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4話
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「そこまで仰られるのなら、どうぞ離婚なさってはいかがですか」
「ア、アイラ。お前は自分が何を言っているのか分かっているのか? 目の見えないお前に生きる方法など……」
声色が動揺しているように思えるのは……
昨夜、あの指先が教えてくれた情報のおかげかもしれない。
「貴方の言うように、目の見えない私を皆が見捨てるでしょうか?」
「っ! なにを……そうに決まっている! もはや執務もできない、社交界にも出れない女性など見向きもするはずがない」
「ですが今も、馬車の横転事故によって社交界に参加できぬ私を……心配して手紙を送ってくださる貴族家の方々が多数おられると聞いております」
「……」
否定の言葉がないのは、きっとこの情報が真実であるからだ。
だったら、あの指先が教えてくれたのは嘘ではない。
「私が今まで貴方を支えるために培ってきた人生……それは決して貴方だけの信頼を勝ち取るものではありませんでした」
「……」
「社交界で培ってきた仲。貴方のためにと引き受けた執務と領地管理にて得た成果は……皆に確かに信頼を頂いております」
「黙れ、目が見えなくて。そんな醜い傷を負って誰が……お前など……」
「それを決めるのは貴方ではありません。私はたとえ醜い傷を負っていようと……自分が今までの人生で培ってきた評価が消えるとは、思っていませんから」
耳に聞こえてくるレイクスの否定の勢いは無くなっていく。
私が返した言葉に、戸惑っているような沈黙が流れた。
「もういい、君のご両親への手紙は俺が書く。君に任せた末に、こんな駄々をこねて抵抗されるとは不愉快だ」
「レイクス、私の両親が……私に利用価値がないからと謝罪金を積んだ。それは事実なのですか?」
「何が言いたい」
「昨日は勢いに呑まれて疑えなかったですが、よく考えてみれば不思議なんですよ」
目が見えない絶望によって、レイクスの言葉を鵜吞みにしてしまっていた。
冷静になってみれば、彼の言葉には怪しい部分が良く見えるではないか。
「私が目が見えなくなったと判明してから、まだ日がそれほど経っていない状況で謝罪金を積める迅速な対応など可能でしょうか?」
「俺の言っている事を疑うのか?」
「いえ、ただ私は冷静になって両親を信じているだけです。あの二人は、私と話し合わずにそんな判断をするとは思えない」
「……」
無言になったレイクスへと、続けざまに問いかけよう。
彼の言っていた謝罪金の真偽をハッキリさせるため。
「貴方は虚偽を吐いて、私の両親に謝罪金を積ませようとしたのではありませんか?」
「黙れ、それ以上……俺が親切でお前の両親に感謝の手紙を送らせてやろとしたことを否定するのか?」
「その手紙も、謝罪金が必要だと望む手段として必要なだけだった……そうではありませんか?」
バンッ!!!
けたたましい音、机を叩いた衝撃音に肩が反射的に跳ね上がる。
怒りを感じさせる音を響かせて、レイクスの言葉が響いた。
「それ以上……不愉快な言葉を吐くな。俺はお前の価値を取り戻すために考えてやっている」
「先ほども言った通り。もし今の私が不満なのでしたら、離婚をいたしましょう」
「お前はそれでいいと思っているのか? この先、自らの価値がない事を蔑まれて生きていく事になるだけだぞ?」
「目が見えない。それを他者がどれだけ蔑もうと、私は私自身に価値がないなんて思いたくない。そう思わない人生を生きていきます」
指先にもらった勇気を胸にして、レイクスの声がする方向へとハッキリ告げる。
彼が息を呑む音がハッキリ聞こえた。
「お前もどうせ……同じようになる。周りの苦悩など気にせず、身勝手に生きていくんだろ?」
「なにを言って……」
「…………もういい。お前が言った通りに、今この状況での離婚すれば俺の評価にも繋がる。だから離婚はしない」
あれだけ離婚をちらつかせておいて、いざ真実を突かれたなら離婚をしない。
そんな情けない言葉を吐くなんて思わなかった。
「では、私から言わせてください。もう……離婚をいたしましょう」
「……」
「貴方の言動には耐えられない。目が見えなくなってから、貴方へ抱いていた感情も見えないの」
「黙れ、離婚はしない。こんな状況になったが、お前が妻である現状に一定の利がある事が分かった」
私が目が見えないとなった時は本気で離婚を考えていたようだ……
しかし、なんらかの理由で私に利があると思って考えが変わった。
なんて身勝手な理由だ。
「私は貴方の道具ではない。離婚については私の意思です」
「話し合う気はない。お前がどれだけ言っても、両者の合意がなければ離婚は成立などしないのだから」
「貴方はどうしたいのですか。そんな言動なのに、昨夜までは私に……」
「……昨夜の事は忘れろ。離婚はしないという判断をしているだけでも感謝するんだ」
昨夜……確かにレイクスはそう言った。
その言動は、やはりあの指先が貴方なの?
だって昨夜に私の部屋に来たのは、あの指先のみだったから。
「離婚はしない。いいな?」
分からない、貴方の目的が……
こうして蔑み、最低な言動で私を貶していくのに。
夜になれば……何も言わぬままに励ます。
貴方の考えが、真意が見えない。
なにも見えないよ。
出て行く扉の閉まる音を聞きながら、理解できない行動に何も言えなかった。
◇◇◇
それから、どれだけの時間が経っただろうか。
シルヴァが世話をしてくれる中で呟いてくる。
「アイラ奥様、本日も夜になりました。どうかお休みください」
「いつも、こんな時間までありがとう……シルヴァ」
「いえ、アイラ奥様のご苦労に比べれば、私など……」
家令のシルヴァが夜だと教えてくれて、寝台に横になって私は息を吐く。
また今夜も、あの指先が導いてくれるのだろうか。
あれは本当にレイクスなの?
「ねぇ、シルヴァ。答えて……毎夜に私に会いに来てくれているのは、レイクスなのよね。彼が夜に会っていると言ったもの」
「……それは言えません。申し訳ありません」
以前と同様の返答に、いくら聞いても答えてくれる素振りはない。
もう答えてくれなくて、世話を終えて彼は部屋を去っていく。
残された私は一人の暗闇の中で、悶々と今の状況に頭を悩ませる。
意味が分からない、真意が掴めない。
だけど……一つだけハッキリしている事がある。
「私はレイクスと離婚する」
優しい指先がレイクスであったとしても、もうこの気持ちは変わらない。
酷い言葉を投げかけられて、自尊心を一度は絶望に突き落とされた。
もう暗闇の中にいるつもりはない。
自分の光を見つけるためにも、もう蔑む彼の傍にはいられない。
「ア、アイラ。お前は自分が何を言っているのか分かっているのか? 目の見えないお前に生きる方法など……」
声色が動揺しているように思えるのは……
昨夜、あの指先が教えてくれた情報のおかげかもしれない。
「貴方の言うように、目の見えない私を皆が見捨てるでしょうか?」
「っ! なにを……そうに決まっている! もはや執務もできない、社交界にも出れない女性など見向きもするはずがない」
「ですが今も、馬車の横転事故によって社交界に参加できぬ私を……心配して手紙を送ってくださる貴族家の方々が多数おられると聞いております」
「……」
否定の言葉がないのは、きっとこの情報が真実であるからだ。
だったら、あの指先が教えてくれたのは嘘ではない。
「私が今まで貴方を支えるために培ってきた人生……それは決して貴方だけの信頼を勝ち取るものではありませんでした」
「……」
「社交界で培ってきた仲。貴方のためにと引き受けた執務と領地管理にて得た成果は……皆に確かに信頼を頂いております」
「黙れ、目が見えなくて。そんな醜い傷を負って誰が……お前など……」
「それを決めるのは貴方ではありません。私はたとえ醜い傷を負っていようと……自分が今までの人生で培ってきた評価が消えるとは、思っていませんから」
耳に聞こえてくるレイクスの否定の勢いは無くなっていく。
私が返した言葉に、戸惑っているような沈黙が流れた。
「もういい、君のご両親への手紙は俺が書く。君に任せた末に、こんな駄々をこねて抵抗されるとは不愉快だ」
「レイクス、私の両親が……私に利用価値がないからと謝罪金を積んだ。それは事実なのですか?」
「何が言いたい」
「昨日は勢いに呑まれて疑えなかったですが、よく考えてみれば不思議なんですよ」
目が見えない絶望によって、レイクスの言葉を鵜吞みにしてしまっていた。
冷静になってみれば、彼の言葉には怪しい部分が良く見えるではないか。
「私が目が見えなくなったと判明してから、まだ日がそれほど経っていない状況で謝罪金を積める迅速な対応など可能でしょうか?」
「俺の言っている事を疑うのか?」
「いえ、ただ私は冷静になって両親を信じているだけです。あの二人は、私と話し合わずにそんな判断をするとは思えない」
「……」
無言になったレイクスへと、続けざまに問いかけよう。
彼の言っていた謝罪金の真偽をハッキリさせるため。
「貴方は虚偽を吐いて、私の両親に謝罪金を積ませようとしたのではありませんか?」
「黙れ、それ以上……俺が親切でお前の両親に感謝の手紙を送らせてやろとしたことを否定するのか?」
「その手紙も、謝罪金が必要だと望む手段として必要なだけだった……そうではありませんか?」
バンッ!!!
けたたましい音、机を叩いた衝撃音に肩が反射的に跳ね上がる。
怒りを感じさせる音を響かせて、レイクスの言葉が響いた。
「それ以上……不愉快な言葉を吐くな。俺はお前の価値を取り戻すために考えてやっている」
「先ほども言った通り。もし今の私が不満なのでしたら、離婚をいたしましょう」
「お前はそれでいいと思っているのか? この先、自らの価値がない事を蔑まれて生きていく事になるだけだぞ?」
「目が見えない。それを他者がどれだけ蔑もうと、私は私自身に価値がないなんて思いたくない。そう思わない人生を生きていきます」
指先にもらった勇気を胸にして、レイクスの声がする方向へとハッキリ告げる。
彼が息を呑む音がハッキリ聞こえた。
「お前もどうせ……同じようになる。周りの苦悩など気にせず、身勝手に生きていくんだろ?」
「なにを言って……」
「…………もういい。お前が言った通りに、今この状況での離婚すれば俺の評価にも繋がる。だから離婚はしない」
あれだけ離婚をちらつかせておいて、いざ真実を突かれたなら離婚をしない。
そんな情けない言葉を吐くなんて思わなかった。
「では、私から言わせてください。もう……離婚をいたしましょう」
「……」
「貴方の言動には耐えられない。目が見えなくなってから、貴方へ抱いていた感情も見えないの」
「黙れ、離婚はしない。こんな状況になったが、お前が妻である現状に一定の利がある事が分かった」
私が目が見えないとなった時は本気で離婚を考えていたようだ……
しかし、なんらかの理由で私に利があると思って考えが変わった。
なんて身勝手な理由だ。
「私は貴方の道具ではない。離婚については私の意思です」
「話し合う気はない。お前がどれだけ言っても、両者の合意がなければ離婚は成立などしないのだから」
「貴方はどうしたいのですか。そんな言動なのに、昨夜までは私に……」
「……昨夜の事は忘れろ。離婚はしないという判断をしているだけでも感謝するんだ」
昨夜……確かにレイクスはそう言った。
その言動は、やはりあの指先が貴方なの?
だって昨夜に私の部屋に来たのは、あの指先のみだったから。
「離婚はしない。いいな?」
分からない、貴方の目的が……
こうして蔑み、最低な言動で私を貶していくのに。
夜になれば……何も言わぬままに励ます。
貴方の考えが、真意が見えない。
なにも見えないよ。
出て行く扉の閉まる音を聞きながら、理解できない行動に何も言えなかった。
◇◇◇
それから、どれだけの時間が経っただろうか。
シルヴァが世話をしてくれる中で呟いてくる。
「アイラ奥様、本日も夜になりました。どうかお休みください」
「いつも、こんな時間までありがとう……シルヴァ」
「いえ、アイラ奥様のご苦労に比べれば、私など……」
家令のシルヴァが夜だと教えてくれて、寝台に横になって私は息を吐く。
また今夜も、あの指先が導いてくれるのだろうか。
あれは本当にレイクスなの?
「ねぇ、シルヴァ。答えて……毎夜に私に会いに来てくれているのは、レイクスなのよね。彼が夜に会っていると言ったもの」
「……それは言えません。申し訳ありません」
以前と同様の返答に、いくら聞いても答えてくれる素振りはない。
もう答えてくれなくて、世話を終えて彼は部屋を去っていく。
残された私は一人の暗闇の中で、悶々と今の状況に頭を悩ませる。
意味が分からない、真意が掴めない。
だけど……一つだけハッキリしている事がある。
「私はレイクスと離婚する」
優しい指先がレイクスであったとしても、もうこの気持ちは変わらない。
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