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第二十五話
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羽が焼かれる痛みが走った。
「きゃぁぁぁっぁぁ!」
悲鳴が上がり、骨が砕けたのが自分でもわかった。そしてそれは危険信号であり、アイスは無我夢中で大空を飛んで逃げた。
誰かが空にいたのは間違いない。けれど、姿までは見えなかった。ただ、確実に見えたものがある。それは、青い羽であった。
「何あれ・・一体・・何が起こっているって言うのよ!」
アイスは懸命に飛ぶしかなかった。痛みは走るが、今は無理にでも跳び続けるほかない。
雲の中は雷が駆け巡り、冷たい水が体中に当たる。
「アイス!」
その時、雷の落ちる轟音の中で誰かの声が聞こえた。
アイスにはすぐ、その声の主が分かった。
「グレン!助けて!」
真っ赤な竜の姿が見えた。アイスはグレンのその姿が見えた途端安堵してしまい、緊張していた前身から力が抜けていった。そして竜の姿が人へと変った。
グレンはそんなアイスを空中で抱きとめた。
「アイス!どうしたんだ・・・アイス!」
アイスの右の翼は消す事が出来ないくらいの損傷を負い、真っ赤な火傷と骨が折れてしまっているのが見て取れた。
グレンはすぐにアイスの翼に癒しの息吹を吹きかけたが、翼は竜にとって最も神経の通っている場所でありすぐに回復できる場所ではなかった。
表面上は治って見えるが、核の部分は自分で癒すしかないのだ。
「アイス。アイス!」
グレンは何度も名前を呼び、そしてアイスを抱きしめると高速で空を飛んだ。
早く戻らなければならない。
攻撃が始まった。
人間は、竜を狙ったのだ。
グレンは必死で空を飛び続けた。
トイは息を荒げ、血走った瞳で自分のほうへと走りこんでくるグレンを見た瞬間にアイスに何かがあったことを悟った。
グレンはトイの胸倉をつかむと岩へと叩きつけ、そして怒鳴り声を上げた。
「どういうつもりだ!お前らは何を望んでいる!」
「落ちつけよ!一体何があったんだ!」
押さえつけてくる腕を振り払うと、トイはそういった。
グレンは怒りをあらわにし、声を上げた。
「アイスがやられた!空で・・空で攻撃されたんだ!今テントで治療を受けているが酷い傷をおっている。」
トイはそれに、唇を噛んだ。
「始まったんだ。」
「何が始まったって言うんだよ!」
トイは喚き散らすグレンの腕を押さえると、声を潜めていった。
「空を争う時代が始まったんだよ。」
「どういう意味だ?・・空は・・青き翼の王と獣のものとされているんじゃないのかよ?」
「人っていうのは貪欲な生き物なんだ。何百年も昔の話にいつまでもしばられてはいられない。進化するし、進歩する。・・・それになにより、人間って言うのはフリュンゲル国だけにいる生き物じゃないんだよ。」
「分かるように言え!」
「つまり、今兵士の国で食い止めている敵国の侵略形式が、そのうち空からになるだろうっていう話だよ。」
「まさか・・・人が・・・空を自由に飛ぶって言うのか?」
「君達竜は、自然とともに生きている。けれど、人間は欲が深く、そしてその欲を満たす為の能力も持っている。事実僕はすでに空を飛ぶおもちゃをいくつか発明しているし、僕以外の人でも空に憧れ、飛ぶことに成功している人もいる。それは先日おもちゃの国で捉えたフライ兄弟という発明家も同じさ。」
グレンはそれを聞き、呆然としている。
そうなるのも当然だ。自分の国は今まで何不自由なく、自然と共存して生活を送ってきたのだ。それを突然関わりのないもの達が不可侵の名を破り進入してきた。すぐに理解しろというほうがおかしい。
トイは言った。
「グレン。僕は皆に話をしたい事がある。黒雷を呼んでくれる?」
するとすぐ後ろから声が聞こえた。
「ここにいる。」
振り向くと、岩の上に黒雷が座ってこちらを見つめていた。どうやらグレンとのやり取りを全て見ていたらしくその表情は硬い。
「今、アイスと話をしてきた。・・・アイスを襲ったのは青い翼を持つものらしい。」
「そんな!まさか!」
トイは驚きを隠せなかった。
青い翼を持つ者は、数が少ない。いや、限られる。
「・・・そんな・・・王族に限ってそんな。」
「私もそう考える。そして、アイスが言った事がもう一つあるのだ。」
黒雷はトイの側まで歩み寄ると、トイの耳元でそれを述べた。
トイはそれに息を飲み、目を見開き、黒雷を見つめた。
「まさか・・・」
「そのまさかだ。・・・たしかに、行方不明となっている竜が一人いる。もう十六年も前のことだが間違いないと思う。」
「十六年・・その人の特徴を教えてください!実は僕もずっと気になっていた事があるんです。」
グレンは黒雷とトイの間に割って入ると、静かに言った。
「俺にもさっきトイに言ったこと教えてください。」
黒雷も隠す気はなかったようであり、今度は先ほどよりも大きな声で、まるで再確認するように言葉を述べた。
「青き翼は、鳥ではなく竜の羽であったと・・そして、そのものから竜の気配がした・・とアイスは言った。」
グレンは、二人のように冷静には言われなかった。
その言葉はつまり、同族に裏切り者がいるということだ。
それは信じられない事実ではあった。
「同族のものが・・・黒雷様は・・・それを信じるのですか?」
思わずそうグレンは口走っていた。
黒雷は声を潜めていった。
「信じるか信じないは受け止め方しだい。だが、アイスは信頼に値する存在だ。そんな彼女が嘘をつくわけがない。」
それはグレンにも分かっていた。アイスを疑う気など全くない。けれど、信じられないのである。
「黒雷様。それでも裏切り者がいると・・・思いたくないのです。すみません。失礼します。」
そういうと、グレンはその場から足早に立ち去っていってしまった。
その背を見送った黒雷とトイは、しばらくの間互いに口を開く事が出来なかった。だが、今こうしている間にも、様々な策略が交錯しあっているかもしれない。
「話を戻す。・・・行方不明になっている竜は、青竜だ。名をフィック=ローシュッド=カーン。とても美しい竜だった。アイツは誰よりも好奇心旺盛で、今思えば、竜の中では誰よりも人間に関心を持っていたように思える。」
「容姿を詳しく教えてください。」
「黒髪に翡翠の瞳、背は私と同じくらいだ。二重の切れ長の瞳で、泣き黒子が右目の下にある。」
トイは自分の腕に傷をつけていった男を思い出そうと瞳を閉じた。
あの時の、あの男と会ったときの違和感。
トイは静かに瞼を開けると、黒雷に言った。
「僕の血を抜いていった男はその男だと思います。」
その言葉を聞いた黒雷の表情は険しくなった。
それが事実であるのならば、やはり同族から裏切り者が出た可能性が高い。
「だけど僕の血液が抜かれたのはもう五年も前のことだ。限りがあるだろうし、何より人間の血液をそんなに長く保存が出来るとは思えないんだ。」
「フィックが首謀者だとは思えないということか?」
「そうは言い切れないよ。けど・・気になっていた事があるんだ。王族なら、誰でも決壊を解くことが出来るんだろう?・・なら・・・・」
トイはそういうと急に押し黙り、黒雷は首をかしげた。
「気になっていることとは?」
「・・・いや・・いいんだ。気にしないで。あくまで憶測でしかないから・・・」
「そこまで言われて、気にするなというほうが無理だ。」
どう話せば良いのか、トイは迷っていた。それ以上に、話していいものか迷っていた。
これは、自分ひとりだけの話ではない。
けれど、今の事態に大きく関わってくる事は間違いなかった。
トイは決心し、そして口を開いた。いや、開きかけた時だった。
「やぁ。久しぶり。」
声が聞こえた。その声は、トイの耳元で響き、ゾッと背筋に寒気が走るのを感じた。
「・・・・フィック」
黒雷はそう呟いていた。
「きゃぁぁぁっぁぁ!」
悲鳴が上がり、骨が砕けたのが自分でもわかった。そしてそれは危険信号であり、アイスは無我夢中で大空を飛んで逃げた。
誰かが空にいたのは間違いない。けれど、姿までは見えなかった。ただ、確実に見えたものがある。それは、青い羽であった。
「何あれ・・一体・・何が起こっているって言うのよ!」
アイスは懸命に飛ぶしかなかった。痛みは走るが、今は無理にでも跳び続けるほかない。
雲の中は雷が駆け巡り、冷たい水が体中に当たる。
「アイス!」
その時、雷の落ちる轟音の中で誰かの声が聞こえた。
アイスにはすぐ、その声の主が分かった。
「グレン!助けて!」
真っ赤な竜の姿が見えた。アイスはグレンのその姿が見えた途端安堵してしまい、緊張していた前身から力が抜けていった。そして竜の姿が人へと変った。
グレンはそんなアイスを空中で抱きとめた。
「アイス!どうしたんだ・・・アイス!」
アイスの右の翼は消す事が出来ないくらいの損傷を負い、真っ赤な火傷と骨が折れてしまっているのが見て取れた。
グレンはすぐにアイスの翼に癒しの息吹を吹きかけたが、翼は竜にとって最も神経の通っている場所でありすぐに回復できる場所ではなかった。
表面上は治って見えるが、核の部分は自分で癒すしかないのだ。
「アイス。アイス!」
グレンは何度も名前を呼び、そしてアイスを抱きしめると高速で空を飛んだ。
早く戻らなければならない。
攻撃が始まった。
人間は、竜を狙ったのだ。
グレンは必死で空を飛び続けた。
トイは息を荒げ、血走った瞳で自分のほうへと走りこんでくるグレンを見た瞬間にアイスに何かがあったことを悟った。
グレンはトイの胸倉をつかむと岩へと叩きつけ、そして怒鳴り声を上げた。
「どういうつもりだ!お前らは何を望んでいる!」
「落ちつけよ!一体何があったんだ!」
押さえつけてくる腕を振り払うと、トイはそういった。
グレンは怒りをあらわにし、声を上げた。
「アイスがやられた!空で・・空で攻撃されたんだ!今テントで治療を受けているが酷い傷をおっている。」
トイはそれに、唇を噛んだ。
「始まったんだ。」
「何が始まったって言うんだよ!」
トイは喚き散らすグレンの腕を押さえると、声を潜めていった。
「空を争う時代が始まったんだよ。」
「どういう意味だ?・・空は・・青き翼の王と獣のものとされているんじゃないのかよ?」
「人っていうのは貪欲な生き物なんだ。何百年も昔の話にいつまでもしばられてはいられない。進化するし、進歩する。・・・それになにより、人間って言うのはフリュンゲル国だけにいる生き物じゃないんだよ。」
「分かるように言え!」
「つまり、今兵士の国で食い止めている敵国の侵略形式が、そのうち空からになるだろうっていう話だよ。」
「まさか・・・人が・・・空を自由に飛ぶって言うのか?」
「君達竜は、自然とともに生きている。けれど、人間は欲が深く、そしてその欲を満たす為の能力も持っている。事実僕はすでに空を飛ぶおもちゃをいくつか発明しているし、僕以外の人でも空に憧れ、飛ぶことに成功している人もいる。それは先日おもちゃの国で捉えたフライ兄弟という発明家も同じさ。」
グレンはそれを聞き、呆然としている。
そうなるのも当然だ。自分の国は今まで何不自由なく、自然と共存して生活を送ってきたのだ。それを突然関わりのないもの達が不可侵の名を破り進入してきた。すぐに理解しろというほうがおかしい。
トイは言った。
「グレン。僕は皆に話をしたい事がある。黒雷を呼んでくれる?」
するとすぐ後ろから声が聞こえた。
「ここにいる。」
振り向くと、岩の上に黒雷が座ってこちらを見つめていた。どうやらグレンとのやり取りを全て見ていたらしくその表情は硬い。
「今、アイスと話をしてきた。・・・アイスを襲ったのは青い翼を持つものらしい。」
「そんな!まさか!」
トイは驚きを隠せなかった。
青い翼を持つ者は、数が少ない。いや、限られる。
「・・・そんな・・・王族に限ってそんな。」
「私もそう考える。そして、アイスが言った事がもう一つあるのだ。」
黒雷はトイの側まで歩み寄ると、トイの耳元でそれを述べた。
トイはそれに息を飲み、目を見開き、黒雷を見つめた。
「まさか・・・」
「そのまさかだ。・・・たしかに、行方不明となっている竜が一人いる。もう十六年も前のことだが間違いないと思う。」
「十六年・・その人の特徴を教えてください!実は僕もずっと気になっていた事があるんです。」
グレンは黒雷とトイの間に割って入ると、静かに言った。
「俺にもさっきトイに言ったこと教えてください。」
黒雷も隠す気はなかったようであり、今度は先ほどよりも大きな声で、まるで再確認するように言葉を述べた。
「青き翼は、鳥ではなく竜の羽であったと・・そして、そのものから竜の気配がした・・とアイスは言った。」
グレンは、二人のように冷静には言われなかった。
その言葉はつまり、同族に裏切り者がいるということだ。
それは信じられない事実ではあった。
「同族のものが・・・黒雷様は・・・それを信じるのですか?」
思わずそうグレンは口走っていた。
黒雷は声を潜めていった。
「信じるか信じないは受け止め方しだい。だが、アイスは信頼に値する存在だ。そんな彼女が嘘をつくわけがない。」
それはグレンにも分かっていた。アイスを疑う気など全くない。けれど、信じられないのである。
「黒雷様。それでも裏切り者がいると・・・思いたくないのです。すみません。失礼します。」
そういうと、グレンはその場から足早に立ち去っていってしまった。
その背を見送った黒雷とトイは、しばらくの間互いに口を開く事が出来なかった。だが、今こうしている間にも、様々な策略が交錯しあっているかもしれない。
「話を戻す。・・・行方不明になっている竜は、青竜だ。名をフィック=ローシュッド=カーン。とても美しい竜だった。アイツは誰よりも好奇心旺盛で、今思えば、竜の中では誰よりも人間に関心を持っていたように思える。」
「容姿を詳しく教えてください。」
「黒髪に翡翠の瞳、背は私と同じくらいだ。二重の切れ長の瞳で、泣き黒子が右目の下にある。」
トイは自分の腕に傷をつけていった男を思い出そうと瞳を閉じた。
あの時の、あの男と会ったときの違和感。
トイは静かに瞼を開けると、黒雷に言った。
「僕の血を抜いていった男はその男だと思います。」
その言葉を聞いた黒雷の表情は険しくなった。
それが事実であるのならば、やはり同族から裏切り者が出た可能性が高い。
「だけど僕の血液が抜かれたのはもう五年も前のことだ。限りがあるだろうし、何より人間の血液をそんなに長く保存が出来るとは思えないんだ。」
「フィックが首謀者だとは思えないということか?」
「そうは言い切れないよ。けど・・気になっていた事があるんだ。王族なら、誰でも決壊を解くことが出来るんだろう?・・なら・・・・」
トイはそういうと急に押し黙り、黒雷は首をかしげた。
「気になっていることとは?」
「・・・いや・・いいんだ。気にしないで。あくまで憶測でしかないから・・・」
「そこまで言われて、気にするなというほうが無理だ。」
どう話せば良いのか、トイは迷っていた。それ以上に、話していいものか迷っていた。
これは、自分ひとりだけの話ではない。
けれど、今の事態に大きく関わってくる事は間違いなかった。
トイは決心し、そして口を開いた。いや、開きかけた時だった。
「やぁ。久しぶり。」
声が聞こえた。その声は、トイの耳元で響き、ゾッと背筋に寒気が走るのを感じた。
「・・・・フィック」
黒雷はそう呟いていた。
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