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[14話] どうしてもキミを助けたい
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<デス視点>
僕は結局、何もできなかったのですね。
イリスさんを泣かせてしまって、テオさんを止めることができなくて。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
エレナさんを抱きしめて叫ぶテオさんを見ているのが苦しくなります。
だけどしっかりと見ていなければなりません。
ゆっくりとテオさんの背中から天使の翼が生え始めました。
やはり貴方は、天使病になっていた。
きっと、生まれた時からずっと。
僕がテオさんに初めてお会いした時、天使の残り香を感じていました。
残り香というにはあまりにも近くにあったので、ずっと疑問を抱いていましたが。
「テオさん、貴方は……すごい人です」
天使病になった人間は自我を失います。
エレナさんは少しだけ自我を取り戻したと伺っていましたが、テオさんは生まれてからずっと、人間の中に天使が存在し続けていた。
それでも貴方は、人間で居続けた。
いいえ、人間と天使で居続けた。
希望というものは、こういうものを言うのかもしれません。
「イリスさん、顔を上げてください」
「嫌じゃ……もう我が子の最期は見とうない」
「イリスさん、僕たち死神と神様は死ぬことはありません。だけど人間も天使も悪魔もいずれは土に還るのです。僕たちはそれを見届けなければなりません。それが僕たちの使命なのですから」
イリスさんを後ろから抱きしめたまま、僕は十字架に寄り添うテオさんとエレナさんを見上げます。
苦しい叫び声は絶えずに聞こえてきて、彼らが天使になる姿を見続けます。
「僕はテオさんとエレナさんが美しいと思います」
「……っ、」
僕の声でイリスさんは、エレナさんを抱きしめるテオさんを見ました。
僕の手に温かい涙が零れ続けますが、僕は貴方には笑っていて欲しいのですよ。
「美しいものはずっと眺めていたいものです。さて、どうしましょうかねぇ」
「……ウチには分からん。じゃが、こんなに美しいものを見たのは久しぶりじゃの」
抱きしめる力を少し強めれば、イリスさんは僕の腕に手を添えてくれました。
「100年と少しの間、ずっと1人で頑張りましたね」
「……お主の優しいところは、嫌いじゃないのぅ」
「ふふふっ、貴方の素直じゃないところは嫌いじゃありませんね」
やはりイリスさんの笑い声は好きですね。
だから尚更、このままではいけないと思います。
「デス」
「デス様……コフィンは、コフィンはイヤですよ……」
「リリィは、いいですか?」
「うん」
僕の横にやって来たリリィとコフィンの姿を捉えて、僕は微笑んでリリィを見つめます。
イリスさんを離して、リリィの肩に手を添え、見つめ続けます。
「コフィン、しっかりと見ていてくださいね」
そう言ってリリィに視線を向けたまま、僕はリリィの首筋を噛みます。
悪魔と天使は200年で土に還る生き物です。200年経った瞬間に塵となって消えて行きます。
僕の悪魔には最期に料理してもいいか聞いているのです。人間の魂と同じように、僕の栄養となるか土に還るのか、最後にはわがままを聞いてあげたいですから。
リリィは僕の栄養となることを選びました。
さて、リリィはどんな顔を魅せてくれるでしょうか。
「あ……」
首筋を噛んでいるのは演出としてでもありますが、塵となっていく身体を吸うには近づかなければならないということが1番でしょうか。
リリィの熱い吐息が僕の顔に掛かりました。
「ぁっ、リリィ、食べられて、る……? デスに、食べられてるっ!! 痛いッけどっ嬉しいのッッ! ずっと、楽しみにしていたからっ、あはっ、ねえもっともっともーーーーと、リリィを食べてッ、あっどこ……見えない、怖い、こわいよっ、ヤダ、やだいやだいやだダメだめぁあっだいすき――――」
土に還るリリィをすべて吸い終えると、リリィの存在は消えてしまいます。
僕は何度も悪魔たちの最期を見届けてきました。
「リリィ……ちゃん……?」
でもコフィンは初めて仲間の最期を見届けました。
「リリィちゃん……そんなにしたらっ、コフィンはっ抑えられないよぉっ!」
コフィンはリリィのことが大好きでしたから、初めて感情表現したリリィに反応してコフィンの中で力が湧いているでしょう。
リリィの最期の顔も、それを見たコフィンの反応も、予想より遥かにいいものですね。
「コフィン、いけますか?」
痙攣のように身体が動いているコフィンを見つめると、ずいぶんと熱い視線を向けられました。
ふふふっ、本当にリリィのことが好きだったのですね。
「今すぐ……いけますよぉっ」
「では、いってください」
返事をする余裕がないくらいの力を胸に溜めたまま、コフィンはテオさんとエレナさんのもとへ飛んで行きます。
子守歌でも唄っているのでしょうか。
2人が大人しくなって行って、コフィンは赤子をあやすように、2人を包んで揺らします。
コフィンの能力は欲望を増加させることです。
ただいつものコフィンでは今の2人を大人しくさせることは出来なかったでしょう。
リリィの最期が重なって、想像以上の最期を迎えて、初めて仲間の最期を見たコフィンがいて。その仲間がコフィンの大好きなリリィだからこそ、今のコフィンは今までで1番の力を発揮しています。
「イリスさん、僕はすごいものを見ているのかもしれません」
「奇遇じゃな、ウチもそんな気がしているわい」
イリスさんの隣に座って、一緒に十字架を見つめます。
我が子の成長を見守るというのは、とても嬉しいものですね。
◆◇◆
遠くで声が聞こえる。
この声は誰のだったか。
俺はなんだったのか。
何になろうとしていたのか。
「……さん、……ォさん、ぉきて……」
あれ、俺は寝ているのか?
だったら起きないと。
なんだか大事なことをしていた気がするんだ。
それがなんだったのか、思い出さなきゃいけない気がする。
「あっ、テオさん、おはよう」
「……あ、れ? 俺ハ、ナにを、?」
「テオさんっ、願ってっ」
目を凝らしてみると、俺は悪魔に抱きしめられている。
中性的な悪魔なんて俺の近くにいたか?
「したいことっ、なりたいことっ、全部叶えてあげるっ」
したいことって何だったかな。
なりたいことって何だったか。
そもそも俺は何だったのだろう。
「……ん」
強く抱きしめられたからか、胸に当たる何かを俺は見る。
俺は誰かを抱きしめていた?
いや、抱きしめなければならなかった?
だって、幼馴染のことは抱きしめて、頭を撫でなければいけないのだ。
それが、俺のやるべきことだから。
「……こ、ふぃん?」
「あはっ、テオさんっ、早くっ!」
そうだ、コフィンは俺の願いを叶えてくれる。
それに俺は、エレナを抱きしめているんだ。叶わないことは何もない。
「俺は、人間として、エレナと一緒に過ごしたいんだッ!!」
もう絶対にエレナを離さない。
だからエレナ、目を覚ましてくれ。
僕は結局、何もできなかったのですね。
イリスさんを泣かせてしまって、テオさんを止めることができなくて。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
エレナさんを抱きしめて叫ぶテオさんを見ているのが苦しくなります。
だけどしっかりと見ていなければなりません。
ゆっくりとテオさんの背中から天使の翼が生え始めました。
やはり貴方は、天使病になっていた。
きっと、生まれた時からずっと。
僕がテオさんに初めてお会いした時、天使の残り香を感じていました。
残り香というにはあまりにも近くにあったので、ずっと疑問を抱いていましたが。
「テオさん、貴方は……すごい人です」
天使病になった人間は自我を失います。
エレナさんは少しだけ自我を取り戻したと伺っていましたが、テオさんは生まれてからずっと、人間の中に天使が存在し続けていた。
それでも貴方は、人間で居続けた。
いいえ、人間と天使で居続けた。
希望というものは、こういうものを言うのかもしれません。
「イリスさん、顔を上げてください」
「嫌じゃ……もう我が子の最期は見とうない」
「イリスさん、僕たち死神と神様は死ぬことはありません。だけど人間も天使も悪魔もいずれは土に還るのです。僕たちはそれを見届けなければなりません。それが僕たちの使命なのですから」
イリスさんを後ろから抱きしめたまま、僕は十字架に寄り添うテオさんとエレナさんを見上げます。
苦しい叫び声は絶えずに聞こえてきて、彼らが天使になる姿を見続けます。
「僕はテオさんとエレナさんが美しいと思います」
「……っ、」
僕の声でイリスさんは、エレナさんを抱きしめるテオさんを見ました。
僕の手に温かい涙が零れ続けますが、僕は貴方には笑っていて欲しいのですよ。
「美しいものはずっと眺めていたいものです。さて、どうしましょうかねぇ」
「……ウチには分からん。じゃが、こんなに美しいものを見たのは久しぶりじゃの」
抱きしめる力を少し強めれば、イリスさんは僕の腕に手を添えてくれました。
「100年と少しの間、ずっと1人で頑張りましたね」
「……お主の優しいところは、嫌いじゃないのぅ」
「ふふふっ、貴方の素直じゃないところは嫌いじゃありませんね」
やはりイリスさんの笑い声は好きですね。
だから尚更、このままではいけないと思います。
「デス」
「デス様……コフィンは、コフィンはイヤですよ……」
「リリィは、いいですか?」
「うん」
僕の横にやって来たリリィとコフィンの姿を捉えて、僕は微笑んでリリィを見つめます。
イリスさんを離して、リリィの肩に手を添え、見つめ続けます。
「コフィン、しっかりと見ていてくださいね」
そう言ってリリィに視線を向けたまま、僕はリリィの首筋を噛みます。
悪魔と天使は200年で土に還る生き物です。200年経った瞬間に塵となって消えて行きます。
僕の悪魔には最期に料理してもいいか聞いているのです。人間の魂と同じように、僕の栄養となるか土に還るのか、最後にはわがままを聞いてあげたいですから。
リリィは僕の栄養となることを選びました。
さて、リリィはどんな顔を魅せてくれるでしょうか。
「あ……」
首筋を噛んでいるのは演出としてでもありますが、塵となっていく身体を吸うには近づかなければならないということが1番でしょうか。
リリィの熱い吐息が僕の顔に掛かりました。
「ぁっ、リリィ、食べられて、る……? デスに、食べられてるっ!! 痛いッけどっ嬉しいのッッ! ずっと、楽しみにしていたからっ、あはっ、ねえもっともっともーーーーと、リリィを食べてッ、あっどこ……見えない、怖い、こわいよっ、ヤダ、やだいやだいやだダメだめぁあっだいすき――――」
土に還るリリィをすべて吸い終えると、リリィの存在は消えてしまいます。
僕は何度も悪魔たちの最期を見届けてきました。
「リリィ……ちゃん……?」
でもコフィンは初めて仲間の最期を見届けました。
「リリィちゃん……そんなにしたらっ、コフィンはっ抑えられないよぉっ!」
コフィンはリリィのことが大好きでしたから、初めて感情表現したリリィに反応してコフィンの中で力が湧いているでしょう。
リリィの最期の顔も、それを見たコフィンの反応も、予想より遥かにいいものですね。
「コフィン、いけますか?」
痙攣のように身体が動いているコフィンを見つめると、ずいぶんと熱い視線を向けられました。
ふふふっ、本当にリリィのことが好きだったのですね。
「今すぐ……いけますよぉっ」
「では、いってください」
返事をする余裕がないくらいの力を胸に溜めたまま、コフィンはテオさんとエレナさんのもとへ飛んで行きます。
子守歌でも唄っているのでしょうか。
2人が大人しくなって行って、コフィンは赤子をあやすように、2人を包んで揺らします。
コフィンの能力は欲望を増加させることです。
ただいつものコフィンでは今の2人を大人しくさせることは出来なかったでしょう。
リリィの最期が重なって、想像以上の最期を迎えて、初めて仲間の最期を見たコフィンがいて。その仲間がコフィンの大好きなリリィだからこそ、今のコフィンは今までで1番の力を発揮しています。
「イリスさん、僕はすごいものを見ているのかもしれません」
「奇遇じゃな、ウチもそんな気がしているわい」
イリスさんの隣に座って、一緒に十字架を見つめます。
我が子の成長を見守るというのは、とても嬉しいものですね。
◆◇◆
遠くで声が聞こえる。
この声は誰のだったか。
俺はなんだったのか。
何になろうとしていたのか。
「……さん、……ォさん、ぉきて……」
あれ、俺は寝ているのか?
だったら起きないと。
なんだか大事なことをしていた気がするんだ。
それがなんだったのか、思い出さなきゃいけない気がする。
「あっ、テオさん、おはよう」
「……あ、れ? 俺ハ、ナにを、?」
「テオさんっ、願ってっ」
目を凝らしてみると、俺は悪魔に抱きしめられている。
中性的な悪魔なんて俺の近くにいたか?
「したいことっ、なりたいことっ、全部叶えてあげるっ」
したいことって何だったかな。
なりたいことって何だったか。
そもそも俺は何だったのだろう。
「……ん」
強く抱きしめられたからか、胸に当たる何かを俺は見る。
俺は誰かを抱きしめていた?
いや、抱きしめなければならなかった?
だって、幼馴染のことは抱きしめて、頭を撫でなければいけないのだ。
それが、俺のやるべきことだから。
「……こ、ふぃん?」
「あはっ、テオさんっ、早くっ!」
そうだ、コフィンは俺の願いを叶えてくれる。
それに俺は、エレナを抱きしめているんだ。叶わないことは何もない。
「俺は、人間として、エレナと一緒に過ごしたいんだッ!!」
もう絶対にエレナを離さない。
だからエレナ、目を覚ましてくれ。
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