【完結】王妃はもうここにいられません

なか

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12話

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 安全な水を確保が確立した今、すべき事はとんとん拍子に決まっていく。

「ガラス瓶、追加をお願い! これからもどんどん忙しくなるわよ!」

「なっ!?」

 ガラス工房の職人に告げに行けば、彼は驚いて目を見開く。
 次の仕事がくるなんて思っていなかったのだろう。

「ほ、本当……で、すか?」

「ええ、前金は払うわ」

「……あんなに失礼な態度をとった俺に、どうしてそこまで」

「どんな態度であったとしても、貴方の技術が欲しくて私は話を持ちかけたの。それに貴方の技術があったからこそ、このリエン地方は再び花開く目処が立った」

「……」

「工房は潰さず、貴方がたゆまず磨き続けた技術は私と共に歩みなさい、まだ腐らせてはならない」

「っ……わ、分かりました。ここまで言ってもらえたなら、俺も貴方の要望通りの品を揃えてみせ––」

「言ったわね?」

「な、え!?」

 答えた職人に対して詰め寄り、私はにやりと笑う。
 言質を取った今、彼には頑張ってもらわないとね。

「これからはどんどんガラス瓶を要望するわ。暫くは忙しくなるわよ」

「そんなの……仕事もなく、妻と子供に飯すら食う事を我慢させる事に比べたら、苦でもありません」

「安心した。これからよろしく頼みます」

「はい! ……先日は失礼な態度をとって申し訳ありません。都合がいい事は承知で、貴方の要望を最優先に俺の技術を振るうと誓います」

 工房の職人とも良い関係を築き、ガラス瓶をどんどん生産していく。
 そして護衛兵達と共に、以前の方法で水を作り続ける。
 いずれ人を雇う予定ではあるが、今は少数で頑張るしかない。

「さぁ、あと少し気張っていくわよ。このリエン地方を蘇らせる一歩のためにも!」
 
 皆を激励し、護衛兵達が答える。
 レルクも今では精力的に頑張ってくれており、水の生産スピードは好調のまま十日が経った。


 執務室に集めた皆の手には、文字が書かれた紙が握られている。
 彼らは一様に、眉をひそめて私に問いかける。

「本当にこの紙を撒くのですか。ラツィア様」

「ええ、街のあちこちに広めてちょうだい」

「よろしいのですか……こんな内容で……」

 皆が紙を見つめて狼狽えているのも無理はない。
 なにせ、私が撒いてくれと言った紙に書かれているのは……

『特定の場所へゴミや排泄物を一定量捨てれば、安全な飲み水を提供する』というものだからだ。

「なぜここまでして、街の清掃など」

「重要な事よ。街から排泄物を根絶すれば疫病を防げる。加えて飲み水があれば病気の恐れも低くなる。目に見えぬ利益は大きいの」

 排泄物を街中に捨てる行為は違反だったが、誰も守らなかった。
 でも人は得をする行為には自然と促されてしまうもの……

 前世でも大きな割引、無料の試供品があれば人が殺到したように。
 私は飲み水という、皆が望む得を提供して行動させるのだ。

「頼みますね。皆様」

「わ、分かりました。お嬢様のご指示ならば……従います」

 護衛兵達が街に繰り出した後。
 残っていた弟のレルクは、また信じられないといった表情を浮かべていた。

「ね、姉さん……あれだけ苦労して飲み水を作ったのに、無料で提供だなんて」

「落ち着きなさい、レルク。ちゃんと飲み水はお金に変える手段もあるの」

「え……」

「護衛の皆の伝手で商会にかけあって、他領地へと飲み水を売りに行かせているわ」

「……」

「それに工房の職人が紹介してくれて、多くの人々が水の生産に手伝いを申し込んでくれているの。増産の目処もできた」

 私の言葉に、レルクは何かに気付いたように目を見開く……
 そして、俯いて呟いた。

「姉さんは、こうなるって分かってたの? 皆が協力してくれるって……」

「偶然よ。たまたま上手くいったのだと思う……」

「学園で教わったやり方と違うのに、上手くいく結果に……」

「今の私には後ろ盾もいないからこそ……私自身が頑張らねばならない。良き背中を見せれば人は着いて来てくれる。もちろん貴方もね」

「姉さんは……廃妃となって評価も消えたのに。どうして諦めずに、そこまで」

「目的のためもあるけど。今日を頑張れば明日の自分が、今日の私を誇ってくれる。頑張る意味なんてそれだけでいいのよ」

 レルクは何も言わぬまま、けれど考えるように俯く。
 姉として、領主代理として弟に何かを示せただろうか。
 なんにせよ。


「……後は結果待ちよ。いい調子で進めばいいけれど」
 
 飲み水を利用して排泄物を処理させ、そして水を売るといったやり方がどれだけ功を奏するのか。
 失敗すれば破産どころか、一気に状況は終わってしまう。
 だが望む結果になればこのリエン地方は再び花を開くはずだ。


 期待と不安を胸に、私は再び結果を待つ事とした。
 そして……一ヶ月後。
 護衛兵達からの報告が届いた。



「街でのゴミの放棄は八割も減り、皆が指定の箇所にゴミや排泄物を捨て始めております。他の領地でも見た事がない街の衛生状態です!」
「商会からも連絡があり、飲み水は飛ぶように売れており……ぜひ増産をお願いしたいと。追加の人員分の給金まで惜しみなく提供してくれるようです!」

 僥倖、なんと幸先がいいんだ!
 街は綺麗になり始めており、飲み水による利益も得た!

 望んだ以上の成果に、笑みがこぼれる。
 それ見た護衛兵達も表情を崩しながら更に嬉しい報告をくれた。

「リエン地方の民達からもお嬢様の支持が広がっております。調査をすればおよそ五割程が好意的に見ていると……」

「一か月にも満たぬ期間で、良い成果ね」

「いえ、良いどころか……素晴らしい成果のはずです。現に近隣の貴族家が、お嬢様に方法を教授願いたいと書簡が次々と届いております」

 廃妃された私であっても、わずか一ヶ月ほどで早速貴族家からの評価を得ている。
 これは好調な一歩を踏み出せたといっていいはずだ。

「お嬢様……短期間でこれほどの成果は誇れるものです。御父上に報告をすれば、ご帰還の許可も頂けるのでは?」

「いや、元から帰るつもりはないわよ」

「え?」

「ここからが始まりよ、さらにこの地方を発展させるわ」

 領主代理として、自らのためにも歩みは止めない。
 私の目的はまだまだ多くあるのだから。
 それに……廃妃された私が、これだけの発展と評価を貴族家に示した今。

「クドス達への風向きは、酷いものになりそうね」

 クドス達にも今ごろ、私の評価は届いているはずだ。 
 幾ら私の悪評を流そうと……
 廃妃された私の躍進が、王家を脅かしていく。
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