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7.敵でそれやるのは難易度高くね、学習
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まさか足手まといが増えようとは・・・
子爵家の娘たるもの、剣の嗜みくらいはある。そんな事を言っていたな。
だが現実は、昨日水トカゲのクエストで顔を青くしながらも、レイピアの間合いギリギリからつんつん突いていただけだった。
闇イノシシは、最初に受けたクエスト、闇イノシシの子供退治と同じ場所、つまり静閑の森になる。もっとも居場所は入口付近などではなく、奥へ進んだところのようだが。
「野宿するよりましとはいえ、あの部屋は狭すぎますわ。トイレとシャワールームがある事だけは辛うじて救いの範囲に入っていますが。」
「なら出て行け。」
俺が気を遣って部屋を提供しているのにこの言い草だ。文句があるなら使うなっての。そもそもNPCの分際で何を我が儘言ってやがる。
いや、でもまだはっきりしないな。アリシアの名前は蒼文字だし。
「酷いですわっ!」
お前の方が酷いわ。
「紳士淑女の・・・」
「やめなさい。」
まだ何か言おうとしているアリシアを、アヤカが止める。助け・・・ってのは淡い希望だな、きっと。
「その男は下民、そもそもそういう考え自体持ち合わせておりませんわ。」
はいはい、そんな事だろうと思ったよ。
「まぁっ!?そうでしたの。」
何故距離をおく。人を汚れ物扱いみたいにしやがって。まるで別の生き物を見ているような目で俺を見てくる。
「下民と関わり合いになりたくないなら二人で行け。」
まったく、こんな扱い受けてまで付き合ってられるか。俺はそう思って踵を返すと、街に帰ろうとした。闇イノシシは一人で倒しにいくわ。
「っ!・・・」
踵を返した俺の目の前を、太刀の刀身が上から下へ通り過ぎていく。
「男として、人として一度引き受けた事を反故にするのは如何なものかと思いますわ。」
太刀を振り下ろした体勢のまま、アヤカが下から睨み付けてくる。
「それこそ下民以下。」
うっ・・・
アヤカのやっている事もどうかと思うが、言っている事はその通りだと思わされた。
「アヤカの言う通りだ、俺が悪かった。クエストはちゃんと付き合う。」
クエストはな。
「よろしいですわ。」
太刀を仕舞い再び静閑の森を目指して歩き始める。
「ごめんなさい、少し悪巫山戯が過ぎましたわ。」
歩き始めるとアリシアが申し訳なさそうに謝って来た。言葉だけな、態度は変わっていない。どっちかにしてくれ・・・
この二人といると、ゲームをしているのに不毛な感じしかしない。まったくもって俺の足しに等なっていないからだ。
クエストが進めば協力プレイも有用になるかもしれないが、まだ始まったばかりの今は一人の方が早い。遅々として進まない現状を思えば、そんな思いが出てきてもしょうがないだろう。
なんて考えているうちに、静閑の森の入口に着く。
「闇イノシシは何処にいるのかしら?」
森に入るなり辺りを見回してアヤカが言う。やっぱりクエスト情報ちゃんと読んで無いな。
「森の中程まで進んだ辺りに出るらしい。」
突っ込むのも面倒なので、俺は情報のみを伝える。
「そうですのね。」
ちゃんとクエスト情報を見ろと言いたいが、理不尽な扱いを受けるのも嫌だから黙っておく。どうせ今日クエストに付き合ったら、次からは付き合うつもりは無いし。
明日からは一人でがっつり進めてやる。
幸いな事にフレンド登録もしていないし、ゲーム内で出くわさなければ巻き込まれる事も無いだろう。
「あら、雑魚が出ましたわ。」
横に並んで歩いていたアヤカが、言いながら太刀を抜刀する。闇イノシシの子供が5体ほどこちらに目を向けていた。
「さっさと片付けて先に進むか。」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
俺も片手剣を抜こうとした瞬間、突如聞こえた悲鳴に驚いて、声の出た方向に目を向ける。
・・・
あほか。
背中にレイピアを突き立てられた闇イノシシの子供が、怒りでアリシアを追いかけ回している。何故そんな中途半端な攻撃をして逃げる。最初から手を出さなければいいものを。
これ、闇イノシシの時、絶対邪魔だな。
嫌な想像が出つつも、俺はその闇イノシシの子供に向かって走り出す。
追いついた俺は、低い姿勢の踏み込みからの地擦抜刀。切り上げの一撃で闇イノシシの子供は消え、レイピアが地面に落ちる。
レベルが上がったのもあるが、片手剣の踏み込み抜刀は威力が高い。下からの切り上げ抜刀は直ぐに切り下ろしに切り換えられるし、そのままステップで回避も可能なので隙が無い。今までのクエストでいろいろと試してきた成果が今出ている感じがした。
レベルも上がり操作にも慣れてきたおかげで、最初に手間取った闇イノシシの子供は本当に雑魚になった。
これはちょっと楽しい。
「助けなど頼んでおりませんわ。一人でもなんとか出来ますもの。」
うぜぇ。
とりあえず無視だな。
もしNPCだった場合、問題ないだろう。そうじゃなくプレイヤーだったとしても、これ以上関わらなくていいならそれに越した事はない。
アヤカの方を見ると、5体の闇イノシシの子供は既に倒されたのだろう、周囲に存在していなかった。
「終わったのか?」
「ええ、一度戦った相手、取るに足りませんわ。」
ゲームの雑魚相手に言う言葉でも無い気がするが。
「よし、先に進むか。」
「そうですわね。」
武器を仕舞って目的の闇イノシシを目指し、森の中を進み始める。
「そういう態度はよくありませんわ。貴方のような無礼な殿方、わたくし出会った事がありません。」
ああ、はいはい、言ってろ。
後ろから追いついて来ながら不満の声を上げるアリシアを、俺はやっぱり相手にしない事にした。大体、どっちが無礼なんだか。
俺の人生、と言ってもたかだか15年でしかないが、この手の人種に関わる事なんて無かったし、これからも無いと思っていた。
そもそも現実でさえ、住む世界の違う人種なんだから。
だが実際出会ってみると、感想としてはかなり面倒くさい。
関わらないままが良かった。
理不尽な扱いを受け、ただただ疲れるだけならば、俺は下民でいいよ、全然。
「あそこに居るの、そうじゃなくて?」
疲労感を感じながらそんな事を考えつつ、森の中を進んで行くと、開けた場所が見えた。その中程に大きなイノシシが居る。
「でかいな・・・」
イノシシって、あんな大きく無いだろ。ってこれ、ゲームだから関係ないか。
背中の高いところは1.5mくらいあるだろうか、ほぼ人間の身長と変わらないくらいだ。そんなでかいの、体当たり喰らったら現実なら死にそうな気がする。
「こういう手合いを待ち望んでおりましたわ。」
嬉しそうに聞こえたのでアヤカの方を見ると、口の端をにやりとさせて背中の太刀に手を掛けている。嬉しそうどころか、表情が嬉々としてやがる。
「行きますわよ。」
「あ、ああ・・・」
予想以上の大きさに返事に詰まる。
と言っても、手伝うと言った以上はやるけどさ。
俺もこのクエストは未クリアだから、やらなければならないわけだし。
幸い奴はこっちに尻を向けて気付いていない。不意打ちも出来そうだ。
ゆっくりと近付き、開けた場所に足を踏み入れた瞬間、闇イノシシの頭部がこちらに向かって動き始める。まるで縄張りに入ったのを察知したように。
げ・・・
赤く獰猛な瞳がこちらに向けられると、闇イノシシは身体ごと俺たちに向き直る。
「この緊張感、なかなかですわ。ゲームも馬鹿に出来ませんわね。」
俺は怖いんだが。
闇イノシシもそうだがお前もな、アヤカ。
後が怖いから口にはしないでおく。
獲物を見つけた闇イノシシは、既に右前脚で軽く地面を蹴る仕草をしながら、口から闇色の吐息を漏らしていた。突進してくる気満々じゃねーか。
「来るぞ。」
「分かっていますわ、精々足手まといにならないようにしなさい。」
お前に言われたくねーよ!
と思った瞬間、闇イノシシが突進してくる。速っ!
俺とアヤカはそれぞれ右と左に跳んで、闇イノシシの突進を避ける。着地と同時に踏み込んで抜刀の構えに移行。
背後から渾身の切り上げを決める!
って、いねぇっ!!
速すぎだろ、なんでそんなに離れてんだよ。
アヤカも避けつつ攻撃したつもりだったんだろうが、その太刀も空を凪いでいた。が、不敵な笑みで通り過ぎた闇イノシシに視線を向けていた。
これ結構、難しくないか・・・
俺はそんな事を思い始めていた。
身体の向きを直した闇イノシシは既に、地面を蹴って突進直前の体勢になっている。
これ、攻撃当てられんのかよ。
なんて考えていると、闇イノシシが俺に向かって突進を始める。
俺かよっ!
通り過ぎて当たらないのなら、避けつつ斬るしかないよな。
俺は突進を左へのサイドステップで避けながら、右手の剣を闇イノシシ目掛けて振った。
が、皮を掠めた程度しか当たらない。
(ボスのHP殆ど減ってねーじゃねーか。)
片手剣じゃ長さが足らないな。と思って通り過ぎた闇イノシシを見ると、ドリフトをしながら方向転換していた。
まじかよっ!
方向変換した闇イノシシは、弧を描くようにアヤカに向かって行く。曲線で走られると尚更攻撃が当て難いんじゃないか。
だがアヤカは向かってくる闇イノシシに上段で太刀を構える。
おいおい、まさか正面から斬るつもりじゃないだろうな・・・
と思ったが、そんな無謀な事はせず、対極の弧を描くように逆袈裟に斬りつけながらアヤカと闇イノシシは交差した。
「ギャオォォッ・・・」
そんな苦鳴を上げながら、闇イノシシは左目から血を吹き出す演出をしながら地面を転がった。
すげーな。伊達に剣道をやってないって事か。
俺はこのチャンスを逃さず、転がっている闇イノシシとの距離を詰め、頭部に向かって踏み込み突きを繰り出す。
起き上がろうとしていた闇イノシシの頭に片手剣が刺さるが、闇イノシシは起き上がった勢いは頭部を天に向かって突き上げるように振った。
俺は片手剣ごと後方に飛ばされる。
(HP半分くらい減ったが、ほとんどアヤカのお蔭だな。しかし強い。)
地面に着地しながら今の状態を確認する。痛みは無いが、恐怖はリアルに感じてしまうな。
「アヤカ大丈夫か?」
俺の方に近付いてきたアヤカに声を掛ける。すれ違いで攻撃はしたが、当たったのかアヤカのHPゲージは減っていたからだ。
「ユアキス程じゃありませんわ。既に半死状態、しかも私の作った隙をついて攻撃したにも関わらずなんて様ですの。」
う、返す言葉も無い。
大した差じゃないが、レベルもプレイ時間も俺の方が長いのにな。
「ってか、あれ怒ってないか?」
瞳の赤い輝きが増し、鼻からも瘴気の様な色の息を吹き出している。
「その様ですわね。ここからが本番という事かしら。」
いやいやいや。
LV1-1のクエストにしちゃ難しすぎないか?
なんて思っている合間に闇イノシシが突進を開始。
さっきと同様に、俺とアヤカが左右に跳んで突進を回避・・・!!
だが闇イノシシは通り過ぎず急ブレーキからのかちあげをアヤカに放った。
アヤカは太刀の腹で受け止めつつ後方に飛ばされる。
俺は着地と同時に背後に回って、後ろ脚を斬りに踏み込んだ。
「なっ!」
だが闇イノシシはそれを察知していたのか、かちあげた頭部をしたに戻した反動で、後ろ脚を蹴り上げる。俺はもろにくらってアヤカ同様に吹き飛ばされた。
(戦闘を学習でもしてんのかよ・・・こっちの動きに合わせてくるなんて。)
くそ、回復薬回復薬。HPゲージが赤く点滅して瀕死寸前の俺は慌てて回復薬を使った。
次の動きに備えようと闇イノシシを見ると、奴は俺もアヤカも見ずに別の方向に、赤く輝く瞳を向けていた。
(何を見て・・・)
あの阿呆・・・
俺が闇イノシシが瞳を向けている先を見ると、木の向こうから顔を覗かせて戦闘を見ているアリシアが居た。
つまり、闇イノシシのターゲットが移ったわけだ。
既に右前脚で地面を蹴り、突進準備に入っている。
あれは、間に合わないな・・・
と、思った瞬間、闇イノシシの突進が開始された。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それを見ていたアリシアが、静閑の森の入口方向へ脱兎の如く走り始める。
ほんとに、何しに着いて来たんだよ。
子爵家の娘たるもの、剣の嗜みくらいはある。そんな事を言っていたな。
だが現実は、昨日水トカゲのクエストで顔を青くしながらも、レイピアの間合いギリギリからつんつん突いていただけだった。
闇イノシシは、最初に受けたクエスト、闇イノシシの子供退治と同じ場所、つまり静閑の森になる。もっとも居場所は入口付近などではなく、奥へ進んだところのようだが。
「野宿するよりましとはいえ、あの部屋は狭すぎますわ。トイレとシャワールームがある事だけは辛うじて救いの範囲に入っていますが。」
「なら出て行け。」
俺が気を遣って部屋を提供しているのにこの言い草だ。文句があるなら使うなっての。そもそもNPCの分際で何を我が儘言ってやがる。
いや、でもまだはっきりしないな。アリシアの名前は蒼文字だし。
「酷いですわっ!」
お前の方が酷いわ。
「紳士淑女の・・・」
「やめなさい。」
まだ何か言おうとしているアリシアを、アヤカが止める。助け・・・ってのは淡い希望だな、きっと。
「その男は下民、そもそもそういう考え自体持ち合わせておりませんわ。」
はいはい、そんな事だろうと思ったよ。
「まぁっ!?そうでしたの。」
何故距離をおく。人を汚れ物扱いみたいにしやがって。まるで別の生き物を見ているような目で俺を見てくる。
「下民と関わり合いになりたくないなら二人で行け。」
まったく、こんな扱い受けてまで付き合ってられるか。俺はそう思って踵を返すと、街に帰ろうとした。闇イノシシは一人で倒しにいくわ。
「っ!・・・」
踵を返した俺の目の前を、太刀の刀身が上から下へ通り過ぎていく。
「男として、人として一度引き受けた事を反故にするのは如何なものかと思いますわ。」
太刀を振り下ろした体勢のまま、アヤカが下から睨み付けてくる。
「それこそ下民以下。」
うっ・・・
アヤカのやっている事もどうかと思うが、言っている事はその通りだと思わされた。
「アヤカの言う通りだ、俺が悪かった。クエストはちゃんと付き合う。」
クエストはな。
「よろしいですわ。」
太刀を仕舞い再び静閑の森を目指して歩き始める。
「ごめんなさい、少し悪巫山戯が過ぎましたわ。」
歩き始めるとアリシアが申し訳なさそうに謝って来た。言葉だけな、態度は変わっていない。どっちかにしてくれ・・・
この二人といると、ゲームをしているのに不毛な感じしかしない。まったくもって俺の足しに等なっていないからだ。
クエストが進めば協力プレイも有用になるかもしれないが、まだ始まったばかりの今は一人の方が早い。遅々として進まない現状を思えば、そんな思いが出てきてもしょうがないだろう。
なんて考えているうちに、静閑の森の入口に着く。
「闇イノシシは何処にいるのかしら?」
森に入るなり辺りを見回してアヤカが言う。やっぱりクエスト情報ちゃんと読んで無いな。
「森の中程まで進んだ辺りに出るらしい。」
突っ込むのも面倒なので、俺は情報のみを伝える。
「そうですのね。」
ちゃんとクエスト情報を見ろと言いたいが、理不尽な扱いを受けるのも嫌だから黙っておく。どうせ今日クエストに付き合ったら、次からは付き合うつもりは無いし。
明日からは一人でがっつり進めてやる。
幸いな事にフレンド登録もしていないし、ゲーム内で出くわさなければ巻き込まれる事も無いだろう。
「あら、雑魚が出ましたわ。」
横に並んで歩いていたアヤカが、言いながら太刀を抜刀する。闇イノシシの子供が5体ほどこちらに目を向けていた。
「さっさと片付けて先に進むか。」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
俺も片手剣を抜こうとした瞬間、突如聞こえた悲鳴に驚いて、声の出た方向に目を向ける。
・・・
あほか。
背中にレイピアを突き立てられた闇イノシシの子供が、怒りでアリシアを追いかけ回している。何故そんな中途半端な攻撃をして逃げる。最初から手を出さなければいいものを。
これ、闇イノシシの時、絶対邪魔だな。
嫌な想像が出つつも、俺はその闇イノシシの子供に向かって走り出す。
追いついた俺は、低い姿勢の踏み込みからの地擦抜刀。切り上げの一撃で闇イノシシの子供は消え、レイピアが地面に落ちる。
レベルが上がったのもあるが、片手剣の踏み込み抜刀は威力が高い。下からの切り上げ抜刀は直ぐに切り下ろしに切り換えられるし、そのままステップで回避も可能なので隙が無い。今までのクエストでいろいろと試してきた成果が今出ている感じがした。
レベルも上がり操作にも慣れてきたおかげで、最初に手間取った闇イノシシの子供は本当に雑魚になった。
これはちょっと楽しい。
「助けなど頼んでおりませんわ。一人でもなんとか出来ますもの。」
うぜぇ。
とりあえず無視だな。
もしNPCだった場合、問題ないだろう。そうじゃなくプレイヤーだったとしても、これ以上関わらなくていいならそれに越した事はない。
アヤカの方を見ると、5体の闇イノシシの子供は既に倒されたのだろう、周囲に存在していなかった。
「終わったのか?」
「ええ、一度戦った相手、取るに足りませんわ。」
ゲームの雑魚相手に言う言葉でも無い気がするが。
「よし、先に進むか。」
「そうですわね。」
武器を仕舞って目的の闇イノシシを目指し、森の中を進み始める。
「そういう態度はよくありませんわ。貴方のような無礼な殿方、わたくし出会った事がありません。」
ああ、はいはい、言ってろ。
後ろから追いついて来ながら不満の声を上げるアリシアを、俺はやっぱり相手にしない事にした。大体、どっちが無礼なんだか。
俺の人生、と言ってもたかだか15年でしかないが、この手の人種に関わる事なんて無かったし、これからも無いと思っていた。
そもそも現実でさえ、住む世界の違う人種なんだから。
だが実際出会ってみると、感想としてはかなり面倒くさい。
関わらないままが良かった。
理不尽な扱いを受け、ただただ疲れるだけならば、俺は下民でいいよ、全然。
「あそこに居るの、そうじゃなくて?」
疲労感を感じながらそんな事を考えつつ、森の中を進んで行くと、開けた場所が見えた。その中程に大きなイノシシが居る。
「でかいな・・・」
イノシシって、あんな大きく無いだろ。ってこれ、ゲームだから関係ないか。
背中の高いところは1.5mくらいあるだろうか、ほぼ人間の身長と変わらないくらいだ。そんなでかいの、体当たり喰らったら現実なら死にそうな気がする。
「こういう手合いを待ち望んでおりましたわ。」
嬉しそうに聞こえたのでアヤカの方を見ると、口の端をにやりとさせて背中の太刀に手を掛けている。嬉しそうどころか、表情が嬉々としてやがる。
「行きますわよ。」
「あ、ああ・・・」
予想以上の大きさに返事に詰まる。
と言っても、手伝うと言った以上はやるけどさ。
俺もこのクエストは未クリアだから、やらなければならないわけだし。
幸い奴はこっちに尻を向けて気付いていない。不意打ちも出来そうだ。
ゆっくりと近付き、開けた場所に足を踏み入れた瞬間、闇イノシシの頭部がこちらに向かって動き始める。まるで縄張りに入ったのを察知したように。
げ・・・
赤く獰猛な瞳がこちらに向けられると、闇イノシシは身体ごと俺たちに向き直る。
「この緊張感、なかなかですわ。ゲームも馬鹿に出来ませんわね。」
俺は怖いんだが。
闇イノシシもそうだがお前もな、アヤカ。
後が怖いから口にはしないでおく。
獲物を見つけた闇イノシシは、既に右前脚で軽く地面を蹴る仕草をしながら、口から闇色の吐息を漏らしていた。突進してくる気満々じゃねーか。
「来るぞ。」
「分かっていますわ、精々足手まといにならないようにしなさい。」
お前に言われたくねーよ!
と思った瞬間、闇イノシシが突進してくる。速っ!
俺とアヤカはそれぞれ右と左に跳んで、闇イノシシの突進を避ける。着地と同時に踏み込んで抜刀の構えに移行。
背後から渾身の切り上げを決める!
って、いねぇっ!!
速すぎだろ、なんでそんなに離れてんだよ。
アヤカも避けつつ攻撃したつもりだったんだろうが、その太刀も空を凪いでいた。が、不敵な笑みで通り過ぎた闇イノシシに視線を向けていた。
これ結構、難しくないか・・・
俺はそんな事を思い始めていた。
身体の向きを直した闇イノシシは既に、地面を蹴って突進直前の体勢になっている。
これ、攻撃当てられんのかよ。
なんて考えていると、闇イノシシが俺に向かって突進を始める。
俺かよっ!
通り過ぎて当たらないのなら、避けつつ斬るしかないよな。
俺は突進を左へのサイドステップで避けながら、右手の剣を闇イノシシ目掛けて振った。
が、皮を掠めた程度しか当たらない。
(ボスのHP殆ど減ってねーじゃねーか。)
片手剣じゃ長さが足らないな。と思って通り過ぎた闇イノシシを見ると、ドリフトをしながら方向転換していた。
まじかよっ!
方向変換した闇イノシシは、弧を描くようにアヤカに向かって行く。曲線で走られると尚更攻撃が当て難いんじゃないか。
だがアヤカは向かってくる闇イノシシに上段で太刀を構える。
おいおい、まさか正面から斬るつもりじゃないだろうな・・・
と思ったが、そんな無謀な事はせず、対極の弧を描くように逆袈裟に斬りつけながらアヤカと闇イノシシは交差した。
「ギャオォォッ・・・」
そんな苦鳴を上げながら、闇イノシシは左目から血を吹き出す演出をしながら地面を転がった。
すげーな。伊達に剣道をやってないって事か。
俺はこのチャンスを逃さず、転がっている闇イノシシとの距離を詰め、頭部に向かって踏み込み突きを繰り出す。
起き上がろうとしていた闇イノシシの頭に片手剣が刺さるが、闇イノシシは起き上がった勢いは頭部を天に向かって突き上げるように振った。
俺は片手剣ごと後方に飛ばされる。
(HP半分くらい減ったが、ほとんどアヤカのお蔭だな。しかし強い。)
地面に着地しながら今の状態を確認する。痛みは無いが、恐怖はリアルに感じてしまうな。
「アヤカ大丈夫か?」
俺の方に近付いてきたアヤカに声を掛ける。すれ違いで攻撃はしたが、当たったのかアヤカのHPゲージは減っていたからだ。
「ユアキス程じゃありませんわ。既に半死状態、しかも私の作った隙をついて攻撃したにも関わらずなんて様ですの。」
う、返す言葉も無い。
大した差じゃないが、レベルもプレイ時間も俺の方が長いのにな。
「ってか、あれ怒ってないか?」
瞳の赤い輝きが増し、鼻からも瘴気の様な色の息を吹き出している。
「その様ですわね。ここからが本番という事かしら。」
いやいやいや。
LV1-1のクエストにしちゃ難しすぎないか?
なんて思っている合間に闇イノシシが突進を開始。
さっきと同様に、俺とアヤカが左右に跳んで突進を回避・・・!!
だが闇イノシシは通り過ぎず急ブレーキからのかちあげをアヤカに放った。
アヤカは太刀の腹で受け止めつつ後方に飛ばされる。
俺は着地と同時に背後に回って、後ろ脚を斬りに踏み込んだ。
「なっ!」
だが闇イノシシはそれを察知していたのか、かちあげた頭部をしたに戻した反動で、後ろ脚を蹴り上げる。俺はもろにくらってアヤカ同様に吹き飛ばされた。
(戦闘を学習でもしてんのかよ・・・こっちの動きに合わせてくるなんて。)
くそ、回復薬回復薬。HPゲージが赤く点滅して瀕死寸前の俺は慌てて回復薬を使った。
次の動きに備えようと闇イノシシを見ると、奴は俺もアヤカも見ずに別の方向に、赤く輝く瞳を向けていた。
(何を見て・・・)
あの阿呆・・・
俺が闇イノシシが瞳を向けている先を見ると、木の向こうから顔を覗かせて戦闘を見ているアリシアが居た。
つまり、闇イノシシのターゲットが移ったわけだ。
既に右前脚で地面を蹴り、突進準備に入っている。
あれは、間に合わないな・・・
と、思った瞬間、闇イノシシの突進が開始された。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それを見ていたアリシアが、静閑の森の入口方向へ脱兎の如く走り始める。
ほんとに、何しに着いて来たんだよ。
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