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三十五話 夢
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良い香りがした。どこか懐かしく、それでいて心が和む、そんな優しい香り。
(ここは……どこ?)
真っ白な建物の中をアリシアは歩いていた。自分の意識があるというのに、体は自分の思う通りには動かず、誰かにまるで自分が引っ付いて歩いているようなそんな感覚。
白い建物は宮殿のようで、優しい春の日差しに、庭には美しい花々が咲き誇っていた。
綺麗な庭で、ひらひらと色とりどりの蝶々が飛んでいる。
長い廊下を歩いていくと、しばらくしてから神殿の中央部にある大きな扉の前へと着いた。
その中へと入ると、先ほどよりも気温が下がったような肌寒さを感じた。
祈りの間である。
入ったことがなかったはずなのに、入っていればそこは慣れ親しんでいた場所のように感じる。
「来たのですか」
声がした。
その声にアリシアは身構えるが、体は自由には動かない。
「ローゼン。もうやめなさい」
自分は声を出していないというのに、声が出ていることにアリシアは驚く。
自分に何が起こっているのかが分からないが、ローゼンと話をしている。
「っふ。やめるわけがないでしょう。これが成功すれば、争いのない国をつくることが出来るはずです」
「ですがそれは、他国を犠牲にするものだわ!」
次の瞬間、ローゼンの周りに大量の蛇が現れ、それがうねりをもってローゼンを守るように蠢く。
「他国など知るか。我が国が平和になるのだから、それでいいではないか」
「それで他国の人が苦しんでもいいと!?」
アリシアはその様子を見つめながら、これは、誰かの記憶の夢を見ているのだろうかと思った。
きっと夢なのだろう。だから、自分は動くことが出来ないのだ。
「いい。それで我が国が平和になるのなら。そしてもしこの国が永遠に平和ならば、他の国の民もここに平穏を求めて移住してくるだろう」
その言葉にアリシアはそれはそうだろうと思った。けれど、国の外は争いが終わることはないのだ。
「……このまま力を使いすぎれば、心を失うわよ」
ローゼンはその言葉に笑った。
「心くらいなんだ。私には信仰心がある。これがあれば、それでいい」
アリシアはその言葉に眉を寄せた。
(それでいいわけがないわ……)
心は大切なものだ。
心がないのに、信仰心をもってどうなるというのだろう。
その後も、ローゼンと女性は喧嘩をしていた。それから場面は変わり、何度も何度も女性はローゼンを止めようとする。
けれど、ローゼンはうなずくことはない。
そして、場面は変わり、そこは白い建物の中ではなく、薄暗い消毒液の臭いのする病院であった。
ベッドの横にローゼンがいた。
ぼたぼたと涙を流しながら、ガタガタと震えている。
「ほら……心、あったほうがいいでしょう?」
女性の言葉が静かな部屋に響く。
血の匂いがした。
「くそ……くそが……呪いなんて、なんで……」
「人が争えば呪いは生まれるわ……最後にもう一度、言うわ。心を失っては、だめ」
「なんで……いらない。いらない! お前を大切に思い、こうやってお前を失うことに恐怖する自分なんて!」
ローゼンは涙を流し、悲痛な声をあげていた。
女性は笑う。
「そう。ふふ。ねぇ、友よ。あなたは私が止めても、やめないのでしょうね。だから、待っていてあげるわ」
「なんだと?」
「貴方が、心があった方がよかった。自分は間違えていたと悟り、こちらへと来るのを、待っていてあげる」
女性は笑い、そして手を伸ばした。
「ローゼン。待っている……わ……」
ぱたんと手が落ちた。
ローゼンは呆然とした後に、涙を静かに流し続けた。そして、それから神殿に向かい、完全に心を失った。
私はそれを見つめながら、この夢は何なのだろうかと困惑する。
「おねがい」
「え?」
急に暗い空間にいた。
そこには、ローゼンと一緒にいた女性がいた。
「彼に、気づかせてあげて」
アリシアがその人に声を掛けようとした瞬間、目が覚めた。
「っは……夢……か」
「夢だと思うか?」
横を見ると、美しすぎる主が、アリシアの横に色気たっぷりに添い寝していた。
(ここは……どこ?)
真っ白な建物の中をアリシアは歩いていた。自分の意識があるというのに、体は自分の思う通りには動かず、誰かにまるで自分が引っ付いて歩いているようなそんな感覚。
白い建物は宮殿のようで、優しい春の日差しに、庭には美しい花々が咲き誇っていた。
綺麗な庭で、ひらひらと色とりどりの蝶々が飛んでいる。
長い廊下を歩いていくと、しばらくしてから神殿の中央部にある大きな扉の前へと着いた。
その中へと入ると、先ほどよりも気温が下がったような肌寒さを感じた。
祈りの間である。
入ったことがなかったはずなのに、入っていればそこは慣れ親しんでいた場所のように感じる。
「来たのですか」
声がした。
その声にアリシアは身構えるが、体は自由には動かない。
「ローゼン。もうやめなさい」
自分は声を出していないというのに、声が出ていることにアリシアは驚く。
自分に何が起こっているのかが分からないが、ローゼンと話をしている。
「っふ。やめるわけがないでしょう。これが成功すれば、争いのない国をつくることが出来るはずです」
「ですがそれは、他国を犠牲にするものだわ!」
次の瞬間、ローゼンの周りに大量の蛇が現れ、それがうねりをもってローゼンを守るように蠢く。
「他国など知るか。我が国が平和になるのだから、それでいいではないか」
「それで他国の人が苦しんでもいいと!?」
アリシアはその様子を見つめながら、これは、誰かの記憶の夢を見ているのだろうかと思った。
きっと夢なのだろう。だから、自分は動くことが出来ないのだ。
「いい。それで我が国が平和になるのなら。そしてもしこの国が永遠に平和ならば、他の国の民もここに平穏を求めて移住してくるだろう」
その言葉にアリシアはそれはそうだろうと思った。けれど、国の外は争いが終わることはないのだ。
「……このまま力を使いすぎれば、心を失うわよ」
ローゼンはその言葉に笑った。
「心くらいなんだ。私には信仰心がある。これがあれば、それでいい」
アリシアはその言葉に眉を寄せた。
(それでいいわけがないわ……)
心は大切なものだ。
心がないのに、信仰心をもってどうなるというのだろう。
その後も、ローゼンと女性は喧嘩をしていた。それから場面は変わり、何度も何度も女性はローゼンを止めようとする。
けれど、ローゼンはうなずくことはない。
そして、場面は変わり、そこは白い建物の中ではなく、薄暗い消毒液の臭いのする病院であった。
ベッドの横にローゼンがいた。
ぼたぼたと涙を流しながら、ガタガタと震えている。
「ほら……心、あったほうがいいでしょう?」
女性の言葉が静かな部屋に響く。
血の匂いがした。
「くそ……くそが……呪いなんて、なんで……」
「人が争えば呪いは生まれるわ……最後にもう一度、言うわ。心を失っては、だめ」
「なんで……いらない。いらない! お前を大切に思い、こうやってお前を失うことに恐怖する自分なんて!」
ローゼンは涙を流し、悲痛な声をあげていた。
女性は笑う。
「そう。ふふ。ねぇ、友よ。あなたは私が止めても、やめないのでしょうね。だから、待っていてあげるわ」
「なんだと?」
「貴方が、心があった方がよかった。自分は間違えていたと悟り、こちらへと来るのを、待っていてあげる」
女性は笑い、そして手を伸ばした。
「ローゼン。待っている……わ……」
ぱたんと手が落ちた。
ローゼンは呆然とした後に、涙を静かに流し続けた。そして、それから神殿に向かい、完全に心を失った。
私はそれを見つめながら、この夢は何なのだろうかと困惑する。
「おねがい」
「え?」
急に暗い空間にいた。
そこには、ローゼンと一緒にいた女性がいた。
「彼に、気づかせてあげて」
アリシアがその人に声を掛けようとした瞬間、目が覚めた。
「っは……夢……か」
「夢だと思うか?」
横を見ると、美しすぎる主が、アリシアの横に色気たっぷりに添い寝していた。
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