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17話
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「じ、自分が何を言っているのか分かっているのですか? 賠償金を払わなければ、公爵家は、貴方を容赦なく追い込むのですよ!?」
「あら、今と変わらないじゃない。なおさら、惨めに頭を下げに行く選択肢はないわね」
「な、なら……貴方を慕う者達がどうなってもいいというのか?」
「……どういうこと?」
私の問いかけに、セドクは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「邸を辞めた使用人達に貴方が紹介していた新たな職場は、全て公爵家が取引していた商家ですね?」
「っ……」
「ドルモア様は商家にかけあい。邸を抜けた者達を雇う事を禁じている。つまり……奴らはお前を慕った末に、食い扶持を失う事になるのですよ」
セドクが口にした、ドルモアという名。
私も数度しか会った事がなく、あまり知らぬデミトロの父だ。
この容赦のなさや、目的のためなら権力を悪用する考えに、ジェラルド様が言っていたベクスア家の印象が重なる。
デミトロにここまで出来る器量はない。つまり、指示を出しているのはドルモアだ。
だが……そのドルモアも、一歩遅かったようだ
「ふ……ふふ」
「何がおかしい。焦りで気でも狂いましたか?」
「いえ、むしろ感謝しているのですよ。勘違いをしてくれて」
「な……何を言っている! 貴方を慕う者達が路頭に迷うのですよ! 公爵家に抗った貴方のせいで!」
「いえ、彼ら路頭になど迷いませんよ。なにせ……すでに次に働く場所は、帝国騎士団長のジェラルド様の邸だと決まっているもの」
「は……?」
私は確かに、使用人達に公爵家と関わっていた商家を紹介していた。
だけど公爵家が邸から抜けた使用人達になにもせぬ保証はないと、思い直したのだ。
そこで、ジェラルド様が言ってくださった。
彼の邸に、皆を招こうと。
騎士団業務で普段は邸に居ない彼だから、使用人達は必要ないはずなのに。
「お前も住んでいるから」と、許可をしてくれた。
だからベクスア家の使用人達が働き口に困る事は無い。
「さて……他に脅す事はないようですね?」
セドクは明らかな動揺を浮かべる。
権力の悪用を用い、脅せば解決できると踏んでいたのだろうが、そうはいかない。
ここで屈してしまえば、私の決意もなにもかもが無駄になるのだから。
「さて、せっかく来てくれたのだから。私からも貴方に話があるの」
「は? なにを……」
「貴方がマヌス伯爵へ紹介していた護衛達は、騎士団に連行されたわ」
「っ……」
「そこで彼らは自供したの、元は他国の騎士で、汚職や殺人等で逃げ出した手配犯である事をね?」
「な……何のことだ。私はなにも知らな……」
「帝国法では、他国の犯罪者へと職を斡旋するなど犯罪」
「知らない! 私は何も知らない! 勝手な事を抜かすな!」
「騎士団はすでに、貴方を捕縛するために動いておりますよ。私を追い込むよりも、自身の進退を覚悟はしておいた方が良いかもね」
その言葉に、セドクは酷く焦って額に汗を流す。
やましい事だらけなのか、視線は泳いで呼吸も荒い。
ちなみに、今の話は全てウソだ。
捕えた彼らは過去を白状したが、セドクが連れてきた明確な証拠はないために騎士団は動けないでいる。
だが、ウソも方便だろう。
「グレイン……逃げる準備は出来てますか?」
「大丈夫だよ、お姉さん。僕の後ろにいて」
私がわざわざセドクへ挑発したのは、理由がある。
いまだに公爵家の人間を捕えられぬ状況、姿を現したセドクを見逃す訳にはいかない。
私を殺そうとまで画策した公爵家が、セドクを単独で送るはずがなく。
準備を整え、殺しに来たはず。
それに賭けたのだ。
そして、私は賭けに勝った。
「レティシア……もういい。穏便に済ませようと思っておりましたが……気が変わりましたよ」
「っ……」
周囲の通行人だと思っていた人物が、自然と周りに集まってくる。
公爵家の人間が街に溶け込み、私とセドクのやり取りを見ていたのだ。
そう気付いた時には、前から大勢が迫って来ていた。
「さて、この人数では護衛も適いませんよ? 殺されたくなければ静かに付いて来なさい」
「皆さーん! 助けてくださーい!!!!」
「なっ!? おい!??」
どうせ付いて行っても命を奪うのだから、脅しに屈するはずがない。
だから今は、騒いで周囲の視線を集めて……奴らの動きを鈍らせよう。
狙い通り、私とグレインを囲っていた者達が周囲の警戒で視線を泳がせた。
「行こう! グレイン!」
「はい!」
古典的な騙し方だが、視線が離れた瞬間に直ぐに邸へと戻る。
「お、追え! 逃がすな! 絶対に騎士団長と合流させるな!」
「「「はっ!!」」」
多い、何十人と追いかけてきている。
これだけの人数が私の命を狙っているのは、公爵家が本気で私を消したがっている証拠だ。
「お姉さん、先に行ってて!」
「グレイン!?」
「僕は、少し数を減らしておくよ」
この状況で、ピタリと立ち止まって私へと微笑んだグレイン。
迫りくるのは、彼よりも二回りも大きな大人達なのに。一切の怯えもなく……グレインは鞘を払った。
「行って! お姉さん!」
「っ!!」
心配。
そんな考えが、思わず後ろを見てしまう。
だが、杞憂だった。
グレインはその身の軽さを利用して、男達の肩や腕を飛び回るようにして剣を振るう。
「おい、こいつっ!?!」
「ぐっ!?」
ジェラルド様は正当に騎士として剣を磨いたのなら、グレインはまた少し違うように見える。
どこか野性的にすら思える、獰猛な攻め方で次々と男達を切りつけて動けぬようにしていく。
「ありがとう! グレイン!」
「後で追いつくから!」
頼もしい言葉を背に、私は伯爵邸へと辿り着く。
グレインも少し遅れて、走ってきてくれた。
だが、当然……セドクや他の者達も追いつく。
さらには、邸の周りにも人員を配置していたようで……囲まれてしまった。
「本当に……手間をかけてくれますね、貴方は」
「……」
「騎士団長が不在の今、ここで消してあげます。私の敬愛するベクスア公爵家の家名に泥を塗った事を後悔させましょうか」
セドクは怒りに燃えて、言葉を荒く叫ぶが。
私はむしろ、思い通りの展開に頬を緩むのが止められなかった。
「な、なにを笑っている」
「セドク、私は……この状況に導いたのですよ」
「はっ、導いた? そりゃあいい、囲まれたのを導いた? 自殺願望でもあるのですか?」
「私が街に戻らず、わざわざ屋敷に戻った理由が分かりますか?」
「なにを言っている!」
叫んだセドクだけど。
屋敷に戻ってこれた時点で、私の勝利だ。
「ねぇセドク。ジェラルド様は最近……一緒に昼食を食べるために邸まで戻ってきてくれるの。今が……その時間よ」
「は? ……」
セドクが戸惑いの声を漏らした瞬間。
私とグレインを囲っていた者達から悲鳴が聞こえ、血しぶきが地面に散る。
時刻は昼間。やはり……彼が来てくれていた。
私の護衛であり、抗うための剣。
「き、騎士団長……!?」
セドクの叫びの中。
ジェラルド様が怒りの形相を浮かべ……私達を囲っていた男達を蹂躙していった。
「あら、今と変わらないじゃない。なおさら、惨めに頭を下げに行く選択肢はないわね」
「な、なら……貴方を慕う者達がどうなってもいいというのか?」
「……どういうこと?」
私の問いかけに、セドクは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「邸を辞めた使用人達に貴方が紹介していた新たな職場は、全て公爵家が取引していた商家ですね?」
「っ……」
「ドルモア様は商家にかけあい。邸を抜けた者達を雇う事を禁じている。つまり……奴らはお前を慕った末に、食い扶持を失う事になるのですよ」
セドクが口にした、ドルモアという名。
私も数度しか会った事がなく、あまり知らぬデミトロの父だ。
この容赦のなさや、目的のためなら権力を悪用する考えに、ジェラルド様が言っていたベクスア家の印象が重なる。
デミトロにここまで出来る器量はない。つまり、指示を出しているのはドルモアだ。
だが……そのドルモアも、一歩遅かったようだ
「ふ……ふふ」
「何がおかしい。焦りで気でも狂いましたか?」
「いえ、むしろ感謝しているのですよ。勘違いをしてくれて」
「な……何を言っている! 貴方を慕う者達が路頭に迷うのですよ! 公爵家に抗った貴方のせいで!」
「いえ、彼ら路頭になど迷いませんよ。なにせ……すでに次に働く場所は、帝国騎士団長のジェラルド様の邸だと決まっているもの」
「は……?」
私は確かに、使用人達に公爵家と関わっていた商家を紹介していた。
だけど公爵家が邸から抜けた使用人達になにもせぬ保証はないと、思い直したのだ。
そこで、ジェラルド様が言ってくださった。
彼の邸に、皆を招こうと。
騎士団業務で普段は邸に居ない彼だから、使用人達は必要ないはずなのに。
「お前も住んでいるから」と、許可をしてくれた。
だからベクスア家の使用人達が働き口に困る事は無い。
「さて……他に脅す事はないようですね?」
セドクは明らかな動揺を浮かべる。
権力の悪用を用い、脅せば解決できると踏んでいたのだろうが、そうはいかない。
ここで屈してしまえば、私の決意もなにもかもが無駄になるのだから。
「さて、せっかく来てくれたのだから。私からも貴方に話があるの」
「は? なにを……」
「貴方がマヌス伯爵へ紹介していた護衛達は、騎士団に連行されたわ」
「っ……」
「そこで彼らは自供したの、元は他国の騎士で、汚職や殺人等で逃げ出した手配犯である事をね?」
「な……何のことだ。私はなにも知らな……」
「帝国法では、他国の犯罪者へと職を斡旋するなど犯罪」
「知らない! 私は何も知らない! 勝手な事を抜かすな!」
「騎士団はすでに、貴方を捕縛するために動いておりますよ。私を追い込むよりも、自身の進退を覚悟はしておいた方が良いかもね」
その言葉に、セドクは酷く焦って額に汗を流す。
やましい事だらけなのか、視線は泳いで呼吸も荒い。
ちなみに、今の話は全てウソだ。
捕えた彼らは過去を白状したが、セドクが連れてきた明確な証拠はないために騎士団は動けないでいる。
だが、ウソも方便だろう。
「グレイン……逃げる準備は出来てますか?」
「大丈夫だよ、お姉さん。僕の後ろにいて」
私がわざわざセドクへ挑発したのは、理由がある。
いまだに公爵家の人間を捕えられぬ状況、姿を現したセドクを見逃す訳にはいかない。
私を殺そうとまで画策した公爵家が、セドクを単独で送るはずがなく。
準備を整え、殺しに来たはず。
それに賭けたのだ。
そして、私は賭けに勝った。
「レティシア……もういい。穏便に済ませようと思っておりましたが……気が変わりましたよ」
「っ……」
周囲の通行人だと思っていた人物が、自然と周りに集まってくる。
公爵家の人間が街に溶け込み、私とセドクのやり取りを見ていたのだ。
そう気付いた時には、前から大勢が迫って来ていた。
「さて、この人数では護衛も適いませんよ? 殺されたくなければ静かに付いて来なさい」
「皆さーん! 助けてくださーい!!!!」
「なっ!? おい!??」
どうせ付いて行っても命を奪うのだから、脅しに屈するはずがない。
だから今は、騒いで周囲の視線を集めて……奴らの動きを鈍らせよう。
狙い通り、私とグレインを囲っていた者達が周囲の警戒で視線を泳がせた。
「行こう! グレイン!」
「はい!」
古典的な騙し方だが、視線が離れた瞬間に直ぐに邸へと戻る。
「お、追え! 逃がすな! 絶対に騎士団長と合流させるな!」
「「「はっ!!」」」
多い、何十人と追いかけてきている。
これだけの人数が私の命を狙っているのは、公爵家が本気で私を消したがっている証拠だ。
「お姉さん、先に行ってて!」
「グレイン!?」
「僕は、少し数を減らしておくよ」
この状況で、ピタリと立ち止まって私へと微笑んだグレイン。
迫りくるのは、彼よりも二回りも大きな大人達なのに。一切の怯えもなく……グレインは鞘を払った。
「行って! お姉さん!」
「っ!!」
心配。
そんな考えが、思わず後ろを見てしまう。
だが、杞憂だった。
グレインはその身の軽さを利用して、男達の肩や腕を飛び回るようにして剣を振るう。
「おい、こいつっ!?!」
「ぐっ!?」
ジェラルド様は正当に騎士として剣を磨いたのなら、グレインはまた少し違うように見える。
どこか野性的にすら思える、獰猛な攻め方で次々と男達を切りつけて動けぬようにしていく。
「ありがとう! グレイン!」
「後で追いつくから!」
頼もしい言葉を背に、私は伯爵邸へと辿り着く。
グレインも少し遅れて、走ってきてくれた。
だが、当然……セドクや他の者達も追いつく。
さらには、邸の周りにも人員を配置していたようで……囲まれてしまった。
「本当に……手間をかけてくれますね、貴方は」
「……」
「騎士団長が不在の今、ここで消してあげます。私の敬愛するベクスア公爵家の家名に泥を塗った事を後悔させましょうか」
セドクは怒りに燃えて、言葉を荒く叫ぶが。
私はむしろ、思い通りの展開に頬を緩むのが止められなかった。
「な、なにを笑っている」
「セドク、私は……この状況に導いたのですよ」
「はっ、導いた? そりゃあいい、囲まれたのを導いた? 自殺願望でもあるのですか?」
「私が街に戻らず、わざわざ屋敷に戻った理由が分かりますか?」
「なにを言っている!」
叫んだセドクだけど。
屋敷に戻ってこれた時点で、私の勝利だ。
「ねぇセドク。ジェラルド様は最近……一緒に昼食を食べるために邸まで戻ってきてくれるの。今が……その時間よ」
「は? ……」
セドクが戸惑いの声を漏らした瞬間。
私とグレインを囲っていた者達から悲鳴が聞こえ、血しぶきが地面に散る。
時刻は昼間。やはり……彼が来てくれていた。
私の護衛であり、抗うための剣。
「き、騎士団長……!?」
セドクの叫びの中。
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