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16話
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カミラの妃室に足を踏み入れれば、彼女はまるで亡命するかのように荷物をまとめていた。
乱雑に乱れたドレス、トランクに詰められた宝飾品。
いまだに虚飾を手放せずに、逃げ出そうとしているカミラに怒りが燃え上がる。
「浅ましく、低俗な王妃ね。カミラ」
「な、なに。なにをしにきたの!」
私の来訪に驚きを隠せない様子のカミラ。
しかしもはや、彼女を王妃として敬うような気持ちは捨てている。
王妃としての責任を放棄し、民の信頼を裏切った行いを許す事はできない。
「貴方の罪を全て、裁く準備ができたのよ」
「わ、私の……なにを言って……」
カミラの前に立つ。
今の私は自分でも、冷たい視線となっているだろう。
自らを苦しめてきて、謀略によって追い詰めてきた王妃。
それがこんなにちっぽけで、矮小で、低俗な存在だと思わなかったから。
「これを見なさい」
ロット伯爵家から持ってきた帳簿。
加えて、彼が受け取っていた資金の全額を記載した書類を床に落とす。
カミラの表情が一変した。
「まずは……横領の証拠です。記録と証言はとれました。ロット伯爵はすでに騎士団によって勾留されています」
「……」
「加えてもう一つ。貴方は王妃としての誇りを捨て……私利私欲にまみれた罪を犯しましたね」
「まさか、全部……聞いて」
「貴方はロット伯爵と肉体的関係をもっていた。王妃でありながらその身を王家以外の男性と交わせた。自らの体を自らの意思で穢したの」
「……」
「もう証言はとれた。罪は直に明るみになるはずよ」
私が告げた言葉に、カミラは全てを暴かれたと気付いたのだろう。
ドレスを踏みつけ、装飾品が落ちていくのも気にせずに両膝を落として、私へと懇願した。
「やめ、やめて……お願い。フィリアさん。私にはどうしようもない事情があったの。私だって被害者なの……貴方と同じで、私だって」
「貴方は王妃として民の信頼を背負い、国を導く立場でもある。その肩書きに見合わぬ軽率な行い……事情があるからと正当化できると?」
「許して、許してちょうだい。私は……私は……」
「私に幾ら情けを求めても、裁くのは私ではなく。貴方を信頼してれていた民達です!」
あまりに惨めで、情けない。
同じ妃の肩書きを持つ彼女に怒りがこみ上げる。
私の怒りの声に、カミラは涙と冷や汗でぐちゃぐちゃになった顔で見上げる。
「民が生活する中で、厳しい生活でいくら税を納めているか貴方は知っているの?」
「……それは」
「それらの税を国に治めてくれるのは、国家への信頼あってこそ。誇り高く、権威ある王家ならばこの国をより良く導いてくれると信頼があるからこそよ」
「……」
「貴方はその誇りを自ら凌辱させた。王妃という立場であるならば、どんな事情があろうと誇りを貫き、民に顔向けできぬ行為だけは犯してはならなかったはず」
私にいくら懇願しようが、許しなど得られないとカミラには分かったのだろう。
瞳の奥が諦めて、俯いたのが見えた。
「っ!」
しかし、次に彼女がとった行動は、誇りなど無い行動だった。
自らの罪が明るみになるかもしれない、亡命は間に合わない、どうすれば……そんな迷いが彼女を突き動かしたのか、部屋に置かれた花瓶を割り出したのだ。
「なにをして……」
割れた花瓶、鋭利にとがった破片をカミラは握る。
咄嗟にリューグが私を抱くように庇うが、カミラが向けた切っ先は自らの手の平だった。
切り裂くように引いた破片、鮮血が部屋に落ちる。
「見逃しなさい……でないと、わ、私に傷をつけた罪で貴方も裁いてもらうわ。この傷を貴方につけられたと吹聴してもいいのよ!」
なにをするのかと思えば、幼稚なやり方だ。
自傷して、私に傷つけられたと言い張り、一時の時間稼ぎをして亡命の手筈を整える気か。
どこまで矮小な存在に落ちる気だ。
「で、出て行きなさい! 全て他言無用よ。王妃である私に傷をつけたと騒げば、この国だけではなく他国にまで広がって貴方の評判を落とすのよ?」
「それがなにか?」
「へ?」
「それが何か、問題があるかと聞いているのよ」
「っ! あぁぁぁ!」
カミラの傷ついた手を握り、思いっきり力を込める。
痛みで絶叫している彼女を見下ろして、私は胸に宿る怒りをぶつけた。
「貴方の罪を裁くと言ったはず、何をしても覆らないわよ。いくらでも騒げばいいわ。落ちた品位を露呈していきなさい」
「あぁぁぁ、やめ、やめて!」
「黙りなさい。見損なったわ……最後まで、貴方は誇りもなく。身勝手な感情で生きていく気なのね」
絶叫と苦悶の表情を浮かべるカミラを見つめる。
いい表情ね……苦しみ、逃げられないと悟って、こちらに許しを懇願する瞳。
私の胸に渦巻く怒りが、彼女を裁けと突き動かす。
王妃として矮小で低俗で、最低で最悪なカミラを……王妃とも呼べぬ彼女を裁く決意を更に強固にしていく。
「ねぇ、カミラ。もう犯した罪からは逃れられないの」
「あ……あぁ」
「貴方はどこに逃げようと……そこに落ちている宝飾品が虚飾になる程の汚名を背負う事となった。それが貴方の犯した罪の重さよ」
「あぁぁぁぁ!!!!!」
カミラ……もう逃げ場はないの、犯した罪が許される事はないの。
それが妃の肩書きを背負う責務であり、犯してしまった罪の報いでもある。
ようやく理解した彼女は、うずくまって悲泣の声を漏らした。
乱雑に乱れたドレス、トランクに詰められた宝飾品。
いまだに虚飾を手放せずに、逃げ出そうとしているカミラに怒りが燃え上がる。
「浅ましく、低俗な王妃ね。カミラ」
「な、なに。なにをしにきたの!」
私の来訪に驚きを隠せない様子のカミラ。
しかしもはや、彼女を王妃として敬うような気持ちは捨てている。
王妃としての責任を放棄し、民の信頼を裏切った行いを許す事はできない。
「貴方の罪を全て、裁く準備ができたのよ」
「わ、私の……なにを言って……」
カミラの前に立つ。
今の私は自分でも、冷たい視線となっているだろう。
自らを苦しめてきて、謀略によって追い詰めてきた王妃。
それがこんなにちっぽけで、矮小で、低俗な存在だと思わなかったから。
「これを見なさい」
ロット伯爵家から持ってきた帳簿。
加えて、彼が受け取っていた資金の全額を記載した書類を床に落とす。
カミラの表情が一変した。
「まずは……横領の証拠です。記録と証言はとれました。ロット伯爵はすでに騎士団によって勾留されています」
「……」
「加えてもう一つ。貴方は王妃としての誇りを捨て……私利私欲にまみれた罪を犯しましたね」
「まさか、全部……聞いて」
「貴方はロット伯爵と肉体的関係をもっていた。王妃でありながらその身を王家以外の男性と交わせた。自らの体を自らの意思で穢したの」
「……」
「もう証言はとれた。罪は直に明るみになるはずよ」
私が告げた言葉に、カミラは全てを暴かれたと気付いたのだろう。
ドレスを踏みつけ、装飾品が落ちていくのも気にせずに両膝を落として、私へと懇願した。
「やめ、やめて……お願い。フィリアさん。私にはどうしようもない事情があったの。私だって被害者なの……貴方と同じで、私だって」
「貴方は王妃として民の信頼を背負い、国を導く立場でもある。その肩書きに見合わぬ軽率な行い……事情があるからと正当化できると?」
「許して、許してちょうだい。私は……私は……」
「私に幾ら情けを求めても、裁くのは私ではなく。貴方を信頼してれていた民達です!」
あまりに惨めで、情けない。
同じ妃の肩書きを持つ彼女に怒りがこみ上げる。
私の怒りの声に、カミラは涙と冷や汗でぐちゃぐちゃになった顔で見上げる。
「民が生活する中で、厳しい生活でいくら税を納めているか貴方は知っているの?」
「……それは」
「それらの税を国に治めてくれるのは、国家への信頼あってこそ。誇り高く、権威ある王家ならばこの国をより良く導いてくれると信頼があるからこそよ」
「……」
「貴方はその誇りを自ら凌辱させた。王妃という立場であるならば、どんな事情があろうと誇りを貫き、民に顔向けできぬ行為だけは犯してはならなかったはず」
私にいくら懇願しようが、許しなど得られないとカミラには分かったのだろう。
瞳の奥が諦めて、俯いたのが見えた。
「っ!」
しかし、次に彼女がとった行動は、誇りなど無い行動だった。
自らの罪が明るみになるかもしれない、亡命は間に合わない、どうすれば……そんな迷いが彼女を突き動かしたのか、部屋に置かれた花瓶を割り出したのだ。
「なにをして……」
割れた花瓶、鋭利にとがった破片をカミラは握る。
咄嗟にリューグが私を抱くように庇うが、カミラが向けた切っ先は自らの手の平だった。
切り裂くように引いた破片、鮮血が部屋に落ちる。
「見逃しなさい……でないと、わ、私に傷をつけた罪で貴方も裁いてもらうわ。この傷を貴方につけられたと吹聴してもいいのよ!」
なにをするのかと思えば、幼稚なやり方だ。
自傷して、私に傷つけられたと言い張り、一時の時間稼ぎをして亡命の手筈を整える気か。
どこまで矮小な存在に落ちる気だ。
「で、出て行きなさい! 全て他言無用よ。王妃である私に傷をつけたと騒げば、この国だけではなく他国にまで広がって貴方の評判を落とすのよ?」
「それがなにか?」
「へ?」
「それが何か、問題があるかと聞いているのよ」
「っ! あぁぁぁ!」
カミラの傷ついた手を握り、思いっきり力を込める。
痛みで絶叫している彼女を見下ろして、私は胸に宿る怒りをぶつけた。
「貴方の罪を裁くと言ったはず、何をしても覆らないわよ。いくらでも騒げばいいわ。落ちた品位を露呈していきなさい」
「あぁぁぁ、やめ、やめて!」
「黙りなさい。見損なったわ……最後まで、貴方は誇りもなく。身勝手な感情で生きていく気なのね」
絶叫と苦悶の表情を浮かべるカミラを見つめる。
いい表情ね……苦しみ、逃げられないと悟って、こちらに許しを懇願する瞳。
私の胸に渦巻く怒りが、彼女を裁けと突き動かす。
王妃として矮小で低俗で、最低で最悪なカミラを……王妃とも呼べぬ彼女を裁く決意を更に強固にしていく。
「ねぇ、カミラ。もう犯した罪からは逃れられないの」
「あ……あぁ」
「貴方はどこに逃げようと……そこに落ちている宝飾品が虚飾になる程の汚名を背負う事となった。それが貴方の犯した罪の重さよ」
「あぁぁぁぁ!!!!!」
カミラ……もう逃げ場はないの、犯した罪が許される事はないの。
それが妃の肩書きを背負う責務であり、犯してしまった罪の報いでもある。
ようやく理解した彼女は、うずくまって悲泣の声を漏らした。
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