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第六話
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ビショップは目の前で声を上げながら泣くエメラルダを見て驚いた。
今回の一件は、さすがに学園に噂が広がり過ぎだと、エメラルダの画策を疑った兄上の判断で国王立会いの元、行われたものであった。
確かに最近エメラルダはラシッドを見つめている事がある事にビショップは気づいていた。
学園内では、ちょっとした合間や空き時間などよくエメラルダの視線を感じて戦々恐々としていたのだが、ラシッドに視線が向けられるのは嫌だった。
怖いと感じているのに、他を見られるのは嫌。
そんな矛盾した感情に驚いていたが、やっとこの時ビショップは自分の気持ちに気が付いた。
エメラルダが怖かった。
捕食される気がして、怖かった。だが、それ以上に、その視線が第二王子という肩書を見ているのではと思うからこそ怖かったのだ。
自分が王子でなかったら、エメラルダは自分の事など気にも留めなかったのではないか。
そう思うと嫌だった。
だが、違ったのだ。
胸がどきどきと高鳴るのを感じた。
大粒の涙を流しながら、自分が好きだと、愛しいてると呟くエメラルダがとても可愛かった。
はっきり言って、エメラルダが自分の事をそんなに好きだとは思っていなかったのである。
エメラルダは第二王子という肩書を欲しているのだとばかり思っていた。けれど目の前の彼女は泣きながら、第一王子の婚約者は嫌だと言い、そして自分ではないと嫌だと言う。
第二王子ではなく、ビショップの婚約者でなければ嫌だと言う。
こんなにも自分を今まで求められたことがあっただろうか?
ビショップは自分が歴代の王族の中では地味な方だと自覚している。優秀ではあるが吐出して何かに才能があるわけでもなく、可もなく不可もなくというそんな状態であると把握している。
そんな自分をエメラルダはそんなにも好きなのかと、逆に驚いてしまう。
いつも捕食者のような瞳で自分を見ていたのは、もしかしたら自分を得たいと思っていたからなのかと思うと恥ずかしくなり耳が熱くなる。
だが、恥ずかしさで身動きを止めてはいけないとビショップは思った。
王族に身を置いていると、普通という感覚が鈍くなる。それ故に、エメラルダという普通では考えられないほどの才能にあふれた令嬢を、普通ではないと、そう錯覚していた。
だが違うのだ。
目の前にいるエメラルダは、自分の事を好きだから一生懸命に今まで頑張ってくれていた、普通の恋する令嬢だったのである。
それに気づいたビショップは胸が温かくなり、今まで怖いと感じていたエメラルダの仮面が崩れ去った。
このほわほわとする温かな気持ちは何だろうか。
「エメラルダ嬢。すまなかった。その、泣かないでくれ。」
ビショップはエメラルダの前に跪くと、その両手を取って言った。
「すまない。俺は貴方と全く向き合っていなかった。だからこんな事になったんだ。」
「び・・ビショップ様?」
あれほど怖いと思っていたエメラルダの瞳が、今では全く怖くない。
どうしてもっと早くエメラルダと向き合っていなかったのかと、ビショップは自分の不甲斐なさにエメラルダに申し訳なくなった。
「父上。兄上。もういいでしょう。エメラルダは俺の婚約者です。」
「あ・・・あぁ。」
「え・・・えっと・・・あぁ。」
二人ともまだ呆然としており、それほどまでにエメラルダの涙は衝撃の強いものだったのだなと驚いてしまう。
一国の王と王子を涙で黙らせる。確かに傾国の乙女だなとビショップは苦笑を浮かべ、エメラルダの手を引くと部屋を出たのであった。
今回の一件は、さすがに学園に噂が広がり過ぎだと、エメラルダの画策を疑った兄上の判断で国王立会いの元、行われたものであった。
確かに最近エメラルダはラシッドを見つめている事がある事にビショップは気づいていた。
学園内では、ちょっとした合間や空き時間などよくエメラルダの視線を感じて戦々恐々としていたのだが、ラシッドに視線が向けられるのは嫌だった。
怖いと感じているのに、他を見られるのは嫌。
そんな矛盾した感情に驚いていたが、やっとこの時ビショップは自分の気持ちに気が付いた。
エメラルダが怖かった。
捕食される気がして、怖かった。だが、それ以上に、その視線が第二王子という肩書を見ているのではと思うからこそ怖かったのだ。
自分が王子でなかったら、エメラルダは自分の事など気にも留めなかったのではないか。
そう思うと嫌だった。
だが、違ったのだ。
胸がどきどきと高鳴るのを感じた。
大粒の涙を流しながら、自分が好きだと、愛しいてると呟くエメラルダがとても可愛かった。
はっきり言って、エメラルダが自分の事をそんなに好きだとは思っていなかったのである。
エメラルダは第二王子という肩書を欲しているのだとばかり思っていた。けれど目の前の彼女は泣きながら、第一王子の婚約者は嫌だと言い、そして自分ではないと嫌だと言う。
第二王子ではなく、ビショップの婚約者でなければ嫌だと言う。
こんなにも自分を今まで求められたことがあっただろうか?
ビショップは自分が歴代の王族の中では地味な方だと自覚している。優秀ではあるが吐出して何かに才能があるわけでもなく、可もなく不可もなくというそんな状態であると把握している。
そんな自分をエメラルダはそんなにも好きなのかと、逆に驚いてしまう。
いつも捕食者のような瞳で自分を見ていたのは、もしかしたら自分を得たいと思っていたからなのかと思うと恥ずかしくなり耳が熱くなる。
だが、恥ずかしさで身動きを止めてはいけないとビショップは思った。
王族に身を置いていると、普通という感覚が鈍くなる。それ故に、エメラルダという普通では考えられないほどの才能にあふれた令嬢を、普通ではないと、そう錯覚していた。
だが違うのだ。
目の前にいるエメラルダは、自分の事を好きだから一生懸命に今まで頑張ってくれていた、普通の恋する令嬢だったのである。
それに気づいたビショップは胸が温かくなり、今まで怖いと感じていたエメラルダの仮面が崩れ去った。
このほわほわとする温かな気持ちは何だろうか。
「エメラルダ嬢。すまなかった。その、泣かないでくれ。」
ビショップはエメラルダの前に跪くと、その両手を取って言った。
「すまない。俺は貴方と全く向き合っていなかった。だからこんな事になったんだ。」
「び・・ビショップ様?」
あれほど怖いと思っていたエメラルダの瞳が、今では全く怖くない。
どうしてもっと早くエメラルダと向き合っていなかったのかと、ビショップは自分の不甲斐なさにエメラルダに申し訳なくなった。
「父上。兄上。もういいでしょう。エメラルダは俺の婚約者です。」
「あ・・・あぁ。」
「え・・・えっと・・・あぁ。」
二人ともまだ呆然としており、それほどまでにエメラルダの涙は衝撃の強いものだったのだなと驚いてしまう。
一国の王と王子を涙で黙らせる。確かに傾国の乙女だなとビショップは苦笑を浮かべ、エメラルダの手を引くと部屋を出たのであった。
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