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18話
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一方的だった。
帝国の騎士団長を務めるジェラルド様に対して、ただ集まっただけの烏合の衆では歯が立つ訳もなく。
苦し紛れに私だけを襲ってくる者も、グレインの剣によって沈む。
そして……
「許してくださいぃ!!」
一瞬にして余裕の無くなったセドクは、綺麗な土下座を見せた。
彼を調子づかせていた味方は全員が伸びているから、当然か。
グレインは男達を縄で縛ってくれていた。
「さて、セドク……貴方には幾つか聞きたい事があるの。分かりますね?」
「……」
「まず、私の居場所は誰から聞いたの?」
「デ、デミトロ様の父、ドルモア様が教えてくださったのです。情報筋から手に入れたらしく、赤毛で額に傷跡のある女が、騎士団長と暮らしていると……」
「…………どうして私を消そうとしているの?」
私の問いかけに、セドクは暫しの沈黙の後。
ゆっくりと、言葉を吐いた。
「言えない……私が話すことなど、もうない」
「レティシア、少し目を閉じていろ」
「はい」
ジェラルド様に言わた通りに瞼を閉じる。
すると鞘を払う音が響いた。
「な、なにを……」
「黙れ、手間をかけさせるな」
「っ!?!! あがっ!!! やめっ!?」
叫び声が聞こえた後、ジェラルド様に肩を叩かれて目を開く。
ジェラルド様が容赦なく突き刺したのだろう。セドクは手の平を押さえ、痛みに悶えながら私へと叫んだ。
「し、知らない。本当だ、私はなにも知らないんだ。ドルモア様の命令で狙ったのです……」
「ありがとう、私の命を狙った事もしっかり自供してくれましたね」
「あっ。ち、ちが!」
いい調子に白状してくれた。ここからは話が早い。
私を誘拐しようとした罪から、殺人未遂に変わったのだから。
「全てを話せ」
「あぐっ……あ、あの……やめ、いだぃ!?」
ジェラルド様が彼を押さえつける。
その視線には、燃えるような怒りが見えた。
当たり前か……私にさえ剣を向けたほど、ベクスア家を恨む彼だ。
その当事者と深い関わりを持つセドクに対して冷静でいられるはずがない。
「言え。貴様はベクスア家が犯した罪を、どこまで知っている」
「そ、それだけは言えません! ……もし私が明かせば、この世から消されてしまう!」
焦りから、隠す事すら下手になったセドクは口を滑らせる。
やはり……彼は私達が思う以上に多くを知っている可能性が高い。
絶対に逃す選択肢はない。
「俺の両親について、なにか知っているだろう?」
「言えません。口が裂けても……」
「なら……望み通り、裂いてやろう」
「あ!? あがぁ……やめへ!」
憤怒に染まったジェラルド様は、剣を抜き取ってセドクの口内へと差し込む。
その眼光は鋭く、本当に切り裂く勢いだ。セドクは恐怖から下腹部を湿らせる。
「ジェラルド様……私に少し任せてください」
「…………あぁ」
怒りを収め、ジェラルド様が剣を抜く。
荒い息を吐きながら視線を落とすセドクへと、言葉をかけた。
「セドク」
「な、何を言われても。私はなにも話せない……」
「貴方はこのままでは、全ての罪を背負って……死罪すらあり得るのですよ」
「っ!? な……」
「私の殺人を目論んだ事、アーリアの護衛の件。挙げればキリがない数々……このまま何も話さないのなら、貴方はベクスア家の尻尾切りとなるだけ」
「……し、しかし……ベクスア家は私を救ってくれるはずだ」
「あり得ないわ。ベクスア家としては関わりを否定したいでしょうし……むしろ全てを知る貴方が都合悪くて、消す可能性の方が高いのではないの?」
「……」
「そして、デミトロに至っては……貴方を救う気立てがあると思いますか?」
セドクの視線が揺らぐ。
心の奥底で、彼自身も薄っすらと気付いているのだろう。
このまま、ベクスア家……しいてはデミトロに尽くす事が正しいのかどうか。
「死罪を免れるため、全てを白状しなさい」
「……」
「私がジェラルド様に掛け合って、貴方の罪も軽くいたします」
その言葉に、セドクは視線を上げた。
アーリア同様……皆、垂らされた糸には直ぐに縋りたくなるようだ。
「だから……私達に全てを白状しなさい。そうすれば……騎士団だって貴方を保護してくれます」
「……よ、良いのですか?」
「はい、私の目的は……あくまでデミトロのみですので」
心が揺らいだのだろう。
セドクは暫しの時間を考えた後、ゆっくりと頷いた。
「分かった。私の知る限りの情報を話す。だ……だから許してくれ」
落ちた……
ベクスア家の情報を知る者が一人、陥落したのだ。
ここから、デミトロ達をさらに追い込む手立てもきっと見つかるはずだ。
交渉が終わった瞬間、ジェラルド様が呼んでいた他の騎士達がやって来る。
騎士達は捕縛された男達に驚きつつ、馬車へと連行してくれた。
「続きは騎士団本部で聞く。いいな?」
「わ、わかりました……」
護送用の馬車に載せられたセドク。
その後ろの馬車に、私やジェラルド様、グレインが乗り込んで付いていく。
「あの……良いのですか? あの人を許すって……」
話を聞いていたのだろう。
グレインが不思議そうに問いかけ、首をかしげる。
許すなど、甘い選択だと思ったのだろう。
だけど……
「ふふ、グレイン。あんなのウソですよ」
「えぇ!?」
「お前はレティシアの手口を、まだ知らなかったな」
薄く微笑むジェラルド様が、私を見つめて頷く。
アーリアの時と同様に、理解して私を好きにさせてくれたようだ
「ぼ、僕も見習います」
「グレインは、素直のままでいて」
「は……はい!」
素直な所が可愛らしいグレインへと微笑みを返しつつ、騎士団本部へと向かった。
セドクからは公爵家について、知っている事を全て聞き出してみせる。
そして彼もアーリア同様に……絶対に許しはしない。
デミトロ同様に、彼からも多くを奪われているのだから。
帝国の騎士団長を務めるジェラルド様に対して、ただ集まっただけの烏合の衆では歯が立つ訳もなく。
苦し紛れに私だけを襲ってくる者も、グレインの剣によって沈む。
そして……
「許してくださいぃ!!」
一瞬にして余裕の無くなったセドクは、綺麗な土下座を見せた。
彼を調子づかせていた味方は全員が伸びているから、当然か。
グレインは男達を縄で縛ってくれていた。
「さて、セドク……貴方には幾つか聞きたい事があるの。分かりますね?」
「……」
「まず、私の居場所は誰から聞いたの?」
「デ、デミトロ様の父、ドルモア様が教えてくださったのです。情報筋から手に入れたらしく、赤毛で額に傷跡のある女が、騎士団長と暮らしていると……」
「…………どうして私を消そうとしているの?」
私の問いかけに、セドクは暫しの沈黙の後。
ゆっくりと、言葉を吐いた。
「言えない……私が話すことなど、もうない」
「レティシア、少し目を閉じていろ」
「はい」
ジェラルド様に言わた通りに瞼を閉じる。
すると鞘を払う音が響いた。
「な、なにを……」
「黙れ、手間をかけさせるな」
「っ!?!! あがっ!!! やめっ!?」
叫び声が聞こえた後、ジェラルド様に肩を叩かれて目を開く。
ジェラルド様が容赦なく突き刺したのだろう。セドクは手の平を押さえ、痛みに悶えながら私へと叫んだ。
「し、知らない。本当だ、私はなにも知らないんだ。ドルモア様の命令で狙ったのです……」
「ありがとう、私の命を狙った事もしっかり自供してくれましたね」
「あっ。ち、ちが!」
いい調子に白状してくれた。ここからは話が早い。
私を誘拐しようとした罪から、殺人未遂に変わったのだから。
「全てを話せ」
「あぐっ……あ、あの……やめ、いだぃ!?」
ジェラルド様が彼を押さえつける。
その視線には、燃えるような怒りが見えた。
当たり前か……私にさえ剣を向けたほど、ベクスア家を恨む彼だ。
その当事者と深い関わりを持つセドクに対して冷静でいられるはずがない。
「言え。貴様はベクスア家が犯した罪を、どこまで知っている」
「そ、それだけは言えません! ……もし私が明かせば、この世から消されてしまう!」
焦りから、隠す事すら下手になったセドクは口を滑らせる。
やはり……彼は私達が思う以上に多くを知っている可能性が高い。
絶対に逃す選択肢はない。
「俺の両親について、なにか知っているだろう?」
「言えません。口が裂けても……」
「なら……望み通り、裂いてやろう」
「あ!? あがぁ……やめへ!」
憤怒に染まったジェラルド様は、剣を抜き取ってセドクの口内へと差し込む。
その眼光は鋭く、本当に切り裂く勢いだ。セドクは恐怖から下腹部を湿らせる。
「ジェラルド様……私に少し任せてください」
「…………あぁ」
怒りを収め、ジェラルド様が剣を抜く。
荒い息を吐きながら視線を落とすセドクへと、言葉をかけた。
「セドク」
「な、何を言われても。私はなにも話せない……」
「貴方はこのままでは、全ての罪を背負って……死罪すらあり得るのですよ」
「っ!? な……」
「私の殺人を目論んだ事、アーリアの護衛の件。挙げればキリがない数々……このまま何も話さないのなら、貴方はベクスア家の尻尾切りとなるだけ」
「……し、しかし……ベクスア家は私を救ってくれるはずだ」
「あり得ないわ。ベクスア家としては関わりを否定したいでしょうし……むしろ全てを知る貴方が都合悪くて、消す可能性の方が高いのではないの?」
「……」
「そして、デミトロに至っては……貴方を救う気立てがあると思いますか?」
セドクの視線が揺らぐ。
心の奥底で、彼自身も薄っすらと気付いているのだろう。
このまま、ベクスア家……しいてはデミトロに尽くす事が正しいのかどうか。
「死罪を免れるため、全てを白状しなさい」
「……」
「私がジェラルド様に掛け合って、貴方の罪も軽くいたします」
その言葉に、セドクは視線を上げた。
アーリア同様……皆、垂らされた糸には直ぐに縋りたくなるようだ。
「だから……私達に全てを白状しなさい。そうすれば……騎士団だって貴方を保護してくれます」
「……よ、良いのですか?」
「はい、私の目的は……あくまでデミトロのみですので」
心が揺らいだのだろう。
セドクは暫しの時間を考えた後、ゆっくりと頷いた。
「分かった。私の知る限りの情報を話す。だ……だから許してくれ」
落ちた……
ベクスア家の情報を知る者が一人、陥落したのだ。
ここから、デミトロ達をさらに追い込む手立てもきっと見つかるはずだ。
交渉が終わった瞬間、ジェラルド様が呼んでいた他の騎士達がやって来る。
騎士達は捕縛された男達に驚きつつ、馬車へと連行してくれた。
「続きは騎士団本部で聞く。いいな?」
「わ、わかりました……」
護送用の馬車に載せられたセドク。
その後ろの馬車に、私やジェラルド様、グレインが乗り込んで付いていく。
「あの……良いのですか? あの人を許すって……」
話を聞いていたのだろう。
グレインが不思議そうに問いかけ、首をかしげる。
許すなど、甘い選択だと思ったのだろう。
だけど……
「ふふ、グレイン。あんなのウソですよ」
「えぇ!?」
「お前はレティシアの手口を、まだ知らなかったな」
薄く微笑むジェラルド様が、私を見つめて頷く。
アーリアの時と同様に、理解して私を好きにさせてくれたようだ
「ぼ、僕も見習います」
「グレインは、素直のままでいて」
「は……はい!」
素直な所が可愛らしいグレインへと微笑みを返しつつ、騎士団本部へと向かった。
セドクからは公爵家について、知っている事を全て聞き出してみせる。
そして彼もアーリア同様に……絶対に許しはしない。
デミトロ同様に、彼からも多くを奪われているのだから。
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