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第二十三話
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トイとグレンがテントから出て行くと、アイスは言った。
「あなた、度胸はあるくせにトイには弱いのね。あんな酷いこと言われて文句も言わないなんて私だったらありえないわ。」
フェイナだって言いたい。
けれど言えない。
「自分のこと意外、わたくしには見えていなかったの。」
「は?」
「トイにはそれが分かっていたんだわ。」
「意味わかんない。自分のことを考えるのは当たり前でしょ?」
「わたくしは・・それだけではダメなのよ。それに、わたくしには自覚が足りなかったんだわ。」
「自覚?」
「ええ。・・・・エデンに帰るわ。わたくしは、まず自分に出来ることをしなければならない。」
「ふーん。なら、送っていくわ。いつ出発する?」
「すぐに。トイには会わず、もう行くわ。」
「なんで?挨拶していきなさいよ。最後だろうし。」
「最後?」
「黒雷様はきっとトイをフリュンゲル国には帰さないわよ。」
「え?」
「だって、フリュンゲル国はトイのことを大切にしないもの。才能も度胸もあるのに、それを生かす事ができない
国になんて置いてなんておけないでしょ。」
「そ・・それはダメ!トイは・・わたくしが大切にするから!だからダメ!」
「フェイナは王になるのでしょ?王がたった一人の民を特別に大切にしちゃダメでしょ。」
「だって特別なんだもの!大切にしちゃうわよ!」
アイスはその言葉にお腹を抱えて大笑いすると、フェイナの肩に手を置き、笑いすぎで出た涙を拭いながら言った。
「そこまで言うなら、私から黒雷様に言っていてあげるから!」
「本当に?お願いね!」
先ほど酷いことを言われたのに、何故こんなにもトイのことを大切にしたいと素直に言えるのであろうか。
アイスはフェイナが本当に純粋な人間なのだろうと感じていた。
そして、しばらくの間二人は色々なことを話した。家族のことや、好きな物のこと、家ではどんな生活を送っているのか、昔飼っていた動物のことなどまで話した。
二人には似ている所が多くあり、共通点の多さゆえに、親近感がわいていた。
だが、トイ=ブルーバードと話をし、フェイナは国に帰すことになったのだ。
アイスは自分の中に生まれた少しばかりさみしいという気持ちを抑え、フェイナに眠るように息を吹きかけた。
トイは、外に出てきたフェイナを背負ったアイスの側に行くと、眠っているフェイナの頭を撫でた。とても愛おしそうに撫でる姿に、アイスは少し驚いていた。
「トイにも大切に想う者がいたんだ?」
「大切・・か・・・僕は彼女がすごく憎かったんだけどね。」
「愛憎は紙一重っていうしね。」
悲しそうに、トイは微笑んでいた。
「・・・そんな顔するくらいなら、一緒にいればいいのに。」
そういうアイスのほうにトイは顔を向けるといった。
「そう出来るくらいなら、突き放したりしないよ。」
心が痛くなった。
フェイナがトイを想うように、トイもまたフェイナを想っている。
見ているだけでも分かる。
それなのに、本人らは別々の道を歩んでいく。
「これでいいの?」
「こうしなきゃいけない。竜の為にも。人間の為にも。フェイナのためにも。」
「トイ・・・・・・・・嫌われてしまうよ?」
何も言わずにトイはその場を後にした。
立ち去るその背に、多くのものを背負わされている。
運命・宿命・使命・・・・・本当はそんなもの本人は請け負いたくはなどないだろう。
けれど、それでも背負う。
アイスは、寝息をたてるフェイナを見つめ、そして笑みを浮かべた。
「少しだけフェイナがうらやましいや。」
その声は、フェイナには届かない。
けれど、アイスは届けば良いのにと願った。
届けば、もしかしたら何かが変わるのではないかと思ったから。
そう、変われば良いと思った。
二人のために。
「あなた、度胸はあるくせにトイには弱いのね。あんな酷いこと言われて文句も言わないなんて私だったらありえないわ。」
フェイナだって言いたい。
けれど言えない。
「自分のこと意外、わたくしには見えていなかったの。」
「は?」
「トイにはそれが分かっていたんだわ。」
「意味わかんない。自分のことを考えるのは当たり前でしょ?」
「わたくしは・・それだけではダメなのよ。それに、わたくしには自覚が足りなかったんだわ。」
「自覚?」
「ええ。・・・・エデンに帰るわ。わたくしは、まず自分に出来ることをしなければならない。」
「ふーん。なら、送っていくわ。いつ出発する?」
「すぐに。トイには会わず、もう行くわ。」
「なんで?挨拶していきなさいよ。最後だろうし。」
「最後?」
「黒雷様はきっとトイをフリュンゲル国には帰さないわよ。」
「え?」
「だって、フリュンゲル国はトイのことを大切にしないもの。才能も度胸もあるのに、それを生かす事ができない
国になんて置いてなんておけないでしょ。」
「そ・・それはダメ!トイは・・わたくしが大切にするから!だからダメ!」
「フェイナは王になるのでしょ?王がたった一人の民を特別に大切にしちゃダメでしょ。」
「だって特別なんだもの!大切にしちゃうわよ!」
アイスはその言葉にお腹を抱えて大笑いすると、フェイナの肩に手を置き、笑いすぎで出た涙を拭いながら言った。
「そこまで言うなら、私から黒雷様に言っていてあげるから!」
「本当に?お願いね!」
先ほど酷いことを言われたのに、何故こんなにもトイのことを大切にしたいと素直に言えるのであろうか。
アイスはフェイナが本当に純粋な人間なのだろうと感じていた。
そして、しばらくの間二人は色々なことを話した。家族のことや、好きな物のこと、家ではどんな生活を送っているのか、昔飼っていた動物のことなどまで話した。
二人には似ている所が多くあり、共通点の多さゆえに、親近感がわいていた。
だが、トイ=ブルーバードと話をし、フェイナは国に帰すことになったのだ。
アイスは自分の中に生まれた少しばかりさみしいという気持ちを抑え、フェイナに眠るように息を吹きかけた。
トイは、外に出てきたフェイナを背負ったアイスの側に行くと、眠っているフェイナの頭を撫でた。とても愛おしそうに撫でる姿に、アイスは少し驚いていた。
「トイにも大切に想う者がいたんだ?」
「大切・・か・・・僕は彼女がすごく憎かったんだけどね。」
「愛憎は紙一重っていうしね。」
悲しそうに、トイは微笑んでいた。
「・・・そんな顔するくらいなら、一緒にいればいいのに。」
そういうアイスのほうにトイは顔を向けるといった。
「そう出来るくらいなら、突き放したりしないよ。」
心が痛くなった。
フェイナがトイを想うように、トイもまたフェイナを想っている。
見ているだけでも分かる。
それなのに、本人らは別々の道を歩んでいく。
「これでいいの?」
「こうしなきゃいけない。竜の為にも。人間の為にも。フェイナのためにも。」
「トイ・・・・・・・・嫌われてしまうよ?」
何も言わずにトイはその場を後にした。
立ち去るその背に、多くのものを背負わされている。
運命・宿命・使命・・・・・本当はそんなもの本人は請け負いたくはなどないだろう。
けれど、それでも背負う。
アイスは、寝息をたてるフェイナを見つめ、そして笑みを浮かべた。
「少しだけフェイナがうらやましいや。」
その声は、フェイナには届かない。
けれど、アイスは届けば良いのにと願った。
届けば、もしかしたら何かが変わるのではないかと思ったから。
そう、変われば良いと思った。
二人のために。
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