CLOVER±H【天使病】 ~天使のように可愛い幼馴染が天使(化け物)になったので救いの旅に出たけど、悪魔に捕まってしまった~

響城藍

文字の大きさ
14 / 26

[14話] どうしてもキミを助けたい

しおりを挟む
<デス視点>


 僕は結局、何もできなかったのですね。
 イリスさんを泣かせてしまって、テオさんを止めることができなくて。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 エレナさんを抱きしめて叫ぶテオさんを見ているのが苦しくなります。
 だけどしっかりと見ていなければなりません。
 ゆっくりとテオさんの背中から天使の翼が生え始めました。
 やはり貴方は、天使病になっていた。
 きっと、生まれた時からずっと。
 僕がテオさんに初めてお会いした時、天使の残り香を感じていました。
 残り香というにはあまりにも近くにあったので、ずっと疑問を抱いていましたが。

「テオさん、貴方は……すごい人です」

 天使病になった人間は自我を失います。
 エレナさんは少しだけ自我を取り戻したと伺っていましたが、テオさんは生まれてからずっと、人間の中に天使が存在し続けていた。
 それでも貴方は、人間で居続けた。
 いいえ、人間と天使で居続けた。
 希望というものは、こういうものを言うのかもしれません。

「イリスさん、顔を上げてください」
「嫌じゃ……もう我が子の最期は見とうない」
「イリスさん、僕たち死神と神様は死ぬことはありません。だけど人間も天使も悪魔もいずれは土に還るのです。僕たちはそれを見届けなければなりません。それが僕たちの使命なのですから」

 イリスさんを後ろから抱きしめたまま、僕は十字架に寄り添うテオさんとエレナさんを見上げます。
 苦しい叫び声は絶えずに聞こえてきて、彼らが天使になる姿を見続けます。

「僕はテオさんとエレナさんが美しいと思います」
「……っ、」

 僕の声でイリスさんは、エレナさんを抱きしめるテオさんを見ました。
 僕の手に温かい涙が零れ続けますが、僕は貴方には笑っていて欲しいのですよ。

「美しいものはずっと眺めていたいものです。さて、どうしましょうかねぇ」
「……ウチには分からん。じゃが、こんなに美しいものを見たのは久しぶりじゃの」

 抱きしめる力を少し強めれば、イリスさんは僕の腕に手を添えてくれました。

「100年と少しの間、ずっと1人で頑張りましたね」
「……お主の優しいそういうところは、嫌いじゃないのぅ」
「ふふふっ、貴方の素直じゃないそういうところは嫌いじゃありませんね」
 やはりイリスさんの笑い声は好きですね。
 だから尚更、このままではいけないと思います。

「デス」
「デス様……コフィンは、コフィンはイヤですよ……」
「リリィは、いいですか?」
「うん」

 僕の横にやって来たリリィとコフィンの姿を捉えて、僕は微笑んでリリィを見つめます。
 イリスさんを離して、リリィの肩に手を添え、見つめ続けます。

「コフィン、しっかりと見ていてくださいね」

 そう言ってリリィに視線を向けたまま、僕はリリィの首筋を噛みます。
 悪魔と天使は200年で土に還る生き物です。200年経った瞬間に塵となって消えて行きます。
 僕の悪魔こどもには最期に料理してもいいか聞いているのです。人間の魂と同じように、僕の栄養となるか土に還るのか、最後にはわがままを聞いてあげたいですから。
 リリィは僕の栄養となることを選びました。
 さて、リリィはどんな顔を魅せてくれるでしょうか。

「あ……」

 首筋を噛んでいるのは演出としてでもありますが、塵となっていく身体を吸うには近づかなければならないということが1番でしょうか。
 リリィの熱い吐息が僕の顔に掛かりました。

「ぁっ、リリィ、食べられて、る……? デスに、食べられてるっ!! 痛いッけどっ嬉しいのッッ! ずっと、楽しみにしていたからっ、あはっ、ねえもっともっともーーーーと、リリィを食べてッ、あっどこ……見えない、怖い、こわいよっ、ヤダ、やだいやだいやだダメだめぁあっだいすき――――」

 土に還るリリィをすべて吸い終えると、リリィの存在は消えてしまいます。
 僕は何度も悪魔たちの最期を見届けてきました。

「リリィ……ちゃん……?」

 でもコフィンは初めて仲間の最期を見届けました。

「リリィちゃん……そんなにしたらっ、コフィンはっ抑えられないよぉっ!」

 コフィンはリリィのことが大好きでしたから、初めて感情表現したリリィに反応してコフィンの中で力が湧いているでしょう。
 リリィの最期の顔も、それを見たコフィンの反応も、予想より遥かにいいものですね。

「コフィン、いけますか?」

 痙攣のように身体が動いているコフィンを見つめると、ずいぶんと熱い視線を向けられました。
 ふふふっ、本当にリリィのことが好きだったのですね。

「今すぐ……いけますよぉっ」
「では、いってください」

 返事をする余裕がないくらいの力を胸に溜めたまま、コフィンはテオさんとエレナさんのもとへ飛んで行きます。
 子守歌でも唄っているのでしょうか。
 2人が大人しくなって行って、コフィンは赤子をあやすように、2人を包んで揺らします。
 コフィンの能力は欲望を増加させることです。
 ただいつものコフィンでは今の2人を大人しくさせることは出来なかったでしょう。
 リリィの最期が重なって、想像以上の最期を迎えて、初めて仲間の最期を見たコフィンがいて。その仲間がコフィンの大好きなリリィだからこそ、今のコフィンは今までで1番の力を発揮しています。

「イリスさん、僕はすごいものを見ているのかもしれません」
「奇遇じゃな、ウチもそんな気がしているわい」

 イリスさんの隣に座って、一緒に十字架を見つめます。
 我が子の成長を見守るというのは、とても嬉しいものですね。

 ◆◇◆

 遠くで声が聞こえる。
 この声は誰のだったか。
 俺はなんだったのか。
 何になろうとしていたのか。

「……さん、……ォさん、ぉきて……」

 あれ、俺は寝ているのか?
 だったら起きないと。
 なんだか大事なことをしていた気がするんだ。
 それがなんだったのか、思い出さなきゃいけない気がする。

「あっ、テオさん、おはよう」
「……あ、れ? 俺ハ、ナにを、?」
「テオさんっ、願ってっ」

 目を凝らしてみると、俺は悪魔に抱きしめられている。
 中性的な悪魔なんて俺の近くにいたか?

「したいことっ、なりたいことっ、全部叶えてあげるっ」

 したいことって何だったかな。
 なりたいことって何だったか。
 そもそも俺は何だったのだろう。

「……ん」

 強く抱きしめられたからか、胸に当たる何かを俺は見る。
 俺は誰かを抱きしめていた?
 いや、抱きしめなければならなかった?
 だって、幼馴染のことは抱きしめて、頭を撫でなければいけないのだ。
 それが、俺のやるべきことだから。

「……こ、ふぃん?」
「あはっ、テオさんっ、早くっ!」

 そうだ、コフィンは俺の願いを叶えてくれる。
 それに俺は、エレナを抱きしめているんだ。叶わないことは何もない。

「俺は、人間として、エレナと一緒に過ごしたいんだッ!!」

 もう絶対にエレナを離さない。
 だからエレナ、目を覚ましてくれ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...