【完結】冷遇された私が皇后になれたわけ~もう貴方達には尽くしません~

なか

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2話

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 皇宮で過ごし始めて四年が経った。
 その間、私は常にクロヴィス様の傍に居た。
 長い時を過ごす内に、彼の態度は大きく変わっている。
 口調は相変わらずだけど、私が皇妃教育を終えた時には必ず迎えにきてくれるのだ。

「お前も……もう十歳か」

「もう大人です!」

「まだ子供だろ。調子にのるな」

 相変わらず口は悪いけど、彼は私の銀色の髪を撫でる。
 その手つきは、私が歳を重ねた事を祝うかのように優しかった。

「おっきくなったな」

「じきにクロヴィス様を追い越しますよ?」

「はっ、楽しみにしてるよ。一生こないけどな」

 軽く笑いながら、彼は私の手を引く。
 今では彼から手を握ってくれて、王宮内で私達はずっと一緒だった。

「行くぞ」

「はい! あ……その前に、また怪我してますよ。クロヴィス様」

 彼の腕に切り傷があったので、私はその傷に手を添える。

「かすり傷だ」

「いえ、治すのでジッとしていてください」

 集中すれば、クロヴィス様の傷に淡い光が集まって、傷を塞ぐ。
 これが……私の光魔力が持つ力だ。
 治癒、再生の力を持つこの魔力なら、彼のお仕事を助けられる。

「クロヴィス様、やっぱり私にもお仕事のお手伝いさせてください!」

「……お前は絶対に連れてかない」

 幼少の頃から、彼がよく仕事と言って傷だらけになっていたが……最近になって、その理由を知った。

 彼は帝国に現れる魔物と呼ばれる異形を駆除している。
 皇子である彼が、なぜか危険な仕事を任されており、いつも傷だらけで帰ってくる。
 さらには医者からの治療を受けさせてもらえないのだ。
 皇帝のご子息なのに、あり得ないことだらけだ。

「他に傷はないですか?」

「ないよ……ありがとな」
 
 わしゃわしゃと髪を撫でてくれるクロヴィス様だけど、いつも彼が心配だった。
 どうしてこんな扱いを受けているのか、聞いても理由を教えてくれない。
 だから私はせめて彼を治療できるようにと、魔法の使い方を学んだのだ。

「傷を治してくれた礼に、今日はお前の好きな事をしてやるよ」

「いいのですか? なら……私、一緒に本を読みたいです」

「それでいいのか?」

「はい……その方が、長く一緒にいられますから」

 そう言えば、クロヴィス様は顔を手で押さえながら、空いた手で私の髪を再び撫でた。
 お礼を言った時と同様の仕草に、彼が照れているのだと私でも分かった。

「ふふ、嬉しいのですか?」

「…………かもな」

 小さく呟きながら、彼は私の手を握って歩き出す。
 互いに近づいた距離が嬉しかった。

 しかし……

「クロヴィス様っ!! ここにおられましたか!」 

 帝国の宰相様が、酷く慌てた様子で走って来た。
 その姿に、クロヴィス様の表情が険しくなる。

「どうした?」

「隣国が……戦争を……魔物の大軍をけしかけて……」

 二人は小声でなにかを話す、私には理解できない単語が多い。
 だけど不穏な単語に不安でいると、クロヴィス様が手を強く握ってくれた。

 だが……彼と手を握ったのは、それが最後だった。


   ◇◇◇


 次の日、クロヴィス様は隣国との戦争状態にある場所へ向かうと決まった。
 隣国がけしかけた多数の魔物が帝国へと迫り、それを止める役割を担ったのだ。

「行ってくる、ラシェル」

「……いかないでください」と、言えたならどれだけ良かっただろう。

 皇族の一人として任を受けたクロヴィス様に、負担になる言葉は言えなかった。
 だからかける言葉に迷って、ただ身体が震えてしまう。
 情けなかった……非力な事が悔しい。

「安心しろ」

「っ!!」

「すぐ帰ってくる」

「クロヴィス様……」

「だからそれまで泣かずに待ってろ。絶対に戻ってくるから」

「は、はい!」

 直ぐに帰ってくると言って笑うクロヴィス様に、不安だった心が落ち着いた。

「待ってます。クロヴィス様……」

「あぁ。昨日は傷を治してくれてありがとな。おかげで万全だ」

 クロヴィス様は私の髪を撫でた後、多数の騎士を連れて行ってしまう。

『直ぐに帰ってくる』

 その言葉を信じて、私は一人でも決して泣かない覚悟を決めて、彼の帰りを待つ。


 一日、二日。
 一か月、半年……待ち続けた。


 だけど五年の月日が経った今も……彼は帰ってきていない。




   ◇◇◇




「……ル」

「…………シェル」

「ラシェル!」

 ハッと……昔の事を思い出していた思考が、耳元で呟かれた声で現実に引き戻される。
 途端に、鋭い痛みが走った。
 私の髪が掴まれて、引っ張られているのだ。

「っ!!」

「ボーっとするなよ。ラシェル」

「セドア様……?」

 私の前に立っていたのは、セドア・ジルーディア。
 クロヴィス様の兄だ。
 金色の髪に、彼と同じく紅色の瞳。
 端正な顔立ちには、歪な笑みが張り付いている。

「今日のノルマ。ポーションを三十本作り終えたか?」

「は、はい」

 ポーションとは、私が持つ光魔力を液体に込める事で作る事のできる薬だ。
 それを一日に三十本も私は作っている。
 寝る間も惜しみ、吐きそうな程に魔力を込めてようやく作れる量だ。
 しかし私は、セドア様から命じられた本数を達成しなくてはならぬ理由があった。

「健気だな。五年も経っているのに……未だにクロヴィスを待ってるとはな」

「……彼は、生きてます」

「そう信じるなら、明日からもポーションを作り続けろ。もしもできなれば……」

 セドア様が私の髪をさらりと撫で、歪な笑みを頬に刻んだ。

「クロヴィスの捜索を直ぐに止める。俺が捜索隊を出してやっているんだぞ? それを理解してるな? ラシェル」

「……はい」

「まぁ、はやくクロヴィスを諦めて俺の妻になれ。お前は……俺の子を産むのが、最も帝国のためとなる」

 セドア様は呟きつつ、私の部屋を出て行く。
 これが、私が辛くともポーションを作り続ける理由だ。

 もしもセドア様に逆らえば、クロヴィス様の捜索は打ち切りとなり、死亡扱いとなる。
 そうなれば、彼が帰ってきても皇族という立場は残っていない。
 さらに私の婚約者はセドア様に代わってしまうのだ。
 
 それだけは嫌だ……私がクロヴィス様を死んだなんて認めたくはない。
 五年前から戻ってこない彼が生きていると信じて、私は今日も耐え続けた。
 
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