デッドエンドウォー シンフォニア

紅雪

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35.ついに来やがった、本気

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-CAZH社 自社データセンター 隔離サーバールーム管理室-

黒咲は狭い室内の寝台に腰掛けると、HMDを手に持って眺める。部屋まで案内してくれた八鍬は、既に管理室に戻って行った。
手に持ったHMDを角度を変えながら見回すと、黒咲はつまらなそうな顔をして溜息を吐く。まるで、それ自体を望んでいないように。
「初めに武器を決めてくれ。LV9をすべてクリアした時点で、用意出来る最強の武器を全派生持たせるからなー。」
室内に設えられたモニターから、禍月の声が流れる。モニターにカメラも付いている事は知っているが、黒咲はそれに目を向けずに考える素振りをした。実際、ゲーム内容から既に使用する武器は決めていたのだが。
「・・・小太刀。」
考える素振りを止めると、黒咲は小さく言う。
「ふむふむ、おっけー。そんな事だろうと思ってたよ。」
どうせやるなら最初から楽しみたいとも思ったが、時間が無い事も黒咲は承知している。それはゲーム内でも、現実でも、楽しめる時間が無い事を。
「どうせなら、短刀が良かったんだけどなぁ。」
「やめろぉ。リアルの話しはすんなー。」
相変わらずカメラには顔を向けず、微笑を浮かべて言う黒咲に禍月は半眼を向ける。
「クエストはLV10から受注可能だ。防具やアクセサリーもLV10到達時点で作成可能な限界値で持たせる。アイテムも同様に詰め込んでおくが、名前と見た目だけは自分で決めろー。」
「分かってる。自分の分身のようなものでしょう?誰かに作られたら楽しくないわ。」
黒咲は手に持ったHMDを見つめたまま言った。その行動が何を意味しているのか、どういう思いでしているのか、付き合いがある禍月でも分からない。
「よし、じゃぁまりあのタイミングでゲームを始めてくれ。」
禍月の言葉を合図に、黒咲は寝台に足を乗せて横になる。それから手に持っていたHMDを頭上に移動させ、頭に装着しようとした。
「だからパンツは隠せアホっ!」
禍月の叫びを聞いて、黒咲は満足そうに微笑むと、HMDを装着してDEWSへとログインした。



メルフェアの街に着いた黒咲は、周囲を見渡して関心していた。プロジェクトの話しは知っていたが、ゲームにはそんなに興味は無かったので、実際の映像を見るのは初めてだった。
(結構綺麗なのね。現実にこんな街が在っても不思議じゃないくらい。)
身体の動きを確認してみるが、自分で動かしているようであまり違和感はない。ただ難を言えば、質量の実感が湧かないところだった。それと黒咲にとって一番の不満は、装備がまったく可愛くないところである。この格好で行動するのかと思うと、気が乗らなかった。

「ブラックマリア、そのまんまじゃん。」
「いきなり話し掛けられると興覚めね。」
頭の中に響く禍月の声に、黒咲は溜息混じりに不満を漏らす。
「とりあえず操作に慣れるために、適当なクエストを受けてみろー。一応LV9までは全部受注可能なんだけど、最初はあまり難しくないやつがいいぞー。」
「分かってる。」
黒咲は説明を受けたシステムデバイスを開いて、クエストの内容を確認していく。魔獣との戦闘がメインになるDEWSでは、兎にも角にも戦闘になれる必要があるだろうと黒咲は考えた。
LV9のクエストは、敵の体力が多いから一人では時間がかかる。基本、パーティでの戦闘を意識して作られている。装備はLV9で作成出来る一番強いものだから、LV8くらいなら慣れれば一人でもなんとなるだろうと禍月は言っていた。
「ならば良い、貴公の健闘を祈る。」
「もう、戦場に向かう兵士じゃないのよ。」
「重要だろー、雰囲気作り。」
「はいはい。」

単純に上位レベルの装備を手に入れてしまえば、そのレベルより下の戦闘は楽になるのは道理だ。黒咲は、それでは面白くないと考えクエスト内容を確認していく。
LV9のクエスト確認していると、ふと目に留まった内容を見て笑みを浮かべる。
(なんか、名前がいいかなぁ。)
クエストLV9-7、聖黒竜フォルザーレヴの討伐。
(私の名前に似てる、これにしよっかな。)
単にそれだけの理由で黒咲はクエストを受注した。それからクエストの詳細を表示して目的地を確認する。モルドコース平原、アーニルケの街から北に位置する場所だ。アーニルケから先へは、LV8のオルデラを倒さないと進めない場所であるが、ゲームを始めたばかりの黒咲にとって、そんな情報は知りもしない。

(車が欲しいわ・・・でも、雰囲気からいって馬車がいいかしら。)
メルフェアの街を発って、静閑の森を抜けた辺りで黒咲は移動に飽きていた。思ったよりもアーニルケまでの道程が遠いと感じてきたからだ。
(でも、二刀小太刀は使い勝手がいいわ。これなら動きに慣れるのも早そうね。)
道中の雑魚魔獣で、プレイヤーの動きを何度か確認しながら黒咲は進んできた。抜刀から両手に小太刀を握り、感触を確かめる。今は敵が居ないが、素振りで動作を確認する。
何かを成す時には、必ず入念に確認するように黒咲はしている。それは今までの仕事で培って来たものであり、黒咲の向き合い方だ。それが出来なければ、生きていけない事も良く知っている。
だから、この場所がゲームだったとしても、確認を怠るような真似はしない。

黒咲はアーニルケの街を素通りして、そのままモルドコース平原へと向かった。風に揺れる草の葉、所々に咲く名前も分からない花、陽射しがあれば良い景色だろうと思ったが、生憎と曇り空だ。
その中を進んでいくと、黒い塊が見えてくる。昼寝でもしているのか、手の上に顎を乗せて寝ているようだった。黒咲がその黒い塊に近付いていくと、手の上に乗った頭部の眼がゆっくりと開く。
黄金の輝きを持った眼は、虚ろから獰猛な眼光へと変化して黒咲に向けられる。
(うーん、予想以上に大きいなぁ。)
首を上げ、前足で地を踏みつけ、上体を起き上がらせ見下ろしてくる聖黒竜を見ると、黒咲は呑気にそんな事を思った。
聖黒竜が開戦の合図とばかりに咆哮すると、地面に無数の黒い光が明滅しだす。その数秒後、その光に向かって黒光が降り注いだ。
(攻撃の場所が分かるなんて、優しい事ね。)
黒咲は小太刀を両手に持って、降り注ぐ黒光を避けながら聖黒竜に近付いていく。そこへ待っていたとばかりに、聖黒竜が右手の鉤爪で近付いて来る黒咲へ横凪の一閃。
黒咲は跳躍して聖黒竜のその手に乗り、更に跳躍して頭部に向かっていく。だが、聖黒竜は既に口を開けており、口腔内が黒光を収束している状態だった。黒咲が聖黒竜の頭部に辿り着く前に、聖黒竜の口が黒光を吐き出す。
黒咲は聖黒竜の胸元に蹴りを入れ、その反動で真横へ移動してブレスを回避した。
(わぁ、なかなか面白い事をしてくれるのね。)
地面へと落下しながら黒咲は、内心で呟くと笑みを浮かべていた口元を吊り上げる。目を細め不敵な笑みに変化すると、着地と同時に地面を蹴って聖黒竜の左手の打ち下ろしを回避。直ぐに戻って左手に乗ると、そのまま体躯を駆け上がり始めた。

1時間後
「ん~、一言で言うなら変態。」
「夢那に言われたくないわ。」
聖黒竜を倒した黒咲に、禍月は呆れて言う。黒咲は不満そうに口を尖らせた。
「いやぁ、ソロで倒す奴なんてそんなにいないぞ。しかも無傷じゃないか。」
どちらかと言えば、ソロだと時間が掛かってしまうので、戦いたがらないという方が正解かもしれない。それでも一定数、倒す人は居る事に変わりはない。ただそれを黒咲に話してもしょうがないと思うので、禍月は口にはしなかった。
「無傷じゃないわよ、一発貰ったし。」
「その辺はどうでもいいけどなー。しかし、LV9をソロでクリア出来るなら、申し分ない結果だなぁ。」
「そうね、概ね戦闘に関しては理解したわ。不満があるとすれば、プレイヤーの反応が少し緩慢なところかしら。」
「お前の身体能力に合わせてゲーム作ってるわけじゃないからなー。」
溜息混じりに言った黒咲に、禍月はまたも呆れて言う。声だけとは言え、その態度ははっきりと黒咲にも伝わっていた。
「あとね、装備の見た目がダサい。」
「それな、あたしに言われても困るぞ。文句あんならデザイン担当に言っとけ。」
「それは分かってる、そうじゃないの。」
「ん?」
「有料で売ってるでしょ、用意して。」
「なっ!我が儘もそんくらいにしとけー、ってか欲しかったら自分で買えよなー。」
「今の装備みたいに持たせてくれないの?」
「有料コンテンツは管理が別だから無理ー。」
「夢那のけちー。」
「まりあのアホー。」
黒咲はそこで不貞腐れるように、頬を膨らませながら顔を横に向ける。禍月が管理室で似たような事をしているか、黒咲側からは見る事が出来ないため分からない。
「くだらない事を言ってないで、話しを進めろ!」
そこで八鍬の苛立った声が聞こえてくる。
「怒られちゃったじゃん。」
「私の所為じゃないし。」
「じゃぁこうしよう、アッキーが買ってくれるから、これで万事解決な。」
「何で僕に振るんだよ!」
「え・・・美馬津さん、買ってくれないんですか?」
黒咲は禍月の話しに乗っかり、寂しそうな顔をして言ってみる。管理室の状況は見えないが、美馬津からは自分が見えている筈なのだから。
「誰がその話しを進めろと言ったんだ!」
そこでまたも八鍬の声が響く。先程の苛立ちとは違い、今度は確実に怒りを含んでいるのが感じられた。だが黒咲にとって八鍬は上司でもなんでもないので、気にしてはいない。
そもそも呼ばれた身なのだから、自分のモチベーションを保つよう努力するのが八鍬の務めじゃないのかと思っている。
「分かったよ、買うよ。それで黒咲がやる気になるならしょうがない。」
「ほんと!?嬉しい。ありがと、美馬津さん。」
諦めた声で言う美馬津に、黒咲は嬉しそうな顔で微笑む。
「え、いや、仕事のためだよ。」
美馬津に関しては言葉通りの意味でしかなかったのだが、黒咲の笑みを見て動揺してしまっていた。
「アッキーずるいなぁ、あたしにも優しくして欲しいなぁ。」
「振ったのは禍月だろうが。」
「それで、次は何処へ行けばいいの?クエスト情報からするに、イルセーヌかしら?」
見た目を変更出来るコスチュームが手に入ると決まったので、黒咲は話しを進める。既に禍月と美馬津のやりとりはどうでもよかった。
「急に本筋にもどりやがったなー。まあいい、確かにイルセーヌで間違いない。そこでユアキスのパーティに入り込んでくれればおっけーだ。」
「分かった。それじゃ、移動したらそっちに戻るね。」
「了解。」
禍月の返事を聞いて、黒咲はイルセーヌに向かうため歩き出す。
「アッキー、鼻の下伸びてるぞ、長いなー。」
「伸びるわけないだろ!・・・あ、通信・・・」
まだ通信が切れてなかったようで、最後にそれだけ聞こえて切れたようだった。黒咲はそれを聞いてクスっと笑うと、アーニルケに向かって走り始めた。




LV10 ???
とりあえず受注はした。ミカエル以外のメンバーが揃ったところで、俺たちはイルセーヌに集合して、クエストに向かう事にした。
LV10のクエスト内容は開示されていない。場所に関してはイルセーヌから北にあるソルッケフ渓谷と表示されている。とりあえずそこへ向かってみれば、その後の詳細は分かるだろう。
「それじゃ、行ってみるか。」

薄暗い。
ソルッケフ渓谷は雪に覆われているところは変わらないが、谷だけあって暗かった。夜の銀世界、のように綺麗なもんじゃない、どちらかと言えば怖い感じがする。
そんな中、緩やかな下り坂を降りていく。お世辞にも広いとは言えない道は、両側を崖に囲まれている。ここで魔獣に襲われたら戦闘しにくいだろう。いや、逆に対峙する方向が限られるから、場合によっては戦いやすいかも知れない。
どっちにしろ、魔獣の種類によるだろうが。

ところが、結構長い距離をあるいたような気がするんだが、道中雑魚魔獣すら居なかった。受けているクエストがそういう演出なのかも知れない。
緩い下り坂が終わりを告げると、その先はかなり開けた場所になっていた。周りを囲む断崖は緩やかになり、その広場を囲っているように感じた。感じたというのは、暗くてどれくらいの広さか判別出来なかったからだ。

「明らかにここで、戦闘に入りそうだな。」
「うん、かなり広そうだよ、ここ。」
その薄暗い広場は、途中の崖に囲まれた道に比べれば多少は明るい。広場を進んでいると、いつの間にか降り出した雪が、ゆらゆらと舞い落ちてきていた。広場の先は暗闇で、何があるのか何処まで続いているのか分からない。ただ、舞う雪が暗闇に浮かんで見えているだけだ。
「居ましたわ。」
アヤカが声を上げたので、アヤカの方に視線がいく。その目は、いつにも増して鋭い。何かを感じ取ったのだろうと思い、俺も前方へと集中する。薄っすらだが、その闇に違和感を感じる場所がある。
「げ・・・」
タッキーが嫌そうな声を出す。それもそうだろう。
先に見える暗闇を遮るように、浮かび上がる真っ黒な影。漆黒の全身甲冑は何度も見ているから、忘れようがない。
「ここに来てオルデラか、これがクエスト?」
「分からないですね、私もここまでは来たことが無いので。」
俺の疑問に姫も同調する。
「こんなところでクエスト依頼なんて、事はないよね・・・」
この先の展開を想像してか、タッキーも自分の言葉に苦笑する。
「あたし、あいつ嫌い。」
「今度こそ、私が引導を渡してあげますわ。」
それぞれ好き勝手な事を言っているが、これからオルデラと戦闘しなければならない、という予想は一致しているようだ。

「少しはましな顔になってきたじゃねーか。」
オルデラは岩か何かの上に腰掛けていたが、大剣を地面に突き立てるとそれを支えに立ち上がる。まるで爺さんが杖を突いて立ち上がるようなイメージだ。突っ込みたいが、それをNPCに言ったところで何の反応も返って来はしない。
「この前はお前らの資質を試したが、それが本物かどうか、ここで篩に掛けさせてもらう。どうせこの先、俺に勝てなきゃ死ぬだけだ。ここで引導を渡してやるのも先遣隊の役目ってやつだな。」
「言ってくれますわ。貴方でもこの先は戦えないと言っているようなものですわよ。」
だから、いちいち反応するなっての。
「僕、ちょっと不安なんだよね・・・」
オルデラの話しは無視して、タッキーがそんな事を零した。
「ミカエルの件か?」
「うん。」
関係ないと思っても、オルデラの攻撃が原因ではないという根拠がない。だから、これから戦う事になるオルデラに対して不安を感じているんだろう。
「でも、ミカエルの分まで進むって話したよね。仇は取らなきゃ。」
「いや殺すなよ。」
「あ、そうだね。」
俺の突っ込みにタッキーがそう言って笑った。が、それは不安を誤魔化しているだけにしか見えなかった。
「勝てないようならいっそ、この仕事なんて辞めちまえ。死ぬよりはマシだろ?」
オルデラはそう言って口の端を吊り上げて嗤う。
「もう一度言うが今回は試しじゃぁない。俺も本気を出させてもらう、辞める前に死んじまったら悪いな。そん時は恨んでくれて構わねぇぜ。」
まぁ、街に戻るだけだが。って思ってしまうあたり、アヤカと大差ない気がしてきた。
「貴方こそ、二度と剣を振るえると思わない方がいいですわ。」
アヤカも太刀に手を掛けて不敵な笑みを浮かべた。
「何でNPC相手に話しかけるんだよ。」
面白いから放っておいてもいいが、阿呆丸出しなので聞いてみる。
「気分を盛り上げた方が、楽しいからですわ。」
あ、そう。
それは本気なのか誤魔化しているのか分からない。が、そういう楽しみ方もありっちゃありかと思わされた。ゲームは楽しんだ者勝ちだ。そう考えれば、アヤカは正解なのかもしれない。
「まぁ、それもそうだな。」
「さて、そろそろ行くかぁ!」
オルデラが地面から大剣を引き抜くと、鎧を白い闘気みたいなものが包む。
「来ますね。」
姫も真面目な顔になり弓を構える。
「うぅ~、あたし緊張してきちゃった。足引っ張ったらごめんなさい。」
「思いっ切りやりなさい月下。サポートは男共に任せればいいのですわ。」
「はい!」
不安そうな月下に、アヤカが檄を飛ばすと月下も調子に乗った。アヤカと月下を見ていると、何時か俺にとっての厄災になるんじゃないかって気がしてならない。

月下の返事が合図だったかのように、そこで戦闘が開始される。当然、開幕の初撃はオルデラの突進からの打ち下ろし。広範囲の衝撃波から、俺たちは逃れると反撃に移った。
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