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25話
「どうしたの……カルー? それに先生も」
話を聞いていたティルが心配そうに私とカルーを見つめる。
「ティル。先生たちとカルーで少し話があるから。先に教室に戻っていられる?」
「でも……」
「今日は授業が終われば、魔法の練習をいっぱいしようね。だから、待っていてくれる?」
「……うん、分かったよ。先生」
ティルは気になっているようだが、真実を知らせるにはあまりに酷だ。
幼い少年が抱えるべきではない。
だから教室に戻ってもらい、改めてカルーに向き直る。
「話してくれるのね。カルー」
「はい。レディア先生をこれ以上、巻き込みたくないから」
「ありがとう……でも巻き込まれた訳じゃないよ。私は先生として当たり前にカルーを見ていただけ。だから責任を感じないで」
「……ありがとう、先生」
それからカルーは、抱えていた真実を全て話してくれた。
虐待されていた事実、それは私たちの想像以上だった。
「両親を亡くして泣いていた僕がうるさいと、ミランダ叔母さんが殴ってきて……」
「顔を合わせたら、突き飛ばしてきて……目線に入るなって」
「スネイルさんとの家庭に邪魔だって、僕なんか要らないと言って……」
ミランダにとって、スネイルとの家庭に入ってきたカルーは邪魔だったのだ。
実の姉の子供であっても、自らの欲望を叶えた生活にとっての異物を排除したかった。
だから暴力を振るい、カルーが家庭に干渉できないようにしたのかもしれない。
「それで……僕、このがくえんに……」
「もういいわ。カルー……よく、話してくれたね」
抱きしめればカルーの身体は震えていた。
この小さな身体に、どれだけの痛みと恐怖を抱えてきたのだろうか。
だからこそ私たちへと全てを話して、信頼してくれた事が本当にありがたかった。
「もう大丈夫。今話してくれたおかげで、先生たちがカルーを確実に守れるよ」
「本当? 先生も傷つかない?」
カルーの問いかけに答えたのは、傍で聞いていたセルジュさんだった。
彼はしっかりと頷く。
「もちろんだ。今回の事件もあって学園だけでなく、この国の騎士団だって動いてくれるはずだ」
「っ!」
「カルーを守るため、そしてレディア先生を傷つけた代償を負わせるために……大人たちが全力で動くから、安心してくれ」
セルジュさんはニコリを笑い、カルーの頭を撫でる。
その手は優しくて、その笑みは私も安心できた。
「よく言ってくれた。今まで頑張ったな……後は大人に任せろ。絶対に全部終わらせてみせるから」
「セルジュ……せんせい」
「レディア先生だって、絶対にカルーを守ってくれる。それに俺たち先生がレディア先生を守る。だから安心して友達と過ごすんだ」
流石は長年、子供たちを見てきた先生だ。
だからなのか、カルーの心配していた事を大丈夫だと告げて、安心させる言葉は私にすら届いた。
頼れる指導教員が傍にいてくれる事が幸せだ。
「カルー、先に教室に戻っていてくれるか? 後で先生たちも向かうから」
「分かりました、セルジュ先生……レディア先生も、もう大丈夫?」
「ええ、カルーが勇気を出してくれたおかげよ」
笑って送りだせば、安心した笑顔でカルーは頷く。
そして教室に戻った背を見ながら、私はセルジュさんへと呟いた。
「これで、動けますね」
「あぁ、その通りだ。虐待の事実と今朝の襲撃事件。もはや学園だけじゃなく、きっとミルニア公国だって動く」
セルジュさんは自信を持った笑みで、私の肩に手をのせる。
カルーだけじゃなく、私をもう一度安心させるような笑みだった。
「あの子は勇気を出してくれた。ここから大人たちの番だ」
「はい! 絶対にカルーが安心できるように、これから……」
そんな話をしていた時だった。
学園の玄関にいた私達だが、校門の方から慌ただしい声が聞こえてくる。
何事かと視線を送った時……
「と、止まってください! この先は許可のある人物しか」
「黙ってくれ! 俺は会わねばならない人がいるんだ! 彼女を護るには俺しかいない!」
「あれは……」
校門に立っていた守衛さん、数人がかりで止めていても歩いてくる人物。
見間違うはずもない、あれはスネイルだった。
その姿に、鼓動が激しく高鳴る。
虐待を見て見ぬふりをしていた事実を知った今、彼には真っ先に怒りが沸き立つ。
だが同時に、なぜここに来たのか困惑も浮かぶ。
「放せ! 俺は………っ! レ、レディア!」
守衛を引きずるようにして突破していたスネイルが、学園の玄関に立つ私を見て声を上げる。
すると即座に守衛たちの制止から逃れて、走り出したのだ。
「後ろにいろ。俺が相手する」
セルジュさんが咄嗟に前に出てくれる。
スネイルがなにをしに来たのか分からないが、先の襲撃もあって警戒するしかない。
だが彼は、そんな私達の困惑を無視し、直前で立ち止まって私へと声を張り上げた。
「無事で良かった、レディア! 俺と逃げよう………君を護りたいんだ」
どういうこと?
戸惑う私に、スネイルは訴えかける。
「聞いてくれ……俺はもうミランダと離婚する」
「離婚……待って、どういうこと?」
「全部説明する。向こうでミランダや、シモア公爵家がなにをしたのかを………だから全部聞いた上で、俺と一緒に逃げよう」
「っ!」
「俺なら君を護れる、そして俺には君しかいない。だから……またやり直そう」
スネイルは自分の要求だけを一方的に告げた後。
ミランダやシモア公爵家がなにをしたのかを語り始めていく。
それは一連の襲撃事件などの真相であり……ミランダとスネイルの末路でもあった。
話を聞いていたティルが心配そうに私とカルーを見つめる。
「ティル。先生たちとカルーで少し話があるから。先に教室に戻っていられる?」
「でも……」
「今日は授業が終われば、魔法の練習をいっぱいしようね。だから、待っていてくれる?」
「……うん、分かったよ。先生」
ティルは気になっているようだが、真実を知らせるにはあまりに酷だ。
幼い少年が抱えるべきではない。
だから教室に戻ってもらい、改めてカルーに向き直る。
「話してくれるのね。カルー」
「はい。レディア先生をこれ以上、巻き込みたくないから」
「ありがとう……でも巻き込まれた訳じゃないよ。私は先生として当たり前にカルーを見ていただけ。だから責任を感じないで」
「……ありがとう、先生」
それからカルーは、抱えていた真実を全て話してくれた。
虐待されていた事実、それは私たちの想像以上だった。
「両親を亡くして泣いていた僕がうるさいと、ミランダ叔母さんが殴ってきて……」
「顔を合わせたら、突き飛ばしてきて……目線に入るなって」
「スネイルさんとの家庭に邪魔だって、僕なんか要らないと言って……」
ミランダにとって、スネイルとの家庭に入ってきたカルーは邪魔だったのだ。
実の姉の子供であっても、自らの欲望を叶えた生活にとっての異物を排除したかった。
だから暴力を振るい、カルーが家庭に干渉できないようにしたのかもしれない。
「それで……僕、このがくえんに……」
「もういいわ。カルー……よく、話してくれたね」
抱きしめればカルーの身体は震えていた。
この小さな身体に、どれだけの痛みと恐怖を抱えてきたのだろうか。
だからこそ私たちへと全てを話して、信頼してくれた事が本当にありがたかった。
「もう大丈夫。今話してくれたおかげで、先生たちがカルーを確実に守れるよ」
「本当? 先生も傷つかない?」
カルーの問いかけに答えたのは、傍で聞いていたセルジュさんだった。
彼はしっかりと頷く。
「もちろんだ。今回の事件もあって学園だけでなく、この国の騎士団だって動いてくれるはずだ」
「っ!」
「カルーを守るため、そしてレディア先生を傷つけた代償を負わせるために……大人たちが全力で動くから、安心してくれ」
セルジュさんはニコリを笑い、カルーの頭を撫でる。
その手は優しくて、その笑みは私も安心できた。
「よく言ってくれた。今まで頑張ったな……後は大人に任せろ。絶対に全部終わらせてみせるから」
「セルジュ……せんせい」
「レディア先生だって、絶対にカルーを守ってくれる。それに俺たち先生がレディア先生を守る。だから安心して友達と過ごすんだ」
流石は長年、子供たちを見てきた先生だ。
だからなのか、カルーの心配していた事を大丈夫だと告げて、安心させる言葉は私にすら届いた。
頼れる指導教員が傍にいてくれる事が幸せだ。
「カルー、先に教室に戻っていてくれるか? 後で先生たちも向かうから」
「分かりました、セルジュ先生……レディア先生も、もう大丈夫?」
「ええ、カルーが勇気を出してくれたおかげよ」
笑って送りだせば、安心した笑顔でカルーは頷く。
そして教室に戻った背を見ながら、私はセルジュさんへと呟いた。
「これで、動けますね」
「あぁ、その通りだ。虐待の事実と今朝の襲撃事件。もはや学園だけじゃなく、きっとミルニア公国だって動く」
セルジュさんは自信を持った笑みで、私の肩に手をのせる。
カルーだけじゃなく、私をもう一度安心させるような笑みだった。
「あの子は勇気を出してくれた。ここから大人たちの番だ」
「はい! 絶対にカルーが安心できるように、これから……」
そんな話をしていた時だった。
学園の玄関にいた私達だが、校門の方から慌ただしい声が聞こえてくる。
何事かと視線を送った時……
「と、止まってください! この先は許可のある人物しか」
「黙ってくれ! 俺は会わねばならない人がいるんだ! 彼女を護るには俺しかいない!」
「あれは……」
校門に立っていた守衛さん、数人がかりで止めていても歩いてくる人物。
見間違うはずもない、あれはスネイルだった。
その姿に、鼓動が激しく高鳴る。
虐待を見て見ぬふりをしていた事実を知った今、彼には真っ先に怒りが沸き立つ。
だが同時に、なぜここに来たのか困惑も浮かぶ。
「放せ! 俺は………っ! レ、レディア!」
守衛を引きずるようにして突破していたスネイルが、学園の玄関に立つ私を見て声を上げる。
すると即座に守衛たちの制止から逃れて、走り出したのだ。
「後ろにいろ。俺が相手する」
セルジュさんが咄嗟に前に出てくれる。
スネイルがなにをしに来たのか分からないが、先の襲撃もあって警戒するしかない。
だが彼は、そんな私達の困惑を無視し、直前で立ち止まって私へと声を張り上げた。
「無事で良かった、レディア! 俺と逃げよう………君を護りたいんだ」
どういうこと?
戸惑う私に、スネイルは訴えかける。
「聞いてくれ……俺はもうミランダと離婚する」
「離婚……待って、どういうこと?」
「全部説明する。向こうでミランダや、シモア公爵家がなにをしたのかを………だから全部聞いた上で、俺と一緒に逃げよう」
「っ!」
「俺なら君を護れる、そして俺には君しかいない。だから……またやり直そう」
スネイルは自分の要求だけを一方的に告げた後。
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