転生!ブレードシスター

秋月愁

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6:治癒の聖術

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 ラクティア議長ルガートから、黒太刀「黒牙」とソレーヌへの紹介状を受けとった太刀使いの修道女剣士ミラリアは、再び仮面を付け「シルヴァン」を名乗る事にした白騎士にして中立国エルバドルの第三王子ウェインと共に、国営の特務兵団「ロウブレイド」のある砦に向かうことにした。

 そしてそこは、かつてミラリアがヘルヴァルド時代に任されていた、ゼムドの砦を改修したものであった。

 辿り着き、かつて自分が任されていた砦を感慨深げにみやるミラリア。

 「まさかまた、生きてこの砦に入れるときが来るとはね。それはそうと…」

 ミラリアは、シルヴァンにジト目で問いかける。

 「お忍び姿とはいえ、他国の第三王子が、特務兵団なんて入っていいの?どうなっても知らないわよ」

 これにシルヴァンは心外そうにミラリアに顔を近づけて、

 「ミラリア、私は君の相棒だよ?それに、今度は君を守ると誓ったものでもある。それに、国に戻っても、疎まれている私には謀殺の危険が付いて回る。ある意味、こっちのほうが安全だよ」

 「シルヴァン、顔が近いわよ。ルガート様の話だと、治安維持の軍隊と、冒険者ギルドの二つの面をもつとあるけど、どちらにしても安全とは言い切れないわ。帰るなら今の内よ」

 ミラリアの忠告ともとれる言だが、シルヴァンは頭を振った。

 「分かっていないな。想い人が危険な仕事をするのを、ただ遠くで無事を祈るなんていうのは、騎士としての面子にも関わる。大丈夫、自分の身は自分で守るから、君は自分の事に専念してくれればいい」

 こうして、二人は門衛に紹介状を見せて、ゼムドの砦、今は「ロウブレイド」の拠点となっている建物に入った。

                   
                     ☆


 元々はこのゼムドの砦は、北方のソルドガル、エクトール両国への牽制にと、首都ラクティの北に造られたものであり、堅固な、戦闘用の砦である。改修を受けた今でも、その趣きや名残は残っているようにミラリアには、見えた。

 そして、上階の指揮官室で、これから上官となるソレーヌと面談に入る。ソレーヌは赤い長髪の女性で、左眼に眼帯を着けた、茶色の薄手の革鎧を着て帯剣しており、ルガートと同じく、三十代半ばと二人には見えた。

 そして、ソレーヌは鋭くよく通る声でこう二人に着任の言葉をかける。

 「よくきた。私がここ「ロウブレイド」の団長であるソレーヌだ。ミラリア、シルヴァン両名に着任を許可する」

 「はっ!」

 二人は身を正して敬礼した。ここが軍隊でもあるなら、これが普通の対応だからだ。

 しかし、ソレーヌは口元に薄く笑みを浮かべて、ややその表情を緩めて二人に言う。

 「まあ、ここは基本軍隊ではあるが、冒険者のギルドの側面ももつ。だから、必要以上に畏まることはない。私の事も「団長」でいい」

 そうして、二人に部屋番号の入った鍵を投じる。二人がそれをキャッチしてみると、ミラリアが55、シルヴァンが77であった。

 「部屋の割り当ては番号の通りだ。比較的近くにしておいたが、あまりモラルのない行動はするなよ」

 「「了解しました。ソレーヌ団長」」

 二人が同じ言葉で応じると、ざわざわと、なにやら外が騒がしい。やがてソレーヌに伝令が入り、ラクティアの諸侯から解雇されたり、脱走をした兵達が不当に占拠した村をデュラン隊長率いる部隊が奪還したとの報が入る。

 そして、負傷した者達の治療を求めたので、ソレーヌはこれを許可して、修道女姿のミラリアにも言う。

 「お前は修道女の姿をしているが、医療の経験はあるのか?もしあるなら、負傷兵の治療を手伝ってやって欲しい。剣の腕の方は、また後ほど見せてもらおう」


                       ☆


 こうして、ミラリアの初仕事は、負傷者の治療と言う事になった。ミラリアは野戦病院のようになっている広間に入ると、負傷した剣士の一人に久々に聖術を振るうことにした。

 「癒しをもたらす聖なる光よ…」

 ミラリアが詠唱して、右手を負傷兵の傷にかざすと、手は温かく優しい光を帯びて、負傷兵の傷口がみるみる塞がっていく。

 ミラリアは重傷こそ癒せなかったが、軽度の傷は跡形もなく癒したので、主に軽傷の兵の治療に回った。しかし、ここでもミラリアは尋常でない力を発揮した。

 「治癒」の聖術を使い続けても、なかなか疲労の色を見せずに、その精神力は普通のシスターの十人分にも相当したのだ。

 しかしやがて、その精神力をも使い果たしたミラリアは、今度は自分が横に倒れた。

 「大丈夫か!ミラリア!!」

 包帯や傷薬を運搬していたシルヴァンが、慌てて駆け寄る。ミラリアは「少し術を使いすぎただけ、休めば大丈夫よ」といい、この白騎士を安心させた。

 その様を、広間で治療を監督していたソレーヌが見て、感心したように言う。

 「出力こそ低いが、かなりの「治癒」の使い手のようだな。初仕事にしては上出来だ。しかし、凄い精神力だな。どこでそれを身に着けたのだ?」

 「鍛えてますから」とだけ、ミラリアは答えた。魔剣士でもあったヘルヴァルド時代の名残だとはとても言えなかったからだ。

 ともあれ、ミラリアは多くの負傷兵を助けて団内の評判も良く、砦の練武場ではその優れた剣術を披露したので、やがて「ブレードシスター」とあだなされる程になった。

 …練武場では、シルヴァンもなかなかの腕前を見せたのだが、ミラリアの陰に隠れる形になって、あまり目立たなかったのは余談である…。




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