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17話
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ひとしきりの絶叫の後、カミラは荒い息と共に視線を上げる。
その瞳の奥には諦めが灯り、もう抵抗の意思は感じられなかった。
「し……しかた、なかったのよ」
「はい?」
自ら傷つけた手の平から血を流しながら、カミラは血相を変えて私に呟いていく。
「私だって、私だって愛する人に裏切られたの。あの人は私ではなく、他の女性をみていた……それが、どれだけ悔しかったか、貴方なら分かるでしょ」
その言葉には、流石に反応せざるを得ない。
カミラが愛して裏切られた相手など、きっと一人しかいないから。
「ハーヴィン国王陛下が、貴方を裏切ったとでもいうの?」
「あの人は、私と結婚した後にも妾を愛していたのよ……これがどれだけ屈辱で、惨めだったか分かる?」
「……」
王家が腐っているとは思っていたが……
あの国王陛下に、そんな事実があったなんて。
「私が事実を知った途端、当時の王家は不都合な事実をもみ消すために妾を消したの。私は事実を知りながら……愛した人と偽りの愛を過ごすしかできなかった!」
「だから、ロット伯爵で心を埋めていたのですね」
「私には不自由のない生活と、陛下に要求を通せる程の地位も得た。でも……でも一度だって心から満足なんてできないのよ。愛する人の心が私には向いていないのだから。この何十年も空いた心を……埋めたかった」
不倫の理由、そして知ってしまった事実としては重すぎるものだった。
というよりも……この王家には腐った人間の比率が多すぎる。
あのハーヴィン国王陛下でさえ、王妃がいながら妾を愛するなど……
しかも不義を示す証拠はきっちり消しており、今では罪に問うことすら難しい。
腹立たしくて、怒りが沸くのを押さえながら呟く。
「事情は分かります。でも残念だけど同情はできません……貴方には相応の処罰を受けてもらうしかない」
「……あぁ。ゆる、ゆるし、てよ。私も、私だって……」
泣き出すカミラに同情はするが、許す事などできはしない。
この五年間の謀略、嵌められていた苦痛は、もう消える事はない罪なのだから。
「幾つか聞きたい事があります……エリクと共謀した理由を教えて」
「あ、あの子が望んだからよ。結婚してすぐに……どうにか愛しているロザリンと結ばれる方法がないかって……」
「国を巻き込む問題です。その重さは王妃なら理解できたはず、息子のためとはいえ……どうしてそこまで」
「分からない? エリクがいずれ王となれば、私がしてきた横領や不義がばれてしまっていたはず」
「……」
「だから……前もって恩を売っていたの。共犯として互いの事実を隠す関係を構築するために」
確かにカミラからすれば、自らの罪を隠すためにも、次期国王となるエリクと共謀した方が都合が良かったのだろう。
いずれ事実が知られても、エリクが権威を持っていれば揉み消せる。
「もう一つ。私に『子が出来ない』と診療した医師の居場所を教えなさい」
「……」
「ここで吐かねば、いずれ事実が判明した時に貴方の罪がより重くなりますよ、カミラ……」
「……い、今はロザリンの公爵家のお抱え医師になっているわ。あの令嬢は持病があるのは本当なの」
なるほど……
ロザリンの持病、それは貴族の政略結婚には不利な材料となる。
それゆえにお抱えの医師を雇って症状を抑えさせていたのだろう。
今まで医師の居場所が掴めなかったのも、ロザリンの持病を隠すためにも、お抱え医師の存在すら秘匿する必要があるからだ。
「では最後に聞かせて」
「な、なによ……」
「ロット伯爵に聞いたわ。彼の帳簿には我がシルヴァン王家騎士の鎧を購入した記録があった。それは貴方からの要望だと聞いたけど……なぜこれを?」
「そ、それをどうして私に聞くの? 部屋に書置きを残して、購入させたじゃないの」
なにを言っているのか疑問の中。
カミラは言葉を続けた。
「妃室に、突然書置きを残して。シルヴァン王家騎士の鎧を購入し、指定の場所に置いておけと……」
「は? どうしてそんな意味の分からぬ指示に従ったの」
「私の横領の証拠と共に、書置きが残されていたからよ。し……従わざるを得ないでしょう?」
新たな事実に戸惑ってしまう。
カミラの横領罪を知りながら、脅して意図的に操り、シルヴァンの鎧を購入させた?
なぜ、どうしてだ。
「あ、貴方の命令ではなかったの? フィリアさん」
「私が命令した? 何を言っているの。カミラ」
「だ、だって。横領の証拠を掴んでいたのは、フィリアさんだけよ。だから以前に証拠を見せられた時、書置きを残したのは貴方だと思っていたのに……」
少し納得がいってしまった。
以前、カミラに横領の証拠を示した時、えらくあっさりと怯えると思ったが……
事前に脅されていたからなのか。
「……」
ひとまず、手に入れた情報をまとめてみる。
紙とペンを手に取って書き込んだ。
・カミラ王妃は、現国王のハーヴィン陛下が妾を愛していた事を恨み。自らも不倫を行っていた。
・その事実を隠すためにエリクに協力しており、私に嘘の検査結果を伝えた医師はロザリンの公爵家にいる。
・シルヴァンの鎧はカミラが、横領の証拠で誰かに脅されて、指定の場所に置いていた。
ざっと、こんな所か。
厄介な情報が出てきてしまったが、ひとまず大きな情報が先決だ。
ロザリンの公爵家に、私に『子が出来ない』と偽りの診断をした医師が居る。
まずはここで、エリクが私の身に塗り付けた詐称を明るみにしよう。
「カミラ……これから貴方は騎士団に連行してもらう。そこで全ての事実を話してもらいます」
「……」
カミラの瞳にはもう、抵抗の意思は残されていない。
ぐったりと肩を落として、揃った証拠を前に項垂れて、嗚咽していた。
やがて騎士団がやってきており、カミラの身柄を拘束していく。
王妃の犯した重罪、騎士は困惑しながらも、粛々と職務をこなしてくれる。
その最中だった。
「母上……」
騒ぎを聞いてやって来たのは、第二王子のルアンスだった。
彼は連行されていくカミラに対して、言葉を投げかけた。
「母上……不義をなさったとお聞きしました。どうして……」
「っ! ルアンス……」
「なぜ、なぜこんな事を、母上」
「黙れ! 黙れ! 黙れぇぇ! 私の子でもないくせに、話しかけないで! お前なんて、お前が居なければぁぁ!」
血相を変えたカミラの絶叫。
その言葉を受けたルアンスの表情が固まり、私も驚きで目を見開いた。
まさか……ルアンス。
彼はハーヴィン国王陛下と、消されたという妾の子だというの?
その瞳の奥には諦めが灯り、もう抵抗の意思は感じられなかった。
「し……しかた、なかったのよ」
「はい?」
自ら傷つけた手の平から血を流しながら、カミラは血相を変えて私に呟いていく。
「私だって、私だって愛する人に裏切られたの。あの人は私ではなく、他の女性をみていた……それが、どれだけ悔しかったか、貴方なら分かるでしょ」
その言葉には、流石に反応せざるを得ない。
カミラが愛して裏切られた相手など、きっと一人しかいないから。
「ハーヴィン国王陛下が、貴方を裏切ったとでもいうの?」
「あの人は、私と結婚した後にも妾を愛していたのよ……これがどれだけ屈辱で、惨めだったか分かる?」
「……」
王家が腐っているとは思っていたが……
あの国王陛下に、そんな事実があったなんて。
「私が事実を知った途端、当時の王家は不都合な事実をもみ消すために妾を消したの。私は事実を知りながら……愛した人と偽りの愛を過ごすしかできなかった!」
「だから、ロット伯爵で心を埋めていたのですね」
「私には不自由のない生活と、陛下に要求を通せる程の地位も得た。でも……でも一度だって心から満足なんてできないのよ。愛する人の心が私には向いていないのだから。この何十年も空いた心を……埋めたかった」
不倫の理由、そして知ってしまった事実としては重すぎるものだった。
というよりも……この王家には腐った人間の比率が多すぎる。
あのハーヴィン国王陛下でさえ、王妃がいながら妾を愛するなど……
しかも不義を示す証拠はきっちり消しており、今では罪に問うことすら難しい。
腹立たしくて、怒りが沸くのを押さえながら呟く。
「事情は分かります。でも残念だけど同情はできません……貴方には相応の処罰を受けてもらうしかない」
「……あぁ。ゆる、ゆるし、てよ。私も、私だって……」
泣き出すカミラに同情はするが、許す事などできはしない。
この五年間の謀略、嵌められていた苦痛は、もう消える事はない罪なのだから。
「幾つか聞きたい事があります……エリクと共謀した理由を教えて」
「あ、あの子が望んだからよ。結婚してすぐに……どうにか愛しているロザリンと結ばれる方法がないかって……」
「国を巻き込む問題です。その重さは王妃なら理解できたはず、息子のためとはいえ……どうしてそこまで」
「分からない? エリクがいずれ王となれば、私がしてきた横領や不義がばれてしまっていたはず」
「……」
「だから……前もって恩を売っていたの。共犯として互いの事実を隠す関係を構築するために」
確かにカミラからすれば、自らの罪を隠すためにも、次期国王となるエリクと共謀した方が都合が良かったのだろう。
いずれ事実が知られても、エリクが権威を持っていれば揉み消せる。
「もう一つ。私に『子が出来ない』と診療した医師の居場所を教えなさい」
「……」
「ここで吐かねば、いずれ事実が判明した時に貴方の罪がより重くなりますよ、カミラ……」
「……い、今はロザリンの公爵家のお抱え医師になっているわ。あの令嬢は持病があるのは本当なの」
なるほど……
ロザリンの持病、それは貴族の政略結婚には不利な材料となる。
それゆえにお抱えの医師を雇って症状を抑えさせていたのだろう。
今まで医師の居場所が掴めなかったのも、ロザリンの持病を隠すためにも、お抱え医師の存在すら秘匿する必要があるからだ。
「では最後に聞かせて」
「な、なによ……」
「ロット伯爵に聞いたわ。彼の帳簿には我がシルヴァン王家騎士の鎧を購入した記録があった。それは貴方からの要望だと聞いたけど……なぜこれを?」
「そ、それをどうして私に聞くの? 部屋に書置きを残して、購入させたじゃないの」
なにを言っているのか疑問の中。
カミラは言葉を続けた。
「妃室に、突然書置きを残して。シルヴァン王家騎士の鎧を購入し、指定の場所に置いておけと……」
「は? どうしてそんな意味の分からぬ指示に従ったの」
「私の横領の証拠と共に、書置きが残されていたからよ。し……従わざるを得ないでしょう?」
新たな事実に戸惑ってしまう。
カミラの横領罪を知りながら、脅して意図的に操り、シルヴァンの鎧を購入させた?
なぜ、どうしてだ。
「あ、貴方の命令ではなかったの? フィリアさん」
「私が命令した? 何を言っているの。カミラ」
「だ、だって。横領の証拠を掴んでいたのは、フィリアさんだけよ。だから以前に証拠を見せられた時、書置きを残したのは貴方だと思っていたのに……」
少し納得がいってしまった。
以前、カミラに横領の証拠を示した時、えらくあっさりと怯えると思ったが……
事前に脅されていたからなのか。
「……」
ひとまず、手に入れた情報をまとめてみる。
紙とペンを手に取って書き込んだ。
・カミラ王妃は、現国王のハーヴィン陛下が妾を愛していた事を恨み。自らも不倫を行っていた。
・その事実を隠すためにエリクに協力しており、私に嘘の検査結果を伝えた医師はロザリンの公爵家にいる。
・シルヴァンの鎧はカミラが、横領の証拠で誰かに脅されて、指定の場所に置いていた。
ざっと、こんな所か。
厄介な情報が出てきてしまったが、ひとまず大きな情報が先決だ。
ロザリンの公爵家に、私に『子が出来ない』と偽りの診断をした医師が居る。
まずはここで、エリクが私の身に塗り付けた詐称を明るみにしよう。
「カミラ……これから貴方は騎士団に連行してもらう。そこで全ての事実を話してもらいます」
「……」
カミラの瞳にはもう、抵抗の意思は残されていない。
ぐったりと肩を落として、揃った証拠を前に項垂れて、嗚咽していた。
やがて騎士団がやってきており、カミラの身柄を拘束していく。
王妃の犯した重罪、騎士は困惑しながらも、粛々と職務をこなしてくれる。
その最中だった。
「母上……」
騒ぎを聞いてやって来たのは、第二王子のルアンスだった。
彼は連行されていくカミラに対して、言葉を投げかけた。
「母上……不義をなさったとお聞きしました。どうして……」
「っ! ルアンス……」
「なぜ、なぜこんな事を、母上」
「黙れ! 黙れ! 黙れぇぇ! 私の子でもないくせに、話しかけないで! お前なんて、お前が居なければぁぁ!」
血相を変えたカミラの絶叫。
その言葉を受けたルアンスの表情が固まり、私も驚きで目を見開いた。
まさか……ルアンス。
彼はハーヴィン国王陛下と、消されたという妾の子だというの?
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