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第七話 プレゼント

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 王子としての教育というものは、朝起きてから夜眠るまでずっと続く。

 一日を事細かに決められており、その日の動き一つ一つーを評価される。

 王子として産まれたからには仕方がない運命であるとロアンはすでに受け入れており、不平不満など言わずにしっかりと勉学も教養も頑張っていた。

 そんなロアンが唯一自分に甘くなる日があった。

 それが自身の誕生日である。

 夜中からそわそわとしていたロアンは、我慢がしきれずにプレゼントの保管してある部屋に真夜中にこっそりと入ると、積み上げられた数々のプレゼントの間をぬって進んでいた。

 どのプレゼントもカラフルな包装紙に包まれ、色とりどりのリボンをかけられている。

 その中でも一際目立つのが自分の一番好きなおもちゃ屋の包みである。

 自分よりも大きなプレゼントに、ロアンはわくわくとした表情を浮かべると、辺りを見回した。

 誰もいない。

 ロアンは一つくらいならいいかなとわくわくとしながらそのリボンを外し、包みを剥がした瞬間に悪臭が鼻についた。

「ぅ・・・何?」

 薄明かりの中、思わず鼻をつまんで顔をしかめると、何とプレゼントの中身がごそりと動いたのである。

 ロアンは目を丸くしてそれを見つめた。

 ごそりと薄明かりの中で動く姿はちょっとしたホラーである。

 それは人の形をしていた。

 獣人ではないだろう。

 ロアンは怖くてしばらく呆然としていたのだが、それが自分と同じくらいの子どもだと気付くと、自身のしっぽが揺れ始める。

「すごい!今年のプレゼントは友達なんだね!」

「え?」

「ふふ!やったぁ!ねぇ、でもちょっと臭いなぁ。お風呂にいれてあげる!こっちにおいで!」

「え?いや、違う。」

「ほら!いいから!いいから!」

「え?え?ちょっと、え?」

 押されるがままにユグドラシルはロアンに風呂場へと連れていかれたのであった。

「今、メイドを呼んでくるから、あ。」

 だが、メイドを呼んでしまえば自分がプレゼントを一つ開けてしまったことがばれてしまう。

 ロアンが葛藤している時、ユグドラシルは感動していた。


 お風呂だ。

 目の前には湯気の上がる風呂場があり、ユグドラシルはこの国に産まれてから初めて見た風呂に、心から感動をしていた。

「入っても、いいの?」

 ゴクリと思わず喉をならして尋ねてしまう。

「え?いいよ!えっと、その、一人でも入れる?わけ、ないよね・・!?」

 どうしようかとロアンが悩んでいる間にユグドラシルは服を脱ぎ捨てて風呂場へと誘われるように向かった。

 突然服を脱ぎ捨てたユグドラシルに、ロアンはそこでやっとユグドラシルが女の子であることに気がつき、顔を真っ赤に染めると慌てて後ろを向いた。

 ユグドラシルはそんなことには気がつかず、まずは体を洗い流し、高級品であろう石鹸を使って丁寧に体を洗っていった。

 きっと今回を逃せば一生こんな機会には巡り会えない。

 そう思い、ユグドラシルは石鹸をこの際だからと贅沢に使い、夢中になった。

 体を洗えば、泡が黒くなり、どんどんと汚れを落としていく。

 くすんでいた髪も本来の美しさを取り戻していった。

「はぁー、さっぱりするー。」

 ユグドラシルは体を何度も洗い流し、それからお風呂へと浸かった。

 久しぶりに入る風呂は体を温め、すごく気持ちがいい。

「ねぇ!大丈夫?」

 後ろを向いたままロアンにそう言われ、ユグドラシルはそうだったと思い出す。

 こんなにゆっくりしている場合じゃないと思いながらもお風呂から出られない。

 お風呂の魔力に取りつかれた。

「気持ちいい。」

 思わずそう答えると、ロアンは笑い声をあげた。

「なら良かった!ここは僕の部屋のお風呂だからゆっくり入っていいよ。まだ夜中だしね!」

 プレゼントの保管されている部屋はロアンの部屋の真横でロアンの部屋と扉で繋がっていた。扉の鍵はかかっておらず、実はロアンがいつ開けてもいいようになっていたのである。

 来年もこの状況だとしたら、本当によくロアンは生き残っていたなと思う。本来ならば最初に殺されそうな位置である。

 ユグドラシルは風呂を満喫した後ロアンからタオルを受け取り体を拭き、ロアンのシャツとズボンを借りて服を着た。

 ロアンはそんなユグドラシルの姿に思わず見いっていた。

 美しい髪、そして大きな宝石のように輝く瞳は今まで会ってきた人の中でも一番美しかった。

「ありがとう。ロアン王子。」

「え?いや、うん。その、君の名前は?」

「私は・・ユシー。」

 自身の名をそう名乗るとユグドラシルはロアンを真っ直ぐに見つめた。

 ピンとした頭についている犬のような耳も、おりしの後で揺れるしっぽも、本当に可愛い。

 物語の中でもかなりの人気を博したロアンの姿、ユグドラシルは心の中で歓喜した。

 可愛い。

 お耳触りたいし、しっぽもモフモフしたい。

 けれど、今はそんな事をしている時ではないのだ。

 先程までお風呂を堪能していた自分の事などなかったことにして、ユグドラシルはロアンに言った。

「私は貴方に警告をしに来たの。」

「警告?」

「そう。」

 ユグドラシルはそう言うと、ロアンをベッドへと押し倒して首元を手で押さえつけた。

 ロアンは当然女の子に押し倒されて顔を真っ赤に染め上げた。

「ゆ、ゆ、ゆ、ユシー。こういうのは、もっと仲良くなってから・・その、あの。」

「?ロアン?襲われたら、仲良くなんてなれないでしょ?」

「え?襲っ?!お、女の子がそんな事しちゃいけません!」

「?あのね、ロアン。暗殺者に女も男もないんだよ。」

「暗殺者?!」

「そう。プレゼントの中に暗殺者が隠れていたら、ロアンは簡単に捕まってしまう。」

 その言葉に、ロアンの顔は青ざめ、血の気が引いていった。

「だ、だけど、君一人でなにができる?!たとえ僕を殺したところで・・」

「一人じゃなかったら?」

「え?」

「もし、暗殺者が一人ではなくたくさんいて、プレゼントの中に潜んでいるとしたら?」

「プレゼントは、検品されているはずだ。」

「内通者がいたら?それに、この国は甘いよ。トイショップのプレゼントは検品すらしてなかった。」

 たくさんの暗殺者が、もし、プレゼントに潜んでいたとしたら、それが本当に起こったら、一体どうなってしまうのだろうか。

 ロアンはユグドラシルを突飛ばし、ベッドの横に備え付けられていた緊急時の剣を引き抜いた。

 ユグドラシルは、真っ直ぐにロアンを見ると言った。

「歪の国は、来年の誕生日のプレゼントに暗殺部隊を仕込む。エア皇国は、ある理由からこの国を裏切り、エジェンドア王国を地に落とす。」

 その言葉に、ロアンは目を見開いた。

「その理由とは何だ!」

「病気の流行。エア皇国にこの病気を完治させる薬がない。」

「なん・・・だと?」

「今はまだ病気はそれほどまでに恐ろしくはないと思われているけれど、そのうちその恐ろしさが分かる。」

「何故病気が原因で裏切ることになるんだ!?」

「それが、エルマティア帝国による陰謀だから。」

「なんだと?だが、エア皇国は友好国だぞ!」

「今はね。来年は違うかもしれない。」

「そんな事は起こらない!」

「私もそうはならないように頑張る。けど、ロアンも頑張って。」

「何を。」

「もし、エア皇国から暗殺部隊を仕込まれたとしても、それが成功しないように、手は打てるはず。」

「君の言うことを信じろと?」

「私がここにいると言う事実は変えられない。」

 確かにそうだ。

 ユシーがここにいると言うことは、検品の甘さに他ならない。

 それは強化せざるを得ないが。

「頼んだよ。お風呂ありがとう。じゃ。」

 そう言うと、ユグドラシルは部屋の窓を開け放ち、いつもロアンが窓から出るときに使うロープを使って飛び降りた。

 獣人の国では窓から出たがるものが少なくないため、部屋に大抵設置されている。

「あっ!!」

 一瞬でユグドラシルの姿が見えなくなり、ロアンは暗闇をじっと見つめた。

「ユシー。」

 まるで嵐のような夢のような一夜。

 夜が明ければ、ロアンはこれから先の事を国王らと話し合わなければならないだろう。

 エア皇国に裏切られるかもしれない。だが、ただの子どもの戯言かもしれない。

 その日より、ロアンの笑顔は失われ、もしかしたら来るかもしれない暗殺部隊のやってくる誕生日に向けての対策を進めていくのであった。




 ユグドラシルは、小説の中に書かれていたロアンのロープで降りる時、恐怖のあまり内心悲鳴をあげていた。

 ぎゃぃぉぉぉぉ!!

 ロアン、よくこんなので窓から降りようと思ったね!怖いよ!

 地面にやっと着いた時、ユグドラシルはへっぴり腰で草むらのなかに飛び込み、この城の警備はザルだなと思いながら、こそこそと場内から逃げ出したのであった。

 
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