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[13話] 俺は幼馴染の隣にいる
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<イリス視点>
ウチは我が子が大好きじゃ。
ウチから生まれた大切な天使。
自由にすくすくと育って欲しい。
好きなことをして、幸せに生きて欲しい。
だから、ウチには止められなかったのじゃ。
ある我が子は人間に恋をした。
いいのじゃ。誰を好きになろうが自由なのじゃ。
だけどのぅ、人間とウチたちは別の存在なのじゃ。
人間にウチたちの遺伝子を交わせてしまうことをしてはならん。
そうしたら、天使でも人間でもない存在が生まれてしまうからの。
じゃが、幸せそうな我が子を止めることは、ウチにはできんかった。
あれから100年と少し経ったかのう。
こうなることは分かっていたのじゃが、ウチも歳かのう。
最近、涙が出やすくて。
早く終わらせてしまいたいのじゃ。
「イリスさん」
聞きなれた声がするのぅ。
切っても切れない縁とはこのことじゃ。
この死神はしつこくウチに会いに来る。
ウチが生まれてすぐの時も、ウチに初めて我が子ができた時も、初めて我が子を土に還した時も。
もう何千年一緒にいるのか覚えておらん。
こやつにとってはウチは子供なのじゃろう。どのくらい先に生まれていたのかは聞いたことがなかったが、ウチの傍にはずっとこやつがおった。
我が子も増えて、寂しい思いをすることは少なかったかもしれんのぅ。
「イリスさん、僕の声が聞こえていますか?」
ここ最近こやつとは会っておらんかったが、そのあいだウチは天使病になった人間を最期まで見届けていた。
本来まだ生きれた人間を最期まで見届けるのは堪えたのぅ。
仕方ないのじゃ。ウチが我が子を叱らなかったせい。自業自得というやつじゃ。
天使病になった人間の魂もそこら中におったのじゃろう。魂は先に身体から離れてしまうのじゃ。じゃからこやつも魂を食べるのに忙しかったじゃろうに。
じゃから100年と少しの間、会いに来なかったのじゃろう。
でも、ウチはずっと待っていたのかもしれん。
こうやって抱きしめられるのは久々じゃのぅ。
相変わらず大きな体をしておる。やはり背が高くなったの。
「イリスさん、彼は人間です。天使病になったエレナさんを救いに来たのですよ」
「そうか……でも、我が子はもう……」
「諦めるにはまだ早いとは思いませんか?」
振り向いて顔を見ると、嬉しそうに微笑まれてしもうた。
どういうことなのじゃ。何か策があるとでもいうのか。
お主がそんなに信頼できる人間なのか?
この人間は何者なのじゃ。
本当に人間なのじゃろうか。
強い意志を感じる瞳は真っ直ぐにウチに向けられておる。
久々に見た人間は、こんなにも進化していたのじゃのぅ。
可能性があるかはわからんが、話し相手にでもなってくれるじゃろうか?
◆◇◆
<テオ視点>
「お主は……我が子の、知り合いか?」
デスに拘束されたまま、イリスは俺を見続ける。
「エレナは俺の幼馴染だ。エレナを解放してくれ」
「それは、無理な相談じゃのぅ」
「どうしてだ!?」
イリスの顔が少し落ち込んだように見えた。
どうしてそんな顔をするのか分からない。もっと近くで見ればイリスの気持が分かるだろうか。
俺に空を飛べる翼があればよかったのに。
「分かるじゃろ。こやつは天使病になった。人間を喰うだけの化け物じゃ。だからウチは責任をもって我が子の最期を見届けねばなるまい」
「……ならちゃんと俺にも話してほしい。俺はエレナの幼馴染だ。知る権利はあるだろ?」
イリスの顔が驚きに変わる。
大人しくなったイリスの拘束を解いたデスは、イリスの背中を押した。
イリスは落ちるように俺の前へ飛んでくる。
「天使病は……天使と人間が愛し合った結果なのじゃ。止めなかったウチに全ての責任がある」
「じゃあ、天使病を治す方法は……」
「ないのじゃ。人間を食べられてしまえば、ウチのもとへ人間が運ばれてこなくなってしまう。そうなれば人間は転生できずにいずれ絶滅するじゃろう。そして使命を失った天使も、ウチの心も……」
うつむいてしまったイリスの頭に手を置く。
なんだか放っておけないんだ。
見た目が子供だからとか、そういう理由じゃない。
よく分からないけど、俺の直感がそう言うのだからそうなのだろう。
「人間は絶滅しない。天使だって悪魔だって同じだ。だって家族や友達がいなくなるのは辛いだろ」
イリスは目を見開いて俺を見た。信じられないようなものを見る目で。
「だから俺はどうしても生きる方法を見つける」
反対されても俺はエレナと人間として生きるんだ。
そのためにここへやって来た。
「じゃけど……ウチは、我が子を手に掛けねばならないのじゃっっ」
俺の手を振り払ったイリスは、震えながら俺を見つめる。
イリスの体から虹色のオーラのようなものが放たれて、十字架へ向かって飛んでいく。
これはなんなんだ。
イリスの感情のようにも魔法のようにも感じて、そのオーラは十字架へ飛び続けている。
「イリスさんッ!」
デスがイリスに向かって飛んでくる。
俺はイリスから目が離せなかった。
「ウチは、我が子を失いとうない!!」
オーラを放ち続けながら大粒の涙を流しているイリスを抱きしめたデスを、目の前で見ることしか俺にはできなくて。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
十字架の方から聞こえて来た叫び声に、ゆっくりと視線を向ければ、
「え、れな……」
十字架の周りにイリスから放たれたオーラが纏っていて。
このオーラは天使病を加速する呪いのようにも見えて。
その呪いに共鳴するように建物が揺れていて。
だけどこの揺れは、
エレナがもがき苦しんで震えているから。
「エレナッッ!!」
走り出した俺を止める声が聞こえた気がする。
だけど俺は一目散に十字架へ向かう。
どうしてこうなったとか、どうすればよかったのかとか、よく分からない。
誰のせいでもない。
誰か1人を責めたくはない。
俺にだってできたことがあったはずだから。
もっと知っておけばよかった。
天使病のこと。天使のこと。神様のこと。悪魔のこと。死神のこと。人間のこと。
色んなことを知って対策を練っておけば、こんなに苦しい声が広がることはなかったのに。
だけど今、俺にはやるべきことがひとつある。
幼馴染が苦しんでいるから、
「エレナ……っ」
抱きしめて、頭を撫でてやることが、俺のやるべきことだ。
俺の胸の中でエレナが暴れる。
今度こそ絶対に離さない。
「エレナ……ッ、俺がッ隣にいるから……ッ、泣くんじゃねえよ……ッ」
触れた身体から感情が伝わってきて、俺も震える。
これがエレナが感じていた、苦しみ。
痛み。
悲しみ。
怒り。
不安。
焦り。
天使になるって、こういうことなんだな。
ウチは我が子が大好きじゃ。
ウチから生まれた大切な天使。
自由にすくすくと育って欲しい。
好きなことをして、幸せに生きて欲しい。
だから、ウチには止められなかったのじゃ。
ある我が子は人間に恋をした。
いいのじゃ。誰を好きになろうが自由なのじゃ。
だけどのぅ、人間とウチたちは別の存在なのじゃ。
人間にウチたちの遺伝子を交わせてしまうことをしてはならん。
そうしたら、天使でも人間でもない存在が生まれてしまうからの。
じゃが、幸せそうな我が子を止めることは、ウチにはできんかった。
あれから100年と少し経ったかのう。
こうなることは分かっていたのじゃが、ウチも歳かのう。
最近、涙が出やすくて。
早く終わらせてしまいたいのじゃ。
「イリスさん」
聞きなれた声がするのぅ。
切っても切れない縁とはこのことじゃ。
この死神はしつこくウチに会いに来る。
ウチが生まれてすぐの時も、ウチに初めて我が子ができた時も、初めて我が子を土に還した時も。
もう何千年一緒にいるのか覚えておらん。
こやつにとってはウチは子供なのじゃろう。どのくらい先に生まれていたのかは聞いたことがなかったが、ウチの傍にはずっとこやつがおった。
我が子も増えて、寂しい思いをすることは少なかったかもしれんのぅ。
「イリスさん、僕の声が聞こえていますか?」
ここ最近こやつとは会っておらんかったが、そのあいだウチは天使病になった人間を最期まで見届けていた。
本来まだ生きれた人間を最期まで見届けるのは堪えたのぅ。
仕方ないのじゃ。ウチが我が子を叱らなかったせい。自業自得というやつじゃ。
天使病になった人間の魂もそこら中におったのじゃろう。魂は先に身体から離れてしまうのじゃ。じゃからこやつも魂を食べるのに忙しかったじゃろうに。
じゃから100年と少しの間、会いに来なかったのじゃろう。
でも、ウチはずっと待っていたのかもしれん。
こうやって抱きしめられるのは久々じゃのぅ。
相変わらず大きな体をしておる。やはり背が高くなったの。
「イリスさん、彼は人間です。天使病になったエレナさんを救いに来たのですよ」
「そうか……でも、我が子はもう……」
「諦めるにはまだ早いとは思いませんか?」
振り向いて顔を見ると、嬉しそうに微笑まれてしもうた。
どういうことなのじゃ。何か策があるとでもいうのか。
お主がそんなに信頼できる人間なのか?
この人間は何者なのじゃ。
本当に人間なのじゃろうか。
強い意志を感じる瞳は真っ直ぐにウチに向けられておる。
久々に見た人間は、こんなにも進化していたのじゃのぅ。
可能性があるかはわからんが、話し相手にでもなってくれるじゃろうか?
◆◇◆
<テオ視点>
「お主は……我が子の、知り合いか?」
デスに拘束されたまま、イリスは俺を見続ける。
「エレナは俺の幼馴染だ。エレナを解放してくれ」
「それは、無理な相談じゃのぅ」
「どうしてだ!?」
イリスの顔が少し落ち込んだように見えた。
どうしてそんな顔をするのか分からない。もっと近くで見ればイリスの気持が分かるだろうか。
俺に空を飛べる翼があればよかったのに。
「分かるじゃろ。こやつは天使病になった。人間を喰うだけの化け物じゃ。だからウチは責任をもって我が子の最期を見届けねばなるまい」
「……ならちゃんと俺にも話してほしい。俺はエレナの幼馴染だ。知る権利はあるだろ?」
イリスの顔が驚きに変わる。
大人しくなったイリスの拘束を解いたデスは、イリスの背中を押した。
イリスは落ちるように俺の前へ飛んでくる。
「天使病は……天使と人間が愛し合った結果なのじゃ。止めなかったウチに全ての責任がある」
「じゃあ、天使病を治す方法は……」
「ないのじゃ。人間を食べられてしまえば、ウチのもとへ人間が運ばれてこなくなってしまう。そうなれば人間は転生できずにいずれ絶滅するじゃろう。そして使命を失った天使も、ウチの心も……」
うつむいてしまったイリスの頭に手を置く。
なんだか放っておけないんだ。
見た目が子供だからとか、そういう理由じゃない。
よく分からないけど、俺の直感がそう言うのだからそうなのだろう。
「人間は絶滅しない。天使だって悪魔だって同じだ。だって家族や友達がいなくなるのは辛いだろ」
イリスは目を見開いて俺を見た。信じられないようなものを見る目で。
「だから俺はどうしても生きる方法を見つける」
反対されても俺はエレナと人間として生きるんだ。
そのためにここへやって来た。
「じゃけど……ウチは、我が子を手に掛けねばならないのじゃっっ」
俺の手を振り払ったイリスは、震えながら俺を見つめる。
イリスの体から虹色のオーラのようなものが放たれて、十字架へ向かって飛んでいく。
これはなんなんだ。
イリスの感情のようにも魔法のようにも感じて、そのオーラは十字架へ飛び続けている。
「イリスさんッ!」
デスがイリスに向かって飛んでくる。
俺はイリスから目が離せなかった。
「ウチは、我が子を失いとうない!!」
オーラを放ち続けながら大粒の涙を流しているイリスを抱きしめたデスを、目の前で見ることしか俺にはできなくて。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
十字架の方から聞こえて来た叫び声に、ゆっくりと視線を向ければ、
「え、れな……」
十字架の周りにイリスから放たれたオーラが纏っていて。
このオーラは天使病を加速する呪いのようにも見えて。
その呪いに共鳴するように建物が揺れていて。
だけどこの揺れは、
エレナがもがき苦しんで震えているから。
「エレナッッ!!」
走り出した俺を止める声が聞こえた気がする。
だけど俺は一目散に十字架へ向かう。
どうしてこうなったとか、どうすればよかったのかとか、よく分からない。
誰のせいでもない。
誰か1人を責めたくはない。
俺にだってできたことがあったはずだから。
もっと知っておけばよかった。
天使病のこと。天使のこと。神様のこと。悪魔のこと。死神のこと。人間のこと。
色んなことを知って対策を練っておけば、こんなに苦しい声が広がることはなかったのに。
だけど今、俺にはやるべきことがひとつある。
幼馴染が苦しんでいるから、
「エレナ……っ」
抱きしめて、頭を撫でてやることが、俺のやるべきことだ。
俺の胸の中でエレナが暴れる。
今度こそ絶対に離さない。
「エレナ……ッ、俺がッ隣にいるから……ッ、泣くんじゃねえよ……ッ」
触れた身体から感情が伝わってきて、俺も震える。
これがエレナが感じていた、苦しみ。
痛み。
悲しみ。
怒り。
不安。
焦り。
天使になるって、こういうことなんだな。
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