CLOVER±H【天使病】 ~天使のように可愛い幼馴染が天使(化け物)になったので救いの旅に出たけど、悪魔に捕まってしまった~

響城藍

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[15話] 「おはよう」

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 エレナを抱きしめた俺をコフィンは強く抱きしめた。
 コフィンから心地いい熱と、温かい感情が流れてくる。

「エレナちゃん! わたしの想いを託しますよ~!」
「姉ちゃんでなくなっても、ぼくはいやじゃない」

 俺たちの下で声が聞こえる。
 下を見れば、メルルとラズが隣り合って立っていて、その反対側にはデスとイリスが座って俺たちを見上げていた。
 心配しなくても、エレナは目を覚ます。
 俺の隣にはいつも天使のように可愛い幼馴染がいるって決まっているんだ。

「エレナ、いつまで寝てるんだ? バカになっちまうぞ?」

 エレナは静かに眠っている。
 寝ている顔を見るのは久々だ。
 目をつむっていても、エレナは世界一可愛い。
 片手でエレナの顔にかかった髪を整えてやる。
 アホみたいに爆睡する顔は、安心しきった顔。
 その顔を見ていると、胸がざわつく。
 悪い意味ではない。良い意味なのかと聞かれても分からない。初めて抱く不思議な感情。
 くすぐったくも感じて、俺はエレナの頬を意地悪につまむ。ぷにぷにとした頬を少しだけ引っ張って離す。

「ん……」

 エレナの体が小さく揺れた。
 俺は両手でエレナを抱えると、コフィンは地面に向かってゆっくりと下がって行った。
 地面に足を付いたところで、エレナは小さく目を開ける。

「おはよう」
「……てお?」

 エレナを支えながら俺はエレナの目が開くのを確認するように見つめた。
 コフィンはデスの隣に飛んで行って、嬉しそうな笑い声を漏らしている。

「おはよう!」
「……おはようっ」

 俺は嬉しくてついエレナを抱きしめていた。
 驚きながらエレナは挨拶を交わしてくれる。

 1日の始まりの挨拶。
 いつもの日常が始まる大切な言葉。

「おはよう! おはよう! おはよう!」
「……えへへっ、おはようっ!」

 たった4文字の言葉を交わせることの嬉しさに興奮して、俺は何度もエレナに言葉を向ける。
 照れながらも背中に手を回してくれて、嬉しそうに返事をくれた。
 普通で平凡で安定した毎日が、俺は好きだ。
 だけど、その大切さを教えてくれる冒険も、俺は好きになってしまうかもしれない。

「エレナ……」
「なに?」

 俺はエレナから離れて視線を合わせる。
 うん、やっぱり笑顔のエレナは可愛い。

「俺、幼馴染やめる」
「……どうして?」

 エレナは微笑みながら聞いてくる。
 そんなの決まってるだろ。
 真剣にエレナを見つめて、呼吸をするように言葉を紡ぐ。

「俺は、エレナが好きだ。だからずっと隣にいてほしい」
「ふふっ、前と変わらないねっ」

 吹き出して笑うほどおかしなことだっただろうか。
 少しだけ不満になりながらエレナの返事を待っていると、顔を上げて、エレナは天使のように笑った。

「私も、テオが大好きっ」

 俺の心臓が暴走するほどの、温かい笑顔。
 見つめていたいけど、恥ずかしくなって逸らしたくなる。
 でも、一直線に向けられる笑顔は、俺だけのもの。

「ずっと、隣にいさせてねっ」

 ああ、これが、恋をするということなんだな。
 俺はいつから、エレナのことが好きだったのだろうか。
 まあ、幸せそうに笑うエレナを見ていれば、どうでもよくなってしまう。

「よう蘇ってくれたな、お主ら」

 ビクリ、と俺とエレナは肩を震わせて、声のした方へ向いた。
 忘れていたというか、起きたばっかだったから、俺たちの様子を全員に見られていたことに視線が泳ぐ。

「あれ、リリィは?」
「リリィちゃんは、デス様のところへ還ったんだよ。コフィンに幸せを残してくれた」

 悪魔のことはよく分からないけど、コフィンは今まで見たことないくらい幸せな顔をしている。
 だからいなくなったことを不安に思わなくていいのだろう。

「でも、どうして天使病が治ったんですか~?」
「天使病は、なおせないないはずだったのに」

 俺に聞かれても困るんだが。
 というか俺は目を覚ましただけで何もしていない。
 何かをしたのなら、コフィンだろう。そう思って視線を向けると、恍惚に微笑まれてしまう。

「コフィンはリリィちゃんの力を借りて、今までにない力を発揮できたの。だからいつもより欲望の増幅が大きかっただけ」

 コフィンは俺の願いを叶えてくれた。
 欲望を増加させる力というのは、使い方によっては病気さえ治せてしまうのか。

「コフィンが今までにない力を発揮できたのはいくつか条件がありますが、それでも天使病を治せるという証明はできました。なら、やることは見つかりましたね、イリスさん」
「そうじゃの。人間たちよ、ウチに力を貸してはくれぬか?」
「天使病を治していく、ってことか?」
「テオさんは説明が少なくて助かりますね。コフィンとテオさんの相性が良い、というのも先ほどの条件に含まれています。それと、テオさん……貴方だから願いが叶うんです」

 デスの言葉に首を傾げていると、イリスが俺と目線を合わせるために飛んで俺の頭を撫でた。
 くすぐったいような、照れてしまうような、温かい手の感触は心地いい。

「お主は生まれながらにして人間と天使の2つの血を受け継いだ。人間でありながらも天使で居続けたのじゃ。だから天使の魔法の効果が薄かったのじゃな。人間にとって天使は毒のようでもある。だから天使病になった人間は自我を失うのじゃよ。よく生きたのぅ」

 俺がなんでもできたり、テストで毎回満点とれたのは、俺に天使の力も備わっていたかららしい。
 だから戦闘もできたし、ラズとメルルの攻撃が効かなかった。王宮につながる長い階段も上れた。苦しかったけどな。
 愛おしい者を愛でるような視線に照れてしまって、俺は視線を逸らした。それでもイリスは頭を撫でてくれる。

「課題はコフィンの力を最大限に引き出す方法を見つけることですが……人間は100年ほど生きますからね。まあ100年後も引き継いでくださる方を見つければいいだけですし、どうかご協力いただけませんか?」

 デスはどこまで先のことを考えているのだろうか。
 その意地悪に笑う顔がなんだかムカついて、少し冷たい視線を送ってやる。

「死ぬまでこき使うなんて、まるで死神みたいだな」
「ふふふっ、僕は死神ですよっ」

 俺は冗談を言うと、デスは面白そうに笑い続けている。
 いや、ギャグを言ったつもりはないんだがな?
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