転生!ブレードシスター

秋月愁

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5:かつての自分を討った男

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 仮面を外して中立国エルバドルの第三王子であることを明かした白騎士ウェインは、太刀を背負った修道女の剣士、少女ミラリアを伴って、槍を持った衛兵の案内のもと、華美ながら迷路のような城内を歩み、執務室に辿り着いた。

 「ここから先は武器は預からせて頂きます」との衛兵の求めにも応じて、それぞれ長剣と太刀を預ける両名。

 そして、衛兵の手で執務室の扉が開かれ、ミラリアとウェインの二人は部屋に入ることにした。

 華美絢爛な城内とはうって変わって、執務室は茶色を中心に彩られたシックな造りをしていた。

 執務室の主、ルガートは三十台半ばか、黒髪、黒眼はもとより、黒い装飾の入った正装をまとい、多分に威厳のある面持ちで、ミラリアが、かつてヘルヴァルドであった頃の様子とは、趣の違う雰囲気を持っていた。

 しかし、ウェインを見ると、威厳はどこかに行ってしまい、温和そうな笑みを浮かべて立ち上がると、ウェインに歩み寄ってその肩に手を置いて、言った。

 「よくきてくださったウェイン殿。報告だと刺客の急襲にあったと聞いて冷や汗ものでした。第三王子が領内で闇討ちされたとあっては、ラクティアの治安、引いては俺の落ち度にもなります。しかしそれを差し引いても、無事であって良かった。こう言っては何ですが、エルバドルの王族の中では、貴方が一番話が通じます」

 ウェインはこの実直な対応に感心したようで、密書の件を包み隠さず話して、謝意を示した。

 「私はエルバドルの王族ですが、都合上、父王と兄達から疎まれています。それで偽の密書を送る任に着かされて、それに釣られた他国に刺客に手を掛けさせて、抹殺しようとしたのだと思われます」

 そして、修道服姿のミラリアに眼をやり、続ける。

 「この修道女にして凄腕の剣士であるミラリアの助けがなければ、私は今頃墓の中でした。私の立場で言うのも何ですが、是非何かの形で褒賞して頂きたい」

 真剣に言うウェインに、ルガートも頷く。

 「そうか、確かにただの修道女ではないようだな。ミラリア殿、礼を言わせてもらう。恩賞も後に与えよう。できれば、このままウェイン殿を守って貰えると、こちらも助かる」

 ミラリアは、しかし、ルガートをじっと見つめて、そして作り話を語ってみせた。

 「ルガート様。ゼムド砦のヘルヴァルドを覚えておいでですか?私は貴方に討たれたヘルヴァルドの隠し子に当たります」

 ルガートは、少し思索を巡らせる素振りを見せたが、やがて思い当たったようで懐かしそうに、それでいて少し哀し気に言う。

 「あのソルドガルの黒衣の指揮官か…。ラクティアの解放戦では敵ながら見事な散り際の男だった。彼にあなたのような可愛い隠し子がいたとは知らなかった。さぞ俺が憎いだろうな…」

 ミラリアは口元に笑みを浮かべた。かつての自分を覚えていてくれたのが嬉しかったのだ。そして、口に出してはこう言った。

 「それは違います。父は正々堂々と貴方と剣を交えて、そして散ったのです。恨むのも憎むのも筋違い。まして私はルガート様に仕えにやってきたのです」

 ミラリアは続ける。

 「正々堂々と父を破った貴方に、私を使う器量を求めるのはそうおかしな話ではないかと思います。力量が分からないというのであれば、一刀の太刀とそれを振るう場を賜りたい。願わくば、かつて父が使っていたような業物を」

 ルガートは一瞬戸惑う表情を見せたが、すぐにそれを振り払った。太刀をもって自分を討つつもりなら、こんなに無防備な状態で、自分に会おうとは思わないと考え到ったのだ。

 「…分かった。練武場に場所をうつそう。貴方の望むのが業物の太刀ならば、恩賞としてそれも用意させよう。丁度いいものがあるのも事実だ」

 そして、衛兵に囲まれて練武場に、案内されるミラリアとウェイン。ここでミラリアはちらりとウェインを見ると、ウェインは軽く片目を瞑ってみせる。-気にするな、ということだろう-

 「せいっ!」

 そして、練武場にて一同の見守る中、藁で作った案山子相手に、ミラリアはまず、練武場にある太刀を振るった。一閃すると、案山子は綺麗な断面で斜めにずり落ちる。相当手慣れてなければ、こうはいかないのは、一同の目にも明らかで、ルガートは、宝物庫の係の者に件の「業物の太刀」を用意させた。

 「これは、父上が使っていた黒太刀「黒牙」!」

 …実際は、かつての自分が使っていたものだが、わざと驚いてみせるミラリア。良い太刀が要るとは思ってはいたが、これほどのものはそうない為、有難く受け取り、再び別の案山子に振るって見せる。

 ミラリアが「黒牙」を斜めに一閃すると、案山子は紙を斬るようにすっぱりと斬られたが、上半分はくっついたまま、ミラリアが太刀を収めると、合間を置いて、ずるりと滑るように上半分が地面に落ちた。手練れの証拠のような技である。そして、ルガートがその場をまとめる。

 「腕はよくわかった。しかし、俺は議長という立場上あまり私兵はもてない。だが、その腕を振るう先を斡旋はできる。かつての仲間である、ソレーヌという名の女剣士がまとめる国営の特務兵団である「ロウブレイド」に回ってもらおう。それでいいかな?」

 「心得ました、ルガート様!」

 …こうして、ミラリアは国営の特務兵団である「ロウブレイド」にしばしの後に赴任することになった。

 ルガートの許可を得て、再び仮面を付けて「シルヴァン」を名乗った白騎士ウェインが「私も手伝わせてもらうよ」と言って、くっついてきたのは余談である…。


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