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第二十六話
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今渦中の相手が突然現れ、トイは慌ててその場から飛びのくと、その男を見つめた。
それは間違いなく、昔、自分の腕に躊躇なく針を刺していったあの男であった。
「トイ。会いたかったよ。」
フィックは、長い黒髪を掻き揚げると優しい瞳をトイに向けていた。
その眼差しは、本当にトイをいとおしんでいるように見えた。
黒雷は昔のフィックを思い出し、この十六年で一体何があったのかと疑問に思った。
フィックは、好奇心旺盛で、人間に興味を持ちながらも、こんなに優しげな眼差しを人間という種族に向けられるほど出来た竜ではなかったと黒雷は記憶している。
それでも、今はそれ以上に気にしなければならない事がある。
「何故この場所がわかった?」
その厳しい口調に、フィックはまるでふざけているかのように肩をすくめて見せた。
トイはジッと、そんなフィックを見つめていた。
黒い髪、翡翠の瞳、薄い唇に、泣き黒子。
五年前となんら変わらないその姿がトイには異様に感じられた。
いや、違う。異様ではなく、また違和感を覚えたのだ。何か、何かが引っかかる。
そして、あることにトイは気付いた。
黒雷もこの時、トイと同じことに気付いてしまった。
二人は、呆然とフィックを見つめていた。
「この場所には、赤い竜に道案内してもらってたどり着いたんだ。」
それがグレンを示す事は言うまでもなく、そしてもしそうならばアイスを攻撃したのは・・
「あの白い竜は生きているかい?」
黒雷の瞳が鋭くなり、黒い翼が背に現れた。そして、その翼からは黒い炎が上がり、火花を散らしている。
「真実だけを語れ。・・・アイス・・白い竜を攻撃したのは・・・お前か?」
「違う。」
「ならば何故、グレンを追ってこれた?」
「近くを赤い竜が通っただけさ。」
「嘘を言うな。」
広い空で、竜同士が廻り合うなど偶然のなせる業ではない。
フィックは優しい笑みを浮かべると、トイを見つめた。
「キミを迎えに来たんだ。トイ。俺と一緒に来て欲しい。」
「今話をしているのは俺だろう。」
黒雷が次第に殺気だっていくのが分かる。
けれどそれを全く気にすることなく、フィックは話を続けた。
「これは、この国のこれからに関わっていくことだ。つまり、フェイナにも、現女王にも、そして貴方にもかかわってくることなんだ。」
一瞬にして空気が冷たく変わっていく。
殺気と殺気のぶつかる音が聞こえてくるようであった。
トイは、微かに自分の腕が震えていることに気が付き、それを隠すように腕を押さえた。
「説明を要求します。貴方は一体何者で、目的は何か、そして誰が貴方とつながっているのか。それを聞くまで僕は動きません。」
「キミの意思は関係ない。」
一瞬の出来事であった。
目の前にフィックが迫り、トイの腕を取ると地面に押さえつけた。だがトイは反射的に押さえつけられる瞬間に体を反転させており、そして片足を折り曲げると、それをバネとしてもう片方の足でフィックの腹部を蹴り上げた。
「・・・さすがっ。」
小さな声でそう呟いた声が聞こえた。
フィックは蹴られたことなどなかったかのように姿勢を整えると、笑みを浮かべている。
トイにはフィックが何をしたいのか理解できなかった。
こういう意味のわからないやつには直接的に聞いたほうが早い。
トイは覚悟を決めると、先ほど感じた違和感の正体を、前々から誰にも言えずに、抱えていた悩みを、静かに言った。
「ずっと気になっていたことを・・・尋ねるよ。」
「何だい?」
「・・・・・貴方は・・・・・・僕の父親?」
フィックは嬉しそうに、歯を見せて笑みを向けてきた。
「キミの父親はアーロではないのかい?」
「そう言われて育ってきた。けど、今までいろんな引っかかりがあったんだ。アーロが父親というのが・・何故か・・しっくりこなかったり・・・それにやけに違和感があると思ったら・・・あんた僕にそっくりなんだもん。」
黒雷の表情は見る見るうちに険しくなる。だが、それは黒雷も感じていたことらしく、驚いているのではなく、明らかにしたいという気持ちが見て取れた。
フィックは小さく笑い声を立てた。だが、その笑みを一瞬で消すと、真面目な表情にうってかわり静かに述べた。
「トイ=ブルーバード。お前には使命がある。それはお前が俺の息子だろうとアーロの息子だろうと変りはない。」
トイはその言葉に、ピクリと反応を示した。
普通の人が聞いたなら、“使命”という部分に反応したのかと思うかもしれない。
だが、トイにとっては違う。
そしてそれはトイにとって、とても残酷なことであると言えた。
「僕の周りにいる人間はみんなどうして・・・こんな人ばかりなんだろう。」
悲しげな笑みを浮べ、トイはフィックに向けて言葉を続けた。
「そういうのは、使命とは言わないよ。犠牲っていうんだ。」
フィックは笑みを消すと、静かに述べた。
「そうかもしれない。その責任は・・・俺達大人にあることは間違いない。だけどな、多くの人の為の犠牲は、使命と言えるんじゃないかと俺は思っている。」
「偽善・・・だね。」
トイは急にフェイナに会いたい衝動に駆られた。
フェイナなら、トイを苦しいことへと送り出したりはしないだろう。
だが、根本にいるのがフェイナだから、トイは何もいえない。
トイのこれまでの人生も、これからの人生も、結局はフェイナに大きく振り回されるのだ。
それでもフェイナを悪く思えないのはどうしてか・・・トイには分かっていた。
それは間違いなく、昔、自分の腕に躊躇なく針を刺していったあの男であった。
「トイ。会いたかったよ。」
フィックは、長い黒髪を掻き揚げると優しい瞳をトイに向けていた。
その眼差しは、本当にトイをいとおしんでいるように見えた。
黒雷は昔のフィックを思い出し、この十六年で一体何があったのかと疑問に思った。
フィックは、好奇心旺盛で、人間に興味を持ちながらも、こんなに優しげな眼差しを人間という種族に向けられるほど出来た竜ではなかったと黒雷は記憶している。
それでも、今はそれ以上に気にしなければならない事がある。
「何故この場所がわかった?」
その厳しい口調に、フィックはまるでふざけているかのように肩をすくめて見せた。
トイはジッと、そんなフィックを見つめていた。
黒い髪、翡翠の瞳、薄い唇に、泣き黒子。
五年前となんら変わらないその姿がトイには異様に感じられた。
いや、違う。異様ではなく、また違和感を覚えたのだ。何か、何かが引っかかる。
そして、あることにトイは気付いた。
黒雷もこの時、トイと同じことに気付いてしまった。
二人は、呆然とフィックを見つめていた。
「この場所には、赤い竜に道案内してもらってたどり着いたんだ。」
それがグレンを示す事は言うまでもなく、そしてもしそうならばアイスを攻撃したのは・・
「あの白い竜は生きているかい?」
黒雷の瞳が鋭くなり、黒い翼が背に現れた。そして、その翼からは黒い炎が上がり、火花を散らしている。
「真実だけを語れ。・・・アイス・・白い竜を攻撃したのは・・・お前か?」
「違う。」
「ならば何故、グレンを追ってこれた?」
「近くを赤い竜が通っただけさ。」
「嘘を言うな。」
広い空で、竜同士が廻り合うなど偶然のなせる業ではない。
フィックは優しい笑みを浮かべると、トイを見つめた。
「キミを迎えに来たんだ。トイ。俺と一緒に来て欲しい。」
「今話をしているのは俺だろう。」
黒雷が次第に殺気だっていくのが分かる。
けれどそれを全く気にすることなく、フィックは話を続けた。
「これは、この国のこれからに関わっていくことだ。つまり、フェイナにも、現女王にも、そして貴方にもかかわってくることなんだ。」
一瞬にして空気が冷たく変わっていく。
殺気と殺気のぶつかる音が聞こえてくるようであった。
トイは、微かに自分の腕が震えていることに気が付き、それを隠すように腕を押さえた。
「説明を要求します。貴方は一体何者で、目的は何か、そして誰が貴方とつながっているのか。それを聞くまで僕は動きません。」
「キミの意思は関係ない。」
一瞬の出来事であった。
目の前にフィックが迫り、トイの腕を取ると地面に押さえつけた。だがトイは反射的に押さえつけられる瞬間に体を反転させており、そして片足を折り曲げると、それをバネとしてもう片方の足でフィックの腹部を蹴り上げた。
「・・・さすがっ。」
小さな声でそう呟いた声が聞こえた。
フィックは蹴られたことなどなかったかのように姿勢を整えると、笑みを浮かべている。
トイにはフィックが何をしたいのか理解できなかった。
こういう意味のわからないやつには直接的に聞いたほうが早い。
トイは覚悟を決めると、先ほど感じた違和感の正体を、前々から誰にも言えずに、抱えていた悩みを、静かに言った。
「ずっと気になっていたことを・・・尋ねるよ。」
「何だい?」
「・・・・・貴方は・・・・・・僕の父親?」
フィックは嬉しそうに、歯を見せて笑みを向けてきた。
「キミの父親はアーロではないのかい?」
「そう言われて育ってきた。けど、今までいろんな引っかかりがあったんだ。アーロが父親というのが・・何故か・・しっくりこなかったり・・・それにやけに違和感があると思ったら・・・あんた僕にそっくりなんだもん。」
黒雷の表情は見る見るうちに険しくなる。だが、それは黒雷も感じていたことらしく、驚いているのではなく、明らかにしたいという気持ちが見て取れた。
フィックは小さく笑い声を立てた。だが、その笑みを一瞬で消すと、真面目な表情にうってかわり静かに述べた。
「トイ=ブルーバード。お前には使命がある。それはお前が俺の息子だろうとアーロの息子だろうと変りはない。」
トイはその言葉に、ピクリと反応を示した。
普通の人が聞いたなら、“使命”という部分に反応したのかと思うかもしれない。
だが、トイにとっては違う。
そしてそれはトイにとって、とても残酷なことであると言えた。
「僕の周りにいる人間はみんなどうして・・・こんな人ばかりなんだろう。」
悲しげな笑みを浮べ、トイはフィックに向けて言葉を続けた。
「そういうのは、使命とは言わないよ。犠牲っていうんだ。」
フィックは笑みを消すと、静かに述べた。
「そうかもしれない。その責任は・・・俺達大人にあることは間違いない。だけどな、多くの人の為の犠牲は、使命と言えるんじゃないかと俺は思っている。」
「偽善・・・だね。」
トイは急にフェイナに会いたい衝動に駆られた。
フェイナなら、トイを苦しいことへと送り出したりはしないだろう。
だが、根本にいるのがフェイナだから、トイは何もいえない。
トイのこれまでの人生も、これからの人生も、結局はフェイナに大きく振り回されるのだ。
それでもフェイナを悪く思えないのはどうしてか・・・トイには分かっていた。
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