【完結】貴方が見えない

なか

文字の大きさ
16 / 17

最終話

しおりを挟む
 離婚して両親の元へ戻る。
 政略結婚を破棄したも同然だったけれど、両親は私を労わってくれた。

「家令のシルヴァ殿から話を聞いている。私達が助けに行ってやれず、すまなかった」
「ごめんなさい、アイラ。貴方をもっと早く迎えに行っていれば……」

 どうやらシルヴァから事情を聞いていたようだ。
 私の元へ向かおうとしてくれていたみたいで、帰還に心から喜んでくれた。

「ごめんなさい、お父様……お母様。私は傷を負って、目が見えずに迷惑をかけ––––」

 言い切る前に二人分の抱擁が私を包む。
 力強く、けれど優しい両腕が私を抱きしめて離さなかった。

「馬鹿を言うな、迷惑だなんて思うな。私達はお前が無事で生きてくれていたらそれでいい」
「そうよ、小さな頃から一緒に暮らしてきた貴方を……目が見えないからって、迷惑だと思うはずがないでしょう? 私達は、貴方を心から愛しているわ」

 涙の混じる声と共に聞かされた両親の愛。
 涙が、両頬に流れていく雫を止められるはずがなかった。
 とめどなく、恥もなく声を出して泣いてしまった。

「ただいま。お父様、お母様」

 二人の愛が嬉しくて、言葉にならなくて。
 なんとか告げた言葉が、子供の頃に何度も告げた言葉だけだった。 
 でもそれだけで、両親は「おかえり」と優しく私を抱きしめてくれる。

 子供の頃から同じ、両親の愛がこもった抱擁は目が見えなくても愛が伝わるものだった。

   ◇◇◇

 離婚してから数か月後、大きく変わった事がある。
 それは……

『もう傷は痛くない? 大丈夫かな?』

「ええ、痛くないわ。ありがとう……リオン」

『良かった』 

「貴方が調合してくれた薬のおかげよ」

 リオン、彼も今は薬師となっている。
 幽閉されていても勉学に励んでおり、人を救える薬師の道を選んだようだ。
 以前に痛み止めを塗ってもらった際も、彼の調合した薬みたいね。

「あれから伯爵家は大変だったと聞いたけれど、貴方達は大丈夫だったの? シルヴァ」

 リオンの助手として今は働いているシルヴァも、にこやかな笑みで答えてくれる。

「えぇ、あれから話は王家にまで及びましてね。レイクス様達は領地の剝奪と、爵位の降格という処分をくだされております」

「重い罪だけど……診断書の偽装だけでなく、肉親を幽閉していたのだから当然ね」

「レイクス様はすっかり気を病んでおり、今は屋敷から出ずに食事も必要最低限のみしかとられておりません」

 悲惨だけれど、彼自身が犯してしまった間違いだ。
 私になにか出来る事は無い。

『あんな兄だけど、僕が面倒をみるつもりだよ』

「リオン?」

『最低な人だったと思う。だけどそれで見捨てていたら、僕が医学を志した意味がないから』

「立派ね。やっぱり貴方を馬鹿にする評価なんて、まるで気にしなくていいわよ」

 私などよりも酷い人生を負ってきたはずのリオン。
 だけど人格者で、誰よりも優しい心の持ち主である彼は自然と尊敬してしまう。
 だからこその賛辞に、彼は指先を一度止めてから、迷ったような軌道で文字を書いた。

『……君が良ければなんだけど。食事の機会をもらえないかな?』

「えっ!」

『君をもっと知りたい。今まで閉じこめられて生きてきたけど、外に出てから……何よりも君だけを知りたいんだ。駄目かな?』

 断れるはずも無かった。
 私に希望をくれた彼からの提案に、言葉で答えるまでもなく頷く。

『もちろん、私も貴方を知りたい』

 彼の手を取って、私の指先で文字を書く。
 一気に熱くなっていく彼の手。
 
「ふ、ふふ」

 思わず笑いながら、リオンとのこれからを私は期待した。


  ◇◇◇

 離婚してから、更に十年の月日が流れた。

「アイラ様! ありがとう!」
「おめでとうございます! リオン様ぁ!」

 目が見えなくても、私には賛辞の声からよくわかる。
 私が抱いた赤子、その生誕を喜ぶ領民の声があちこちから聞こえてくるのだ。

「少し……恥ずかしいね。恒例とはいえ私達の子供を領民にお披露目するなんて」

『これも、領民に次代の安心を届けるためだからね。でもアイラ……無理はしないでね』

「もちろんだよリオン。この子も私も、無理せずに貴方に頼るからね」

 十年の月日が流れて、私とリオンは互いに恋し合った気持ちを伝えあった。
 そこに政略はなくて恋心に素直に従って、二人の仲を結ぶ結婚をしたのだ。

 私はかつて伯爵家で培った人脈にて、様々な商談を取り次いだ。
 目が見えなくても、信頼できるシルヴァが傍で補助もしてくれているため契約にも問題ない。

「それにしても……まさか私が子爵家の当主になれるなんてね」

 リオンに告げた通りに、私は晴れて生家の子爵家当主となった。
 目が見えない、だけど変わらない功績から父が認めてくれた結果だ。
 そして他でもないリオンは、婿養子となって我が家に嫁いでくれたのだ。

『これからは、僕が君を支えるから。その子も君も、きっと幸せにしてみせる』

「ふふ、リオン。もうすっかり幸せにしてもらってるよ」

 リオンはその医学に進んだ知識から、多くの領民を救っている。
 彼は話せないけれど、その類まれなる知識から、王家とも協同して医療改革に携わっている。
 領民や私にとって、今やリオンには感謝が絶えないだろう。

「幸せだよ、本当に……」

『僕もだ、君と会えて……幼い君に言葉をもらって、救われて良かった』

「私も同じ。目が見えないと知って、レイクスに罵倒されて心が絶望した時。貴方にもらった言葉の数々に救われた……だからね」

 もう目が見えなくても、彼の顔の位置はよくわかっている。
 背伸びして、彼との子を抱きながら微笑んだ。

「ありがとう。幸せにしてくれて」

 私達は互いに不自由を抱えて生きている。
 けれどね、だからこそ本当の意味で私達は支え合って生きている。
 そしてこの幸せを手に入れたんだ。


 幸せのキッカケをくれたリオンに心から感謝している。
 私にとって光で、希望でもある貴方は……今の私にはよく見えるから。
 この幸せからは、絶対に目を離さないよ。

-fin-

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

あなたは婚約者よりも幼馴染を愛するのですね?

睡蓮
恋愛
ノラン侯爵はエリステルとの婚約を築いておきながら、自信が溺愛する幼馴染であるユリアとの時間を優先していた。ある日、ノランはユリアと共謀する形でエリステルに対して嫌がらせを行い、婚約破棄をさせる流れを作り上げる。しかしその思惑は外れ、エリステルはそのまま侯爵の前から姿を消してしまう。…婚約者を失踪させたということで、侯爵を見る周りの目は非常に厳しいものになっていき、最後には自分の行動の全てを後悔することになるのだった…。

殿下!婚姻を無かった事にして下さい

ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。 最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。 とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。 しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】三歳年下の婚約者は、嘘を覚えた

恋せよ恋
恋愛
ランバート侯爵令嬢フィオーラには三歳年下の病弱な婚約者がいる。 保養地で十二歳まで静養するフィッチモ公爵家の嫡男、エドワード。 病弱で儚げだった可愛い彼を、フィオーラは献身的に励まし支えた。 十四歳でエドワードが健康を取り戻し王都へ戻ると、環境に変化が。 金髪に青い目の整った容姿の公爵家嫡男に群がる令嬢たち。 「三歳年上の年増」「素敵なエドワード様に相応しくないおばさん」 周囲の令嬢たちによるフィオーラへの執拗な侮辱。 そして、エドワードの友人の義妹マリアンヌの甘い誘惑と、接近。 思春期真っ盛りのエドワードと、美しいフィオーラの関係は拗れていく。 二人の婚約の結末は、婚約解消か、継続か、はたまた……。 若い二人の拗れた恋の行方の物語 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

処理中です...