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最終話
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離婚して両親の元へ戻る。
政略結婚を破棄したも同然だったけれど、両親は私を労わってくれた。
「家令のシルヴァ殿から話を聞いている。私達が助けに行ってやれず、すまなかった」
「ごめんなさい、アイラ。貴方をもっと早く迎えに行っていれば……」
どうやらシルヴァから事情を聞いていたようだ。
私の元へ向かおうとしてくれていたみたいで、帰還に心から喜んでくれた。
「ごめんなさい、お父様……お母様。私は傷を負って、目が見えずに迷惑をかけ––––」
言い切る前に二人分の抱擁が私を包む。
力強く、けれど優しい両腕が私を抱きしめて離さなかった。
「馬鹿を言うな、迷惑だなんて思うな。私達はお前が無事で生きてくれていたらそれでいい」
「そうよ、小さな頃から一緒に暮らしてきた貴方を……目が見えないからって、迷惑だと思うはずがないでしょう? 私達は、貴方を心から愛しているわ」
涙の混じる声と共に聞かされた両親の愛。
涙が、両頬に流れていく雫を止められるはずがなかった。
とめどなく、恥もなく声を出して泣いてしまった。
「ただいま。お父様、お母様」
二人の愛が嬉しくて、言葉にならなくて。
なんとか告げた言葉が、子供の頃に何度も告げた言葉だけだった。
でもそれだけで、両親は「おかえり」と優しく私を抱きしめてくれる。
子供の頃から同じ、両親の愛がこもった抱擁は目が見えなくても愛が伝わるものだった。
◇◇◇
離婚してから数か月後、大きく変わった事がある。
それは……
『もう傷は痛くない? 大丈夫かな?』
「ええ、痛くないわ。ありがとう……リオン」
『良かった』
「貴方が調合してくれた薬のおかげよ」
リオン、彼も今は薬師となっている。
幽閉されていても勉学に励んでおり、人を救える薬師の道を選んだようだ。
以前に痛み止めを塗ってもらった際も、彼の調合した薬みたいね。
「あれから伯爵家は大変だったと聞いたけれど、貴方達は大丈夫だったの? シルヴァ」
リオンの助手として今は働いているシルヴァも、にこやかな笑みで答えてくれる。
「えぇ、あれから話は王家にまで及びましてね。レイクス様達は領地の剝奪と、爵位の降格という処分をくだされております」
「重い罪だけど……診断書の偽装だけでなく、肉親を幽閉していたのだから当然ね」
「レイクス様はすっかり気を病んでおり、今は屋敷から出ずに食事も必要最低限のみしかとられておりません」
悲惨だけれど、彼自身が犯してしまった間違いだ。
私になにか出来る事は無い。
『あんな兄だけど、僕が面倒をみるつもりだよ』
「リオン?」
『最低な人だったと思う。だけどそれで見捨てていたら、僕が医学を志した意味がないから』
「立派ね。やっぱり貴方を馬鹿にする評価なんて、まるで気にしなくていいわよ」
私などよりも酷い人生を負ってきたはずのリオン。
だけど人格者で、誰よりも優しい心の持ち主である彼は自然と尊敬してしまう。
だからこその賛辞に、彼は指先を一度止めてから、迷ったような軌道で文字を書いた。
『……君が良ければなんだけど。食事の機会をもらえないかな?』
「えっ!」
『君をもっと知りたい。今まで閉じこめられて生きてきたけど、外に出てから……何よりも君だけを知りたいんだ。駄目かな?』
断れるはずも無かった。
私に希望をくれた彼からの提案に、言葉で答えるまでもなく頷く。
『もちろん、私も貴方を知りたい』
彼の手を取って、私の指先で文字を書く。
一気に熱くなっていく彼の手。
「ふ、ふふ」
思わず笑いながら、リオンとのこれからを私は期待した。
◇◇◇
離婚してから、更に十年の月日が流れた。
「アイラ様! ありがとう!」
「おめでとうございます! リオン様ぁ!」
目が見えなくても、私には賛辞の声からよくわかる。
私が抱いた赤子、その生誕を喜ぶ領民の声があちこちから聞こえてくるのだ。
「少し……恥ずかしいね。恒例とはいえ私達の子供を領民にお披露目するなんて」
『これも、領民に次代の安心を届けるためだからね。でもアイラ……無理はしないでね』
「もちろんだよリオン。この子も私も、無理せずに貴方に頼るからね」
十年の月日が流れて、私とリオンは互いに恋し合った気持ちを伝えあった。
そこに政略はなくて恋心に素直に従って、二人の仲を結ぶ結婚をしたのだ。
私はかつて伯爵家で培った人脈にて、様々な商談を取り次いだ。
目が見えなくても、信頼できるシルヴァが傍で補助もしてくれているため契約にも問題ない。
「それにしても……まさか私が子爵家の当主になれるなんてね」
リオンに告げた通りに、私は晴れて生家の子爵家当主となった。
目が見えない、だけど変わらない功績から父が認めてくれた結果だ。
そして他でもないリオンは、婿養子となって我が家に嫁いでくれたのだ。
『これからは、僕が君を支えるから。その子も君も、きっと幸せにしてみせる』
「ふふ、リオン。もうすっかり幸せにしてもらってるよ」
リオンはその医学に進んだ知識から、多くの領民を救っている。
彼は話せないけれど、その類まれなる知識から、王家とも協同して医療改革に携わっている。
領民や私にとって、今やリオンには感謝が絶えないだろう。
「幸せだよ、本当に……」
『僕もだ、君と会えて……幼い君に言葉をもらって、救われて良かった』
「私も同じ。目が見えないと知って、レイクスに罵倒されて心が絶望した時。貴方にもらった言葉の数々に救われた……だからね」
もう目が見えなくても、彼の顔の位置はよくわかっている。
背伸びして、彼との子を抱きながら微笑んだ。
「ありがとう。幸せにしてくれて」
私達は互いに不自由を抱えて生きている。
けれどね、だからこそ本当の意味で私達は支え合って生きている。
そしてこの幸せを手に入れたんだ。
幸せのキッカケをくれたリオンに心から感謝している。
私にとって光で、希望でもある貴方は……今の私にはよく見えるから。
この幸せからは、絶対に目を離さないよ。
-fin-
政略結婚を破棄したも同然だったけれど、両親は私を労わってくれた。
「家令のシルヴァ殿から話を聞いている。私達が助けに行ってやれず、すまなかった」
「ごめんなさい、アイラ。貴方をもっと早く迎えに行っていれば……」
どうやらシルヴァから事情を聞いていたようだ。
私の元へ向かおうとしてくれていたみたいで、帰還に心から喜んでくれた。
「ごめんなさい、お父様……お母様。私は傷を負って、目が見えずに迷惑をかけ––––」
言い切る前に二人分の抱擁が私を包む。
力強く、けれど優しい両腕が私を抱きしめて離さなかった。
「馬鹿を言うな、迷惑だなんて思うな。私達はお前が無事で生きてくれていたらそれでいい」
「そうよ、小さな頃から一緒に暮らしてきた貴方を……目が見えないからって、迷惑だと思うはずがないでしょう? 私達は、貴方を心から愛しているわ」
涙の混じる声と共に聞かされた両親の愛。
涙が、両頬に流れていく雫を止められるはずがなかった。
とめどなく、恥もなく声を出して泣いてしまった。
「ただいま。お父様、お母様」
二人の愛が嬉しくて、言葉にならなくて。
なんとか告げた言葉が、子供の頃に何度も告げた言葉だけだった。
でもそれだけで、両親は「おかえり」と優しく私を抱きしめてくれる。
子供の頃から同じ、両親の愛がこもった抱擁は目が見えなくても愛が伝わるものだった。
◇◇◇
離婚してから数か月後、大きく変わった事がある。
それは……
『もう傷は痛くない? 大丈夫かな?』
「ええ、痛くないわ。ありがとう……リオン」
『良かった』
「貴方が調合してくれた薬のおかげよ」
リオン、彼も今は薬師となっている。
幽閉されていても勉学に励んでおり、人を救える薬師の道を選んだようだ。
以前に痛み止めを塗ってもらった際も、彼の調合した薬みたいね。
「あれから伯爵家は大変だったと聞いたけれど、貴方達は大丈夫だったの? シルヴァ」
リオンの助手として今は働いているシルヴァも、にこやかな笑みで答えてくれる。
「えぇ、あれから話は王家にまで及びましてね。レイクス様達は領地の剝奪と、爵位の降格という処分をくだされております」
「重い罪だけど……診断書の偽装だけでなく、肉親を幽閉していたのだから当然ね」
「レイクス様はすっかり気を病んでおり、今は屋敷から出ずに食事も必要最低限のみしかとられておりません」
悲惨だけれど、彼自身が犯してしまった間違いだ。
私になにか出来る事は無い。
『あんな兄だけど、僕が面倒をみるつもりだよ』
「リオン?」
『最低な人だったと思う。だけどそれで見捨てていたら、僕が医学を志した意味がないから』
「立派ね。やっぱり貴方を馬鹿にする評価なんて、まるで気にしなくていいわよ」
私などよりも酷い人生を負ってきたはずのリオン。
だけど人格者で、誰よりも優しい心の持ち主である彼は自然と尊敬してしまう。
だからこその賛辞に、彼は指先を一度止めてから、迷ったような軌道で文字を書いた。
『……君が良ければなんだけど。食事の機会をもらえないかな?』
「えっ!」
『君をもっと知りたい。今まで閉じこめられて生きてきたけど、外に出てから……何よりも君だけを知りたいんだ。駄目かな?』
断れるはずも無かった。
私に希望をくれた彼からの提案に、言葉で答えるまでもなく頷く。
『もちろん、私も貴方を知りたい』
彼の手を取って、私の指先で文字を書く。
一気に熱くなっていく彼の手。
「ふ、ふふ」
思わず笑いながら、リオンとのこれからを私は期待した。
◇◇◇
離婚してから、更に十年の月日が流れた。
「アイラ様! ありがとう!」
「おめでとうございます! リオン様ぁ!」
目が見えなくても、私には賛辞の声からよくわかる。
私が抱いた赤子、その生誕を喜ぶ領民の声があちこちから聞こえてくるのだ。
「少し……恥ずかしいね。恒例とはいえ私達の子供を領民にお披露目するなんて」
『これも、領民に次代の安心を届けるためだからね。でもアイラ……無理はしないでね』
「もちろんだよリオン。この子も私も、無理せずに貴方に頼るからね」
十年の月日が流れて、私とリオンは互いに恋し合った気持ちを伝えあった。
そこに政略はなくて恋心に素直に従って、二人の仲を結ぶ結婚をしたのだ。
私はかつて伯爵家で培った人脈にて、様々な商談を取り次いだ。
目が見えなくても、信頼できるシルヴァが傍で補助もしてくれているため契約にも問題ない。
「それにしても……まさか私が子爵家の当主になれるなんてね」
リオンに告げた通りに、私は晴れて生家の子爵家当主となった。
目が見えない、だけど変わらない功績から父が認めてくれた結果だ。
そして他でもないリオンは、婿養子となって我が家に嫁いでくれたのだ。
『これからは、僕が君を支えるから。その子も君も、きっと幸せにしてみせる』
「ふふ、リオン。もうすっかり幸せにしてもらってるよ」
リオンはその医学に進んだ知識から、多くの領民を救っている。
彼は話せないけれど、その類まれなる知識から、王家とも協同して医療改革に携わっている。
領民や私にとって、今やリオンには感謝が絶えないだろう。
「幸せだよ、本当に……」
『僕もだ、君と会えて……幼い君に言葉をもらって、救われて良かった』
「私も同じ。目が見えないと知って、レイクスに罵倒されて心が絶望した時。貴方にもらった言葉の数々に救われた……だからね」
もう目が見えなくても、彼の顔の位置はよくわかっている。
背伸びして、彼との子を抱きながら微笑んだ。
「ありがとう。幸せにしてくれて」
私達は互いに不自由を抱えて生きている。
けれどね、だからこそ本当の意味で私達は支え合って生きている。
そしてこの幸せを手に入れたんだ。
幸せのキッカケをくれたリオンに心から感謝している。
私にとって光で、希望でもある貴方は……今の私にはよく見えるから。
この幸せからは、絶対に目を離さないよ。
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