあれ?彼氏と同棲してること言いましたっけ?」
おっと、まずい。その情報はアプリから知った事だ。
俺は「言ってたよ」と言うと、そうだったっけ、と困ったような顔になった。
「私、中々言わないんですけど、あ、でも彼氏のことは言いましたね。その時かなぁ」
「そうそう。ほら、やっぱり疲れてるんだよ」
そうかもしれません、えへへ、と少女のように笑う。
「やる事もあるのに呼び止めてごめんね。また時間がある時に聞いてほしいな」
「こちらこそ、ごめんなさい。どうしても彼がいない時にしなくちゃいけなくて」
「‥へぇ。そんなに大事な事なんだ」
「大事な事‥。そうですね、きっと、大事‥彼の」
アプリを起動していないのに、彼女の表情が一瞬虚ろになるのが分かった。
完全に催眠下にあると見ていいだろう。
パチン、と俺が軽く指を鳴らすとハッと覚醒する。
「それじゃあ、またね」
「あ、はい、また」
信号の点滅に気づいた彼女は、やばっ、と慌てた様子で走り出した。
お勉強頑張ってね。次会う時が楽しみだ。
「おっと」
興奮しすぎた俺は、暫くその場から動けなかった。
———
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すっかり日は落ちてしまったが、最後にやる事がある。
時刻は22.00。
まだこの時間なら起きているだろう。
俺は催眠アプリを開き、名簿のタ行をタップした。
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高良美兎 16歳。
ランク☆1
一言‥従兄妹の入人の事を異性として好き。
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従兄妹の美兎。
彼女はそれこそ赤子の時から知っており、関係性から考えるとランク1なのは分かっていた。
異性として好き。これも別段驚く内容ではない。彼女の反応からおおよそ予想はついていた。
可愛くて優しい思いやりのある子。
そんな彼女に催眠をかける。
何故だろう。
今の俺には何の躊躇もなかった。
ズキンと頭が痛む。
自転車で約10分の距離。
インターホンを鳴らすと、はい、と美兎の声が聞こえた。
「夜遅くにごめん。入人です」
『入人くん?どうしたの。ちょ、ちょっと待ってて』
プツン、と音が消えた後、美兎が出て来るまで数分かかった。
玄関の扉が開くと、顔を隠しながら彼女が出て来る。
「どうしたの、こんな時間に」
「ごめん、ちょっと忘れ物をしてさ」
「別に連絡してくれたら‥あ、消したんだっけ」
隠している手を少しずらし、美兎の大きい目が覗いた。
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