悪役令嬢なんて呼ばせない！

気付いたら転生してました。

3.シャロン(小)の亡霊とメリーの決意

目に射し込む陽の光に少しクラっとくる。
すかさず、後ろからレミが日傘をさしてくれた。

「お嬢様、大丈夫ですか？。」

「ごめんなさい。久しぶりの外だから、嬉しくて…！」

レミは苦笑しつつも、私を陽の日から完全に守っている。

緑や、薔薇の赤や白、ピンクが溢れる庭に出て、
久々の外の空気を思い切り吸い込む。
薔薇の香りが少し鼻腔をくすぐる。
もっと近くでその香りを吸い込みたくて、思わず走りだしてしまった。

「お嬢様っ！？」

レミの声に振り返ろうとした瞬間、
大きく風が吹いてた。
お母様譲りのウェーブがかかった蜂蜜色の髪が風になびく。
髪が乱れないように抑え視線を上げると、薔薇の向こうに一人の男の子が立っているのに気付いた。

その子も黒い髪をサラサラとなびかせている。
はい。しっかり、目が合いました。

(おう？あそこに立つは、シャロン(小)じゃないですか？)

お子様だけれど、あのサラサラ黒髪、黒い瞳。間違いない。エメラルドちゃんが大活躍するゲームの攻略対象、シャロンさんですよ。

咄嗟に、生垣に隠れるようにしゃがみ込んだ。

(セーフ？セーフ！？目が合ったけど、一瞬だからセーフでしょ！？)



＊＊＊



攻略対象の一人、シャロン。

漆黒の髪、同じく漆黒の瞳、国一番の強力な魔力を持つシャロン。クールで知的なキャラが売りだったが、学園で登場する頃には、性格が捻くれており、人に懐かない野良猫のこどし。

攻略には大変苦労をした記憶がある。
シャロンがよく出没する図書館に通い、少しずつ距離を縮めていった。

好感度が上がってくると、シャロンは謎を出すようになってくる。シャロンルートは謎解きゲームルートだ。
謎解きに成功すると「知力」が上がる。
シャロンルートでハッピーエンドにするには、最終イベント時に「知力」が900以上でないとダメだ。

エメラルドちゃんのゲーム「学園に咲く花」略して「学花」は、普通の乙女ゲームと違い、攻略対象によって、求められる力とミニゲームが異なるのが特徴だ。

エメラルドちゃんのステイタスには
「体力」「知力」「魅力」「姫力」「運力」
の5つの項目があり、それぞれMAX999まで上げることができる。
「体力」はアクションゲーム
「知力」は謎解きゲーム
「魅力」はパズルゲーム
「姫力」はリズムゲーム
「運力」はカジノゲーム
とそれぞれミニゲームが用意されていた。
学花はなかなかやり込みがいのあるゲームだと思う。

シャロンのルートでは、エメラルドちゃんは変わらずに可愛いく、
最終的にシャロンはとても強い魔力が強いことから、なんだかんだあり、国一番の魔導師になる。素敵なエメラルドちゃんは、ことごとく悪役令嬢に邪魔されながらも、国一番の魔導師を公私ともに支える健気に美しい花嫁になる。

エメラルドちゃんの健気さ、可愛さに首ったけだった私、シャロンに特に思い入れはない。

…あ、そんなこともないわ、
ルート中、ことごとくエメラルドちゃんの邪魔をする悪役令嬢の非道さにムカムカさせられるが、ハッピーエンドを迎えると、シャロンが国王家に次ぐ、国一番の魔導師だったことが幸いし、悪役令嬢は断罪され処刑されるのだ！シャロンよくやった！メリーよ！ざまあみろ！！


……！？あれ？メリーって私じゃなかったですっけ？
？？これ、エメラルドちゃん幸せになったら、私、死にますよね？

ーーーーー


「お嬢様！？大丈夫ですか！！あぁ、お顔色が真っ青ですよ？」

この数日、レミのお嬢様、大丈夫ですか？を何度聞いただろう…。

立ち上がってみると、そこにはもうシャロン(小)は見当たらなかった。
あれ？見間違い？？なら安心…。

「あ、レミ、ごめんなさい…。急に走っちゃダメね。少し気分が…。」

視界が揺らぐ、駆け付けたレミに支えられ、館へと戻る。



部屋へ戻ると、すぐにベッドへ寝かされた。
お母様が駆け付け、また、瞳を涙でウルウルさせていらっしゃる。お母様の瞳にドライアイは無縁だろう。

「メリー…。」

「ごめんなさい。お母様。少し立ちくらみがしただけよ…。」

「お願い、無理はしないで…」

「お庭の薔薇がキレイで、外に出たいって無理を言ったの。レミを叱らないでね。」

「お嬢様！」

そうそう、悪いのはレミではなく、シャロンの亡霊だ。

「わかったわ、でもしばらくは外へ出るのはやめてちょうだい？」

忌々しいシャロンの亡霊めっ！

「…はい。お母様。」

流石にお母様とレミの心配そうな顔をみると、反抗なんてできない。また、館の中のお姫様に逆戻りだ。


でも、シャロンの亡霊は忌々しいのは山々だが、お陰で私は思い出した。

エメラルドちゃんの幸せを願い、全クリをした乙女ゲーム。
どのルートのハッピーエンドで、悪役令嬢のメリーラントは最終的に断罪される。
最低でも国外追放、最悪は処刑…。
とにかく、まともな最期ではない。ルート中の悪業を考えれば当然の報いなのだが。

私はエメラルドちゃんの幸せをそばで見守り
たいだけだ(あ、私のエメラルドちゃん信仰は百合的なやつではないです。)！
国外追放はご免だし、処刑なんてもってのほか！！


…でも、私はエメラルドちゃんを愛でたいだけなので、ゲームのような悪業を働くことはもちろんあり得ない。

おや？ということは、私が気を付けさえすれば、エメラルドちゃん極力不快な想いをせず、誰か(相手は誰でも良い)と幸せになり、私はそれを草葉の影から末永く見守ることができるのでは無いか！？
別に、国外追放されることも、処刑もされることなもいんじゃない？？
これ、ガチハッピーエンドじゃない？？

むしろ、幸せの一番の障害である、悪役令嬢に生まれ変われたことに心から感謝！！

こうなりゃ、悪役令嬢なんて呼ばせない！
恋のキューピッドになってやる！！