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第二十四話
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王座の前に自分は立っていた。
王座には現女王であり、母であるティリーシアが座っている。
王が羽織るは白銀のマント。匠が精魂こめて作ったそのマントは美しきティリーシアの黄金の瞳と髪を際立たせていた。王の手には真っ赤な扇子が持たれ、それを開閉させながらティリーシアは静かに佇んでいる。
その表情に笑みはなく、威圧的な視線がフェイナには向けられていた。
フェイナは身動き一つできず、ティリーシアの眼から逃れることも出来なかった。
「まずは、無事に帰ってきたことを嬉しく思っています。」
「お・・お母様!わ・・わたくし・・」
「お前は王となる自覚がありますか?」
「え?」
母は母としてではなく、王としてフェイナの前に居た。
それを一瞬で感じ取ると、フェイナは小さく息を吐き、姿勢を整えた。
「はい。わたくしは、この国の時期王となる覚悟をもっております。」
ティリーシアは眉間に皺を寄せ、静かに言った。
「覚悟?覚悟ではなく、自覚を持ちなさい。」
厳しい言葉に、フェイナは臆することなく堂々と述べた。
「では聞きますが、自覚とはなんでしょう?わたくしは生まれながらにして王となる定め。自分の置かれている地位や立場など知っておりますし、そんなもの生まれた時から備わっております。そしてわたくしには国民の為の王になるという覚悟も出来ております。」
ティリーシアは娘を見つめていた。
そして、少しだけ母として誇らしく思い、寂しくも思った。
この数週間の間に娘は娘ではなく、王となる心を得たのだ。
奇しくもそれが、青い鳥の導き・・ティリーシアは目を伏せると言った。
「そうですか。ならばフェイティリア。あなたのせねばならぬこと、分かっていますか。」
「いいえ。わたくしは分かってなどいないかも知れません。ただ、しなければならないと思う事はあります。」
「それは?」
「王としての変革です。お母様。わたくしは時期女王として現女王である貴方様にお伝えせねばならぬ事があります。」
その表情にティリーシアはゆっくりと手に持っていた扇子を閉じ、椅子に打ち付けた。
「アーロ、出てまいれ。・・・・それは、このものらに関係がありますか?」
そういってティリーシアが声をかけると、王座の裏の緞帳から青色の軍服に身を包んだ、正装姿のアーロと、そしてフライ兄弟が縄に縛られた状態で姿を現した。
アーロは縄を引き、フライ兄弟を王座の前とへ連れ出すと、自らは膝をついた。
「また城へ足を踏み入れるとは・・・思っても見ませんでした。」
アーロがそういうと、ティリーシアは言った。
「今は誰もいない。気兼ねする必要もない。」
「ならば・・ごめん。」
そういうと、アーロは膝を突くのを止め、ティリーシアを臆することなく見つめている。
フェイナには状況が上手くつかめていなかった。だが、それを顔に出さないように気を確りと持ち、そして言った。
「お母様とアーロ・・・一体どのようなご関係なのでしょうか。」
ティリーシアはアーロを見つめると言った。
「アーロは旧友だ。昔、私専属の城でおもちゃ職人として使えていた。そして今、軍と協力し敵国から自国を守る為の防衛のおもちゃをも生産してもらっている。」
「え?」
「防衛のおもちゃ・・・いや、兵器だな。それを設計していたのはアーロの息子であるトイ=ブルーバードだ。」
フェイナにはティリーシアの言葉が理解できなかった。
兵器?兵器とは軍事用のものだ。そんなものを、あの人の幸せを望むトイがつくわけがない。
「嘘です。アーロが嘘をついているのです。トイはそんなものつくるはずがありません。」
「何故そう言いきれるのですか?アーロと私は十年来の付き合いですが、貴方はトイとまだ数週間の付き合いでしょう?人の本質がすぐに分かるわけがない。」
「いいえ!いいえ・・・わかります。他人は分からないかもしれない。けれどわたくしはトイのことならば、トイ=ブルーバードのことならば分かります!」
自分でもなぜそう言いきれるのかわからなかった。けれど、言い切れるのだ。トイは自らすすんでそんなことなどしない。するわけがない。
フェイナはアーロを一瞥し、母を見つめた。
「わたくしにはアーロのほうが信用なりません。」
ティリーシアは眉間に皺を寄せると厳しい口調で述べた。
「アーロは昔から忠実に城に使えてくれた存在です。そのような口の利き方、私は許しませんよ。フェイティリア。冷静になってもう一度よくお考えなさい。」
「いいえ。考えた所で結論は変わりません。失礼いたします。」
「フェイティリア!待ちなさい。これは女王命令です。」
「時期女王としてそれを拒否します。失礼。」
そういうとフェイティリアは扉から外へと出て行ってしまった。
ティリーシアはそれを見つめ、しばらくすると笑みを浮かべた。
「強情。さすが私の娘。」
「昔のキミにそっくりだ。」
「そうかしら?それでアーロ。計画は上手く行っているの?」
アーロはフライ兄弟を縛っていた縄を解くと頷いた。
「こいつらのおかげで計画は順調だよ。」
縄を解かれたフライ兄弟は困惑している様子であった。
「あの・・俺達の縄・・どうして?」
アーロは肩に掛けていた鞄の中から黒い仮面を取り出すと、それを顔につけた。
「お前たちは十分に役割を果たしたよ。うまくエデンからフェイナを連れ出した。」
「あ・・あんた・・・」
仮面をつけたアーロは、二人に空を飛ぶ為にはフェイナを捕まえなければならないといったあの黒い仮面の者だった。
ティリーシアは笑みを浮かべた。
そんな笑みを、アイスは雲の上から見つめていた。フェイナはどうやら母と仲たがいしたらしく、またアーロがエデンに来ていることには驚かされた。
「一体何が起こっているのかかしらねぇ。」
けれど自分もここでゆっくりのんびりといつまでも眺めているわけには行かない。
アイスは空を飛び、みんなのところへと飛んだ。
けれどその時であった。
国境付近の兵の国で何かが爆発するのが見えたのである。
「あれは・・・」
何かが空を横切り、光っているのが見える。そして次の瞬間、それは起こった。
「っきゃぁ!」
アイスは避けるのが精一杯で、それがなんなのかは分からなかった。だが確実に、発光体の光の矢が自分のほうへと飛んできたのである。
それは見たことのない早さであり、アイスは心臓が煩くなるのを感じた。
「何?・・・あれ・・・」
「あれが何か知りたい?」
「え?」
振り向いた時には、もう遅かった。
王座には現女王であり、母であるティリーシアが座っている。
王が羽織るは白銀のマント。匠が精魂こめて作ったそのマントは美しきティリーシアの黄金の瞳と髪を際立たせていた。王の手には真っ赤な扇子が持たれ、それを開閉させながらティリーシアは静かに佇んでいる。
その表情に笑みはなく、威圧的な視線がフェイナには向けられていた。
フェイナは身動き一つできず、ティリーシアの眼から逃れることも出来なかった。
「まずは、無事に帰ってきたことを嬉しく思っています。」
「お・・お母様!わ・・わたくし・・」
「お前は王となる自覚がありますか?」
「え?」
母は母としてではなく、王としてフェイナの前に居た。
それを一瞬で感じ取ると、フェイナは小さく息を吐き、姿勢を整えた。
「はい。わたくしは、この国の時期王となる覚悟をもっております。」
ティリーシアは眉間に皺を寄せ、静かに言った。
「覚悟?覚悟ではなく、自覚を持ちなさい。」
厳しい言葉に、フェイナは臆することなく堂々と述べた。
「では聞きますが、自覚とはなんでしょう?わたくしは生まれながらにして王となる定め。自分の置かれている地位や立場など知っておりますし、そんなもの生まれた時から備わっております。そしてわたくしには国民の為の王になるという覚悟も出来ております。」
ティリーシアは娘を見つめていた。
そして、少しだけ母として誇らしく思い、寂しくも思った。
この数週間の間に娘は娘ではなく、王となる心を得たのだ。
奇しくもそれが、青い鳥の導き・・ティリーシアは目を伏せると言った。
「そうですか。ならばフェイティリア。あなたのせねばならぬこと、分かっていますか。」
「いいえ。わたくしは分かってなどいないかも知れません。ただ、しなければならないと思う事はあります。」
「それは?」
「王としての変革です。お母様。わたくしは時期女王として現女王である貴方様にお伝えせねばならぬ事があります。」
その表情にティリーシアはゆっくりと手に持っていた扇子を閉じ、椅子に打ち付けた。
「アーロ、出てまいれ。・・・・それは、このものらに関係がありますか?」
そういってティリーシアが声をかけると、王座の裏の緞帳から青色の軍服に身を包んだ、正装姿のアーロと、そしてフライ兄弟が縄に縛られた状態で姿を現した。
アーロは縄を引き、フライ兄弟を王座の前とへ連れ出すと、自らは膝をついた。
「また城へ足を踏み入れるとは・・・思っても見ませんでした。」
アーロがそういうと、ティリーシアは言った。
「今は誰もいない。気兼ねする必要もない。」
「ならば・・ごめん。」
そういうと、アーロは膝を突くのを止め、ティリーシアを臆することなく見つめている。
フェイナには状況が上手くつかめていなかった。だが、それを顔に出さないように気を確りと持ち、そして言った。
「お母様とアーロ・・・一体どのようなご関係なのでしょうか。」
ティリーシアはアーロを見つめると言った。
「アーロは旧友だ。昔、私専属の城でおもちゃ職人として使えていた。そして今、軍と協力し敵国から自国を守る為の防衛のおもちゃをも生産してもらっている。」
「え?」
「防衛のおもちゃ・・・いや、兵器だな。それを設計していたのはアーロの息子であるトイ=ブルーバードだ。」
フェイナにはティリーシアの言葉が理解できなかった。
兵器?兵器とは軍事用のものだ。そんなものを、あの人の幸せを望むトイがつくわけがない。
「嘘です。アーロが嘘をついているのです。トイはそんなものつくるはずがありません。」
「何故そう言いきれるのですか?アーロと私は十年来の付き合いですが、貴方はトイとまだ数週間の付き合いでしょう?人の本質がすぐに分かるわけがない。」
「いいえ!いいえ・・・わかります。他人は分からないかもしれない。けれどわたくしはトイのことならば、トイ=ブルーバードのことならば分かります!」
自分でもなぜそう言いきれるのかわからなかった。けれど、言い切れるのだ。トイは自らすすんでそんなことなどしない。するわけがない。
フェイナはアーロを一瞥し、母を見つめた。
「わたくしにはアーロのほうが信用なりません。」
ティリーシアは眉間に皺を寄せると厳しい口調で述べた。
「アーロは昔から忠実に城に使えてくれた存在です。そのような口の利き方、私は許しませんよ。フェイティリア。冷静になってもう一度よくお考えなさい。」
「いいえ。考えた所で結論は変わりません。失礼いたします。」
「フェイティリア!待ちなさい。これは女王命令です。」
「時期女王としてそれを拒否します。失礼。」
そういうとフェイティリアは扉から外へと出て行ってしまった。
ティリーシアはそれを見つめ、しばらくすると笑みを浮かべた。
「強情。さすが私の娘。」
「昔のキミにそっくりだ。」
「そうかしら?それでアーロ。計画は上手く行っているの?」
アーロはフライ兄弟を縛っていた縄を解くと頷いた。
「こいつらのおかげで計画は順調だよ。」
縄を解かれたフライ兄弟は困惑している様子であった。
「あの・・俺達の縄・・どうして?」
アーロは肩に掛けていた鞄の中から黒い仮面を取り出すと、それを顔につけた。
「お前たちは十分に役割を果たしたよ。うまくエデンからフェイナを連れ出した。」
「あ・・あんた・・・」
仮面をつけたアーロは、二人に空を飛ぶ為にはフェイナを捕まえなければならないといったあの黒い仮面の者だった。
ティリーシアは笑みを浮かべた。
そんな笑みを、アイスは雲の上から見つめていた。フェイナはどうやら母と仲たがいしたらしく、またアーロがエデンに来ていることには驚かされた。
「一体何が起こっているのかかしらねぇ。」
けれど自分もここでゆっくりのんびりといつまでも眺めているわけには行かない。
アイスは空を飛び、みんなのところへと飛んだ。
けれどその時であった。
国境付近の兵の国で何かが爆発するのが見えたのである。
「あれは・・・」
何かが空を横切り、光っているのが見える。そして次の瞬間、それは起こった。
「っきゃぁ!」
アイスは避けるのが精一杯で、それがなんなのかは分からなかった。だが確実に、発光体の光の矢が自分のほうへと飛んできたのである。
それは見たことのない早さであり、アイスは心臓が煩くなるのを感じた。
「何?・・・あれ・・・」
「あれが何か知りたい?」
「え?」
振り向いた時には、もう遅かった。
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