デッドエンドウォー シンフォニア

紅雪

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36.何と言うかもう、天災

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大剣を旋回させ、雪と衝撃波を撒き散らすと、その勢いでオルデラは切り上げに移行。そのまま跳躍すると、大剣を大上段に構えて落下、着地と同時に大剣の打ち下ろしが地面を打つ。
空中からの強烈な打ち下ろしの衝撃波は戦闘フィールド全体に達し、逃げきれなかった俺はフィールドの境界に叩きつけられる。衝撃波を跳躍で躱していたアヤカと月下だったが、打ち付けた大剣を軸に縦回転して更に振り下ろされた大剣まで、避ける事は出来なかったようだ。
初戦、俺が見た戦闘の記憶はそこで途切れた。その後、アヤカや月下がどうなったかは分からない。
まるで天災のようなオルデラの存在に、俺は成す術も無く散った。



「防具を強化した方がいいのか?」
5人揃ってイルセーヌの街へ戻った俺たちは、取り敢えず今後の方針について話し合う事にした。
まぁ、全滅して戻されたから反省会とも言えるが・・・
「それも必要だと思うけど、やっぱもう一人メンバー欲しいところだよね。」
確かにタッキーの言いたい事は分かるが、今からメンバー探しもなぁ。ミカエルはたまたま同じクラスだったから良かったものの、知らないメンバーを入れるのは気が乗らない。
「あたし、知らない人はちょっと・・・」
こいつが人見知りだというのは知らなかったが、それには同意見だ。ってか、知らない人はとか言っているが、アヤカに対しては最初から調子よく話しかけてなかったか?

まぁ俺も、今更知らない人に気を遣うのも面倒だと思っている。何かしら、誰かしら、現実の繋がりがあって揃っているメンバーだから、それほど気兼ねなく遊べているのだと思う。
一人復帰するまでの間、手伝って欲しいというのも虫が良すぎる話しだ。だから、それを他人に頼むのは気が引けるというのもある。

「そうかぁ。ミカエルが戻った時の事を考えると、現状維持がいいのかな。」
月下の不安に、追加メンバーの話しを切り出したタッキーも考えるように言った。
人の良し悪しについては、実際に組んでみないと分からない。組んで良かったと思える事もあれば、そうならない事もあるんだろう。そもそもだ、そういう事を考慮したくない、不安を抱えてしまう、だったら知り合いでいいという結論になるわけだ。
俺はそれでいいと思う。
別に知らない人とやりたくないわけじゃなく、そもそも面倒なんだ。
「それで事足りればな。」
「足りないからこんな事になってんじゃん。」
知らない人は、とか言っておきながら、言い方の態度がでかい。
「私は誰でも構いませんわ、あの腹の立つ赤髪を倒せるのでしたら。」
アヤカにしてみれば、そうなんだろう。普段からさして協調性なんてものはない、どちらかと言えばオルデラにやられた事の方が悔しいんだろう。
「ですが、そう都合よくいかない可能性の方が高いと思います。」
姫の言う通り、俺もそんな予感はしていた。ここまで進んでいるプレイヤーは、概ね組むメンバーが決まっているんじゃないかと思うからだ。
当然、知らない人と組んでプレイする人も居るだろうが、都合良くつかまるかと言えば話しは別だろう。
「わたくしが居ますわ!」
黙れ。
声が聞こえた方に目を向けず、俺は今後の方針を考える。いつの間にか現れたアリシアの相手をしている暇はない。
「やっぱ、装備強化しながら誰か探すってのが妥当だよな。面倒だし、時間が掛かるかもしれないがっ・・・」
そこまで言った時、目の前にレイピアの先端が降って来る。
「わたくしの事を無視するなんて、良い度胸ですわね?」
あのな・・・
街で武器を携帯出来るからって、やって良い事と悪い事があるだろうが。アヤカ同様、何故俺にばかり武器を向けるんだまったく。アヤカに至っては武器が無くても振りだけで威圧してくるから困ったもんだ。
「いや、どうせ戦わないだろ・・・」
そもそもパーティすら組めないじゃないか。ほんと、謎な存在だよな。
「何を言ってますの!?いつも陰から支援しているではありませんか!」
・・・
言っている意味がわからん。
「戦闘終わるまで逃げてるだけじゃないか・・・」
「酷いですわ、陰から応援していますのに。」
クソの役にもたたねぇな。
「貴様、下民の分際でお嬢様を愚弄する気か!」
そして輪をかける様に、面倒な奴が増えた。エメラとか言ったか、このメイドも意味不明だ。
「ふん、田舎娘の事なんて、歯牙にかけるまでもないですわ、話しを進めましょう。」
まぁ、アヤカの言う通りなんだが、一言余計なんだよ。お前も原因だと、いい加減気付け。
「辺境娘は出しゃばらないでもらえます?」

「よし、話し合うぞ。」
アヤカとアリシアが睨みあったところで、タッキー、姫に小声で話しかける。もう止めるのも面倒だ、放置が一番いい。
「そだね。」
「はい。」
二人ともすんなり納得してくれた。というよりは、みんなそれが正解だとの認識なんだろう。月下に関しては、姫に追従する感じなので問題ない。
「いいのかなぁ・・・」
月下は二人の方をちらっと見て言うが、気にしても仕方がない。というのは分かっているのか、こちらの話しに参加する。
「でも、ユアキスの言う通り、装備品を揃えながら、誰か探すしかないよね。」
「そうですね、どのみち強化は必要かと思います。」
話し合うと言っても、結果としてはそこに落ち着くしかない状況だな。
「姫は、前にプレイしていた人たちで、都合の良い人とかいないの?」
それは俺も気になっていた。誰かの話しが出た時に、姫からそういう話題が出てもいいんじゃないかと。そう思っていたんだが、今タッキーが聞くまでは出てきていない。
「あぁ、そんなゴミ・・・その人たちは、こっちのパーティに参加した時点で、登録を削除しました。」
・・・
言いかけて止まったが、ゴミって言ったよな、俺の聞き間違いじゃなければ。言った本人は、柔らかい表情で微笑んでいるが・・・
「あ、あぁ、そうなんだ・・・それじゃしょうがないね。」
姫押しのタッキーですら引いているのが見て取れる。間違いなく、タッキーにもゴミは聞こえたんだろう。最近になってたまに気付くが、姫の発言には時折、黒いものが混じっている気がする。
それは意識してなのかどうかは分からない。
だがそれでも、メンバーの中では、一番まともだと感じる事に変わりはない。いや、姫が普通で他がずれているのかも知れないが。
「あたしはまだ、その、慣れてないから、みんなに合わせるしかないけど。」
「そう言えば月下は、最初から僕らのところだもんね。」
「うん、もともと姫と一緒にやりたくて始めたからね。」
なるほど、タッキーは女子に対しては良い顔をしたいんだな。ただ、アヤカに関してはその限りではない、最初から論外なんだろう。
俺の妹の話しは知っている筈なんだが、ゲーム内ではその口の悪さを出してはいない。恐れも無く話しかけているタッキーを見ると、忘れているんじゃないのか?とさえ思えてくる。
「取り敢えず方針は決まったとして、どうやって人を探すかだな。」
みんなそこで悩む。
ありきたりな手ならあるが、それをやるとどんな奴が来るか分からない。出来ればそれは避けたいという意識は、みんな同じなのだろう。
「学校で募集・・・とか?」
「どうやって募集するんだよ。」
「聞いて周るとか、貼り紙とか?」
アホか。
ってか嫌すぎる。
タッキーの発言に俺だけじゃなく、姫も月下も呆れた目を向ける。
「そんな恥ずかしい真似、したくないですね。」
「あたしも同感。」
「悪目立ちするだけだろ、後ろ指指されながら今後の学校生活送りたくないっての。」
姫の言う通りで、正直言って恥ずかしすぎる。
「あはは、そうだよね・・・」
そうだよね、じゃないっての。思いつきで口にしただけなのか、タッキーがそういう事を気にしないのか分からないけど、却下に変わりはない。
「これ以上考えても答えは出そうにないですね。」
「あぁ。」
姫の言葉に、みんなが同意すると話しを切り上げる事にする。
「私の使用人に手伝わせますわ。」
それを妨げるようにアヤカが口を挟んできた。一応主旨は理解しているようだが、アリシアと争ってたんじゃないのか、まったく。そう思ってアリシアを見ると、エメラと何かを話していた。
「ここまで進める面倒を誰がみるんだよ・・・」
俺は嫌そうにそう言ったが、他の奴はアヤカから目を逸らして関わりたくない事をアピールしていた。そりゃそうだよな、一から面倒なんか見てられない。だったら、別の奴を探した方がいい。
「ほ、本人に頑張ってもらいますわ。」
「何時になるんだよ、それ。」
「・・・・・」
流石にアヤカも黙った。アホめ。

この件に関しては一旦保留という事で、俺たちは装備品の強化を優先する事にした。LV9も割と駆け足で進めてきたから、強敵相手に戦闘を繰り返すのは、いい機会かもしれない。




-CAZH社 本社ビル13F 開発本部 ソリューション&テクノロジー部-

雑多な机が並ぶ室内にはキーボードを叩く音が絶え間なく鳴り響いている。

世間ではタッチパッド形式のキーボードが使われるのが一般的ではあるが、ここでは好んで昔からのキーボードを利用している社員が多い。一定量の需要があるのか、市販でも普通に流通している。が、一般の人が買う事はあまりない。

技術の進歩とペーパーレスは比例せず、机の上には乱雑に置かれたファイルや、積まれている書類が見て取れる。それがこのオフィスを雑多な雰囲気にしていると言えなくもない。
一番の理由は一人で複数台利用しているPCや、2台、3台が当たり前なディスプレイ。そこへノートPCも同時に使っている社員もいる。キーボードやマウスがワイヤレスと言っても、一定以上の電源が必要であるPCやディスプレイはコードレスとはいかない。
その配線が、雑多な雰囲気の要であり、輪を掛けているように見えた。

50程の机が並ぶ室内は、空間としてはそこそこ大きいだろうと思うが、幾つものパーティションが並んでいるの所為か、広さは感じない。窓から入る昼間の光も、雑多な雰囲気とパーティションの所為だろうか、オフィス内をお世辞にも明るいと言える状態に感じない。
ただ、その雰囲気を作っているのは、疲れた顔の社員が原因と言えなくもない。

そのオフィスの中を、スーツ姿の女性が闊歩していた。似つかわしくない、その言葉が当てはまるように身なりは綺麗に見える。皺の無いスーツ、癖の無いセミロングの髪、まっすぐ伸びた背筋、どれをとっても。
タイトスカートから伸びるスラっとした足が動くたび、パンプスのヒールが床を鳴らす。その女性が一つの机の前で止まると、座っていた男性に向き直った。
男性は眠たそうな顔を女性に向けると、ゆっくりと口を開ける。
「あぁ、水守(みなかみ)チーフ、どうかしましたか?」
慣れているのか、眠さなのか分からないが、男性は呆としたような雰囲気のまま問い掛ける。その態度に水守は溜息をつくと腕を組んで男性を睨んだ。
「どうかしたじゃないでしょう、定期報告の時間、とっくに過ぎているわよ。」
「あれ、報告は明日じゃ・・・」
と、男性はディスプレイに映る日時を確認すると、顔に焦りが浮かび始める。
「す、すいません、今すぐまとめて報告に行きます。」
慌てて言うと、ディスプレイに視線を固定してマウスを掴む。
「畏まらなくていいわ、報告なら今ここで聞くから。その方が時間、無駄にならないでしょ。」
「え・・・」
水守は男性の疑問を無視して、机の空いている場所に腰を下ろす。行儀がいいとは言えないが、姿勢の良さと併せ持つ脚線美のお陰か、様になっていた。
「それで、ELINEA(エリネア)の進化の程は?」
「概ね、目標とされていたところに到達したのではないかと思います。」
何処か抜けているように見えた男性は、先程までのその雰囲気が消え、別人のようにはっきりとした言葉で答える。
「運用当初は、明らかにプレイヤーも疑問顔だったのに。」
「そうですね。出来る限りのコミュニケーション能力は身につけさせたんですが、実運用は甘くなかったですね。でも、色んなパーティとかなりの回数組みましたから。今では誰も分かりませんよ、挨拶から日常会話まで、違和感がありません。」
水守の言葉に答えた男性の表情は、曇りのない表情と言ったらいいのだろうか、自信さえ感じさせるほどにはっきりしていた。
「まぁ、宇吏津(うりつ)くんがそこまで言うなら、ELINEAも名前の本分は果たしたってところかしら。」
水守はそう言うと、ここに来て初めて笑みを見せる。
「Evolved into a human being - AI ですか・・・。ですが、ELINEAは既に個としてのELINEAです、これからですよ。」
誇らしげに言う宇吏津に、水守は浮かべていた笑みを一瞬曇らせると、真面目な顔になり机から降りる。水守は宇吏津に近付くと小声で話しかけた。
「報告内容は想定内のものだわ。で、ここからが真面目な話し。」
ELINEAの事も仕事の範囲だろうと宇吏津は思ったが、水守の雰囲気にそれを口に出すのは止めた。
「どういう、事ですか?」
それよりも、一体何事かと怪訝な顔をする。
「今日はもうすぐ終わりでしょ、だから詳しい話しは明日。ELINEAにも関係してくると思うから。」
水守はそれだけ言うと、自席へと戻って行った。結局、宇吏津の疑問は解消されずに。それどころか、ELINEAが関係すると付け加えられてしまった事から、余計に疑問が増え困惑する結果になった。
(帰るのを知っているなら、明日言って欲しかったよ・・・)
久々に早く帰宅出来る事で、ゆっくり休もうと思っていた宇吏津だったが、水守の最後の一言で悶々とした時間を過ごす羽目になってしまった。

翌日、水守からその話しを聞くまで。
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