春よ、君を守りたし ―中華恋絵巻―

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第四章 再会は花の下で

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第四章 再会は花の下で

春は盛りを迎え、洛陽の街には桃や李(すもも)の花がほころび、道行く人々の頬をふんわりと紅に染めていた。市中では太鼓や笛が鳴り、祭の準備に町全体が浮き立っていたが、杜家の庭には静かな緊張が流れていた。

「――裴将軍が、明日帰洛なさるそうです」

侍女の報告に、杜若は筆を持つ手を止めた。

胸の奥がふわりと高鳴る。季節を越えて届いた手紙の数々。それらが彼の真心であったと知った今、杜若の心にはもはや迷いはなかった。

「お迎えの準備を。……あの梅の庭で、お会いしたいのです」



翌日。

裴景輝は、洛陽の街を馬で駆け抜けながら、いつか夢に見た景色をその目に映していた。戦場で幾度も思い出した白梅の庭。風に揺れる彼女の黒髪と、淡い微笑。

「……変わらず、いてくれただろうか」

軍の報告も政の挨拶も後回しにし、彼は真っすぐに杜家の門をくぐった。

庭門の前で足を止めると、懐かしい梅の香りが風に乗って届いた。

「将軍……」

声がした。

そこにいたのは、あの日と同じ白の綾衣をまとった杜若。だが、心なしか彼女は以前よりも凛とし、どこか覚悟を秘めた面持ちをしていた。

「ご無事で、よかった……」

その一言で、裴景輝の胸に積もっていたあらゆるものが、音もなく崩れ落ちた。

「杜若……」

彼は思わず彼女の前にひざをつき、右手を胸に置いた。

「あなたの手紙が、わたしを人に戻してくれた。戦の中で、あなたの言葉だけが生きている証だったのです」

杜若はそっと、その手に自らの手を重ねた。

「私は、将軍がどのような姿でも、戻ってくださるなら、それで良いと思っていました。けれど……今のあなたを、誇りに思います」



庭の奥では、父・杜詩白が遠くからその様子を見ていた。従者がひそひそと「婚儀の話が進めばよいのですが」とささやくと、詩白はやや肩をすくめた。

「それを決めるのは、本人たちだ。私が口を挟むまでもあるまい」

けれど、その声音には微かな安堵が滲んでいた。



その夜、ふたりは再び庭で向かい合い、篝火を前に詩を詠み合った。

杜若がそっと詠んだ。

「君の声 風に溶けゆき 夜を照らす
戦のあとに 残る光よ」

裴景輝は、目を細め、深くうなずいてから返した。

「帰り来て 咲く花よりも 君の笑み
洛陽(みやこ)に春は 今ぞ満ちたり」

ふたりの詩の余韻が、夜空に溶けてゆく。

そしてその傍らで、ひとひらの白梅が、そっと宙を舞った。

――恋は、確かな約束となり、ふたりの人生を静かに結び始めていた。

次章へ続く
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