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第四章

権力者は思うがままに命ずる②

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「ヒアリングだろう。校長室にいるので、30分ほどしたら木本先生を呼んでくれ」

「分かりました」

教頭が頭を下げ、その場から離れた。

腕時計を確認する。木本君のヒアリングはそう時間は掛からないだろう。しかし、その後も五人ほど教師たちが控えている。

これは時間が掛かる。

今日は妻との結婚記念日なので、なるべく早く帰らなければいけないというのに。

私は「ふぅ」と息を吐き、隣の校長室へと向かった。

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「では、頑張って」

「‥失礼します」

弱々しく立ち上がり、木本君はよろけながら校長室を出ていった。

「全く」

我ながら、何故あのような人物を採用したのだろうと今更ながら後悔している。

いくら人材不足とはいえ、もう少しまともな人物がいたのではないか。

軽く伸びをして背筋を伸ばす。
少し気を引き締めなければならない。何故なら次は‥。

ノックの音が三回した。

「どうぞ」

「失礼します」

木本君とは打って変わって、ハキハキとした声と無駄のない動きで大門先生が入ってくる。

「やぁ」

立ち上がり、調子はどうだい、と聞くと「お陰様で」と爽やかな笑顔が返ってきた。

彼は私が教壇に立っていた頃からの教え子だ。
当時からずば抜けて優秀だったが、そうい人間が落ちぶれていく様を知っている私は、彼もそうなるのではないかと少し不安に思ったものだ。しかし、その不安は杞憂に終わった。

「先生こそ、お疲れのようで」

「あぁ、分かるかね。少し、肩が凝っていてね」

「それはそれは。ご自愛下さい」

大人になった彼は、更に優れた人格者になっていた。
ゆくゆくは、我が校の校長にまで登ってほしいものだが。

「どうだね、生徒会は」

「そうですね。皆優秀ですよ。流石、先帝高校の生徒会メンバーといったところです」

そうだろう、と私は自分のことのように誇らしげに頷いた。

「しかし、彼女たちを担当した教師が何人も辞めてしまってね。優秀過ぎるというのも考えものだよ。まぁ、今は君が来てくれたので結果だけを見ると良かったが」

「先生が掲げた、学校=競争社会の理念の結果ともいえますが」

私は一瞬、言葉の意味が理解できず首を傾げた。

「その辞めていった教師達は、学校という枠組みの中での競争社会に敗れていったんですよ。生徒会の面々と比べて能力が低かった。それに見合うだけの力量が無かっただけの話」

「‥中々手厳しいね」

私は、自分の笑顔が引きつるのが分かった。
大門入人はここまで冷たい言葉を吐く人間だっただろうか。当時から心の奥底は読めない生徒だったが。

「先生、僕は先生にとって、優秀な生徒だったでしょうか?」

その発言には少し懐かしさを覚えた。まだ高校生だった彼の幼さが残る顔が甦る。

「何を言うかと思えば」

思わず苦笑する。

「当たり前じゃないか。私が見てきた中で最も優秀だ。そうでなければ君を採用したりしないよ」

少し間を置いた後、「‥でしょうね」と何かを諦めたかのように笑った。
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