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9話
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「ラシェル……そんなことをしていいはずがないだろう!! 帝国を想う気持ちはないのか!? お前がポーションを作らなければ、帝国が損失を被るのだぞ!」
絶望していたセドア様が私へと叫ぶ。
だけど、答えなんて決まっている。
「セドア様。勘違いも甚だしいですよ?」
「なっ……」
「だって、これからはクロヴィス様が皇帝になるためにポーションを作るのです。他国との交渉は彼と行います。だから落ちるのは貴方の評価だけですよ?」
答えた途端、セドア様は血塗れの身体を起こす。
私の説得を諦めたのか、クロヴィス様を睨みだした。
「もういい。お前がクロヴィスのためだとほざくのなら、俺がそいつを消してやる!」
「なにを……」
「皇太子の俺にここまでの怪我をさせた罪は言い逃れできないはずだ! 国民を扇動して貴様を必ず斬首にしてやる!」
意気揚々と叫んだセドア様だが、クロヴィス様は苦笑した。
「な、何がおかしい!」
「それ、できないよな?」
「は……? できないだと! ふざけるな! 俺にはその権力が……」
「いいか、民にとって俺は隣国との争いを止めた英雄だ。そんな俺を斬首すると告げれば……せっかく高めた皇族の信用はどうなる?」
「あ……」
「皇族の地位に箔を付けたくて、俺を英雄にして評判を上げたんだろ? それが全て白紙になるな?」
「……」
「くっだらない地位に固執してるせいで、結局お前は自分自身で首を絞めてるんだよ」
「ぐ……うぅぅ! あぁぁぁぁ!!!!!!! くそ! くそ! くそぉ!」
セドア様は悔しさを全開にして、地面に拳を打ち付ける。
そこには、昨日までの余裕に溢れた彼の姿は残っていなかった。
「だ、だが! 貴族共にこの顛末を伝えれば、お前の評判を地に落とす事はできるぞ!」
「関係ない。評価は今後の実績と共に、必ずついてくるからな」
「き、貴様が皇帝になぞ望まれぬよう! 受けたこの傷を皆に見せ、暴君であると伝え––」
セドア様が叫んでいる最中、私は駆け出していった。
それは、とある事をするためだ。
「っ!? ラシェル?」
「なにをっ……」
私はセドア様へと手を伸ばし、魔力を込める。
すると、彼の傷口が癒えていき……もはや怪我をしたとは分からぬようになった。
「これで、クロヴィス様の評判は下げられませんね?」
「な……? よ、余計なことをするなぁぁ!」
せっかく思い付いた計画が崩された怒りなのか。
セドア様は拳を握って私へと振るおうとする。
しかし……
「あっ!? ぐ……いっ!?」
セドア様は身を起こしたと同時に、先ほどまで傷のあった箇所を抑えて呻く。
痛みを感じているのだろう。
どうやら、私の治療に見せかけた偽装は上手くいったようだ。
「私は素直に貴方の傷を治すほど、された行為を許してはいませんよ」
「な……なにをした……?」
「傷口が見えぬようにだけ治癒しました。貫かれた内部までは癒していません」
「な……!?」
私が使える回復魔法。
それはポーションを作る過程で技術を高めており、『傷口だけ』を治す方法も手に入れていた。
「これで、痛みだけはそのままで……暴行を受けた証拠となる外傷は消えましたね?」
「お、おま……おま……おま……お前ぇ! なんてことを!?」
「五年前、帝国の危機を退けて……その上私のために怒ってくれたクロヴィス様を貶める行為を防がぬほど、私は薄情ではありません」
「くそっ! くそっ! クロヴィスになど味方すれば、お前は必ず後悔するぞ!」
「気付いてください。私はこの五年……貴方に利用されていた事に、すでに後悔しています」
「あぁぁ! くそっ! くそぉ!!!!」
怒りから拳を握り、力の限り叫ぶセドア様。
その痛ましい姿にかける言葉はない。
クロヴィス様は私がした事を褒めてくれるように、頭に手を置いて撫でてくれた。
「ありがと、ラシェル。助かった」
「いえ、お礼を言うのは私です」
クロヴィス様は頷きつつ、セドア様へ視線を向けた。
「セドア。いずれお前の固執ししていた地位は崩す。ラシェルに傷をつけた報いを……必ず与えてやるよ」
「う……うぅ! ふざけるな……! 俺が……真に皇帝に相応しいはずだ」
「それは……これからで決まる。民と貴族は俺達の味方にしてみせる」
「できるはずが……」
「結果次第だ。分かったら、さっさと出て行け」
「くそっ!! くそぉぉ!!」
セドア様は、痛みをこらえながら立ち上がる。
そして気絶しているエミリー達を気にも止めず、出て行った。
クロヴィス様はその背を見届けた後、私の方へと振り返る。
もうそこに怒りの混じった瞳はなくて……五年前と同じ優しい微笑みが目の間にあった。
「改めて、ただいま……ラシェル」
「……クロヴィス様。ずっと、お待ちしておりました。おかえりなさい……」
「待ってくれて、ありがとな。ラシェル」
五年ぶりに再会できた喜びと。
また私の境遇を救ってくれた感謝を伝えたくて、幼き頃と同じように彼へと抱きついた。
「ずっと……こうしてお前に会いたかった」
囁かれる言葉を受け、今までの苦労が報われた気がした。
絶望していたセドア様が私へと叫ぶ。
だけど、答えなんて決まっている。
「セドア様。勘違いも甚だしいですよ?」
「なっ……」
「だって、これからはクロヴィス様が皇帝になるためにポーションを作るのです。他国との交渉は彼と行います。だから落ちるのは貴方の評価だけですよ?」
答えた途端、セドア様は血塗れの身体を起こす。
私の説得を諦めたのか、クロヴィス様を睨みだした。
「もういい。お前がクロヴィスのためだとほざくのなら、俺がそいつを消してやる!」
「なにを……」
「皇太子の俺にここまでの怪我をさせた罪は言い逃れできないはずだ! 国民を扇動して貴様を必ず斬首にしてやる!」
意気揚々と叫んだセドア様だが、クロヴィス様は苦笑した。
「な、何がおかしい!」
「それ、できないよな?」
「は……? できないだと! ふざけるな! 俺にはその権力が……」
「いいか、民にとって俺は隣国との争いを止めた英雄だ。そんな俺を斬首すると告げれば……せっかく高めた皇族の信用はどうなる?」
「あ……」
「皇族の地位に箔を付けたくて、俺を英雄にして評判を上げたんだろ? それが全て白紙になるな?」
「……」
「くっだらない地位に固執してるせいで、結局お前は自分自身で首を絞めてるんだよ」
「ぐ……うぅぅ! あぁぁぁぁ!!!!!!! くそ! くそ! くそぉ!」
セドア様は悔しさを全開にして、地面に拳を打ち付ける。
そこには、昨日までの余裕に溢れた彼の姿は残っていなかった。
「だ、だが! 貴族共にこの顛末を伝えれば、お前の評判を地に落とす事はできるぞ!」
「関係ない。評価は今後の実績と共に、必ずついてくるからな」
「き、貴様が皇帝になぞ望まれぬよう! 受けたこの傷を皆に見せ、暴君であると伝え––」
セドア様が叫んでいる最中、私は駆け出していった。
それは、とある事をするためだ。
「っ!? ラシェル?」
「なにをっ……」
私はセドア様へと手を伸ばし、魔力を込める。
すると、彼の傷口が癒えていき……もはや怪我をしたとは分からぬようになった。
「これで、クロヴィス様の評判は下げられませんね?」
「な……? よ、余計なことをするなぁぁ!」
せっかく思い付いた計画が崩された怒りなのか。
セドア様は拳を握って私へと振るおうとする。
しかし……
「あっ!? ぐ……いっ!?」
セドア様は身を起こしたと同時に、先ほどまで傷のあった箇所を抑えて呻く。
痛みを感じているのだろう。
どうやら、私の治療に見せかけた偽装は上手くいったようだ。
「私は素直に貴方の傷を治すほど、された行為を許してはいませんよ」
「な……なにをした……?」
「傷口が見えぬようにだけ治癒しました。貫かれた内部までは癒していません」
「な……!?」
私が使える回復魔法。
それはポーションを作る過程で技術を高めており、『傷口だけ』を治す方法も手に入れていた。
「これで、痛みだけはそのままで……暴行を受けた証拠となる外傷は消えましたね?」
「お、おま……おま……おま……お前ぇ! なんてことを!?」
「五年前、帝国の危機を退けて……その上私のために怒ってくれたクロヴィス様を貶める行為を防がぬほど、私は薄情ではありません」
「くそっ! くそっ! クロヴィスになど味方すれば、お前は必ず後悔するぞ!」
「気付いてください。私はこの五年……貴方に利用されていた事に、すでに後悔しています」
「あぁぁ! くそっ! くそぉ!!!!」
怒りから拳を握り、力の限り叫ぶセドア様。
その痛ましい姿にかける言葉はない。
クロヴィス様は私がした事を褒めてくれるように、頭に手を置いて撫でてくれた。
「ありがと、ラシェル。助かった」
「いえ、お礼を言うのは私です」
クロヴィス様は頷きつつ、セドア様へ視線を向けた。
「セドア。いずれお前の固執ししていた地位は崩す。ラシェルに傷をつけた報いを……必ず与えてやるよ」
「う……うぅ! ふざけるな……! 俺が……真に皇帝に相応しいはずだ」
「それは……これからで決まる。民と貴族は俺達の味方にしてみせる」
「できるはずが……」
「結果次第だ。分かったら、さっさと出て行け」
「くそっ!! くそぉぉ!!」
セドア様は、痛みをこらえながら立ち上がる。
そして気絶しているエミリー達を気にも止めず、出て行った。
クロヴィス様はその背を見届けた後、私の方へと振り返る。
もうそこに怒りの混じった瞳はなくて……五年前と同じ優しい微笑みが目の間にあった。
「改めて、ただいま……ラシェル」
「……クロヴィス様。ずっと、お待ちしておりました。おかえりなさい……」
「待ってくれて、ありがとな。ラシェル」
五年ぶりに再会できた喜びと。
また私の境遇を救ってくれた感謝を伝えたくて、幼き頃と同じように彼へと抱きついた。
「ずっと……こうしてお前に会いたかった」
囁かれる言葉を受け、今までの苦労が報われた気がした。
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