【完結】貴方と離れて私は幸せになりたいと思います

なか

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7話

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 私の出した条件を聞いて、セルジュさんは目を丸くする。
 動揺している中でフルゴ様が声を出した。

「レディア嬢がここまで言っているのだ。引き受けるな?」

 フルゴ学園長の言葉にセルジュさんは暫く沈黙した後、納得した様子で頷いた。

「……彼女の覚悟は分かりました。条件通りならば、引き受けます」

「うむ。任せる」

「レディア、早速だが教員として任せる事がある」

「はい」

 子供達の待つ教室へ向かうのだと思った間際。
 セルジュさんは、私の前に大量の紙束を置いた。

「これを終わらせろ」

「セルジュさん、それは全学年の予算帳簿の整理でしょう? 経理でもない新人に任せるなら一週間はかかりますよ」

 他の教員が騒めく中で、セルジュさんが淡々と告げた。

「教員はただ子供を教えるだけじゃない。その影で学園運営のために働く必要がある。その業務を任せるのは当然だ」

「……」

「この書類仕事も嫌になるようなら、子供を預ける資格なんてない。一週間かけて書類仕事から始めろ」

 あくまでも、子供達の前に立つには認められなくてはならないのだろう。
 私は予算帳簿を見つめながら、微笑んで頷いた。

「承知いたしました。昼休憩の頃に進捗をご確認してください」

「半日で何ができる」

 セルジュさんが出て行った後、他の教員たちも各クラスへと戻っていく。
 私はフルゴ様と目線を合わせて、書類仕事へと移った
 ……そして昼休憩が訪れた時。

「終わらせただと!?」

「はい」

 帳簿の整理を終えた紙束を見せれば、セルジュさんの驚く声が響き渡る。
 早速確認した彼は、一通り見た後に俯いた。

「どうやって……」

「昔、似た仕事をずっとやっていたので」

 元夫を支えてきた日々、貴族として書類と連日対峙してきた。
 この経験から、今回の業務を直ぐに終えられた。

「凄い……」
「嘘でしょ、あの量を?」

 騒めく教員たちの中、私はセルジュさんに呟く。

「これでよろしいでしょうか?」

「…………見事だ。これを見せられたら、否定はできない」

 セルジュさんは紙束を置いて、私を見つめる。

「俺の受け持つ初等部の子供達の前に立ってもらう、着いて来い」

「はい!」

 認められた充実感と共に、セルジュさんの後に付いていく。

「条件もあって受け入れた事……悪く思うなよ」

 道中、セルジュさんが小さく呟いた。
 こちらを見ぬまま、彼は言葉を続ける。

「年齢について、悪く言うつもりはない。俺だって同年代だ」

「そうなんですね」

「ただ俺は無責任な学園だと思われたくなかっただけだ。言い方は悪かったが……」

「無責任とは?」

「この名門校に通うためには高額な学費が必要になる。そんな高い学費を払ってまで学ぶ生徒達、任せてくださった親達に……半端な教員が立っては駄目だと思っている」

 学園長であるフルゴ様に反を論じていたのは、セルジュさんなりの理念があるからだろう。
 彼の言っている事もよく分かる。
 この学園の学費を見てみた時、目が飛び出るほどの高額だったから。

「懸念は分かっておりますが、先の挨拶にて伝えた通り、生徒達により良き道を示せるように努めます」

「その言葉が真実かは、結果で伝えてくれ」

「はい! 結果で示してみせます」

 ここで一人、地に足をついて生きると決めたのだ。 
 講師として生徒達に、その覚悟をもって接する。

「俺が受け持つ初等部の子供達は、まだ幼いが才能ある子供達ばかりだ」

 自分の生徒について語った瞬間、嬉しそうに笑う姿。
 講師として本当に生徒を想っているのが伝わる。

「今から、会うのが楽しみですね––––」

「せ、せんせい!」

 私の言葉を遮るように、少女の声が響いた。
 何事かと思えば、幼い子供達がセルジュさんに駆け寄っていく。

「なんだ、まだ授業前だろ? お前達のクラスの先生はまだ職員室に……」

「あのね、教室でね。けんかが……」

「っ!? おい、直ぐに行くぞ!」

 セルジュさんの視線を受けて、私は彼と共に走り出す。
 子供同士の喧嘩だが、彼が血相を変えている様子に驚く。
 その驚きに気付いたのか、彼は走りながら口を開いた。

「ここには魔法の才能あふれる子供達が揃っている。それを喧嘩なんかに使ってみろ」

 事の重大さに気付いて、私も走る足に力を込める。
 セルジュさんに着いて行った先、教室内にて騒ぐ声が聞こえだした。 

「そんなことな––––」

「うるさい!!」

 子供同士が言い合う声が聞こえた。
 教室に入った途端、一人の子供が怯えている子供に対して魔法を行使しているのが分かった。
 大きな火球を指に灯して、それをもう一人に向ける。

「やめろ!!!!」

 だがその騒ぎも、セルジュさんの一喝によってすぐに止まった。
 魔法を出していた子供はギョッとして、直ぐに彼へと視線を向ける。
 瞬間––––

「落ち着いて、話を聞かせろ」

 子供の出していた火球に対して、セルジュさんが指先を向ける。
 その途端、轟轟と燃えていた火は消失した。
 魔力を打ち消す高等技術だ、使える人がいるなんて。

「セ、セルジュせんせ……」

「あ、あの……」

「お前はそこで大人しくしていろ。けが人はいないか?」

 火球を出していた子供に釘を刺して、セルジュさんが教室を見回す。
 誰もが顔を見合わせる中……
 魔法を向けられていた子が、腕を押さえているのが見えた。

「どうしたの」

 私は咄嗟にその子へと駆け寄る。
 まだ幼い男の子が押さえていた手をそっと離す。
 見えたのは、腕に走る火傷だ。

「火が、手に当たったのね」

「……もう、もうやだよ。ぼく……ぼく、まほうが、こわい」

「っ!」

「いたいよ。こわい、こわいよ」

 男の子は火傷の箇所を押さえながらボロボロと泣き出す。
 我慢していた涙が、せき止められずにあふれ出していた。

「……すぐに医務室で冷やしてやれ」

「駄目です、セルジュさん」

 セルジュさんが医務室に連れていくと言った言葉に、私は止めるように男の子の火傷へと触れる。
 彼は剣幕を変えた。

「は? 何言って」

「この子は私が治します。傷も……心の恐怖も」

「なにを言ってる、火傷は直ぐに応急処置をしないと–––」

 セルジュさんの言葉を聞きながらも、私は男の子の火傷箇所に魔力を込めていく。
 淡い緑色の光を放った私の魔法が、輝きと共に教室に溢れ出した。

「お前……それ。まさかっ!」

 セルジュさんの声が響く。
 同時に緑色の輝きがぱっと弾けた後、私は男の子の火傷痕を見つめた。
 もうそこに、火傷の痕跡はない。

「どう? まだ痛い?」

「あえ……いたくない」

「魔法は怖いよね。私も学んでいて思ったの。でも正しく使うとね……こうして誰かを救う力になる」
 
 私が教員資格を合格できたのは、ある一つの高等技術に打ち込んだおかげでもある。
 それは
 使える者は稀有であり、かつて学園にいた頃にフルゴ様に認められた才覚の一つでもあった。
 相応の鍛錬が必要だった技術があるからこそ……私は教員になれた。
 
「ほら、治ったよ」

「すごい……おねえさん。すごい」

「どう、魔法ってすごいでしょ?」

「……うん、僕も、おねえさんみたいになりたい」

 先ほどまで泣いていた男の子が、嬉しそうに立ち上がる。
 その姿を見ていたセルジュさんは肩を叩いてきた。

「治癒魔法か……凄いな。王宮魔法士でしか使う者は見たことがない……」

 セルジュさんは感心した声を出した後、「感謝する」と私に小さく告げた。
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