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第八十五話
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ジャスミンは、自分をエスコートするルルドに視線を移しながらうっとりとした表情を浮かべていた。
ルルドはジャスミンにとって完璧な男であった。
高い身長にすらりとした肢体、柔らかな物腰、さりげなく鍛えられた体、そして知的であり、完璧なのではないかと思ってしまう。
この国では氷の宰相などと呼ばれているらしいが、ジャスミンには柔らかな笑みをいつも向けてくれるので、おそらく自分は好かれているのだろうと思う。
そう思うと、ラハールとの婚約が悔やまれた。
はっきり言ってしまえば、ジャスミンは、ラハールの事が嫌いな訳ではなかった。
ただ、物足りないのだ。
低い身長に、どんぐり眼。体は鍛えてはいるようだが、戦っている姿など見たことがないので強いのかどうかも疑わしい。
だからこそ、つい、比べてしまう。
毎回ラハールと会うたびに、ルルドの事を思いだし、つい、ルルド様はこうだったああだったと話をしてしまう。
そうすれば普通起こりそうなものだが、ラハールは苦笑を浮かべるのみで、それもジャスミンにとっては物足りなさを感じさせる要因の一つだった。
ここでせめて怒るなり、やきもちを焼くなりして独占欲を露わにしてもらえればジャスミンも悪い気はしないのだが、それもない。
だからこそ、今宵は一夜の夢と思って、婚約者のラハールがいるのにもかかわらず、我儘を言って、外交の為だと偽ってルルドにエスコートしてもらったのだ。
本来ならばありえないはずだが、これで最後だ、絶対にもうわがままを言わないと父王に懇願をしてどうにか許可を得たのである。
だからこそ、ジャスミンはうっとりとルルドに身をゆだねていた。
ルルドとのひと時は夢のようだと感じていた。
だがしかし、次の瞬間、ジャスミンは全身に今まで感じた事のない寒気を感じ、目を丸くした。
一体何だ?
全身の鳥肌が立つように感じた。
そして、その原因が、自分がうっとりとしていた相手だと気づくのに時間はかからなかった。
「ル、ルルド様?」
思わず言葉に詰まりながら名を呼んで後悔した。
先ほどまで優しげに微笑んでいたルルドは消えうせ、その瞳には怒りに似た何かが映り、会場にいる人物に注がれていた。
誰にそれが向いているのだと、ジャスミンが視線を向け、さらに目を丸くしてしまう。
会場が一瞬にして静まり返り、そこにいた皆が、つい、視線を奪われていた。
美しい銀髪に、エメラルドの瞳を持った美しい令嬢をラハールは携えて会場に現れたのである。
ジャスミンはその美しさだけでなく、衣装の素晴らしさにも目を奪われていた。
あれは、小国では到底揃えられない一級品である。
それこそ、王妃が着るような衣装である。
「何で、ラハール様が?彼女は一体、誰なの?」
ルルドの瞳は燃え、じりじりとラハールへと向けられる。
ジャスミンは、ルルドも、ラハールも奪われたような気分になり、眉間にしわを寄せると恐ろしさを忘れてルルドの服を引っ張った。
「ルルド様。本日は私のエスコートのはずです!」
その言葉にはっとしたようにルルドはジャスミンに笑顔を作り向けると、優しく言った。
「申し訳ありません。ジャスミン姫の婚約者であるラハール様がつい気になりまして。」
その言葉にジャスミンは、もしや自分と結婚をする予定のラハールにルルドがやきもちを焼いたのかと思い気分が良くなった。
「まぁ、ルルド様、やきもちですか?」
そう言うと、ルルドはぎりりっと奥歯を噛みながらにこやかに言った。
「ええ。狂いそうなほどの。」
その言葉の真意など知らないジャスミンは満足げに笑みを浮かべたのであった。
「まあ、それは罪深いですわね。」
「ええ。女神は本当に罪深い。」
「まぁ、女神だなんて。ふふふ。」
アマリーと、ラハールは、背筋に悪寒を感じた。
絶対に、ルルドの方を見てはいけない気がした。
「アリー。キミは、ルルド殿と知り合いか何かか?」
「え?」
「何故だろうか。私は、ルルド殿に殺気を向けられている。」
「き、気のせいではないでしょうか。」
これでは、ジャスミンにやきもちを焼かせるどころではないのではないだろうかとアマリーは思ったのであった。
ルルドはジャスミンにとって完璧な男であった。
高い身長にすらりとした肢体、柔らかな物腰、さりげなく鍛えられた体、そして知的であり、完璧なのではないかと思ってしまう。
この国では氷の宰相などと呼ばれているらしいが、ジャスミンには柔らかな笑みをいつも向けてくれるので、おそらく自分は好かれているのだろうと思う。
そう思うと、ラハールとの婚約が悔やまれた。
はっきり言ってしまえば、ジャスミンは、ラハールの事が嫌いな訳ではなかった。
ただ、物足りないのだ。
低い身長に、どんぐり眼。体は鍛えてはいるようだが、戦っている姿など見たことがないので強いのかどうかも疑わしい。
だからこそ、つい、比べてしまう。
毎回ラハールと会うたびに、ルルドの事を思いだし、つい、ルルド様はこうだったああだったと話をしてしまう。
そうすれば普通起こりそうなものだが、ラハールは苦笑を浮かべるのみで、それもジャスミンにとっては物足りなさを感じさせる要因の一つだった。
ここでせめて怒るなり、やきもちを焼くなりして独占欲を露わにしてもらえればジャスミンも悪い気はしないのだが、それもない。
だからこそ、今宵は一夜の夢と思って、婚約者のラハールがいるのにもかかわらず、我儘を言って、外交の為だと偽ってルルドにエスコートしてもらったのだ。
本来ならばありえないはずだが、これで最後だ、絶対にもうわがままを言わないと父王に懇願をしてどうにか許可を得たのである。
だからこそ、ジャスミンはうっとりとルルドに身をゆだねていた。
ルルドとのひと時は夢のようだと感じていた。
だがしかし、次の瞬間、ジャスミンは全身に今まで感じた事のない寒気を感じ、目を丸くした。
一体何だ?
全身の鳥肌が立つように感じた。
そして、その原因が、自分がうっとりとしていた相手だと気づくのに時間はかからなかった。
「ル、ルルド様?」
思わず言葉に詰まりながら名を呼んで後悔した。
先ほどまで優しげに微笑んでいたルルドは消えうせ、その瞳には怒りに似た何かが映り、会場にいる人物に注がれていた。
誰にそれが向いているのだと、ジャスミンが視線を向け、さらに目を丸くしてしまう。
会場が一瞬にして静まり返り、そこにいた皆が、つい、視線を奪われていた。
美しい銀髪に、エメラルドの瞳を持った美しい令嬢をラハールは携えて会場に現れたのである。
ジャスミンはその美しさだけでなく、衣装の素晴らしさにも目を奪われていた。
あれは、小国では到底揃えられない一級品である。
それこそ、王妃が着るような衣装である。
「何で、ラハール様が?彼女は一体、誰なの?」
ルルドの瞳は燃え、じりじりとラハールへと向けられる。
ジャスミンは、ルルドも、ラハールも奪われたような気分になり、眉間にしわを寄せると恐ろしさを忘れてルルドの服を引っ張った。
「ルルド様。本日は私のエスコートのはずです!」
その言葉にはっとしたようにルルドはジャスミンに笑顔を作り向けると、優しく言った。
「申し訳ありません。ジャスミン姫の婚約者であるラハール様がつい気になりまして。」
その言葉にジャスミンは、もしや自分と結婚をする予定のラハールにルルドがやきもちを焼いたのかと思い気分が良くなった。
「まぁ、ルルド様、やきもちですか?」
そう言うと、ルルドはぎりりっと奥歯を噛みながらにこやかに言った。
「ええ。狂いそうなほどの。」
その言葉の真意など知らないジャスミンは満足げに笑みを浮かべたのであった。
「まあ、それは罪深いですわね。」
「ええ。女神は本当に罪深い。」
「まぁ、女神だなんて。ふふふ。」
アマリーと、ラハールは、背筋に悪寒を感じた。
絶対に、ルルドの方を見てはいけない気がした。
「アリー。キミは、ルルド殿と知り合いか何かか?」
「え?」
「何故だろうか。私は、ルルド殿に殺気を向けられている。」
「き、気のせいではないでしょうか。」
これでは、ジャスミンにやきもちを焼かせるどころではないのではないだろうかとアマリーは思ったのであった。
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