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57.権利くらいくれ、拒否

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クエストLV14-2 戦鬼シュドマラの撃破

「戦鬼だって、なんか強そうだね。」
「まぁな。」
タッキーがクエスト情報を見て言う。俺もそれには同意した。戦鬼っていう肩書からして、オルデラのような奴を想像してしまう。それでも、訳の分からない肩書が付いているやつより、分かりやすくていいが。

14-1は素材の納品だった。街では常に物資が不足しているという事なんだろう。設定上だけど。
時間もそんな掛からず終わったので、俺たちは次のクエストに向かおうとしていた。

「上等ですわ。」
あぁ、はいはい。
「わたくしの敵ではありませんわ。」
・・・
こいつらは何故こうも自信過剰なんだろうな。

レイピアを抜いて連続突きを見せるアリシアを眺めていると、そのレイピアが新しくなっている事に気付く。
気付いて欲しいんだろうな、だったら触れないでおくか。

「田舎娘は隅でこそこそしていなさい。」
「辺境娘こそ、いつも通り吹き飛ばされていなさい。」
うぜぇ・・・

いや。
「アリシア。」
「なんですの?」
俺は思い直してアリシアに話しかける。アヤカと睨み合うのを止め、怪訝な表情を俺に向けてきた。
「なんで既に武器が新しくなってんだよ。」
俺が聞いた途端、タッキーがあり得ないみたいな顔をしやがったのが横目に映った。それは後でどうにかしてやるとして、アリシアが得意げにレイピアを見せてくる。
「あら、気付きまして。まぁ、わたくしが戦力の要だと、鍛冶屋の主人も分かっているのでしょう。羨ましがらなくてもいいですわ、素材集めくらい手伝ってあげますから。」

やっぱ調子に乗るよな。
「あぁ、頼む。」
内心では調子に乗りやがってとも思ったが、口からは別の言葉を出した。
「熱でもありますの?」
「ねぇよ!」
首を傾げて心配そうに見て来るアリシアに突っ込んで、目を逸らす。
「アヤカと月下の武器を優先で頼むわ。」
「構いませんわ。」
アリシアは得意げに胸を張るが、アリシアを睨んでいたアヤカは、怪訝な表情で俺を見ていた。
そうなるだろうと思ったけどさ。

ただ、親父に言われた言葉が引っ掛かっただけなんだ。その意味はまだ分からないけど、出来るならやっておいた方がいいんじゃないかと思って。
慣れない事をすると疲れるが、二人の諍いも収まったからいいかとも思えた。

「ほら、優しい。」
「そんなんじゃねぇよ。」
近くに居たマリアが、小声で言ってくるが、俺は不貞腐れるように顔を逸らして言った。別に茶化しているわけじゃないだろうが、そういう事を言われるのに、俺が慣れていないんだ。
「ふふ。」
マリアは俺の態度に嫌な顔をするわけでもなく、微笑んだだけだった。多分、見透かされているんだろうな。

「材料を集めるにしても、まずはこのクエストをクリアしないといけないですね。」
「そうだね。早く僕も武器を新しくしたいし。」

姫が断ち切るようにクエストの話しに戻してくれたので、俺は変な気分から解放された。
「だな、そろそろ鬼退治といこうか。」
「うまい事を言ったつもりなら、キモイよ。」
「余計なお世話だ。」
俺的にはうまい事を言ったつもりだったが、月下の突っ込みで笑いに変えられた。

「いいですわね、鬼退治。」
「田舎娘は精々、小鬼でも退治しているといいですわ。」
「わたくしが止めを頂きますわ、辺境娘は悔しがりなさい。」
・・・
またかよ。
「いい度胸ですわ。止めを刺した方に、刺された方が跪くという条件で勝負というのはどうです?まぁ、自身がないなら受けなくても結構ですが。」
「望むところですわ。」
アヤカの挑発にアリシアが乗り、またも睨み合う。
が、勝負事なら別にいいか。この前のように巻き込まれる事も無いだろうし。無いよな、多分・・・



ニベルレイス第7層 闘技場

戦鬼シュドマラの居る場所は、クエスト情報からするとそう記載されている。

「ここが鬼の住処ですか。」
かなり広い広場は、入り口から下るように出来ていた。中央の広場を見下ろして、姫がそう口にする。
中央の広場までは階段が続いており、階段から左右には広場を囲むように座席が並んでいる。観客席なのだろう。
「本当に闘技場なんだね。あそこに居るのが鬼かな。」
タッキーの言う通り、広場の中央には誰かが座っている。やはり、今回も人型の魔獣のようだ。
「そうね。ただあの鬼の横にある、獲物の戦斧はかなり大きいわ。」
獲物って言い方・・・
それはいいとして、マリアは大きいというが、本人よりも大きいような気がするのは、気のせいだろうか。であれば、かなりというレベルじゃない。

「此の地は戦士達の聖域、人間風情が足を踏み入れていい場所ではない。」

階段を下りて進んでいると、広場に居る鬼がこちらを見て言った。
「やっぱり、鬼も喋るんだね。」
鬼は関係ないだろ。人型の魔獣が増えて来たことで、当たり前のように喋るようになってきたな。
「鬼の分際で、人語を操るなど生意気ですわ。」
そこはどうでもいいだろう。

そんな事より、俺は月下の方を見る。気付いた月下は嫌そうな顔をした。まだ何も言ってねぇよと思いながら、鬼の方を指さす。
「みんなの認識は鬼だぞ。」
言ってニヤリと笑ってやると、月下は頬を膨らませて目をそらした。

「我も誇り高き戦士。無益な殺生は好まぬ、故に今引き返すのであれば看過しよう。」

これで鬼退治を馬鹿にした仕返しは成・・・
「うどわぁっ・・・」
俺は身体に衝撃が走り、階段を転げ落ちた。落ちるときに見えたが、俺は月下の蹴りで蹴落とされたようだ。
いやぁ、ここまでやるか?

「言っても聞かぬとあらば、致し方ない。」

シュドマラはそう言うと立ち上がり、戦斧の柄に手を掛けた。
俺は転げ落ちた勢いで、中央の広場内に入ってしまったらしい。なんて間抜けな始まり方だ。
「何してくれてんだ。」
「ユアキスが余計な事を言うのが悪いんだよ。」
いや、納得出来ん。

「貴様らの骸で此の地を汚すわけにはいかん。地底魚の餌にしてくれるわ。」

シュドマラは戦斧を肩に担ぐと、前傾姿勢をとった。身体の周囲には白い闘気のようなものが覆いだす。
(こいつ、オルデラタイプか?だったらやだなぁ・・・)

「もう戦闘は始まっていますよ。」
「無様な事ですわ。」
「恥を知りなさい。」
姫、アヤカ、アリシアが倒れたままの俺を飛び越えて、シュドマラに向かって行く。別に好きでこうなってるわけじゃないっての。
「私は緊張感が無くて、好きよ。」
続いてマリア。いや、そういう問題じゃねぇ。
「え!?じゃぁ僕も。」
アホが湧いた・・・
タッキーは言った後、月下の方を見る。月下は悍ましいものを見るような顔になり、後退った。
「キモっ!!・・・ってかキモっ!!」
かなりの大音声で叫ぶと、無視して月下もシュドマラに向かって走り出した。それはいいが、俺を踏んでいくな!

「よっと。」
俺は掛け声とともに飛び起きる。
さて、抜け殻のように突っ立っているアホは放っておいて、俺も戦闘に参加だ。


シュドマラの戦斧は、予想通り本人よりも多少大きかった。それを片手で軽々と振るうのは、ゲームならではだと思う。

「かてぇ・・・」

オルデラ同様、超重量武器の威力はかなりのものだった。だが、攻撃力はオルデラに劣るものの、防御力が高い。
「やっかいな斧ね。」
マリアが言うように、柄の短い戦斧はかなりやっかいだ。攻撃に対する小回りがきくのもそうだが、盾としても使われる。それをやられると、ダメージがほとんど通らない。
「何か、防御を崩す方法を探す必要がありそうですね。」
そうなんだが、それが難しいんだよな。

姫の矢もタッキーの銃弾も、ほとんど斧の腹で防がれる。俺の攻撃もそうだが、近接の場合ガードからの反撃が早く、避けるのが精々だ。

「回転攻撃の時に、上下から攻めてみるか。」
シュドマラは多方向から攻撃すると、斧を水平に構え身体を回転させる。嫌な防御法だなと思ったが、回転中は上下に隙が出来るなとも思った。
「私が上ですわ。」
「じゃ、あたしは足ー。」
早い者勝ちじゃないっての・・・
「それでいきましょう。」

マリアの合図で、4人が同時攻撃をする。シュドマラが斧を水平に構えたところで、アヤカが跳躍。
回転を始めたシュドマラの頭上にアヤカ、潜り込むように足元には月下が槍斧を構えて攻撃に移行する。だが、シュドマラは通常の回転攻撃ではなく、高速回転を始めた。
これにより月下の攻撃は弾き飛ばされ、アヤカは発生する風圧によって同様に弾き飛ばされた。
もちろん、他の4人の攻撃も同じだ。

「聞いてませんわ!」
まぁ、言ってないが。
「これじゃ攻撃が通らないな。」
「みなさん、注意してください!」
アヤカの不満に、俺も手が無くなった事をぼやいた瞬間、姫が大きな声で警告を発した。

回転しているシュドマラを見ると、その身体が浮き始めていた。
(今度は何をする気だよ・・・)
シュドマラはそのまま上空に行くと、回転の勢いを利用して戦斧を投擲。
「うわっ。」
「げ・・・」
各々がそんなような声を上げながら取り合えず着弾点から離れる。
戦斧が床に着弾すると同時に、爆発が起きた。爆音と共に衝撃波が同心円状に広がると、みんな巻き込まれて壁に叩きつけられた。

「酷い・・・」
月下が不貞腐れた顔をしながら立ち上がって言う。
確かにこれは酷い、HP半分以上減ってるじゃねぇか。ってか、なんで斧が爆発するんだよ・・・
「でも、好機のようよ。回復と攻撃、手分けをして攻めた方がいいんじゃない。」
マリアの言葉でシュドマラを見ると、戦斧の前に着地して柄に手を添えてはいるが、持ち上げる気配はまだない。
「じゃぁ、俺と姫が回復に回って後は攻撃で。」
「まっかせて。」
「言われずとも、そうしますわ!」
まぁ、お前は常にそうだろうよ。
逸早く動いていたマリアが、全体への回復薬を使用すると攻撃に転じる。俺を含め他のメンバーはそれに続いた。




「疲れたぁ・・・」
スニエフに戻ると月下が、緊張の糸が切れたように両腕を垂らして吐き出した。
「やっぱり、体力ありすぎだよね。」
「あぁ、無駄に多いな。」
「こうなるとやはり、早く新しい装備が欲しいですね。」
本当にな。
新しい装備という単語に反応した奴もいるが、それはさておき。

「だらしがないですわ。」
俺らの前に、両手を腰に当てて得意げに立っている奴の方がうぜぇ。一人だけ、いやエメラもだが、攻撃が当たらないからって調子に乗ってやがるな。
「お嬢様は攻撃受けてませんからね。」
「お黙り。」
「失礼しました。」
だけど、実際のところタフだよなぁ。攻撃を受けていないとはいえ、移動から戦闘時間と考えると。

「アリシアは元気だね。」
月下が苦笑いしながら言った。その横で姫が嘲笑うような表情で、口を動かしていたが、ここからじゃまったく聞こえない。
きっとろくな事を言ってないだろう。
「当たり前ですわ。この数か月、どれだけあなた達と歩き回って戦闘したと思ってますの。」
「でも、NPCだもんね。」
タッキーはそう言うが、その認識でいいと思った。本当は、違うんだろうが。アリシアが言っていた事を思えば、逞しくなったのは本当なんだろう。生身なら、これだけ動いていたら、体力と筋力、持久力も当然つくだろう。

「そう言えばお嬢様、太腿あたりが太くなったんじゃないですか?」
「エーメーラー・・・」
「あ、私用事を思い出しました!」
鬼の様な形相でアリシアがエメラを睨むと、この場から凄い勢いで去っていった。エメラの口は滑り過ぎだよな。

「ところで、鬼に止めをさした奴がって話しはどうなったんだ?」
ふと、鬼退治に行く前のアヤカとアリシアの会話を思いだした。
「何の事かしら。」
「今回は勝負が付かなかったのだから、次にお預けですわ。」
惚けるアリシアはさておき、アヤカが阿呆な事を言い出した。俺はちゃんと覚えているぞ、お前らの会話を。
「止めを刺した奴に、刺せなかった奴が跪くんだよな?」
「その通りですわ。」
「今回はマリアが止めを刺したのだから、無効ですわ。」
アヤカとアリシアが睨み合いながら言う。二人の間でそう決めたのだろうが、実のところ聞いている方にとってはそうでもない。
揚げ足取りと言われようと。

「行く前の会話では、止めを刺した奴に、刺せなかった奴がと言っている。」
「それがどうかしまして?」
俺がもう一度はっきりゆっくり言ってやるが、アリシアはまだ汲み取ってくれないようだ。
「何が言いたいんですの?」
それはアヤカも同様だ。仕方がない。

「つまりだ、別にアヤカとアリシアに限定はしていないという事だ。人数も指定していないし、参加の可否も決めていない。という事は今回の勝負、マリアに他のメンバーが跪くという結果になるよな。」
「なっ・・・」
「それは揚げ足取りですわ!」
「あら。」
アリシアが絶句して、アヤカが不満を口にするなか、頬に両手を当てて楽しそう嗤う奴がいる。仕草は恥ずかしがっているように見えるが、あの顔は間違いなく違うな。

「ちゃんと決めないのが悪いんだろ。それに、俺らは毎回巻き込まれているんだ。都合のいい時だけ逃げんなよ。」
アヤカとアリシアの諍いは、否応なくメンバーも巻き込まれる。これに懲りて少しは反省してもらおうと思って言ったのだが。
「屈辱ですわ・・・」
「ユアキスのくせに正論を口にするとは・・・」
もう呆れて言葉も出ねぇよ。
こういう時だけ協調しやがって。

「ま、これに懲りたら喧嘩もほどほどにしとけよ。」
「分かりましたわ。」
素直に頷くアリシア。アヤカも納得はいってなさそうだが、この場は仕方がないというような態度をとる。
まぁ、いいか。
とりあえず今回の件は片付いたなと思って、鍛冶屋にでも行ってみるかと声を出そうとする。

・・・
なんだそれは・・・
言う前に視界に入ったのが、未だに頬に両手を当てたままのマリアだった。マリアは俺の方に視線を送っている。そのマリアの前に傅ずく一人のアホが居た。
つまり、俺にもやれって事か?
「止めを刺した人に、跪くのよね?」
言いやがった。
自分で言いやがったよ、あの女・・・
やっぱり待ってやがったのか。しかもあの微笑には悪意を感じる気がする。

「ユアキスが掘ったんだから、ユアキスからやれ。」
ぐ・・・
月下の言い分に言葉もねぇ。
くそ、やればいいんだろやれば!
半ばやけくそになって、俺はマリアの前に跪いた。なんだろう、この屈辱感・・・
アホは恍惚とした表情をしているし、意味がわからん。

「この借りは返しますわ。」
「次こそ、わたくしの前に跪かせてあげますわ。」
続いてアヤカとアリシアがマリアの前で跪くと、悔しそうに言った。ってか、これまだやるつもりかよ。
「なんかお姫様仕える騎士みたいだね。」
それぐらいの気分でやれば、気が楽なのか。
「屈辱に塗れた顔を見れるのは楽しいですね。」
・・・
一番やべぇのが居た。それを、何故俺の隣でぼそりと言う。

しかしこの光景、他のプレイヤーにも見られてるんだよな。絶対俺ら、変な集まりだと思われてるよ。

「さ、鍛冶屋にいきましょう。」
全員を跪かせて満足したのか、マリアは手をポンと打つとそう言った。

「あ!明日緊急メンテだって。」
みんなが立ち上がり、移動しようとしたところで、システムデバイス開いたタッキーが突然声を上げた。
「げ、マジかよ。」
「えぇ、せっかく明日は休みなのにぃ~。」
「仕方ないですね。」
こんなところで緊急メンテナンスが入るなんて、何かあったのか?そう思ってマリアの方を見てみるが、首を左右に振られただけだった。
どうやらマリアも知らないらしい。
聞かされていたとしても、言えないのだろうが、今のマリアを見る感じでは本当に知らなさそうだ。

「なんですの?緊急メンテとは。」
今の会話を聞いていたアリシアが、首を傾げて聞いてくる。そりゃ、アリシアには分からないよな。
そう思ったところで、なんて説明したらいいだろうな。
「みんな来ない時あったでしょ?」
「えぇ。」
「それ。」
確かに、月下の説明は的を得ているような気もするが、「それ」って・・・
もうちょっと何とかならないのかよ。
「そういう事でしたのね。いつも居なくなる時間があるのだから、わたくしにはあまり関係の無い事ですわね。」
お、おぅ。通じてくれて良かったわ。

「それより、明日出来ないならもう一つくらいやっとく?」
「あぁ、そうだな。俺はいいぞ。」
言って他のメンバーを見る。
・・・
既にアヤカとアリシアが睨み合っていた。
「やりますわよね?」
「当然ですわ。」
「やるなら二人でやれよ。俺は参加しないからな。」
阿呆らしい。
「そんな事、許されると思っていますの?」
別にお前らに許されなくても問題ない。
「あたしはやるぅ。ユアキスを跪かせてやる。」
「なんでだよ!」
それはそれで、かなり屈辱なんだが。リアルに戻ってから何を言われるか、考えるだけで嫌な気分になる。
「私も、もちろん参加します。」
いやぁ、姫が止めを刺した時の事を考えると、光景が目に浮かぶようでもう怖ぇよ。
「私もいいわよ、楽しいから。」
何故だ、何故そんなにやりたがる。一体何が楽しいんだ?そう思ってタッキーに目を向けたが間違いだった。
「マリアが勝ったらいいなぁ。」
くそ、どいつもこいつも。
「満場一致ですわ。」
「俺は賛成してねぇ!」
「ユアキスの意志は関係ありませんわ。」
何が何でもやる気なんだな・・・

次のクエストか、マジで装備考えよう。俺はシステムデバイスで次のクエストを調べる。ボスの弱点とか調べて真面目にやろう。俺が勝ったら無かった事にしてやる。

これは!

「あぁ、次のクエストは採集だ。」

ざまぁみろと思って一同を見ると、マリア以外は俺の一言で硬直していた。
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