8 / 38
6話
しおりを挟む
夫から離れ、努力を重ねて三年。
私は三十の歳に講師資格を合格できた。
『教員として、これからは生徒を導く者として生きてくれ』
フルゴ様の言葉を受けた今日、晴れて教員としての道を歩みだす。
そのはずだったのだが……
さて、教員となってから最初の壁が今この瞬間に起こっていた。
「フルゴ学園長、俺は反対です! 誇りあるマグノリアス魔法学園に……教員適齢期を過ぎた者を入れる気ですか?」
今、私は先生たちがあつまる職員室の前、扉を挟んで立っているのだが。
先に入っていったフルゴ様と、他の先生とのやり取りが嫌でも聞こえてくるじゃないか。
「年齢で反対とはあまりに酷ではないか? 新任教員は教員試験をしかと合格している」
「とはいえ、一般的に教員となる平均年齢は二十二歳です。三十で新任でありながら我が学園の教員になるのは異例です!」
聞こえる先生の言葉通り。
私が教員を務める事になったこの学園は、このミルニア公国で最も大きな学びの園である。
名をマグノリアス魔法学園。
魔法に長けた者達を輩出する名門校。
この学園の卒業生は皆、貴族お抱えの魔法師、または災害時や戦争時に活躍する国家魔法師となる。
つまりだ––––
才能ある魔法師が輩出される名門校に、遅咲きの私が就任したという訳で反対意見があるのは当然だろう。
「フルゴ学園長、俺は今回の教員を選任した理由をお聞きしたいのです」
「資格があるのだから選ぶのは当然だ」
「厳しい試験を超えて教員資格を得たのは分かりますが、彼女を選んだ特別な理由が無ければ適任とは思えない」
もっともな意見だし、今からこの職員室に入って挨拶をしないといけないのは気が重い。
そう思う私に、フルゴ学園長が落ち着いた声で返答するのが聞こえた。
「今年の合格者の中で学科、実技共に一番での合格。加えて通常の教員試験は専門の学び舎で六年の準備をかけて試験を受けるのに対して、彼女は独学にて三年間で済ませた」
「な……」
「これで、適任と言えぬ理由があるというのなら申してみるといい」
ただ生きるために必死で勉学に励み続けた。
前の国で学園に通っていた頃も魔法ではそれなりの成績なので、魔法学も苦労はなかったけど。
三年間で合格できたのは、異例の事だったようだ。
「皆も、これから就任するレディア嬢に対して異論はあるか?」
フルゴ学園長の声に、もう反論する言葉はない。
すると職員室の扉が数度ノックされて、フルゴ学園長の声が聞こえた。
「入りたまえ。レディア嬢」
「え、来ているのですか? 今ここに?」
「当たり前だろう。新任の前で重圧を与えよって」
言い争っていた人との問答を聞きながら、扉を開いて入室する。
老若男女、名門マグノリアス魔法学園の先生達が一斉に目線を向けてきた。
「あんたが、新任の教員か。すまないな」
そう呟く声が聞こえて目線を向ければ、フルゴ学園長の近くに立つ男性が見える。
黒く長い茶髪を一つに結わえて、切れ長の蒼い瞳。
端正な顔立ちの彼は、きっと先ほどまで問答していた当事者だろう。
「俺はセルジュだ。聞こえていたなら申し訳ないが……俺達だって本学園に入る教員に対して意見する権利はある。理解してくれ」
セルジュと名乗った彼は、そう言いながら小さく頭を下げる。
そんな彼を置いて、フルゴ学園長は私の背を押した。
「さぁ、皆に挨拶をしてくれるか。新任教員として最初の仕事だ」
その言葉に押されるように、私は頭を下げた。
かつて夫と暮らしていた時に学んだカーテシー、品位を崩さぬ礼と共に名乗る。
「レディアと申します。齢三十となりますが、本学園の誇りを崩さぬよう……なにより学びの園に通う生徒により良き道を示せるように努めてまいります」
まばらに上がる拍手は、決して歓迎という訳ではあるまい。
三十という遅咲きの教員の道に、皆が口に出さぬまでも思うところはあるのは当然か。
「ではフルゴ学園長……俺は子供達の待つ教室に向かうので……」
セルジュさんは挨拶も程々に、職員室を出ようと歩む。
だが、そんな彼の肩を学園長が掴んだ。
「まぁ、待たれよ」
「どうしましたか。レディア殿が適任だというのは納得しました。俺は反対意見なのは変わりませんが、言いたい事はもうなにもありません」
「儂からはあるのだよ」
「なにが……」
「セルジュ、お主にはレディアの指導教員としての任を与える」
え……?
そんな声を、きっと私とセルジュさんは同時に出していたと思う。
だってまさに今、反対意見を述べていたセルジュさんに私の指導を任せるというのだ。
その場の空気が張り詰めていく。
「フルゴ学園長……それは俺が貴方の意見に反を示した処罰ですか?」
「そんな些事で判断するものか。これはお主と、レディアに必要だと判断したからこそだ、彼女には才能があるからこそ、この学園でも優秀な教員である君に指導を頼みたい」
「……才能が、レディア殿にですか?」
どうしようか、今にも舌打ちが聞こえてきそうな剣幕だ。
セルジュ講師は納得していない顔。
それに正直、職員室の皆が似たような表情で見守っている。
遅咲きの教員など務まらないと皆が思っている。
今の私自身の評価を一身に受けながら……
これでいいと、むしろ思える。
上等だ。
「セルジュ講師、では条件を付けてください」
「は? どういう事だ?」
「これより半年間、私が未熟だと判断した際は、貴方が私の解雇を申してください」
「なっ!」
これでいい、こうして始めよう。
ただでさえ遅咲きの教員の風当たりは冷たい。
こんなのは予想していた事だ。
ここでフルゴ様の擁護の中で過ごしていたって、庇護されているだけと評価されるのみ。
だからこそ、啖呵を切って皆の前に立つ。
「私に価値がないなどと、絶対に評価はさせませんから」
講師としての一日目。
私の言葉は響き渡った。
私は三十の歳に講師資格を合格できた。
『教員として、これからは生徒を導く者として生きてくれ』
フルゴ様の言葉を受けた今日、晴れて教員としての道を歩みだす。
そのはずだったのだが……
さて、教員となってから最初の壁が今この瞬間に起こっていた。
「フルゴ学園長、俺は反対です! 誇りあるマグノリアス魔法学園に……教員適齢期を過ぎた者を入れる気ですか?」
今、私は先生たちがあつまる職員室の前、扉を挟んで立っているのだが。
先に入っていったフルゴ様と、他の先生とのやり取りが嫌でも聞こえてくるじゃないか。
「年齢で反対とはあまりに酷ではないか? 新任教員は教員試験をしかと合格している」
「とはいえ、一般的に教員となる平均年齢は二十二歳です。三十で新任でありながら我が学園の教員になるのは異例です!」
聞こえる先生の言葉通り。
私が教員を務める事になったこの学園は、このミルニア公国で最も大きな学びの園である。
名をマグノリアス魔法学園。
魔法に長けた者達を輩出する名門校。
この学園の卒業生は皆、貴族お抱えの魔法師、または災害時や戦争時に活躍する国家魔法師となる。
つまりだ––––
才能ある魔法師が輩出される名門校に、遅咲きの私が就任したという訳で反対意見があるのは当然だろう。
「フルゴ学園長、俺は今回の教員を選任した理由をお聞きしたいのです」
「資格があるのだから選ぶのは当然だ」
「厳しい試験を超えて教員資格を得たのは分かりますが、彼女を選んだ特別な理由が無ければ適任とは思えない」
もっともな意見だし、今からこの職員室に入って挨拶をしないといけないのは気が重い。
そう思う私に、フルゴ学園長が落ち着いた声で返答するのが聞こえた。
「今年の合格者の中で学科、実技共に一番での合格。加えて通常の教員試験は専門の学び舎で六年の準備をかけて試験を受けるのに対して、彼女は独学にて三年間で済ませた」
「な……」
「これで、適任と言えぬ理由があるというのなら申してみるといい」
ただ生きるために必死で勉学に励み続けた。
前の国で学園に通っていた頃も魔法ではそれなりの成績なので、魔法学も苦労はなかったけど。
三年間で合格できたのは、異例の事だったようだ。
「皆も、これから就任するレディア嬢に対して異論はあるか?」
フルゴ学園長の声に、もう反論する言葉はない。
すると職員室の扉が数度ノックされて、フルゴ学園長の声が聞こえた。
「入りたまえ。レディア嬢」
「え、来ているのですか? 今ここに?」
「当たり前だろう。新任の前で重圧を与えよって」
言い争っていた人との問答を聞きながら、扉を開いて入室する。
老若男女、名門マグノリアス魔法学園の先生達が一斉に目線を向けてきた。
「あんたが、新任の教員か。すまないな」
そう呟く声が聞こえて目線を向ければ、フルゴ学園長の近くに立つ男性が見える。
黒く長い茶髪を一つに結わえて、切れ長の蒼い瞳。
端正な顔立ちの彼は、きっと先ほどまで問答していた当事者だろう。
「俺はセルジュだ。聞こえていたなら申し訳ないが……俺達だって本学園に入る教員に対して意見する権利はある。理解してくれ」
セルジュと名乗った彼は、そう言いながら小さく頭を下げる。
そんな彼を置いて、フルゴ学園長は私の背を押した。
「さぁ、皆に挨拶をしてくれるか。新任教員として最初の仕事だ」
その言葉に押されるように、私は頭を下げた。
かつて夫と暮らしていた時に学んだカーテシー、品位を崩さぬ礼と共に名乗る。
「レディアと申します。齢三十となりますが、本学園の誇りを崩さぬよう……なにより学びの園に通う生徒により良き道を示せるように努めてまいります」
まばらに上がる拍手は、決して歓迎という訳ではあるまい。
三十という遅咲きの教員の道に、皆が口に出さぬまでも思うところはあるのは当然か。
「ではフルゴ学園長……俺は子供達の待つ教室に向かうので……」
セルジュさんは挨拶も程々に、職員室を出ようと歩む。
だが、そんな彼の肩を学園長が掴んだ。
「まぁ、待たれよ」
「どうしましたか。レディア殿が適任だというのは納得しました。俺は反対意見なのは変わりませんが、言いたい事はもうなにもありません」
「儂からはあるのだよ」
「なにが……」
「セルジュ、お主にはレディアの指導教員としての任を与える」
え……?
そんな声を、きっと私とセルジュさんは同時に出していたと思う。
だってまさに今、反対意見を述べていたセルジュさんに私の指導を任せるというのだ。
その場の空気が張り詰めていく。
「フルゴ学園長……それは俺が貴方の意見に反を示した処罰ですか?」
「そんな些事で判断するものか。これはお主と、レディアに必要だと判断したからこそだ、彼女には才能があるからこそ、この学園でも優秀な教員である君に指導を頼みたい」
「……才能が、レディア殿にですか?」
どうしようか、今にも舌打ちが聞こえてきそうな剣幕だ。
セルジュ講師は納得していない顔。
それに正直、職員室の皆が似たような表情で見守っている。
遅咲きの教員など務まらないと皆が思っている。
今の私自身の評価を一身に受けながら……
これでいいと、むしろ思える。
上等だ。
「セルジュ講師、では条件を付けてください」
「は? どういう事だ?」
「これより半年間、私が未熟だと判断した際は、貴方が私の解雇を申してください」
「なっ!」
これでいい、こうして始めよう。
ただでさえ遅咲きの教員の風当たりは冷たい。
こんなのは予想していた事だ。
ここでフルゴ様の擁護の中で過ごしていたって、庇護されているだけと評価されるのみ。
だからこそ、啖呵を切って皆の前に立つ。
「私に価値がないなどと、絶対に評価はさせませんから」
講師としての一日目。
私の言葉は響き渡った。
2,221
あなたにおすすめの小説
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。
ふまさ
恋愛
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。
ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。
だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。
※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる