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1:黒衣の剣士、転生
しおりを挟むエリア・ドール大陸の北方の雄、帝王レルギス率いるソルドガル帝国軍は南西の草原の国ラクティアを占領したが「ラクティア解放軍」を旗揚げしたルガートなる一剣士の集めた部隊に苦戦をしていた。
そんな中、要衝の砦ゼムドも陥落しようとしていた。
この砦を預かる指揮官にして太刀の使い手、長髪の黒衣の剣士ヘルヴァルドは、砦の上階中央にある指揮官の間にまで攻め込まれていた。
ヘルヴァルドは既に覚悟を決めており、太刀を振るって一人でも多くの道連れをと、指揮官の間でラクティア解放軍の兵士をばっさばっさと斬り捨てていた。積みあがる味方の死体に怯むラクティア解放軍兵。
すると、黒い上着に白い長ズボン姿の青年剣士ルガートその人が解放軍の兵士をかき分けて姿を現す。
「殺すには惜しい腕前だが、投降しろといっても無駄だろうな」
ルガートの言に、ヘルヴァルドは端整な口元に笑みを浮かべて、
「解放軍の指揮官自らのお出ましとは恐れ入る。俺はヘルヴァルド、ここを預かる指揮官だ。一騎打ちとはいうまい。俺を倒せたらこの砦はお前たちのものだ」
そう言って、ルガートめがけて太刀を振るうヘルヴァルド。ルガートも愛用の長剣でこれを迎え撃つ。
キィン!キィン!
そして、激しい剣戟の応酬となった。
しかし、乱戦での疲労が祟ったか、ヘルヴァルドの動きが次第に鈍る。ルガートはその隙を逃さず、長剣でヘルヴァルドの肩口を捉え、一気に切りおろした。
斬られたヘルヴァルドは傷口から鮮血を吹き出す。それは彼の死をも意味する斬り傷であった。
「見事だルガート。せめて俺の残兵にはその命を無駄にせぬよう伝えてくれ」
「…ああ、伝えてやる。見事な最期だったぜ、ヘルヴァルド」
そのルガートの言に安心して、ヘルヴァルドは全身の力を抜いて、崩れ込むように倒れ、自らの流した血だまりにまどろんで、意識を失った。
☆
次に気付くと、ヘルヴァルドは別の所で赤子に生まれ変わっていた。衣にくるまれて、修道院の前に捨てられていたのだ。
(これは…転生というやつか。しかし、気づいたらいきなり捨て子とは困る。どうしたものか…)
ヘルヴァルドが状況をどうにかしようにも、赤子の姿では、身動きも取れない。困っていると、修道院の扉が空き、年配の修道女が赤子と化したヘルヴァルドを抱き起こしていう。
「あらあら、また捨て子なのね。いいわ。育ててあげるからいい子におなり。名前は、私の名前レミリアをもじって、ミラリアというのでいいかしら?」
ここでヘルヴァルドはある事に気づいた。赤子になったまでは分かるが性別が女になっていたのである。文句を言える立場ではないが、しかし、これはあんまりではないだろうかと、幼子の声で、泣いた。
☆
修道女として育てられたミラリアは、前世の記憶をひた隠しにして、猫を被って修道院で働いて暮らしていた。
「こうなると、ここの生活も悪くないわね」
成長する過程で簡単な聖術と女言葉も覚えて、少女となったミラリアは、同じシスター達と楽しく談話。食事も談笑しながら摂り、以前とは違う意味で充実した日々を過ごしていた。
しかし、村が山賊の襲撃にあった時、ミラリアは戸惑った。あれから、武器等無縁の生活であったからだ。
とはいえ、村の皆が山賊の武器で殺されているのを見ると、いてもたってもいられなくなった。
ミラリアは、山賊の一人を華奢な腕で殴り倒すと、その曲刀を構えて、山賊達に対峙する。
「おいおい、嬢ちゃん、その細腕で俺たちとやる気か?」
「その物騒なもん捨てて、俺たちと遊ぼうや」
山賊は下卑た目線でミラリアを見るが、ミラリアはその言を無視して山賊達に斬り込んだ。
その剣の腕は、転生を果たしても、いささかも鈍ってはいなかった。
「がはっ!」
「ぐわっ!」
山賊が、腕や首を斬られて、倒れてもがく。戦闘不能な者は無視して、さらに曲刀を振るうミラリア。
その流麗とも言える剣技にバタバタと倒される山賊達。
「な、なんだこの女、普通じゃねえ…」
「普通じゃないのはお前たちよ。生きて帰れると思わないことね」
ミラリアは山賊を斬り散らしながら言い放った。
『てめえ!この「鉄の団」に喧嘩売るとはいい度胸だ!!』
頭目らしき男が、曲刀をもって、ミラリアに斬りかかる。
「喧嘩売ったのはそっちでしょ!鉄が聞いて呆れるわ。そんな腕で私には勝てないわよ!!」
ミラリアは頭目の曲刀を受け流すと、返す刀で頭目の首を刎ねた。
山賊は、頭目を討たれると大混乱に陥り、ミラリアは残りの山賊も容赦なく斬り捨てた。
☆
村の皆は一部を除いて助かったものの、ミラリアを奇異の目で見るようになった。
鮮やかとも言える手並みで山賊達を葬ったミラリアは、既に村の皆が知っている彼女ではないといわんばかりに。
いたたまれなくなったミラリアは、修道服はそのままに、山賊から奪った太刀を背中にしょって、荷物もまとめると、旅にでることにした。
が、長年の修道女生活で勘がにぶったのか、育ての親代わりのレミリアに、修道院からこっそり夜逃げするさいに鉢合わせてしまった。
レミリアはミラリアをがばっと抱きしめて、温かい言葉をかける。
「行ってしまうのね。私は、引き留めることはできないけど、あなたを本当の娘のように思っているわ。それだけは忘れないで…」
レミリアの言葉に、ミラリアも涙を流した。ここでの生活が名残惜しかったのもあるのだろう。
「私も、お母さんの事、忘れないわ。本当はここにずっといたい。でもそれはもう私には無理なの」
そう言って、レミリアの抱擁を振り切って、村を出るミラリア。旅の目的地はここラクティア国の首都ラクティと決めていた。今は仮の議会制になっているこの国の、これも仮の議長となっている、かつて自分を打ち取ったルガートに会うために…。
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